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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第四百八話 演者勇者と導かれし仲間達9

「教祖様!」

 ガッ、と彼の部屋のドアを勢いよく開けて部屋に入る若い男。

「ノック位したらどうだ?」

「ハインハウルス軍です! 取り囲まれています! 大軍です!」

 教祖の注意も聞いている余裕が無いか、若い男は焦った様子で現状を報告。

「そうか。予測の範囲内だが、思っていたよりも早かったか」

 だが教祖は驚く様子も見せず、冷静にそう分析すると立ち上がる。

「抗戦する。だが防衛に徹しろ。持ち堪えるだけの戦力はある」

「で、ですが、それでは」

「心配無い」

 ジリ貧、いつか敗北するだけなのでは。――そう言いたげな男の意見を自分の言葉で塞ぐ。

「「予定通り」なんだ。寧ろ、こうしてくれなくては勝ち目は見えてこない」

「は……?」

 言っている意味がわからない。だがその疑問に教祖は答える事なく、

「さあ勝負だハインハウルス。正義を掲げるお前達か、神に選ばれしこの俺か」

 そう楽し気に呟くと、部屋を後にするのであった。



 総本山の大きな正門が見えてくる。だがその扉は固く閉ざされている。

「準備」

 マクラーレンのその合図で、攻城兵器を抱えた兵士達が前に出た。――その時だった。

『タカクシン教の総本山へようこそ、ハインハウルス軍の皆さん』

 姿こそ見えないが、響き渡る様に声が辺りと通り抜ける。魔道具だろう。

「ご主人様。教祖です」

「!」

 唯一その声を知るクレーネルが説明。――教祖。タカクシン教のトップ。……悪の、権化。

『我々は神に選ばれし存在だ。その我々に従わぬ所か刃を向けるその行為。それ即ち、神に対する冒涜であると見なした』

「残念ながら、貴方達が見ている神様は私達には見えないわ。よって従うわけにはいかない。――タカクシン教の、これまでの暴挙を私達ハインハウルス軍は到底見過ごせない、許すわけにはいかない!」

 凛とした声と姿勢で、ヴァネッサが反論する。

『ヴァネッサ=ハインハウルス。天騎士と呼ばれ、最強のハインハウルス軍の中でも最もな強さを誇る圧倒的存在』

 だがその反論に対しても、教祖は冷静に、謎の解説を始める。

『天騎士だけではない。数々の戦役を突破してきた歴戦の戦士達、魔導士、更には今は勇者まで抱えている。神に対する冒涜は許されないが、ここで全てを消してしまうのは非常に惜しい。だからもう一度、我々の手で浄化させてあげようと思っている』

「おいおい、上から目線もそこまで行くと凄いな。エリートの俺も驚きだし、そもそもエリートの俺は更生する程の罪は犯しちゃいないんだがな」

 フウラが呆れ顔で苦笑。大小あれど皆似た様な感想だった。

『勿論今この声を聞いた所ではいそうですか、で納得など出来ないだろう。実際貴方方の力は強大だ。魔王を倒し、正義を抱え戦う。我々タカクシン教よりも貴方方を信じている民衆の方がまだまだ大勢いる事も良くわかっている。――では、何をしたらその民衆達は、何より貴方方は我々の事を認めてくれるのか。例えここで全力でぶつかり合い、我々が勝ったとしてもそれだけでは当然納得など出来ないだろう』

 意外にも最もな話をし始めた。――そこまでわかっているのなら何故、という想いが各々に過ぎる。

『では、我々の力を証明するには……違うな、我々の方が貴方方よりも上だと証明するには、一体どうしたらいいのか。――前述通りハインハウルス軍、全てにおいて完璧だ。率いる天騎士ヴァネッサの下、圧倒的統率と力を持っている。真正面から戦うなど愚の骨頂だ。それに、ハインハウルス軍最強は天騎士ヴァネッサではない』

「最強が……王妃様じゃ、ない……?」

 正直どう考えても最強だった。強さもカリスマも圧倒的だ。これ以上強い人間など、軍には――

「もしかしてライト君のハーレムパワーも見抜いてるんじゃないの?」

「俺がそれで最強とか言いたいわけですか俺の横!?」

 それが本当だったらタカクシン教解体後ハインハウルス国はどうなってしまうのか。――という冗談はさておき。

『簡単な話だ。ハインハウルス軍最強は――国王、ヨゼルド』

「!」

 ヨゼルド。ただ彼の戦闘能力は低い。それでもこの場面で最強だと言い切るという事は。

『彼の圧倒的カリスマの下に国が、軍が存在している。それこそ天騎士ヴァネッサ、貴女ですら国王ヨゼルドあっての存在だろう。つまり、どれだけ貴方方が強くても、国王ヨゼルドが我々を認めてしまえば、それだけの話』

「あいつ何言ってんの? 国王様が今更タカクシン教認めるわけないじゃない。自意識過剰にも程がある」

 呆れ顔のネレイザ。そう、今更ながら有り得ない話を持ち出し、自信満々に語っている。逆に受け取れば――ヨゼルドを篭絡させるだけの自信がある……?

「っ!? まさかお父様を!?」

 そこで少しずつ気付き始める面々。驚きと、焦りの表情が生まれ始める。

『我々を「潰す」為にほぼ全軍、こちらに駆り出してしまったようで。さぞかし本国の守りは手薄だろう』

「な……!」

 そう、ここにハインハウルス全軍がやって来るのも、教祖にとっては予想通り。彼の狙いはヨゼルドただ一人。そこを潰してしまえば、ハインハウルスの力は一気に弱まる。そう睨んだのだ。

『さあどうするハインハウルス軍。決断を急がなければ、本当に全てを失うぞ?』

 嘲笑う様な声が、全員の耳に届く。そして――



「……ふーっ」

 ヨゼルドは一人、政務室で書類作業を行っていた。だが彼の能力からして中々ない事なのだが、仕事がはかどらない。

 ヴァネッサはほぼ全軍を率いて、タカクシン教と決着を付ける為に出撃。勿論そうなると城の中の人口密度も減り、心なしかとても静かに感じる。

「タカクシン教、神、か」

 魔王討伐の時もそうだったが、やはり送り出す立場というのはどうしても不安になる。負けるとは思っていないが、それでも何があるかわからない。勝利したとしても、それが本当にギリギリの勝利だった時、失う物が出てきてしまう。

 そしてそれを、自分は報告を受ける「だけ」の立場なのだ。――信じてはいるが、不安になるなという方が無理な話。特に今回の相手は何をまだ隠し持っているかわからない、まったく油断ならない相手。正面から戦力だけで勝てただけではどうする事も出来ない何かが待っている。そんな気がしてならない。

 更に言えば、今回に関しては――コンコン。

「入りたまえ」

「失礼します」

 静かな部屋に響いたノックに入室の許可を出すと、部屋に姿を見せたのは、

「到着が遅くなり申し訳ありません。――只今から、国王様の臨時事務官として着任致します」

「うむ。待っていたぞ、マーク君」

 元ライト騎士団事務官(騎士団自体は抜けていない)でネレイザの兄で、先日までマスクドで政務官として働いていたマークであった。今回の最終決戦に向けて、ヨゼルドが呼び戻したのである。

「勿論君の事だ、経緯、現状、今後の予定、全て把握してくれてるね?」

「はい、問題ありません」

 マークの実力を知るヨゼルドとしてはその返事を疑う余地は無い。

「本当はライト君達に合流させてあげたい所だったが」

「お気になさらず、今はそんな事を言っている状況じゃありませんし、何より今はもうネレイザがいますから」

「そうだな。何だかんだでネレイザ君は良くやってくれているよ。最前線の戦力を一つ無くしてでもお釣りが来る程にな」

「ありがとうございます、そう言って頂けると身内としては嬉しいです」

 本当にそう思っているのだろう、安堵の表情が零れた。

「それから君個人の話も少し聞いているよ。アルテナ君と交際しているそうではないか」

「あ……その、まあ……はい」

 恥ずかしそうに少しだけ歯切れが悪くなったが、それでもしっかりと返事をする。

「その、国王様さえ宜しければ、今度会って頂けませんか? 彼女もあらためてお礼が言いたいと」

「勿論構わんよ。――そうだ、今度の一大プロジェクトの事務管理をマーク君、君に任せようかな」

「一大……プロジェクト?」

 そこでヨゼルドは間欠にでも熱く(!)ニロフの作品を越えるハインハウルスが誇る美女の水着写真集作成の夢を語った。

「勿論マーク君とアルテナ君さえよければ君達も一緒にバカンスへどうかね」

「国王様は変わりませんね」

 マークは苦笑。

「この国は、大事な所は変わらないさ。今までも、これからも。――この国にとっての真の平和を知らぬ者達に、自由にさせるわけにはいかないからな」

 不意に真面目な顔になり、そう告げる。そう、彼は変わらない。誰よりもこの国を愛し、この国を守る為に立ち上がるその想い。彼の存在は今のハインハウルス国には絶対であり、失ってはならない存在。

 だからこそ――コンコン!

「入りたまえ」

「失礼致します!」

 先程のマークの時とは違い、少々強めのノックで入って来たのは伝令役の兵士。

「敵です! タカクシン教の旗を掲げた軍勢が、こちらへ向けて進撃中! その数、把握し切れず!」

「!」

 一気に緊張感が走る。タカクシン教の襲撃。――だが不可解な点。

「落ち着いて報告をして下さい。数が把握し切れないとはどういう状況ですか?」

 マークが冷静に伝令役の兵士に尋ねる。――斥候役はその手に関して特化した人間を配置しているので、やって来る様子を見ればある程度の数は把握出来る様になっている。だが今回それが把握し切れないと言う。余程の数なのか、それとも――

「それが、全方位からの進撃を確認した模様で、事態の把握に手間取っているとの事で!」

「っ!」

 ――こういった、予想外の展開の場合か、という事になる。

「向こうもこの戦いに全てをかけてきたか。――マーク君、この状況も予測は出来ていたかね」

「王妃様の伝令がありましたから、用意はしてありましたが……本当にこうなるとは」

「迷う暇は無い。残っている部隊への指示を頼む。私は玉座の間へ行く」

「はい!」

 マークが一足先に駆け足で部屋を後にする。ヨゼルドも王冠を被り直し、立ち上がる。

「我々は負けるわけにはいかない。相手が例え、神であってもな。――タカクシン教よ、ハインハウルス国は、君らの自由にはさせんぞ」

 そう呟き、ヨゼルドは力強い足取りで、玉座の間へ向かうのであった。

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