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第三百八十話 演者勇者と神託の塔2

 タカクシン教総本山。その中の神殿と呼ばれる建物で、一人の男が優雅に紅茶を楽しんでいた。

「順調だな」

 テーブルの上には報告書。各国に派遣した面々からの報告は、完全服従を決めたメギドルド、イーオン、ユヴェリアンタを始め、タカクシン教にとって良い報告ばかり。決して自惚れるつもりはなかったが、それでも自分が主になって立てた計画がこうも上手くいけば、自分の才能を感じざるを得なくなる。

「勿論、油断するには早過ぎる……が」

 目下一番の難敵は大国ハインハウルスである。そう簡単に落とせるとは思えない。

「あ、あの、教祖様」

 その声に振り返れば、少し控えめな空気を纏った、小柄な女性が。

「マーコか。どうした?」

「ハインハウルスに派遣したクレーネルちゃん、その、大丈夫でしょうか」

 それは彼女だけではなく、一定以上の地位や知識があれば誰しもが辿り着く問題であった。――大国ハインハウルス。

「た、確かにクレーネルちゃんは信仰心が凄い強いし、頭もいいし、魔法も凄いけど、でも一人でハインハウルスなんて」

「マーコの心配は最もだ。けれどマーコが考えている以上に、クレーネルは優秀なんだ。神が今回の試練に彼女を選んだ。きっと乗り越えられるはずさ」

「そ……そうですよね、クレーネルちゃんならきっと!」

 その言葉が聞けて満足だったのか、マーコと呼ばれた女性は「教祖様」に一礼すると、この場を後にする。

「そう。今回の話は、クレーネルでないと駄目なんだ。彼女にしか出来ない。――信じてるよクレーネル。君の信仰心を。君の実力を」

 そう小さく呟くと、「教祖様」は再び紅茶を楽しみ出すのであった。



「ふーん、宗教がねえ」

 ハインハウルス城下町、武器鍛冶アルファスの店。いつもの稽古後、未だ一般には情報が流れていないが、アルファス達にはとライトはタカクシン教の事を説明。

「つーかいいのか、そんな事俺にペラペラ喋って」

「アルファスさんなら構わないと思いますし、寧ろ俺達国王様と王妃様にいい機会だからついでに説明してきてって頼まれてるんです」

「適当過ぎねえかあの夫婦」

 はぁ、とアルファスは溜め息。勿論夫妻からしたらライトやアルファスに対する信頼の証なのではあるが。

「ただまあ、一応外部へ漏らすのはまだ控えて貰えると」

「やらねえよわざわざ。こいつらも俺が言うなって言ったら言わねえしな。セッテは微妙だが」

「何でですか!? 私は宗教に興味ありません、アルファスさんをひたすらに信じてますから!」

 自慢気に宣言するセッテ。確かにこの信仰心はタカクシン教の比ではないかもしれない。

「しかし宗教か。「死神」時代に依頼を受けて潰しに行った事があるが、下手な傭兵団よりも厄介な場合があるな」

「私も傭兵時代にある。命の重さ具合が私達とは違うから、面倒」

 場数を踏んでいる元傭兵二名の意見。二人共良いイメージを持っていない様子。

「まあ今回に至っては規模が大きすぎるから、とりあえず大丈夫だろ」

「? どうして規模が大きいと大丈夫なんですか?」

「それだけ政治の話になるからな。あのオッサンの本領発揮だ。それに関してあのオッサンに早々勝てる相手はいねえよ。使者が来てたって言ったな? 今頃震えあがってる可能性すらあるぜ」

 オッサン呼ばわりしているが、ヨゼルドの事を認めている証拠である。

「んー、逆にさあ、アルファスさんならどうやってハインハウルス国と戦う? 例えばほら、戦わないとセッテがピンチになるとかさ」

「すまねえセッテ、俺が戦わなかったばかりに」

「既に私終わってる!? 戦って下さいよぉ私の為に!」

 二秒で戦争は終わった。――レナは例題をミスったと反省しつつ、戦術論が聞いてみたいと珍しく(!)真面目にアルファスに質問をすると、

「まずはセッテを差し出す」

「アルファスさん! ですから私は」

「真面目な仮説だよ。――俺がどう想ってるかは兎も角、周囲から見たら俺とセッテは結構重要な関係性を持ってる様に見える。そのセッテを、人質としてまず差し出す」

「あー成程、下手に出るんだ」

「政治関連、国としてぶつかった所で勝率はゼロパーセントだからな。逆に俺が勝てる要素があるとすれば、戦闘の才能しかない。安心させておいて、隙をついてオッサンを消す。――国は混乱する。確実に隙が出来る。そこに付け込む」

「成程ねえ」

「まあ、今はヴァネッサさんが完全に付きっ切りだろうからそれも難しいけどな。何にせよ、戦って勝てる夫婦じゃねえよあの二人は。――お前は? 戦わないといけないとかもしなったらどう戦うんだ?」

「周囲を焦らして様子見かなー。周りの国にちょっかいだして、ちょっとずつ崩していく。――自分の国が無事でも、周りがどんどん崩れ始めれば対策を練らなきゃいけないし、動揺はするよね。その隙を突く。後はそうだね、ライト君に付け込む」

「俺?」

「君の長所で短所な人の良さを利用すんの。外から崩せないものは、中から崩すしかないもん。――まあそれは今私がライト君がどういう人間だか知ってるから出て来る案なわけだけど」

「第一ライトにはそういうのをまず疑ってかかる立派な護衛様がいるじゃねえか」

「そうか、「私」を相手にするのか。面倒だなー」

 ふーむ、とレナは考える素振り。――ライトも考えてみる。自分を敵に回す。……確かに何よりも「周り」が厄介だった。

「ま、根本的な所に戻せば、あの夫婦が完璧だからな。その他の人材も豊富過ぎる。ハインハウルスは崩れやしねえよ。――その事をわかってやってるのかわからねえでやってるのかは知らないけどな」

「ですよ、ね……」

 だがもしも「わかって」やっているのならば。――その考えが、何処かでライトは拭えないのであった。



 そして、クレーネル来訪から一週間が経とうとしていたその日。タカクシン教に大きな動きは無く、ハインハウルス国は未だ影響は受けていない状態だが、やはり警戒心は抜けない状態が続いていた。

「何かもう大義名分作って攻め込んだ方が早い気がするんだけど。皆気にし過ぎでしょ。んで気にする位ならさ」

「そういう野蛮な考えは止めなさい。そういう事をしないのがハインハウルス国なんだろ」

 ライトの部屋で、レナがベッドで転がりながらそんな不満を零す。

「というか毎回言うけど当たり前の様に俺の部屋の俺のベッドで無防備に寛ぐのは止めなさい」

「えー、もうだったらダブルベッドにしようよ」

「俺のスペースが無いとかそんな事を指摘したいんじゃねえ!?」

 色々気になるんです。そこそこ薄着でゴロゴロされると。色々。本当に色々。――コンコン。

「ライト様、ハルです。宜しいでしょうか?」

「いいよー」

「部屋の主より先に返事するのどうなの!?」

 ガチャッ。

「失礼致します。レナ様もご一緒でしたら丁度良かったです、先程……」

 と、礼儀正しく入って来たハルの目が、レナのそこそこ無防備な姿を捉える。

「……ライト様?」

 数秒間ジッ、とレナを見た後、ハルは視線をライトに移し、その名を呼んだ。表情は変わってないが、謎の力強いオーラを纏い始めていた。――って、

「ハル違う、何か勘違いしてるけど違うよ!?」

「そうだよハル、流石のライト君でも真昼間からそんなハレンチな事しないって。精々ダブルベッドの相談した位」

「余計な誤解を生む発言をするんじゃない!」

 やいのやいの揉める二人。ハルは溜め息。

「お二人共、身分のあるお立場なのですから、もう少しお考えになって行動なさって下さい。私はレナ様の駄目っぷりとライト様の流されがちな所を知っておりますのでまだ大丈夫ですが、これが私以外の一般使用人に見られたら確実に誤解を生みます」

「地味に駄目出しされたよ二人共」

「誰のせいだよ!?」

 後でハルに個人的に謝罪と弁明に行こうとライトは思った。――は兎も角。

「えっと、ハル俺に何か要件があって来たんだよね? しかもレナも一緒で丁度良かったって」

「はい。お二人、私、ネレイザ様、王女様はヨゼルド様からの招集がかかりまして」

「? どういうメンバーなんそれ」

「ポートランス国から使者がやって参りました。それに立ち会う様にと」

「あ」

 確かに、以前ポートランスに行ったメンバーであった。



 指定された応接間にハルと共に行くと、そこには指定されたメンバーとヴァネッサ、エカテリスと同行してきたリバールに加え、

「久しぶりだな、ライト」

「マッチか! 元気そうだな」

 ポートランスからの使者・長兄マッチがいた。再会の握手を交わす。

「どしたんマッチ君。うちの国が今どっかのヘンテコ宗教からの勧誘拒否に忙しいのに付け込んで筋肉教を広めに来たん?」

「相変わらずだなお前の護衛は……」

「すまん。――でも本当に何の用件で?」

「マッチ君は、正にそのタカクシン教に関しての両国の対応についての確認、同盟国としての再提携に来たのよ。ね?」

「は……はい!」

 ヴァネッサに説明され、急に背筋を伸ばして返事をするマッチ。顔も若干赤い。――ああ、そっか。

「王妃様、エカテリスに似てるもんな……お前好みの顔だよな」

「う、五月蠅い!」

 エカテリスへの恋心は振り切ったがまあそれとこれとは別の話だろう。元々初心なのもある。

「お、おほん!――実際、ポートランスにもタカクシン教からの使者が来て、強制入信を持ち掛けられた。ライトも知っての通り、ポートランスでは既に民が信仰している存在がいる。尚且つあんな強引な話を受け入れるはずもない。親父殿とお袋殿は当然断った。だがそれだけで終わる相手じゃないのは想像出来る。実際、ポートランスでは少しずつタカクシン教が浸透し始めている箇所があるという調査結果まで出ている」

「!」

 浸透し始めている。ポートランスは決して弱小国ではない。なのに……小さな綻びが、出始めているのか。

「相手が各国に通達を出すのなら、こちらも各国と協力すべき。まずは親父殿の盟友であるヨゼルド王に挨拶、確認、今後の話をというわけで、俺が使者として来たんだ」

「成程な……」

 ある意味レナの考えた策略を取られている。周囲から崩していく。タカクシン教はそのつもりなのか。

「我がハインハウルスとしてもタカクシン教に従うつもりはないし、同盟国との協力は不可欠だ。マッチ君を通じて、今回の件に関してより強固な対策を練っていけたらと思っている」

「ありがとうございます、親父殿も喜びます」

 真面目な使者だった。出来ればもっと平和な案件で再会したかったが、致し方ない。

「とりあえず、マッチ君は今日は来たばかりで疲れているだろう。本格的な会談は明日にして、折角だからハインハウルス国を観光でもどうかね? ライト君達と共に」

 と、ヨゼルドから笑顔でそんな提案をされるのであった。

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