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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第四百二話 演者勇者と導かれし仲間達2

「踏み込みが強過ぎる! 相手との間合いを間違えるな!」

「はい!」

 商店街、アルファスの店の裏庭。ライトとアルファスの稽古は終わり、今は「お姉ちゃん」ことフロウがローズに稽古をつけてあげている。

「やべえ空気になってると思ってたが、そこまでいったか」

 休憩中のアルファスにライトは事情を説明。アルファスは溜め息。横のセッテも不安気な表情で話を聞いている。その隣のスティーリィも――

「全滅させればいい。根こそぎ全滅させれば文句言ってくる奴もいない」

 ――不安の欠片も無くおやつを食べながら直球な意見を言っていた。相変わらずだった。

「スティーリィ、そんな簡単な話じゃないんですよ。騙されてるだけで、悪くない人も中にはいるんです。そんな人達まで必要以上に傷付けるわけにはいかないでしょう?」

「むぅ」

 何処となく自分達と重ね合わせたセッテの説明に、スティーリィも少し理解した様子。

「ライト、おっさんとヴァネッサさんに伝えておけよ。俺は最後の手段だからな、って」

「わかりました」

 だが逆に言えば動く覚悟はもう出来ているという事である。頼もしいと同時に、動きたがらないアルファスにその覚悟をさせてしまっているという事実が重い。

「ふぅ、ここまでにするか」

「はい、ありがとうございました!」

 と、フロウとローズの稽古も終わったか、戻ってきてセッテから飲み物を受け取る。

「師匠、お姉ちゃんは凄いです! 踏み込み、間合い、全部が独特で正確で速くて! 勉強になります!」

「才能は負けてたとしても、そう簡単に経験の差を抜かれるつもりはないさ」

 そもそも才能もローズが桁外れなだけでフロウも相当の物を持っている。そして過去の経験は色々な意味で絶大。

「流石だなお姉ちゃん」

「おい兄者までその呼び方をするのは止めろ」

 そして相変わらずお姉ちゃんと呼ばれると恥ずかしそうにするフロウは可愛かった。そのフロウのツッコミに辺りが笑いに包まれる。

 最後はそんなにこやかな空気で終わり、城へ帰ろうとした時だった。

「あっ、待ってお兄ちゃん!」

「ぶっ」

 ライトはフロウに呼び止められた。……のはいいんだが、

「ちょっ、フロウなんだその呼び方」

「私がどれだけ恥ずかしいかを「お兄ちゃん」にも体験して貰おうと思ってな……!」

 と言いつつ言ってるフロウ本人が顔を赤くして恥ずかしそうであった。可愛い。もうこれは俺への罰というよりかご褒美……

「……いやいや、とりあえず俺が悪かったから、呼び止めた理由はそれだけか?」

 ……という想いを隠して追及すると。

「ローズの事、少し気になってな。何かあったか?」

 フロウも真面目になってそんな質問をぶつけてきた。――成程、動きに微妙な違いがあったか。

 ライトはローズにバレない様に簡潔に事情を説明。

「色々悩んでるんだ。俺としても申し訳なく思ってる」

「成程な、才能と精神のバランスが取れてないか。仕方ない話だ」

「勿論放っておくつもりはないよ。出来るだけフォローして守るさ」

「そうか、それなら安心だ。――妹をお願いね、お兄ちゃん」

「だから止めろって!」

 可愛くて抱き締めたくなるから!……とはやっぱり言えない。



 ローズは勇者として認められハインハウルス城に越して来て、老若男女問わず城内では可愛がられ、正に「皆の妹」状態であった。本人の誰にでも懐く性格もあり、ローズを嫌いな人間など少なくともこの城にはいないであろうと思わせる程。

「ライト君、私は私の中の思春期という辞書の意味を書き換えるべきか悩んでいる」

「何ですか藪から棒に」

 突然だがヨゼルドだった。話しかけられライトは二人で並んで今も掃除をしている使用人達と明るく会話をするローズを見守る形に。

「こう、あの位の年頃の女の子は色々気難しい物なんじゃないのかね普通は。エカテリスはあの歳で既にパパと呼んでくれなくなったぞ」

「……そもそも一度でも呼ばれた事あるんですか?」

 年上とはいえエカテリスも十分思春期と言える年頃。自分への態度の差に悩むらしい。

「第一エカテリスは全然気難しくなんてない、寧ろ皆に優しいじゃないですか」

「そう、そうだが、もっとこう、もう少し位、私に甘えてくれる時間が増えても私はいいと思うのだよ……! ローズ君を見ていると余計にそう思ってしまって……!」

「あら、お父様は私の様な娘はいらない、ローズの様な娘が良かった。そう仰りたいのですね?」

「ぶっ」

 不意にそんな声に振り返ると、満面の笑みのエカテリスがそこにいた。――鬼の様なオーラを背中に背負って。

「もうそれなら構いませんわ、今日限りで親子の縁を切ります。私とお父様は垢の他人で宜しくて?」

「違う、違うぞエカテリス! パパはエカテリスのツンデレも好きなんだが、もう少しデレを味わいたいんだ! 愛してるからこそ!」

「言い訳など聞きたくありません。ライト、あんなの放っておいて行きますわよ」

「エカテリスぅぅぅ!」

 嘆きの声をあげるヨゼルドを残し、ぐい、とライトの腕に自分の腕を絡ませて強引にライトをエカテリスは連れて行く。

「……ははっ」

「? どうしたのかしら?」

「いや、そうやって嫉妬する時点で、何だかんだでエカテリスは国王様の事想ってるんだよな、って思ったら」

 ぎゅう。

「随分と意地悪ですのね?」

 腕に込められた力が強くなった。その顔は可愛いし腕に伝わる感触は嬉しいし言う事無し。

「偶には国王様の味方をしても罰は当たらないよ、きっと」

「むー……」

 実際先程のエカテリスの行動は嫉妬である。冷静になるとその部分がある事を否定しきれないので、エカテリスとしても膨れる以上の行動が出来なくなる。……にしても。

「ローズは「出来過ぎ」な気もするんだよな」

「ですわね……言いたいことはわかる気がしますわ」

 ハインハウルス城内で皆から愛されても、一歩外に出ればまた違ってきてしまうかもしれない。妬みから生まれる敵意があってもおかしくはない。

「でもだからって今のローズを捻じ曲げるのも違うし。変に入れ知恵してレナみたいになっても困る」

「ふーん、ライト君は私みたいなのが近くにいられると困るんだー」

「ぶっ」

 不意にそんな声に振り返ると、満面の笑みのレナがそこにいた。――デジャヴを感じる。さっきも何だか似たような光景があったぞ。

「ライト君がその気ならいいよ、こっちにも方法があるから。今夜時間空けておいてね」

「え、何が始まるの?」

「既成事実作った後訴えて逃げられない様にする」

「ちょっと待ったあああ! やり方がエグイっていうかこういうやり方の事を俺は指摘してるの! ローズにこういう子になって欲しくないの!」

「今はまだ」

「そんな補足説明も付け足すつもりはありません!」

 弟子に手を出す師匠とか嫌だ。

「兎に角、今は大変な時期だしローズも俺達よりも不安になってる部分が絶対あるはずだから、皆で気をつけてあげようねって話です! いいですね!」

 ライトはそこで強引に話を切る。何となくこれ以上話をしているとまた別の人がやって来てエンドレスになりそうな気がした。

(……でも)

 実際、ローズに気は配りたい。何事も無ければいいし、何事も無い様にしてあげたい。そんな風に思うのだった。



「はいっ!」

「ロガン、そっちに行ったぞ!」

「取れます!」

 ハインハウルス城、中庭運動場。イルラナス小隊、今日もイルラナスの体力向上の為に運動中。今日はゲストにローズを迎えての球技を。――最初の頃は何処か目立たない様に、という気持ちもあったが最近は認知度も上がっておりあまり気を配る事も無くなった。

「人間の国は面白い物も多いし進んでるねえ。意地張らないで王女様に従う事にして良かった」

 小隊の中では一番の後輩にあたるニューゼのそんな感想。

「ニューゼさん、もうお城には慣れましたか?」

「まあボチボチね。飯は美味いし腕っぷしのいい奴が多いから訓練に事足りない事は無いし」

 比較的戦闘狂寄りのニューゼである。

「それに、変な奴らとの決戦が近いんだろ? あたしも足手纏いになる様な事はない、いつでも行けるぜ」

「はい、頼りにしてます!」

 実際最強の一角を誇るレインフォルを始め、強者揃いである。イルラナス指揮の下チームワークもバッチリ。ライトもヨゼルドもヴァネッサもいざという時の戦力としてしっかり計算には入れてある。

「でも、悲しいッスね。自分この城に来て、友達沢山出来て、自分みたいなのでも人間と仲良くなれるって、わかり合えるって思ってたッスけど……喧嘩、しなくちゃいけないんスね。そういう人達からしたら、自分達はただのモンスターに見えてるんスかね」

「……ドゥルペ」

 優しいドゥルペが、人間よりもこの戦いを悲しんでいた。

「ドゥルペさん、諦めちゃ駄目です! 私、ドゥルペさんが優しいの知ってます! 師匠だって、皆だって知ってます! ドゥルペさんは間違ってなんてないです! だから頑張りましょう!」

「ローズさん……そうッスね、落ち込んでてもどうにもならないッス。自分も頑張るッス。いつでも呼んで欲しいッス!」

 ドゥルペに笑顔が戻った。ローズの笑顔が、種族の垣根を越えて皆を励ました。

「ふふっ、旦那様の弟子に相応しい存在だ」

「そうね。私達も身習わないと」

 と、そんな風にお互いの意思確認と同時に士気向上に努めていた時だった。

「勇者様、勇者ローズ様はこちらに?」

「あ、はい! 私です」

 伝令役の兵士がローズを探してやって来た。

「勇者様のお知り合いだと言っている方が面会を希望しています。どうなさいますか? 心当たりが無ければ面会拒否も可能ですが」

「うーん……」

 確かに訪ねてくるような知り合いはいない。知り合い友達仲間は皆城の中。

「一応会ってみますね。案内お願い出来ますか?」

「畏まりました、ではこちらへ」

「はい。――それじゃ皆さん、また今度!」

 イルラナス小隊に手を振って別れを告げた後、伝令の兵士の後をついて行くと。

「あちらの方が」

「! あの人……」

 それは先日、街中で暴走したタカクシン教の教徒から助けた親子の娘だった。

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