第四百十話 演者勇者と導かれし仲間達11
「国王様が……ハインハウルス国が、人質……!?」
タカクシン教の教祖の警告はそれであった。これ以上侵攻してくる様ならば、本城並びにヨゼルドの身の安全は保障出来ない。今直ぐそれなりの「誠意」――タカクシン教の教えに従う姿勢、契約を交わさなければ、直ぐにでも実行に移す。そういう意味合いである。
動揺が走る兵士達。ライト。――その一方で。
「…………」
ヴァネッサは冷静だった。表情を変える事無く、建物を見据えている。そして、
「マックさん」
「どうした?」
「攻城兵器の準備、出来てるでしょ? 派手にぶちかまして」
その指示を出した。
「わかった」
マクラーレンも迷いなくその指示を受け、
「突撃準備! 工兵、門を破壊しろ!」
そう兵士達に指示を飛ばす。攻城兵器を担当しているのはマクラーレン隊。先程の教祖の警告に思う事が無い訳ではないが、
「うおおおおおお!」
流石はマクラーレンの部下、精神的に鍛えられていたか、迷いを振り切り攻城戦を開始させる。
「それがそちらの警告なら、こちらからも警告を出すわ。――そちらが全面降伏でもしてこない限り、私達は止まらない!」
そしてヴァネッサは高らかにそう宣言。――完全決裂の瞬間であった。こうなれば当初の作戦通り、全軍突撃あるのみ。
「クレーネル、教祖の言葉がブラフの可能性は」
「ゼロではありませんが、低いと思います。最初からこうなることを見越して、何も疑わない教徒達、逆らえない各国の軍勢を、こちらの索敵の範囲外から少しずつ進撃させていたとしたら」
「本当に……本国が、危ないのか……!?」
勿論ライト達も突撃しなくてはいけない。だがどうしても気になるライトはついクレーネルに確認を取り、そして不安を増す結果を招いてしまう。――だが。
「んー、王妃様、このパターンも計算に入れてたんじゃないかな」
と、冷静は予測をするのはレナ。
「確かに主力はほとんどこっちに来てる。城に残ってる軍、部隊で主戦力として数えられるのなんてそれこそバルジ隊位でしょ。――でもそれは、軍人に限った話」
「……まさか」
「挨拶回りしまくってた。頭下げてお願いして回ってたって。――そこまでしなくても、皆戦ってくれるのに、そういう人なんだよねえ」
「そういえば……ジアも、挨拶されたって言ってた! 戦力、確保してたのか!」
アルファス達、イルラナス小隊、フリージア、サクラ、シンディ&スーリュノ。――思いつくだけでも軍人以外の戦力が尋常じゃなく揃っている。
「勿論油断は出来ない、寧ろ相手の狡猾さから見ても結構紙一重かもしれない。でも逆に言えば、頑張ればどうにでもなると私は思うよ。だからさ」
ポン。――レナが軽くライトの肩を叩く。それは促しの合図。ライトの覚悟も決まる。
「よし、俺達も続くぞ! 最終決戦だ、ライト騎士団の強さ、覚悟、見せつけてやろう!」
「おーっ!」
そしてライトの号令。仲間の為に平和の為に、全てを守る為に、ライト達も乗り込むのであった。
「ハインハウルス軍、止まる気配がありません! 正面から攻城兵器で攻撃されています、侵入される可能性あり!」
教祖の下に伝令が走る。一般教徒は流石に焦りの表情。――無理もないかもしれない。教祖の脅迫で、軍は止まると思っていた。直接戦闘になるとは思っていなかった。
勿論戦闘要員は大幅に用意してある。だがハインハウルス城に奇襲に向かわせてしまっている部隊が多いのもあり、何よりこちらに来ているハインハウルス軍は天騎士を筆頭に精鋭ばかり。真正面から戦って果たして勝てるのか。どうしたらいいのか。――という想いが一般教徒の表情に見事に書かれていた。
「怒らせちゃいましたかねえ」
先に口を開いたのは教祖の隣にいたセツナ。こちらは全然焦る様子も見せない。
「問題ないさ、こうなる可能性も考えてある。これでこちらの策が終わりだと思ってくれるなら好都合だ」
教祖も焦る様子を見せない。実際現状は、彼が考えていたパターンの一つではあった。――勝利のパターンの一つである。
「でも、教祖様の策が発動する前に、こちらが全滅してしまっては意味がないのでは? 相討ち上等ですか? 怒った天騎士を抑えるなんて出来るんですかねえ」
「それは――」
「私が出よう」
と、割り込む様にして名乗りを上げたのは、
「キュレイゼか」
幹部の一人であるキュレイゼである。既に戦闘用に武具を装備済み。
「キュレイゼさんなら安心……と言いたい所ですが、天騎士というのは桁外れの強さとの事。大丈夫ですか?」
「問題無い。「あれ」を使う」
「…………」
そのキュレイゼの言葉に、一瞬教祖は反応してしまう。
「納得いかないか? 私が「あれ」を使うのは。――自分以外の人間が、「あれ」を使うのは」
冷静な目でキュレイゼは教祖に問いかける。
「いいや、何の問題も無い。勝負所ではあるし、そもそも君は「扱える」存在。その力で我々が勝利出来るなら、何の問題も無いだろう」
そう笑顔で返事をする教祖。――その笑顔の前に、一瞬鋭い目を見せたのは、セツナもキュレイゼも見抜いている。
(無意識でしょうねえ……やれやれ)
(無意識だろうな。尻の穴の小さい男だ)
お互い思う事はあっても口には出さない。
「話している時間も惜しい。私は行く。――セツナ、お前はどうするんだ?」
「私も状況次第では出撃ですねえ。もう少し様子見しますが」
「様子見だけ続けて一人になって降伏とかくだらない考えはするなよ」
「はっはっは、最悪それでもいいかもしれませんね。――おっと冗談ですよ冗談」
キュレイゼはそのセツナの「冗談」を聞き遂げると、この場を後にする。
「それでは私は他の場所の様子を見てきます。何かありましたらご連絡を」
そうセツナも告げると、部屋を後に。――部屋には教祖が一人になる。
「ふっ、問題ない。これでようやく、世界はタカクシン教の、俺の――」
その独り言を噛み締めて、教祖は一人、外の様子を眺めるのであった。
「…………」
ハインハウルス城、玉座の間。ヨゼルドは一人玉座に座り、静かに時を過ごしていた。
戦闘可能な人員は全て出撃させ、非戦闘員は出来る限り避難をさせている。戦闘は被害を抑える為に可能な限り城下町の外で。つまり、今この場は皆が寝静まった夜更けの様に静かだったのだ。
本来ならば国王である彼も避難すべきであるし、避難しても誰も咎めないだろう。だが彼は一国の主として、この場に一人残りここにいる事を選んだ。――仲間達を信じている。この場で勝利の報告を受ける未来を、誰よりも信じている。だから静かに、一人きりでもこの場で待つ。
そうしてこの場で一人で居続けてどれだけの時間が経過しただろうか。不意にニュン、と前方の空間が歪んだかと思うと、
「成程成程、行った事が無い場所なのに座標もピタリか。凄いな」
一人の男がヨゼルドから数メートル離れた所に突然姿を現した。年齢は五十代位だろうか。大柄で全身に鎧を装備し、背中に大剣。――勿論ハインハウルスの人間ではない。
「さて。ハインハウルス国王、ヨゼルドだな?」
「いかにも。そちらは?」
「タカクシン教教徒、モヨネダだ。あんたを招待する様に言われてる。大人しくついて来てくれるか?」
その問い掛けに、ヨゼルドは溜め息。
「ここまでが全て、計算通りだったというわけか」
「あいつ――教祖は、予定がずれる、自分の考えてる通りに事が運ばないのが本当に嫌いな奴でな。本当に念入りに仕込んでおいているんだよ」
そう。教祖の計画は、ハインハウルス城を手薄にするだけでは無かった。手薄にし、隠している戦力で対応せざるを得ない状態にし、ヨゼルドの確保を確実な物にする。ここまでが計画だったのである。
「残念だな」
「何がだ?」
「お出迎え招待なら、美女が良かったよ。私が言うのもあれだが、中年男性にエスコートされて嬉しい中年がいると思うかね?」
その言葉に一瞬モヨネダはポカンとするが、意味が浸透すると、
「がっはははは! 確かに違いない、俺だっておっさんにエスコートされるより美女がいいな!」
そう言って豪快に笑いながら同意した。――国王ってのは伊達じゃないのか。本当に肝が据わってる。
「さて、手荒な真似はしたくないんだ。さっきも言ったが、素直についてきてくれるか?」
「断ると言ったら?」
「それは無理矢理連れていくに決まってるだろう。手足の一本無くてもいいし、最悪死んでても構わないそうだ。痛いのは嫌だろう?」
「ならばお断りさせて貰おう」
ヨゼルドは何の迷いも無く、そう返事をする。
「大事なのは私が国王として、この国をどうしたいかという意思だ。例えここで殺されてしまったとしても、君達に従うつもりは最後まで無いという意思表示になれば、私の意思を継いでくれる者達がいる。君達は彼らに潰され、この国の平和は守られる。私としてはそれで充分だ」
「…………」
ハッタリを言っている様には見えない。一切の動揺を見せていない。――本気、なのか。
「寧ろ私からの最終警告だ。今この場で全面的に手を退き、今までの暴挙を認め贖罪の道を選ぶのであれば、それ相応の処置を施そう」
「がっはははは、まさかここに来てこちらを脅してくるとは思わなかったな! 本当に肝が据わってる!」
そしてそれは、こちらに降伏の姿勢は一切見せないという現れである事を、モヨネダは改めて認識する事になる。
「よし決めた。あんたを殺すわけにはいかない。ギリギリの所で生かして、あんたの意思を継いでくれる奴らを諦めさせた方がいいな」
「それこそ無駄な足掻きだ。私を慕う者達の逆鱗に触れ、君達の寿命を縮めるだけだぞ?」
「がははは、それでもあんたの命をこちらで完全に握ってしまえばどうにでもなる話だろ!」
モヨネダは背中の大剣を持ち、身構える。
「さあて、どれだけ頑張れるかなヨゼルド国王。寧ろ死んでくれるなよ」
モヨネダはそこからは迷う事無く、握った大剣をヨゼルドの右腕に向けて振り下ろした。そして――




