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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第三百九十六話 演者勇者と神託の塔18

 ザッ、ザッ、ザッ。――迷いのない足取りで、クレーネルは進む。

「…………」

「ひっ!」

 一度、スッと周囲を見る。目が合った――気がした教徒達は、その視線に怯える。勿論クレーネルの事は知っている。その美貌に憧れる者、その信仰心の高さに尊敬を抱く者、教祖様からの贔屓を妬む者。

 各々の感情はあるが、今はその各々、誰も見た事のないクレーネルの目をしていた。冷静さの奥に力強さ。その破壊力に呑まれる。

「来ないのでしたら、こちらから行きますよ。――ああ、貴方達にもこの無駄な言葉を差し上げます」

 クレーネル、両手を左右に広げ、魔力を集中。そして、

「悔い改めよ」

 ズバババァン!――その言葉と共に、広範囲かつ強力な攻撃魔法を放つ。

「み、皆、クレーネルちゃんを止めて!」

 マーコの号令で、タカクシン教側の戦闘要員が一気に襲い掛かってくる。

「そうそう、殺す気で来て下さい。そうでないと、死ぬ気の私に傷一つつけられませんよ」

 元々無かった死の恐怖が、今は後押しすらしてくれる。もし自分が負けても、自分の手を新しく取ってくれた人が負けない。何の心配も無い。

「皆、クレーネルを援護! 行きますわよ!」

「チッ、あれがついさっきまでトラウマと戦って震えてた奴の戦いかぁ? やってくれるぜ!」

「仕方あるまい。彼女は長という新しい導きを手に入れた。真の導きがある人間は強い」

 そんな感想をソフィとドライブが零しつつも、ライト騎士団もクレーネルの手が届かない敵や位置の制圧を開始する。

「全員、連携を崩すな! マーコさんを中心に戦え!」

 数で圧倒するタカクシン教徒に対し、

「今日は何だか無性に全力で戦いたい気分です。サラ、援護をお願い」

「偶然ですね、私もです。サラフォンさん、私の援護もお願い出来ますか?」

「う、うん、わかっ……えっ援護いるこれ?」

 個々の能力で勝負するライト騎士団とクレーネル。一部は私情が混じり援護を依頼しておいて援護無しで敵をなぎ倒すという謎の現象が起きる程。

「そんな戦いが十分程続いた時であった」

「何で俺の横ナレーションなの!?」

「いや大丈夫そうだからさ」

 念の為ライトは待機、その横にレナ。――レナの言葉からするに、優勢なのはこちらの様子。……でも。

「どうしたんです? 貴方方の神への想いはその程度ですか? 私一人――反逆者一人止められない程度ですか?」

 ただただゆっくりと、でも確実に敵陣の中へと進もうとするクレーネルの姿。自身のダメージもいとわず、その様子は敵への恐怖心を積み重ねていく。

「それだけ余裕なら、ちょっとだけクレーネルの横に行けるか?」

「……また君は、直ぐにそういう事を」

 そのクレーネルの背中が、余りにも危うくて、ライトはその確認をレナにする。――戦いに負けなくても、でも。

「じゃあ約束。一、時間はちょっとだけ。二、アフターケアはしっかりと」

「わかった。約束は守るよ」

「言ったね? アフターケアってクレーネルだけじゃない、私達のもだよ? 主に女子の」

「へ?」

 今の流れからして、どう考えてもクレーネルのじゃないのか? とライトが考えている間に、

「行くよ」

「え、あ、うわっ!」

 レナはライトの手を取り、一気に戦線を移動。クレーネルの近くに。

「クレーネル! 目的を忘れるな!」

 一旦アフターケアの事は忘れて、急ぎライトはクレーネルに声をかける。

「目的? 私の目的は、彼らを――」

「違う。クレーネルの目的は、この地で、安らかに眠る事。俺達がそれを見守る事だ。そんな自暴自棄な戦いの後で、それが本当に出来ると思うか?」

「…………」

「何の為に俺達は一緒に来た? そう、俺達は一緒にいるんだ、その事を絶対に忘れないでくれ」

「……一緒にいる、か」

 いつぶりだろうか。誰かと一緒にいるというのは。物理的に一緒にいた事は勿論ある。でも、こうして心の存在として、一緒に誰かがいてくれたのはいつぶりだろうか。――あれ程信じた神ですら、思えば近くにはいてくれなかった。いつも遠く離れたその姿を心の中で見つめるだけだった。

「わかりました。約束ですしね」

 クレーネルの気迫が少し落ち着く。テンポも落ち着き、他の団員達と連携が取れるペースに。

「誰かと魔法で連携を取った事はありますかな? 意外と楽しいものですぞ」

 ライトがレナに連れられ一旦退く。代わりに待ってましたと言わんばかりにニロフが並ぶ。――口では自分が楽しむ為の如く言いつつも、自分に合わせる事で更に連携を取り易くする。その思惑がライトには感じ取れた。

「っ……クレーネルちゃん、ここまで強いなんて……!」

 次第にタカクシン教徒の数も減り、戦局が傾き始めた……その時だった。

「それまでにして頂きましょうか」

 透き通ったそれでいて落ち着いた女性の声が、戦場に通り過ぎる。――ハッとして見れば、タカクシン教の後方に、一人の凛とした女性――彼女もまた、タカクシン教徒の服を着ていた――がいつの間にか立っていた。最初からいた人物では無い。

「セツナ……ちゃん」

「はい、セツナちゃんですね」

 マーコにセツナ、と呼ばれたその女は、辺りを、戦局を見極める。そして、

「完全敗北ですね。これ以上は無駄です、撤退して下さい」

 そう、呆気なく言い放った。

「セツナさん、ですが」

「判断を教祖様からお預かりしてます。なので私の今の判断が教祖様の御指示だと思って下さい。――撤退。勝ち目の無い戦いをこれ以上眺める趣味はないのでね」

 威圧感は無いが、でも何処か逆らえない空気。マーコを始め、戦っていた者達は何も言えなくなる。

「ハインハウルス軍の皆様、この度は誠に申し訳ありませんでした。お詫びとしてこの地に関しては、以後手を出さないとお約束致しましょう。クレーネルさんもそれで安心」

 クレーネルとセツナの視線がぶつかる。落ち着いたセツナに対し、クレーネルは敵対心を隠さない。

「クレーネル、あの人は」

「セツナ。タカクシン教幹部の一人です。あまり私と関わる事は無かったので詳しい事はわかりませんが、私は好きになれませんでした」

「あらそうなんですか? 私はクレーネルさんの事、結構好きでしたよ?」

 この場の空気を読めないのか読んだ上でなのかわからないが、笑顔でその発言をする。

「まあとりあえず、私達はこれにて撤退を――」

「待ちなよ。――アンタが誰でどれだけ偉いか知らないけど、何で上から目線で勝手に決めてんの? 悪い事してんのはそっち、優勢なのはこっち。決定権がそっちにあるとでも思ってるならお笑いなんだけど」

 ピリッ、と鋭い威圧と共にレナが言い放つ。――最もな意見ではあった。

「ふむ。納得して頂けませんか。まあでもお気持ちはわからないでもない。でしたら……ほっ!」

 だがそのレナの威圧に対してまったく動じる事なく、セツナは少し気合を入れ、両手を地面に触れさせる。すると――ズババババァン!

「こちら、お詫びの労働力という事で」

 建築されていたタカクシン教の施設が一気に崩れ、跡形も無く消え去った。まさに一瞬の出来事だった。瓦礫の後すら残らない、見事な更地になっていたのだ。

「レナ……これどういう事だ?」

「わかんない。――ただ、あいつヤバい相手かもしれない」

 中々平然と一瞬でやれる技ではない。しかもトリックもわからない。ライト達は警戒を強める。

「後はそうですねえ。こちらをお納め頂けますか」

 その警戒も物ともせず、セツナはスタスタとこちらに近付き、エカテリスに一枚の袋を手渡す。

「相手の事を知らない場合、一番分かり易い謝罪の品はどうしてもこういう物になります。私も現状、これ以外の品は思いつきませんので」

「!」

 リバールが代わりに受け取り、中身を確認。――結構な額の金貨が入っていた。

「勿論、これだけで私達とそちらの根本的な問題が解決するとは思っていません。とりあえず、現状のこちらの撤退をそれで許して頂けたらと」

「許さないと言ったらどうするのかしら?」

「そうですねえ。それでも帰りますよ。少々強引になるかもしれませんが」

 威圧は感じられない。覇気もそう凄いわけでもない。だがその圧倒的自信。――今ここで、彼女と争ってはいけない。いつの間にか、そんな気がしていた。

「――わかりましたわ。こちらも今戦いたくてこの地に来たわけではありません。直ぐに跡形なく撤退なさい」

「交渉成立、ですね。ありがとうございます、助かります。話し合いで終わるのが一番ですからねえ」

 ニコリ、とセツナは笑い、深々とお辞儀をすると、振り返り歩き出す。

「さあ皆さん、帰りますよ。――教祖様には多少の口添えをしてあげますが、カバーし切れない部分のお説教は覚悟はしておいて下さい」

 そしてまるで子供を引率する保護者の様に、その場にいたタカクシン教徒達を引き連れてこの場を後にしていく。

「何なんだ……何者なんだ……?」

「油断するつもりはないけど……まだ読めないね、タカクシン教。やれやれ」

 ライト達も公約通り、その背中を見送る事しか出来ないのであった。



「皆さん、本当にありがとうございました」

 更地になったフレムの地に、用意していた花束を供え、全員でこの地で犠牲になった人達へ祈りを捧げた。それが終わった後、クレーネルがそうお礼を言いながらお辞儀をする。

「私が貴方達にした事を許して頂いた上に、この地をタカクシン教から取り戻す為に共に戦って頂き、更には共に祈りまで捧げて下さった。――こんなに穏やかな気持ちになったのは、いつぶりかもわからない位です」

 クレーネルが笑顔を見せる。その笑顔に嘘は無い。

「皆さん、そしてご主人様――ライト様。後の事、タカクシン教の事、宜しくお願いします。これ以上悲しむ人が増えない様に。私の様に、道を踏み外す人が増えない様に」

「わかってる。必ず、俺達の手で」

「ありがとうございます。信じています」

 そう笑顔で告げると、クレーネルはゆっくりとその場に膝をつく。そして、

「それでは――お願いします」

 最後への封切りを依頼する。ライトが大きく息を吐き、クレーネルの後ろに立つ。

 剣を抜く。大きく振り上げて、そのまま――

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