第四百十四話 演者勇者と導かれし仲間達15
「無抵抗の相手は放っておけ、だが抵抗する相手には容赦するな!」
こちら教会総本山の一角、大混戦地帯。ヴァネッサから自然と指揮権を引き継いだマクラーレンが声をあげる。
「悔い改めよ」
「悔い改めよ」
「ひいっ! 俺の悔いって何だ!? 何を改めればいいんだ!?」
「隊長、タカクシン教に罰せられるのと私に怒られるのと二択です!」
「テラージャの方が怖いぃぃ! 戦う、戦うから許して!」
「自分で言っておいて納得いきませんけどとりあえずはその調子で攻めて下さい!」
「はっはっは、テラージャの罪はその美人な顔だぜ。どうだ、今度このエリートにその罪の許しを請うってのは」
「面倒なの隊長だけでお腹一杯なんです! 手伝ってくれるのはいいですけど普通に戦って下さいフウラさん!」
辺りに気を配れば、ハインハウルス軍は優勢。徐々に戦局は傾いてきている。
(……だが)
傾く速度が「遅い」。正直な事を言えば、もっとあっさりとこちらに戦局が傾くと思っていた。相手が予想以上の戦力での抵抗を見せている。
(何処からこの戦力は手に入れた? 他国からか?)
考えれば考える程違和感が残った。負ける要素は無い。でも何処か「試されている様な」そんな気すらしてくる。
「悔い改めよ」
「フン、何が悔いだ。――私情を持ち込むのは好きではないが、貴様等には姪をたぶらかされた恨みがあるからな、覚悟して貰うぞ!」
勿論多少考えた程度で隙が出来る男ではない。言葉通りシンディを巻き込んだ恨みをここぞとばかりに晴らしていく。
「ヴァネッサ、ライト、気をつけろよ。一筋縄ではいかんぞ」
奥へ進み戦う仲間を想いながら、マクラーレンも戦い続けるのであった。
「お茶菓子ってあるの?」
「私の趣味にで宜しければありますよ、こんなのでどうですかねえ」
「あ、美味しそうじゃん、ありがと」
お礼を言うと、レナはセツナからお茶菓子を受け取り――
「ってあれぇ!? 俺が覚悟の上で来たのに俺より先に俺の護衛が馴染んでるのは何で!?」
「んー、なんつーか、中途半端な抵抗攻撃はどうにもならない気がするから、もういっそ相手の掌の上に乗ってみようかなと」
その考えはいいがそれにしても馴染み過ぎな気がするライトである。
というわけで、五人目のセツナに誘われたライトと、一緒にいたレナ。非常に場違いな三人でのお茶会が始まってしまった。勢いのまま自己紹介までしてしまう。
「レナさんですか。ライトさん、レナさんはそう簡単には出会えない逸材ですよ。大切になさる事をおススメしますねえ」
「セツナ、もうちょい踏み込んだ評価欲しいな。具体的にライト君は私をどう大切にすればいいの?」
「一言で言えば、公私ともに、でしょうかねえ」
「だってさー、大事にしてね?」
「何の女子トークしてんのそこで!? 俺達敵同士だよ!? もうちょい緊張感持たないの!?」
占いに来たカップルみたいになってきた。
「ちょっと聞いてみただけじゃん。それとももしかしてライト君は私を大事にしてくれないの?」
「大事にしないなんて一言も言ってないだろ!」
寧ろ物凄い大切な――ギュッ。
「言質。――ありがと」
つい零した本音。対して不意に抱き着かれ、本当に嬉しそうにそう言われると、ライトとしても次の行動につい困ってしまう。――いや困ってる場合じゃない。
「とっ兎に角、今はそんな話をしてる場合じゃないだろ、離れなさい」
「はーい」
ぱんぱん、と軽くレナの腕を叩くと、流石にレナも一度ライトを離した。セツナも楽しそうにその様子を見ている。
「さて、それじゃ前置きはこの位にして。――ライトさんは、勿論タカクシン教をお許しになってませんよねえ」
「当たり前です。こんなやり方で世界を一つにするなんて有り得ない。しかも各所で犠牲が出始めてる。それの何処が神の導きなんだって話です」
はぐらかす場面ではない。ライトは本音を正直にぶつけた。
「まあ、当然の意見です。正直私としても、こんなやり方をしてどうするんだと思ってますからねえ」
が、反論覚悟で告げたその意見に対し、ふぅ、とセツナは溜め息交じりにそう告げる。――って、
「全肯定……じゃないんですか」
「とんでもない。私は教祖様のゴーレムじゃないんですから、自分の意思がありますからねえ。個人的な考え位ありますよ」
意外だった。タカクシン教信者は教祖の言葉が全てで、一切疑いもしない物だと思っていた。
「でもまあ、縦社会と言えばいいですかねえ。はいそうですかで意見が通る組織でもないものでして」
軽くお手上げポーズを見せるセツナ。そして改めて認識する。自分達の敵は、教祖。そこを叩けば、後はどうにでもなる可能性が高いと。しかも一部の信者達は批判的とまで来ている。
「セツナさん。俺達を通してくれませんか。このやり方を、俺達は止めたいんです。このやり方が間違ってると思ってるのなら、俺達に協力……とまでは言いません、でも見逃してくれたら」
「残念ですけどそれは出来ませんねえ。先程申し上げました通り、私としてもライトさん達を通してそれでライトさん達が負けたら立場も何もないのですよ。それに、何か誤解をしていらっしゃる」
「誤解?」
「私は神を信じてます。――意味がわかりますかねえ?」
「…………」
あくまで今回のやり方に納得が出来ないだけで、彼女はタカクシン教の信者であり、タカクシン教が無くなってしまうのを見過ごすわけにはいかない。そういう事なのだろう。
彼女がどうして神を信じているのか。きっと理由はある。それを否定は出来ない。出来ないけれども。
「俺も神様はいてくれると思いますよ。何処かで今も見てくれている」
「おやまあ」
「でも俺は、神様の力をいつでも借りないと生きていけないなんて、そんな生き方は絶対に駄目だと思います」
セツナの目を見て、力強くライトはそう言い切る。
「何の為に俺達は生きているのか。何の為に俺達の意思があるのか。何か間違った事をするのを、神様のせいにしては駄目です。神様の指示があったとしても、自分の意思で否定しなきゃ駄目です。その結果、駄目な行動をしてしまえばそれ相応の報いを受けつけなければいけないし、上手くいったのならそれは自分自身の力です。大事なのは、自分がどうあるか、だと思うんです。何でも神様のせいにしてたら、それこそ罰があたると思うんです」
「それを神様を目の前にしても、宣言する自信がおありですかねえ」
「あります。そして、理不尽な理由で人間達を狂わせる神様なら、俺達は戦います」
そのライトの強い目を、セツナは穏やかな表情でずっと見続けていた。
「神様はきっと強いですよ?」
「俺なんか瞬殺でしょうね」
「案外人間臭くて我儘ばかり言っているかもしれませんよ?」
「そしたらその根性を叩き直します」
「その自信は何処から?」
「自信……はありません。俺は弱いです。仲間の中で、一番、飛びぬけて弱いです。でも」
ライトは不意にレナの手を握る。レナも直ぐに意味を理解し、握り返してくれる。
「やらなきゃいけない。俺は一人では生きていないから。俺達は、大切な人達と一緒に、苦難が来ても乗り越えていくから。そう思うんです。寧ろ、今回の事が神様の与えた試練だって言うなら、乗り越えなきゃいけないと思ってます」
「神様の試練、ですか。それが本当なら、困った神様ですねえ」
「だからこそ、俺達はすがりません」
「成程。――素敵な答えです。わざわざ時間を設けてお話を聞いた甲斐がありました」
不意にセツナがパン、と目の前で手を叩いた。すると――フッ。
「わあ!」
「ぐっ!?」
「ちょい待てっ!」
「ふむ」
各所で仲間達が戦っていたセツナが消え、セツナはライトの横のセツナ一人になる。
「予定よりも稼ぐ時間は短くなりましたが、まあ構わないでしょう。どうぞお通り下さい」
そしてそう言って、笑顔でその横を通る様に促してきた。
「……まさか本当に時間稼ぎの為だけに俺と話を?」
「さあどうでしょう、御想像にお任せします。――少なくとも、殺伐とした物が嫌いなのは事実ですよ」
当然戦っていた他の仲間達もライトの下に集まる。
「この先に教祖様はいらっしゃいます。少なくとも、私みたいに話が通じるとは思えません。どうなさるかは、貴方方次第です」
「……クレーネル、この先に何があるかわかる?」
「大聖堂。神に、祈りを捧げる為に作られた広間です」
「わかった。――皆、行こう」
そして覚悟を決め、全員を促した。
「マスター、いいの? 罠かもしれない」
ネレイザがチラリ、とセツナを見ながらそう進言する。――言いたい事はわかる。当然の意見だろう。でも。
「セツナさんを信じる。何となくだけど、この人は嘘を言っている様には思えない」
そんな気がした。嘘だとしたら先程までの戦いといい手が込み過ぎている気がするし、それでなくても話をしていて何故かそう思えるオーラを感じ取った。だから、信じる事にしたのだ。
「いいですわ。ライトの事を、私達は信じます」
「ありがとうエカテリス」
「んもー、クレーネルに味を占めて敵の綺麗な人まで直ぐハーレムに入れようとするー」
「俺の横で話聞いてたんだから違うってわかるよね!?」
その夫婦漫才(!)を封切りに、ライト達は歩き始めた。振り返る事はしない。
「皆様に、御加護があらんことを」
そんな言葉が、最後に背後から聞こえた気がしたのだった。
大きく設置された扉。最早門と言われても違和感が無い大きさのその扉を、ゆっくりと開ける。
「ほう、これはこれは」
ニロフが感心の声をあげた。本当に広く、本当に綺麗な部屋だった。調度品、彫刻、全てが美しく飾られており、状況が状況でなかったら素直に祈りを捧げたであろう。そんな空間。
全員が周囲を気にしつつも前進。人の気配も無く、
「凄いの作ったんだねー。ハインハウルスでもここまでの教会とか無いんじゃない? 声もよく響く。ネレイザちゃん丁度いい、懺悔でもしてきなよ」
「何で私懺悔なの!?」
「じゃあ愛でも誓ってくる? 勿論相手の名前も出して――」
「だーっちょっと緊張感持ちなさいよ!」
そんなレナとネレイザのやり取りも、空間によく響いた。
「ご主人様、あれがタカクシン教が崇拝する神の像です」
「あれが……」
ひと際大きく立派に飾られた彫刻。男性が天に祈るポーズをしていた。
「最も、今の私からしてみれば偽者の神でしかありませんが」
「寂しい事を言うじゃないかクレーネル。あんなに毎日祈っていたのに」
「!」
声がした。声の主が、ゆっくりと立ち上がり振り返り、姿を見せた。
「ようこそ、タカクシン教総本山へ。神に仕える身として、誠実な対応をさせて貰おう」
直ぐにわかった。――この男こそ、教祖なのだと。




