第四百十六話 演者勇者と導かれし仲間達17
「神かー、笑えるね。神様のコスプレもいいとこだよ」
ついに本性を現し、自らを神と自称した教祖。レナの言葉はいつも通りの口調だが、気を引き締めての戦闘態勢に入っているのが横のライトにもわかった。――実際、教祖の力は今、圧倒的強大な物に変わっている。
「さあ悔い改めよ! そして救われないままに死んでいけ!」
ビィィン、スガガガガァン!――勿論教祖はレナの皮肉になど動じない。かざした手から、圧倒的高威力の魔力のビームが連続で放たれ始める。各々がまずは回避。
「勿体ないですなあ」
そんな中、回避ではなく防壁を開いて冷静に対処しているのがニロフだった。
「それ程の才能があるのならば、神など名乗らなくとも生き方次第で大勢の人に騙さずとも慕われたでしょうし、前向きに魔術を磨けば我の世界一の魔導士としての道筋のライバルにもなりえたでしょう」
防御を続けながら、ゆっくりとニロフは仮面を外し、懐に仕舞う。――最後の戦い。その覚悟で、ニロフは仮面を外した。
「ですが貴方は、どれだけ努力をしても、神にはなれませぬ」
「はははっ、何を根拠に! そんな物、貴様が決めていい基準ではない! 俺が神、そう決めたからには神だ!」
「だとしたら、随分の肝の小さな神ですなあ」
「……何だと?」
「魔王の命を繋ぎ止めていた蘇生装置。あれは恐らくタカクシン教、つまり貴方が上手く送った品物でしょう。あれに関しても本当に良く出来ておりました。ですが、使い方が非常に小さい」
バリッ、バリバリッ!――ニロフの魔法防壁を削る激しい音がする。それでもニロフは動じない。
「恐らくは魔王が死ぬタイミングを引き延ばし調整する事により、タカクシン教独立宣言のタイミング等を見計らう事が目的。上手くいけば厄介なハインハウルス軍の弱体化にも繋がる。そう考えた結果かと」
「それの何が小さいと?」
「おや、それも我が言わないとわかりませぬか。ではお伝えしましょう。――貴方の作戦は、人間がやる裏工作。神に選ばれし者、己が神だと言うのであれば、そんな物に頼らずとも、魔王など倒せるし、ハインハウルス等ひれ伏せる事が出来たでしょう。それが出来ない時点で、貴方は自分が人間だと証明してしまっているのですよ。自分を神だと勘違いする、愚かな人間であると」
「貴様……っ!」
バリッ、バリバリッ!――鳴り続けるニロフの防壁を削る音。でも、完全に削る事は出来ず、ニロフには届かない。
「更にもう一つ言わせて頂きましょうか。――他人の魔力で覚醒して神? 自力で結局何も出来ないのに、それの何処が神だと言うのか」
「言わせておけば! ならば喰らうがいい、その貴様が馬鹿にする俺の力!」
「そちらこそ思い知るが良いでしょう。――神になどなれなくても、人はしっかりと強くなれるということを!」
ニロフが防壁魔法を解除。同時に無数の攻撃魔法を展開し、自分に降りかかる教祖の攻撃を攻撃で相殺し続ける。
「はああああっ!」
一方で降りかかる閃光の隙間をまるで光の様に輝きながら掻い潜り攻撃を仕掛けるのは、
「貴方が本当の神様なら躊躇したけど、ニロフさんが貴方が人間だって証明しました! しかも悪い人です! なので本気でいきます!」
ローズである。エクスカリバーを抜くと、一気に神々しい大剣となり、激しい斬撃。バリバリバリッ、とこちらも激しい音を立てて教祖の防壁とのぶつかり合いが始まる。
「……なあ、レナ」
「どした? 流石に説得とか無理だよ? 行かないよ?」
ライトはいつも通り距離を置いてレナに守られながら待機中。その戦いをちゃんと見れていたからだろうか、
「あいつ、本当は神様なんじゃないか?」
「ちょっと君が浸食されたら話の根底が崩れる」
「なら何で皆と戦いながら、ローズのエクスカリバーが防げるんだ?」
その事に気付いた。一対一でも普通なら防げない、圧倒的攻撃力。それをいとも簡単に……ではないものの、しっかりと防いでいる。他の団員達の攻撃も防ぎながら。中々に有り得ない現象である。
「……ふむ」
そう言われたらレナも確かに疑問になった。少し集中して周囲を感じてみる。最初に信者達が祈りを捧げ、彼に魔力を託した。確かにそれで一時的に教祖の魔力は膨大になったが、それでもいつまでも持つとは思えない。
「何かギミックがあるね。あいつに魔力が補充され続けてる」
「じゃあそれを断てれば」
「持久戦はこっちに傾く」
「サラフォン!」
その結論に達した時、ライトは迷わずその名を呼んだ。気付いたサラフォンが駆け寄ってくる。ライトは事情を説明。
「だから、ここからサラフォンが見て、何か隠されてる物が無いか見分けられたら」
「わかった、任せて」
そう返事をすると、サラフォンがゴーグルを今装備している物から別の物に変える。どうやら使い道によってゴーグルも色々ある様子。
そのまま十数秒、サラフォンは集中したまま辺りを探るが、
「うっ……!」
急に頭を抱え、軽くよろめく。
「!? どうした、大丈夫か!?」
ライトは急いで支え、倒れない様にする。当のサラフォンは手で頭を軽くさすっている。
「一瞬変な魔力の流れを感じた。ライトくんの言う通り、きっと何かはある。――もう一回やってみる」
「駄目だサラフォン、無理して倒れたりでもしたら――」
そう言って止めようとするライトの手を、サラフォンの手が掴んで止める。
「ライトくん。無理させて……ううん、格好つけさせてよ」
「サラフォン……?」
「ボクは、勇者ライトの専属の魔具工具師なんだよ。この位、やってみせる」
「ねえ、ハル」
昼食時。ハルとサラフォンは時間を合わせて共に昼食中。――何だかんだで幼馴染である。仲は良い。気心も知れている。なので時間が合えば食事は一緒にしている。
「どうかしたの?」
「ハルって、ライトくんとその……結婚、するの?」
「ぶふっ」
思わず喉に詰まりそうになる。――ライト、演者勇者に返り咲き後、団室で各方面との婚約計画発覚(?)後の事である。
「あ、あれは、その」
「初めてだよね、ハルのそういう話って」
サラフォンが自分の事の様に嬉しそうに笑っている。――初めて。確かにサラフォンとあまり恋愛の話になった事などない。サラフォンはその手の事に今まで興味がまったく無かった。ハルは実家にいる頃は家の手伝い兄弟の面倒で忙しく、城に来てからはサラフォンの面倒とヨゼルドの世話と使用人の仕事で忙しかった。
誰かの面倒を見るのは好きだ。恋愛など無くても生活は充実していた。でもそこに、初めて生まれた想い。
「……そうね。二人で、そんな話なんてほとんどしてこなかった」
「それで……その、どう……なの?」
他の相手なら兎も角、目の前の親友に嘘はつきたくない。
「うん。あの方が認めてくれるなら、ずっと傍に置いて欲しいと思ってる」
「わあ……そうなんだ」
「勿論、独り占め出来ない事は承知してるわ。私だけじゃない、皆があの人の事を慕ってる。でも、私を見る瞬間を作って欲しい。その想いは、揺るがない」
言っていて恥ずかしくはなるが、でも本音であった。
「ねえサラ、貴女も――」
「ボクはね、ハル」
次いで考えてしまうのは目の前の存在。つい心配してしまう。出来る事なら一緒に連れていってあげたい。きっとライトも迎え入れてくれるだろう。だから……と思って口を開いた矢先、サラフォンの言葉が上書きしてきた。
「胸を張って、ライトくんの為の魔具工具師になったって、宣言出来る様になりたい」
「何を今更、サラの実力はライト様だけじゃない、皆が認めてるわ。何の心配もいらない」
実際、在籍時のマークとはまた違う方向性で、縁の下の力持ちである。その独特の才能と道具に、ライト達は確実に助けられてきている。
「ううん、何て言うのかな……自分自身の問題っていうか、自分の気持ちっていうか」
「サラ……?」
「ライトくん、また新しい覚悟を決めてたでしょ? 追いつけるとは思わないけど、でもついていけて当たり前になりたい。もっともっと、ボクも高みを目指したいんだ」
それは、サラフォンに生まれた新しい気持ち。――自分は生きる事には不器用だから、一つの事に集中して、強くなる。そしてもっとライトに認めて欲しい。その気持ちに、絞った。
「見ててね、ハル。ボク、ようやく一歩前に進めそう」
サラフォンの目は強く、覚悟が感じ取れた。――出会った当初の弱気で迷いのある彼女はもうそこにはいなくて。
「わかった。――もう一回だけ、頼む」
「うん」
ライトも、気付けばそう返事をしていた。サラフォンを、信じた。
「ふーっ……」
サラフォン、再び集中。先程感じた違和感を元に、更に突き詰める。
「っ……」
途中、先程と同じ様にキィィン、と頭に直接響いてくる不快感。だが、これを感じるという事は答えが近くにある。倒れそうになる自分を必死に支え、全力集中。
「――そこっ!」
更にサラフォンは愛用の魔導式ハンドガンを取り出し、トリガーを引く。一発だけ発射された魔法の弾丸が、小さな窓に印をつけた。
「ライトくん、あの窓! あの窓に通じる物を探して! あそこに絶対何かあるから!」
そしてサラフォンはライトにそう伝えた。彼女しか辿り着けない打開策を、今手繰り寄せたのだ。
「わかった、ありがとう! レナ、行こう」
「オッケー」
「レナさんがいるから大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
「サラフォンもな」
そしてレナを引き連れ、一旦この場を後にしようとしたライトの、
「サラフォン!」
足が止まり、サラフォンを呼ぶ。
「やっぱりサラフォンは、ハインハウルスで一番の、最高の魔具工具師だ! 格好いいからな!」
そう声援を送り、今度こそ駆け足でレナと二人、戦場を離れる。
「ありがとうライトくん。でも、ライトくんの格好良さには負けるよ」
嬉しそうにサラフォンはそう返事をすると、再び呼吸を整え、戦場に戻るのであった。




