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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第三百八十九話 演者勇者と神託の塔11

「申し訳ありませぬな、主。今日は我一人です。美女の一人でも一緒なら主も喜ぶのは承知の上なのですが、今日はどうしても我一人でお話しなくてはならぬ事がありまして」

 神託の塔へと向かう数日前。ニロフは一人、主であるガルゼフの墓参りに来ていた。

「まずは報告です。我は正式に、勇者パーティの一員として、魔王討伐に貢献致しましたぞ。長年の人類と魔族の戦いに、終止符を打つ事が出来た。その戦いに、携わりました。人類と魔族は、新しい一歩を踏み出そうとしています。実に喜ばしい事です。それに、我はその名を残せずとも関わる事が出来たのです。ハインハウルスを代表する魔導士として」

 ガルゼフも平和をこの国の未来を案じていた。その大きな懸念の解決の力になる事が出来たのだ。ガルゼフもきっと喜んでくれるだろうとニロフは思って話をする。

「ですが、新たな問題が直ぐに浮上してしまいました」

 そのままニロフは、簡潔にタカクシン教の事案、そして戦いになるであろう事を説明。

「全ての生き物は、全ての相手とはわかり合えない。わかってはおります。ですが、主を筆頭に、我を友、仲間として見てくれる方々との日々を感じてしまうと、やるせない気持ちが拭いきれませぬ」

 自分自身は偉そうに言える立場ではない。でも、自分自身を認めてくれた人達の想いを汚されるのは、許せない。

「そして、ここからが本題です。――敵対する組織に、相当の魔導士の存在を確認しました。才能は我は勿論、もしかしたら主に匹敵するかもしれませぬ。それ程の相手との戦いが、避けられぬ所まで迫っております」

 間近で見た感じたわけではないが、それでも同じ魔導士としてわかる物がある。その圧倒的才能の存在。

「ライト殿の必死の願いも虚しく、説得という方向は無理でしょう。そしてその相手の思い通りには、一寸たりともさせてはならない。そんな相手ですので我が、その相手を抑えようと思います。――この命と引き換えにしてでも」

 ゆっくりと、グッと拳を握る。自分の存在を、「命」と称していいのかはわからない。それでも、散らせる覚悟は出来ていた。

「言われたのですよ、ライト殿に。我は世界一の魔導士だと。知らぬ間に、我は我が目指す者になっていた様なのです。その期待を裏切るわけには参りませぬからなあ」

 フフフ、と軽く笑いながら言われた事を思い出す。――ライトに勿論細かい魔法云々の実力を測る才能は無い。だがそれでも自分自身という存在を見て、彼は世界一だと言ってくれた。純粋に、嬉しかった。何かが報われた気がした。

「勿論生き残るのが一番良い結果です。ですが、そう上手くはいかないでしょう。相手はそれこそ信じる者の為なら死を恐れていない様子。……無傷で勝つ事は、無理でしょう」

 これは主であるガルゼフ以外は知らない事だが、骨・アンデッドという性質上、実はニロフは直接攻撃によるダメージに非常に弱い。基本直接攻撃が届く前に何かしらの手段で防御するのがセオリー。つまり、自分と同等かそれ以上の相手と一対一で戦った時、無事でいられる可能性は非常に低いのだった。

「ライト殿は怒るでしょうな。主の所へ行く時は、しっかりと前もって報告すると約束しておりましたから。でも、今回の我の作戦を受け入れてくれる方でもありませぬ。そして我がこの作戦を実行しない限り、状況が好転するとは思えませぬ。――友の為に、友を裏切る。自分の実力不足が歯痒いです。本当に、世界一の魔導士になれていれば良かった」

 そこまで言ってニロフは自分自身でも再確認する。――もっとあのメンバーと一緒にいたかった。一緒に活動する日々は、本当に楽しくて。一緒にいるメンバーは、本当に素敵な人達ばかりで。

 でも、だからこそ、自分が行かなくてはいけない。この世界の為に。仲間の為に。――その想いも、再確認する。

「ああ、そうですな。主もお認めにはならないでしょうなあ。こんな形での再会とは。予定想像とは別物でしょう。――許して欲しいとは思いませぬ。説教はいくらでも受けましょう。でも、その説教が終わったら、再会を喜ばせてくだされ」

 そこでニロフはもう一度、ゆっくりと手を合わせ、祈りを捧げる。

「それでは、細かい話は再会した時に。――行って参りますぞ」



 仮面を外し、フードすらもニロフは外す。その顔は勿論「骸骨」。

「よもや、人間では無かったとは……天下のハインハウルス国が、どれだけの事を」

「安心するがいい、我の正体が外部に漏れる事はない。何故なら」

 ヒュン!

「我も貴様も、この戦いで消え去るからだ」

 ズバァン!――敢えて接近し、近距離からの強力な攻撃魔法。衝撃と共に、間合いが再び開く。

「成程、その言葉に嘘は無さそうですね」

 クレーネルにダメージが入るが、明らかに近距離過ぎる反動でニロフにもダメージが入っている。まさにお構いなしの攻撃。

「ですが私は死にません。この場この時の神のお導きがあるからです。残念でしたね」

「神、か。所詮人間の争い事を強引な導きでしか喰い止められぬ神に何が出来る。それ程導きがあるならあの世で導いて貰うがいい」

「とことん侮辱するのですね、神を。――いいでしょう。神の導きあり私を倒せると思い上がったその存在、消してあげます」

 ズズッ、とクレーネルの周囲の魔力の流れが変わる。直後、生まれる幾つもの魔方陣から、強力なモンスターが何体も召喚される。――キリアルム家での召喚術を、更に強力にさせた物だった。

「ガァァァ!」

 即座に襲い掛かるモンスター達。だが、その相手をするのはニロフでは無かった。

「ォォォォ……」

 魔方陣から現れる、数体の死霊騎士。大剣を装備し鎧を纏った骸骨が、モンスター達と死闘を繰り広げ始める。――ニロフの召喚である。

「つまらぬ思い上がりも小細工も捨てるのだな。我は本気だぞ」

 そのニロフから漏れる、魔力と不の力にクレーネルは気付く。――目の前の骸骨魔導士は、リミッターを外して自分自身が現世に理性を持って留まる力を犠牲に能力を底上げして、自分を倒しに来ている。先程の言葉が、本気であると。

「……それ程の忠誠心、惜しい位です。その想いを神に向けたら、どれ程報われるでしょうか」

 クレーネルも、ここで覚悟を決めた。ここで自分が勝つか、死ぬか。その境目に今立っている。タカクシン教の運命の境目に今いるのだと。

 何処からともなく数個の指輪を取り出し、指にはめる。――自作の魔道具である。一時的に能力を爆発的に向上させるが、反動の大きい、決意の代物。

「滅べ」「消えなさい」

 直後、二人は全力で攻撃魔法を放っていた。激しくぶつかり合う魔法の波動。その衝撃で、お互いが召喚したモンスターと死霊騎士は削り取られ消え去るが、最早二人にとってそれはどうでもいい事実。それ程までの戦い。

 そこからは禁術に近い魔法攻撃のオンパレード。手を変え品を変え、お互い魔法を連発。全てを懸けたお互いの魔法は、相手の命を、自らの命を削り通していく。

(素晴らしい……何という素晴らしい才能でしょう、クレーネル殿……もしも、主と共に出会えたら……貴女が闇に堕ちる前に出会えたら……共に、魔術の切磋琢磨が出来たなら、どれ程素晴らしかったでしょうか……その想いを、偽りの神以外に向けられたのなら……)

 ニロフの最後の理性が、クレーネルを惜しんだ。走馬灯の様に、もしもの世界が、脳裏を過ぎる。

(これ程までの存在が……人に手を貸し、人の為に命を捨て戦っている……もしも、神に出会う前に出会えたら……神の前に、貴方達に救われていたら……私は、違う人生を歩めたでしょうか……)

 クレーネルの最後の良心が、ニロフを惜しんだ。走馬灯の様に、もしもの世界が、脳裏を過ぎる。

 でもそれは、「もしも」に過ぎない。今二人、お互いの命を懸けて、全てを持って戦っている。結末は、かけ離れる。

「我の名はニロフ! 友の為仲間の為、この名を名乗り戦う者!」

「私の名はクレーネル! 神の導きにより神の為に、この名を懸けて戦う者!」

 そして二人は名を名乗る。その誇りと共に、相手の実力を認め、相容れない敵を倒す為に。

 既に大幅の魔力を消費していたが、全てを絞り出す様に、前方に巨大な魔方陣を生成。集まる魔力で肉眼で相手の姿は確認出来なくなるが、相手も同等の魔力を放出し始めているのがわかる。

 決着の時が、訪れる。――「終わり」が、やって来る。



 ニロフにクレーネルとの戦闘を託し、神託の塔内部へとライト達は強行突入。魔方陣生成装置を探し、喰い止めなくてはならない。時間は限られている。

(ニロフ……待っていてくれ……絶対に直ぐに戻るから……!)

 確かに案は呑んだ。でも言い様のない不安がライトを襲う。何かを間違えている様な、何か恐ろしい物が見えていない様な。その不安を振り払うかの様に、駆けていく。

 塔、と呼ばれるだけあり高さ広さは中々の物。迷ってる暇はない、数手に分かれて調査開始。

 中に人は配置されていたが、そう多くはなく、しかも戦闘要員となればほんの一握りで、ライト騎士団精鋭達の敵ではなかった。――だが倒しても頑なに彼らは口を割ろうとしない。時間は過ぎていく。兎に角迅速な行動が求められた。

「! リバール、これを見て!」

「これは……間違いありません、これ程の装置なら」

 その中で速度重視で真っ先に最上階を目指したエカテリスとリバール。正に最上階にある部屋で、ついに精密な装置を発見。――確実に、何か大きなギミックを作動させる為の品。

「サラフォンさんを迎えに行きます!」

 塔内部は中心が吹き抜けとなっており、身を乗り出せば最下層が見える仕組み。

「ドライブさん! 発見です、サラフォンさんを!」

「了解した! ハル、サラフォン、聞こえるか、こっちだ!」

 連絡係としてその中央を確保していたドライブに声をかける。ドライブは直ぐに二人を呼ぶ。そのまま急ぎ階段へ――

「待って下さい! 私が、吹き抜けを広げます!」

 ――行こうとしたが、そこでハル、サラフォンと行動を共にしていたローズの提案。

「エクスカリバー、行くよ!」

『任せろ』

 中央に立ち、エクスカリバーを突き刺す様に掲げると、

「はああああああ!」

 一気に魔力を込め、気合一閃。――ズガガガガァン、という破壊音と共に、塔の吹き抜けが「広くなり」、人が通れる広さになる。

「よっしゃあ、ハル、サラフォンを掴んで飛べ! 足場は任せろ!」

「はい! サラ、掴まって!」

「うん!」

 音を聞いて駆け付けたソフィが、両刃斧を全力で振り上げる。両刃斧を足場に、振り上げを反動にして、気功術でハルがサラフォンを抱き抱えながら一気に最上階へ飛んだ。

「こちらです!」

 忍術でクッションを作り、リバールは二人を迎え入れ、そのまま部屋に案内。部屋ではエカテリスと、

「サラフォン、貴女頼りで申し訳ないですわ、でもお願い!」

 一メートル四方位の箱。中には幾つもの装置と、真ん中に魔力を込めて赤く光る宝石が。

「任せて下さい! ハル、サポートお願い!」

「ええ、何でも言って!」

 サラフォンは直ぐに全集中、目の前の装置の解除に取り掛かる。

「……!? これ、って……!?」

「どうしたのサラ、もしかして違うの!?」

「ううん、違わない、この複雑さ、魔力の込められ具合、間違いなく広域魔方陣の為の装置だと思う、でもこれは……!」

 サラフォンが辿り着いてしまった結論。それは……

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