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第三十七話 演者勇者と魔具工具師7

「兵士の配置、指示通り完了しました」

「わかりました。何かあったら直ぐに連絡、対処するように」

「了解です」

 報告に来た兵士が速足で戻っていく。場所はキリアルム家、盛大な社交パーティが行われる屋敷……の二階。ライト騎士団より、ソフィ、マークの二人がここで警備で待機中であった。指揮官はソフィ。

「結局僕とソフィさん以外のメンバーは全員パーティに参加しちゃいましたね」

 マークの言う通り、ライト騎士団ではソフィ、マーク以外がパーティに参加している為、騎士団のみでは到底警備など不可能。なので軍の兵士と共同作戦中である。

「この場合は仕方ないでしょう。国王様も練度の高い兵士を用意してくれましたし、団長達なら会場からでも何かあれば動けるはず。――マークも参加したかったですか?」

「まさか。命令なら行きますけど、ライトさんレナさんと同じで、あっち側は気が重いですよ」

「それは私もです。レナには頑張って、としか言い様がない」

 凹んでいたレナの姿を思い出し、二人で軽く笑い合った。

「でも……予告にあった「一番高価で美しい物」って具体的に何なのかしら。わかればまた違う警備も出来るのですが」

「そうなんですよね……高級品この家あり過ぎて、しかも平気でその辺に飾ってあるもんだから」

「宜しければ、リストをお見せしましょうか?」

 と、二人の会話に混じる声。声のした方を見てみると。

「王国軍の方ですよね? 私はメーラ、キリアルム家の騎士です。ご協力、感謝しています」

 一人の女性騎士が。そのまま二人に何枚かの紙を手渡してくれた。

「私はソフィ、こちらがマーク。――拝見しますね」

 手渡された紙には、キリアルム家が所有している高級品と、在り処がそれぞれ記されていた。

「何ていいますか……沢山あるのがわかった、みたいな感想しか僕持てないんですが」

「言いたいことはわかるわね……」

 案の定、結構な量の高級品が至る所に展示されている様子。思わずソフィは溜め息をついてしまう。

「ただ、旦那様も予告が来ているのはわかっているので、特に主要な品はパーティ会場に展示して、来訪者の方々に見せる形を取りました」

「成程、逆に大勢の目に入る位置にあれば盗むのも難しい、と。――会場には団長達もいますし、そういう意味では安全かもしれません」

「騎士団の方々が直接会場に?」

「パーティに参加しているんです。腕の立つ知り合いも一緒に参加しているので、生半可な実力者では触れることすら出来ないかと」

「成程……それは安心ですね」

 ふむふむ、といった感じで自分用のリストを見ながらメーラは考える仕草を見せる。

「少し配置を考え直してみたいと思います。貴重な情報並びに助力、感謝します。それでは」

 そして軽くソフィとマークにお辞儀をしながらお礼を言うと、この場を後にした。

「流石キリアルム家、お抱えの騎士団がいるんですね」

「宝石商貿易商となればいないと危険な場面もあるでしょう。更に言えば――彼女、腕が相当立つわ」

「わかるんですか?」

「少しだけ、「アタシ」の方の感が疼いたの。こちらに敵意を向けていないから目覚める程ではないけど、でもそれで疼くということは結構な腕のはず」

「流石ですね……」

「さあ、私達も持ち場に就きましょう。戦力を揃えておいたのにこうしてる間に盗られました、じゃ話になりません」

「ですね。じゃ、次の連絡時に」

 こうしてマークも場を離れ、一旦この場にはソフィ一人になる。

「……戦力を揃えておいたのに、か」

 ソフィに過ぎる僅かな不安。――そう、これだけ戦力を揃えられてしまう事位、呆気なくキリアルム家は可能なのだ。相手はそれすらわからない無能なのか、それすらを打破する実力を持つ人間なのか。もしも、後者ならば……



「お父様、お母様」

 注目のままパーティ会場中央に辿り着いたライト一行の一人、サラフォンを呼び止めてきたのは二人の男女。サラフォンの返事と、

「サラのご両親、ラーチ家の当主、ノルマック様とサディアンヌ様です」

 再びさり気ないハルのフォローで、サラの両親というのがわかった。

「ご無沙汰しております、エカテリス様。娘がお世話になっております」

「ごきげんよう、ノルマック、サディアンヌ。二人も元気そうで何よりですわ」

 まず二人はそのままエカテリスに挨拶をし、

「ハルちゃん、いつもサラをありがとう。貴女には本当に感謝しているわ」

「お気遣いなく。私は友人として傍にいるだけですから」

 ハルがいつでも面倒を見ているのも知っているのだろう、ハルにお礼を言い、

「サラフォン、今日は話があるんだ」

 そして最後に、サラフォンに二人で向きあう形を取った。

「話……?」

「ああ。――軍を辞めて、家に帰って来なさい」

 落ち着いた表情でそう告げる、父親であるノルマック。対照的にサラフォンは一気に驚きと焦りの表情に変わる。

「そ、そんな、急にどうして」

「以前からサディアンヌとは話をしていたんだ。ある程度の時期になったら、辞めさせようと」

「理由は!? お父様もお母様も、ボクが魔具工具師としてスカウトされた時、喜んでくれたじゃない!」

「ええ。引き籠りだった貴女が、外に出て社会勉強をするいい切欠になればと思ったわ。軍所属とは言っても、魔具工具師なら内勤だろうし、身の危険もないと思ったから。――貴女はもう十分魔具工具師としては勉強したわ。もうそう何年もしない内に、きっとハインハウルス軍が魔王軍に勝って、この国は平和になるわ。そうしたら軍での魔具工具師のお仕事は無くなって、貴女の場所も無くなってしまう。そうなる前に、まだ若い内に、もっともっと色々な物を勉強しないと。気付いたら何も無くて何も出来なくて落ちぶれる人生なんて、娘の貴女に送って欲しくないの」

「でも、ボクまだ魔具工具師として、軍にいたい……!」

「お前が今の仕事が好きなのは知っているよ。でも――大きな目標や、実績はあるのかい?」

「……それは」

 サラフォンが言い淀む。――才能はあるが、現状それを最大限に生かしているわけではない。時折勇者グッツ作成のような簡単な仕事をこなして、後は実用性の低い品を半ば趣味で作っている。ライトとしても厳しい事を言えばそこまで重要性がない事が察せられたし、サラフォン自身も多少の自覚はあるのだろう。

 ライトはこっそり真実の指輪を使ってみる。――ノルマック、サディアンヌ、両者共にサラフォンを心配している感情がはっきりと浮かび上がった。自分達の評価や家柄の事を考えているのなら兎も角、サラフォンを心配している以上、両親の意見は正しい。ライトとしてもその結論に辿り着いてしまう。

「その……えっと……そうだハル、ハルも何か言ってよ! ボク、ハルともまだ一緒にいたいよ!」

「サラ……その……私は」

 ハルがサラフォンの真っ直ぐなすがる視線を避け、言葉を言い淀む。――こちらも、何処かで両親達の意見の方が正しい、という想いが生まれてしまったのだろう。

 結果、気まずい空気が流れる。――ノルマックがふぅ、と息を吹いた。

「細かい話はパーティが終わった後にしよう。それまでに、もう一度よく考えておくんだ、いいね」

 そう言い残し、他メンバー全員に軽く会釈をすると、ノルマックとサディアンヌは他の参加者へ挨拶する為か、この場を後にするのだった。



 しばらくして、キリアルム家当主の挨拶を皮切りに、本格的にパーティは始まった。

 ライト達が到着した時はまだまだ参加者が揃った状態ではなかった様で、あれだけ広いと感じていた部屋も、人数のおかげで随分と丁度良い広さに感じるようになった。――それだけ人が集まる時点で凄いパーティで部屋なのだが。

 ライトと言えば、エカテリスについて回り、挨拶、愛想笑い、相槌。会話のほとんどをエカテリスが回し、ギリギリではあるが怪しまれないような状態にはなっていた。――勿論その分疲れは蓄積されていく。

「勇者君はマナーよりも愛想笑いで疲れない鍛錬積んだ方が良かったかもねえ」

 その様子を、一歩離れた所で眺める仲間達がいたりする。

「お前は直属の護衛だろ、何で俺達と一緒に見物してんだよ」

「大丈夫、いざとなったらギリギリ間に合う距離はキープしてる」

「その大皿に食い物沢山乗せた状態でか?」

 立食式となっており、レナの皿にはたっぷりと料理が乗っていた。

「来たくもないのに来てるんだからせめてこの位楽しませて貰わないとー。安心してよアルファスさん、いざって時の為にアルコールは我慢してるから」

「腹一杯になったら結局動けねえだろ……」

「アルファスさん、私酔っちゃったみたいです……体、支えてください」

「嘘つくなよセッテ、お前酒強いだろ。どんだけ飲んでも理性キープ出来るって自慢してたじゃねえか」

「じゃあ酔ってないですけど支えてください」

「強引過ぎるわ!」

 社交パーティのはずなのに身内だけで盛り上がるライトの仲間達。……するとそこに。

「こんにちは」

 一人の若い女が話しかけてきた。年齢は二十台前半から半ば位だろうか。勝ち気な瞳が印象的な美人であった。――レナ、アルファス、セッテの三人は顔を見合わす。

(私達庶民だってばれたのかな? どうしよ、逃げるかな)

(いやだからお前ライトの護衛なんだから逃げるなよ。つーか庶民だってばれても正式な参加者なんだからいいだろうが)

(でも、逆に言えば私達にそうなると話しかけてくる理由が見当たりませんよね……?)

 以上、アイコンタクトのみでの三人の会話である。――謎のチームワークを発揮していた。

「えーと、勇者君はあちら、姫様もあちらでして。私達には権力はありませんよー」

「存じ上げてます。安心して下さい、私が要件があるのはこちらです」

 ストレートなレナの説明に、笑顔でそう応対する女は、そのままアルファスの前に立ち、

「お強いのですね、貴方」

「あ?」

 そう真っ直ぐにアルファスを見て、そう告げた。

「失礼、自己紹介がまだでしたね。私、キリアルム家長女、ユリア=キリアルムと申します。お名前を伺っても宜しいかしら?」

「アルファス」

「先程のヤンカガさんとのやり取り、遠目からですが拝見させて貰ってました。強いんですね」

「自分の強弱にそこまで拘りはねえが、少なくともその剣士坊主よりかは強いんだろうな」

「ご謙遜を。でも、無駄にひけらかすよりも余程いいわ。――失礼ですけど、ご結婚は?」

「してないけど」

「え?」

「では婚約者、及びそれに程近い恋人は」

「いない」

「ちょっ」

「良かった。――私、強い物、強い人が好きなんです」

 連続での質問攻め(間に入る驚きのリアクションは当然セッテ)の後にそう告げると、ユリアは更に一歩アルファスに近付き、その手を取る。

「うん、間近で見て確信しました。――私、貴方が欲しい」

「は?」

「うお」

「なーっ!」

 そして突然の告白をした。リアクションは順番にアルファス、レナ、セッテの順。

「運命を感じました。理屈じゃない何かを貴方に私、感じたんです。――もっと踏み込んで仲良くなれませんか? キリアルムの名に懸けて、貴方を幸せにしてみせます」

「ストーップ! いきなり登場して何を勝手な真似を! アルファスさんに話があるなら、まずはこのセッテを通して貰わないと!」

「あら、貴女はアルファスさんの何なのかしら?」

「今一番近くで生きてる女です! アルファスさんの愛を埋める最後の一ピースは私です! あなたにアルファスさんと愛を語り合う権利はあげません!」

「でも今アルファスさんに特別な女性がいないということは、貴女にも権利はないのではないかしら」

「ふふん、馬鹿にして貰ったら困ります、私は毎日アルファスさんのお店に通ってお店の手伝いをしてるんです! 最早内縁の妻です!」

「あら、アルファスさんお店を経営なさってるのね。なら私はキリアルム家名義で経営をサポート、一人の女として彼をサポート、つまり外面内面両方から彼を支えられます。これで貴女は不要」

「笑わせないで下さい、愛を金で買おうとする女にアルファスさんが振り向くとでも?」

「こちらこそ笑わせないで、私は愛もお金も両方持っている女なの! お金=はしたないの考えこそイヤらしいわ!」

「ぐぬぬぬ……!」

「むううう……!」

「これがお金持ちの社交か。奥が深いわー。あとお肉美味しいわー」

「これが社交の現状ならやば過ぎだろ。――その肉料理美味そうだな、何処にあった?」

「いや私が言うのもあれだけどアルファスさんこの状況下でその質問私にする? 美女二人がアルファスさん取り合ってるのに当の本人は肉に行くの?」

「この状況下だからだよ。これ多分五分後位に飯食ってる場合じゃなくなるだろ……」

「あー、そういうこと。腹ごしらえしとくのね」

 睨み合うセッテとユリア、マイペースに食事を続けるレナとヤケクソの食事になるアルファス。場が混沌としてきた、その時だった。

「姉様! 大変です、姉様!」

 一人の少女が駆け足で、この混沌パーティに近付いてくるのだった。

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