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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第三百九十八話 幕間~主に仕える決意 前編

「この時期に突然ですが、本日からメイド課に新しい人が配属される事になりました。――挨拶を」

「はい。――クレーネルと申します。勇導師ライト様の専属の使用人となりました。皆様どうぞ宜しくお願い申し上げます」

 パチパチパチパチ。――笑顔で礼儀正しくお辞儀をするクレーネルに、拍手で迎える使用人達。……だが。

(ね、ねえ、何で紹介してるハルちゃん、ピリピリしてるの?)

(真面目そうで優しそうな人なのに……それにハルが認めなかったら配属されないのに配属されたって事は認めてるって事でしょ? なのに何で……?)

(後……リバールさんが凄い複雑な表情してる……)

 結論、一体あの三人に何があったんだ。――それが事情を知らない使用人達の共通の感想であった。

 物語は少しだけ遡って――



「許されません」

 クレーネル、ライトの専属使用人宣言。……の直後ハルに見つかり、あれよあれよという間にハル、リバール、クレーネル、ライト、レナ(ライトが助けを呼んで無理矢理連れてきた)の五名での話し合いが始まった。

「何故ですか? 私はあくまでご主人様の使用人として、タカクシン教との戦いを最後まで見届けたいのです。ご主人様の身の回り、ご主人様が所属する騎士団のお世話はしますが、その他一般の使用人としての仕事をする必要性が見当たりません」

 というクレーネルの言い分をハルが断固認めていないのである。

「ハインハウルス城内で使用人として働く以上、規則に従って頂きます。私もヨゼルド様の専属使用人として働きながら、リバール先輩も王女様の専属使用人として働きながら一般の仕事もこなしているのです。特例を許すわけにはいきません」

「まあでも、仕えると決めた方のお世話のみをしていたいという気持ちはわかりますけどね」

「せ・ん・ぱ・い? 先輩は一体どちらの味方なんですか? 先輩ともあろう者が規則を破ろうとでも?」

「ちっ、違いますよハルさん! 私はあくまでその要望を持ちつつ仕事をしているという事を伝えたくてっ!」

 ハルが鬼の形相でリバールに詰め寄りリバールが狼狽える。あそこまで狼狽えるリバールは初めて見るかもしれない。

「……ライト君助けて欲しいのはよくわかるけど私にこれをどう助けろと?」

「わからないけど第三者に居て欲しかったんだ頼むから居てくれ」

「もうあれだよ。皆素直に欲望に純粋になればそれで解決する気がする。よいしょ」

 そう言うと、レナはライトが座っている所に自分もライトと向き合う様に座り、腕をライトの首の後ろに回して――

「って何だ何してんだ急に?」

「欲望に忠実になろうの会。ほらライト君も今なら不可抗力だからちょっと位なら何処か触っても――」

 ガシッ。ポイッ。バタン。

「ああいった風に自分勝手に皆が動いては統率が執れる物も執れなくなります」

「…………」

 レナ、退場。

「ハインハウルス城内で人手が足りていないわけではないのでしょう? なら構わないはずです」

「そういったなあなあの態度でその恰好でライト様の専属使用人を名乗って欲しくないので。――タカクシン教に関して責任を感じて最後まで見届けたいというのはわかります。それならば貴女の才能ならば魔導士として参加すれば良いのではないですか?」

「私はそれ以上に私を導いて下さったご主人様に従いたいのです。ご主人様がタカクシン教に立ち向かうから、私は支えたいと思った。この身も心も捧げるつもりですが」

 いや重いですクレーネル、何もそこまで……とは口を挟めないライト。

 一方のハル。クレーネルを厳しい目で見る。――これは恐らく、私が何を言っても納得してくれない。だったら。

「ならばライト様、御指示をお願いします」

「え」

 ハルはタッチの方向性を変えた。――ライトを巻き込んだ。

「ライト様の指示なら従う様子。彼女に指示を出して下さい。正式にハインハウルス城内メイド課に所属する様にと。――これ以上問題を引き延ばすと、ライト様の責任として問題提示させて頂きます。というか」

 おほん、とハルは一度咳払いをすると、ずい、とライトに一気に詰め寄り、

「今までライト様と共にいた私と先日やって来たばかりのクレーネル、ライト様はどちらをお選びになるのですか?」

「なっ、いやっ、それはだな――」



 ――結局そう言われクレーネルを選べるようなライトでは無かった。素直にハルを選択。ハルは満足気な表情を浮かべ、クレーネルはすまし顔でご主人様の指示でしたら、と従う事に。

 結果、今のこの光景が広がっているのである。

「ホラン、ルラン、今日は二人にヨゼルド様のお世話を全て任せます。私が遠征でいない時と同じ様に」

「大丈夫ですけど、ハルさんは?」

「新人の指導に入ります。――先輩もいいですか?」

「ええ。何かあった時のフォローはしますので」

「ありがとうございます。では……クレーネル、行きますよ」

「はい」

 こうして、ハルは一足先にクレーネルを引き連れて部屋を後にした。

「リバールさん、結局何があったんですか? ハルさんに何が」

「純粋な愛情と呼べばいいのか、痴情のもつれと言えばいいのか。――私もまだ経験不足なもので」

「はい……?」

 わかっているが、細かく説明すると後が怖いので何も言えないリバールだった。――とりあえず、私はハルさんの味方です。仕事も、恋もね。



 そこからハルによるクレーネルの指導がスタート。

「勿論専属使用人となった以上、一から十まで一般使用人と同じ仕事は出来ません。では何処までやるのか。それを覚えて貰います」

「はい」

 クレーネルが加入すると決まった後、直ぐに作ったシフトを元に、

「ここの清掃は担当です。手順、範囲をしっかりと覚える様に」

「はい」

 着々と指導が始まる。

「この仕事は基本入りませんが、誰かが休み尚且つライト騎士団の活動が無い日はヘルプで入って貰うかもしれません。念の為覚える事」

「はい」

 要領と指導の上手さが光るハル、ライトの指示なので従う尚且つそもそも家事全般の才能を持っていたクレーネル。

「時折ここをチェックして下さい。ここに卑猥な本があったら即刻処分する様に」

「はい」

「うおおおおいちょっと待った何でここの事ハル君知ってて速攻でクレーネル君に教えてるの!? クレーネル君もはい、じゃなくてだね!」

「指導の一環ですので」

 気付けば予想以上の速度と精度で指導は進んでいた。――ハルも表情に出さないがクレーネルのレベルの高さには驚くべき部分があった。

「――手際の良さ精度の高さに正直驚いています。そこまで出来る方は使用人課にも多くはいません」

 移動中、本音がつい零れた。

「何年も本職としてなされている方に言われるのなら、私も中々の物なのですね。――ハルさん、ご家族は?」

「実家は普通の農家です。そう裕福な家でも無かったので両親は忙しく、幼い弟達の面倒を見たり昔からしていました」

「成程、私も似たような物です。覚えるべきして覚えたと言いますか。こうして今になって再び役に立つとは思っていませんでした。天国の家族も今の私を見て喜んでくれているといいのですが」

「…………」

 悲しげな表情は見せず、クレーネルはそう言い切る。

「……貴女の家族の事は、私は会った事も無いので正直わかりませんが」

「ハルさん?」

「もう二度と、道を見失わない様に。タカクシン教に立ち向かうのでしょう? ライト様を少しでも困らせるのであれば、即刻解任の手続きをとりますので」

 ハルなりの、励ましの言葉であった。――それがわからない今のクレーネルではない。

「お言葉ありがとうございます。――もう誰も、悲しませない。もう誰も、失わない。その為なら全てを尽くすつもりなので」

「さあ私語はここまでです。次に行きます」

「はい」

 お互い表情は変えないが、少しだけ近付けた。そんな気がした瞬間だった。



 城内での指導を一通り終えた後、二人は仕事の一環で買い物をしに城下町へ出てきた。

「買い物も通常業務の一つなのですか?」

「いえ、そもそも物資素材の補充自体が使用人課の仕事ではなく、専門の部署があります。ですが急を要する場合や、専属でしか使用しない物などを購入する為に出る事があります」

「成程」

「店に関して制限があるわけではないのですが、使い易い店、顔が効き易い店、覚えておくと後々楽なので、そちらを案内します」

 というわけで、颯爽と街中を歩く美人メイド二名。注目の的だが、それを気にする二人ではなくそのまま少々混雑する雑貨店へ。勿論その店でも注目の的。

 それをどこ吹く風で指導するハル、指導を受けるクレーネルだったのだが――さわさわ。

「…………」

 丁度棚の方を向いて話をしていた二人。その時、後ろを通りかかった中年の男性が、ハルの尻を意図的に触り、そのまま通り過ぎて行った。

「構わないんですか?」

 触られたハルは勿論だが、隣にいたクレーネルも直ぐに気付く。だがハルは無反応。怖気づく性格ではないのはずなのでクレーネルは一応確認をしてみると、

「ここで大捕り物にして騒ぎを起こすのは悔しいですが他の方にもヨゼルド様やライト様にも迷惑がかかる可能性があるので控えます。ですので」

 ドサッ。――直後、その問題の男が気絶して倒れた。

「やるなら静かにスマートに。こういう場ではこの位のレベルを目指して下さい」

 男の周囲がざわつく。よく見れば男の背中に「私は先程若い女性に痴漢を働きました」と張り紙が貼ってあった。勿論ハルが「何か」をした結果だが、それに気付ける一般人はまずいない。

「勿論私と同じ動きを出来るとは思っていないので、得意ジャンルを活かして大丈夫です」

「成程、勉強になります」

 一方のクレーネルはしっかりとハルの動きを確認していた。少し楽しそうにクレーネルはそう返事。――そんなこんなで店を後にしたその時だった。

「きゃあーっ!」

 大きな悲鳴が、通りに響き渡ったのであった。

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