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第三十六話 演者勇者と魔具工具師6

 サラフォン。勇者グッツの補充の為の流れで知り合い、少し気になったので踏み込んでみて仲良くなったボサボサヨレヨレがトレードマーク(?)の友人。――そう、あのボサボサヨレヨレが、美女に変身している。

「というか……」

 女性だったのか。……という言葉を寸での所で飲み込んだ。確かに可愛い声だなとは思っていたが、知り合った頃の見た目は勿論、一人称が「ボク」だし、銃に浪漫を感じてるし。

 女性に対し、男だと思っていたは単純に失礼なので言わないでおいた(前述通り言いかけた)が、やはりその変貌ぶりには驚きは隠しようがなかった。

「ライト様が驚かれるのも無理はありません。普段からあれですし、今日も私が物凄い、「物凄い」時間を掛けてここまで仕上げましたので」

「う、うん……本当、ありがとう、ハル……ボク一人じゃどうにもならなくて」

 ハルの「物凄い」に強調が入っていた。実際大変だったのだろう。自分の身支度もあるだろうし。

「ほえー、噂で耳にしたことはあったけど、ここまで変わるんだねー」

 レナも実際驚きの様で、マジマジとサラフォンを眺めていた。――流石に女性というのは知っていた様子。

「私とリバールは数回目にしてますけど、やはり驚きですわね。それだけの美貌を持っているのに勿体ないですわ」

 こちらはエカテリス。エカテリスは何度か目にしたことがある様子。成程正装する機会があれば目にすることがあるのか。ラーチ家の令嬢だし……ってそうだ、もう一つの驚きを。

「サラフォン、名家の令嬢だったんだ……」

 これに関しては例えサラフォンが普段ボサボサヨレヨレでなかったとしても驚いただろう。名家の令嬢が城の軍に赴いて魔道具をせっせと作成しているなんて想像がつかない。

「あ、その勘違いしないでね? 家を追い出されてるとかじゃなくて、ボクが志願して魔具工具師として籍を置いてるんだ。逆に言えば今回みたいなパーティには時々出席しないといけないし」

「ああうん、その辺りは何となくわかる気がするよ」

 目をキラキラさせて自作の銃の話をする辺り、どう見ても自ら好んでやっているのだろう。

「ん? ということは、ハルも何処かいい所のお嬢様だったりする……?」

「いえ、私はその辺りは普通の家の出です。サラと幼馴染というのは本当ですが、知り合ったのは本当に偶然ですので。今回もヨゼルド様の好意により、こうして傍で参加させて頂く形ですね」

「成程ね……」

 ヨゼルドも何だかんだでハルとサラフォンを気にかけていたのだろう、自らハルにドレスを用意して一緒に行くように促す姿がライトには何となく想像出来た。

「それじゃあ、全員揃いましたし、行きますわよ」

 そのエカテリスの一言で、改めてメンバーは出発するのであった。



「うおお……」

 馬車で揺られて少々の所に、その豪邸は建っていた。――今回のパーティ会場、キリアルム家の屋敷である。

「勇者君、庶民オーラ出し過ぎ」

「いやだってさ」

「いちいち感心してたらキリないでしょ。あの門同時に十数人入れるけどそんなに同時に入る門いらないでしょとかあの石像無駄に凝ってて高そう寧ろ庭にすらそんな高いの置くんだとかその庭が超綺麗、無駄に広くして何に使うのよ金持ちめとか思ってたら終わらないって」

「レナの方が余程庶民思考だよ、寧ろ妬みだよ!」

 城暮らしなので広いのには慣れたと思ったがそれでもこれは個人の邸宅と考えた時に驚きが隠し切れないライト、冷静にペラペラと何個も妬みを語るレナ、

「アルファスさん。私、普通の家でも、幸せならそれでいいです」

「お前と結婚する気はサラサラねえがその考えには同意だな」

 お金よりも幸せを優先しますアピールするセッテ、一応同意するアルファス辺りがメンバーの中では庶民派の模様。

 一行はキリアルム家の使用人に案内され、屋敷に辿り着き、そのままパーティ会場となっている大広間へ。

「うおお……」

「リアクションがワンパターンだよ勇者君……」

 ドアを開けて貰い、中へ入るとこれまた非常に広い空間に、既に大勢の人間がいた。屋敷が大きいのだから広いのはわかっていたはずなのに、また驚いてしまい、同じリアクションをしてしまいレナに呆れられてしまうライトがいた。

「あっ、エカテリス様よ!」

「姫様、ご機嫌麗しゅう」

「ああ、今日もお美しい!」

 そしてエカテリスがやって来たと分かるや否や、一気に会場は賑わいを見せた。老若男女容姿問わず、一気にエカテリスの周りに人が集まる。流石は王国の王女であった。

「うおお……」

「もういいよそれ……勇者君壊れたよ……」

 そしてその人の集まり方を見て三度驚くライトであった。――親しくなって失念しがちだが、彼女は王女なのだ。慕う者憧れる者お近づきになりたい者、沢山いて当然なのである。

「皆さん、本日はキリアルム家のパーティですわ。私に挨拶はありがたいのですけど、主役を差し置くのは宜しくないですわ。私も今日は皆さんと同じ立場であって――」

「そうさ、エカテリス様にお近づきになるには相応しい資格が必要さ。例えばこの文武両道の僕のような、ね」

 笑顔で宥めるエカテリス、それでもエカテリスと話がしたい周囲を遮るように強めにその声は響いた。ハッとして見てみれば、一人の若い男が勝ち気な表情で近付いてくる。……と同時に、周囲は厄介者に関わりたくない、といった表情で一人、また一人とエカテリスから渋々距離を置いていく。

「ご無沙汰しております、エカテリス様」

「ご機嫌よう、ヤンカガ。一つ訂正しておきますわ、私と話をするのに資格など必要ありませんのよ」

「ははは、流石お優しい。誤解してしまう人間が多いのも当然だ」

「…………」

 エカテリスが無言で強い視線を送る。――怒りたいが、場を考えて我慢しているのがよくわかった。

「何なんだ、あいつ……」

 エカテリスは当然本気で自分の身分など気にしていない。そういうエカテリスだからこそ、色々な人に人気があるのは、まだ短い付き合いながらもライトは良く知っている。それを踏みにじるような発言、そもそも前後の繋がりも若干弱い自分勝手な発言。――怒りを覚えるなと言う方が無理であった。

「彼は、ナトラン家の長男で跡取りのヤンカガ様です」

 気付けばリバールがライトの隣で、説明を開始してくれていた。――ナトラン家。サラフォンのラーチ家と一緒に名前が挙がっていた、今回のパーティに参加する名家の一つ。

「ナトラン家は剣術家として栄えている家です。彼も剣士、同じく戦いをこなせる姫様と気が合うと思い込み、会う度にアプローチをしてきています。姫様が好感を持たれているのならまだしも、お察しの通りですので……とりあえず、私は毎回目にする度にイメージで暗殺しています」

「うおお……」

「勇者君それ持ちギャグにでもするの……?」

 エカテリスを敬愛するリバールだからこそ、余計に許せないのだろう。建前上、手を下すのを一生懸命我慢しているが殺気が漏れているのでライトとしてはつい狼狽えてしまったのだった。

「さあエカテリス様、僕が会場中央までエスコートしましょう」

 スッ、と手を差し出すヤンカガ。――そこで今度はエカテリスの表情が勝ち気な物に変わる。

「ごめんなさい、今日はエスコートしてくれる人が別にいますの」

「――は?」

「ライト」

 名前を呼ばれた。ライトは覚悟を決める。――ヤンカガが気に入らなくそちらが気になるせいか、緊張は薄れていた。

「初めまして、ヤンカガさん。ライトと言います。申し訳ないですが、国王様の計らいで俺はここにいるので、今回は諦めて貰えますか」

「国王の……!? 貴様、一体……」

「ライトは我がハインハウルス王国が誇る勇者ですわ。「憧れの勇者様」ですの。勿論私にとっても」

「な……勇者……!?」

 流石のヤンカガも驚きを隠せない様子だった。――逆の立場だったら俺、「うおお……」って言ってそうだな。

「馬鹿な! 貴様の様な、いかにも冴えない男が勇者だと!?」

 だが、ヤンカガは直ぐに気持ちを勢いを取り戻し、食って掛かってきた。

「僕は認めないぞ! 僕は伝統のナトラン家の人間だ、剣を究めた人間だ! その僕が感じるんだ、剣士として貴様からは風格というものが何も伝わってこない!」

 ああ、こいつ実際に剣士としての実力はあるのかもしれないな、とライトは思った。肌でライトの実力を見抜いたか。……実際俺、剣士としては何もないし。

「別にあなたに認めて貰えなくても俺はいいです。――まあ俺も、このにこやかな場所を無意味に騒がすあなたを認めるつもりはないですけどね」

「この僕を……侮辱するのか!」

「先にしてきたのはそちらですけどね。――ちなみに俺を侮辱するってことは俺を連れて来たエカテリスをも侮辱してるってことに気付いてます?」

「っ! 貴様、エカテリス様を呼び捨てに……! もう許さん、剣士の誇りにかけて貴様を――」

 バシャン。

「うわぶっ!」

 言葉の途中で、ヤンカガの頭から水がかけられた。コップ一杯分の水で、ヤンカガは当然びしょ濡れになる。

「何が剣士の誇りだ馬鹿野郎。それは剣士の誇りじゃねえ、お前自信の身勝手な誇りだろうが。――お前に本当に剣士の誇りがあんなら今その右手で剣を抜こうとすんのを止めるんだな」

「アルファスさん!」

 横から何食わぬ顔で乱入、水をかけたのはアルファスだった。――当然の如く、ヤンカガの怒りの矛先がアルファスに向かう。

「この僕に水を……っ! 貴様、何処のどいつだ!」

「俺はこいつに一応剣を教えてる立場。まあ言うなれば、剣士の端くれだな。だから、お前がどうしても剣で決着を付けたいってんなら――」

 だがそれに怖気づくようなアルファスではない。一歩ザッ、と踏み込み、ヤンカガを見据え、

「――俺とやるか。「殺し合い」」

 そう、小さな声で、でもしっかりとした口調で告げた。声量を抑えたせいか、あまり周囲には聞こえていないようだが、ライト達にはハッキリと耳に残る、重い言葉。

「あ……ああ……っ」

 そして何よりも直接言われたヤンカガのダメージが大きかった。その圧倒的威圧に耐えきれなくなり、腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。

「おう、大人しくなったぞ。行こうぜ」

「いやまあ大人しくはなりましたけど」

 やり方が恐ろしかった。恐らく本日五回目のライトの「うおお……」案件である。

「アルファス、パーティなのですから、もう少し穏やかに収めてくれると嬉しかったですわ。……まあ個人的には、拍手を送りたい所ですけれど」

「アルファス様、ありがとうございます。私やレナさんですとあと一歩で彼を問答無用で串刺しにしてしまう所でした」

「こらー、一緒にするなリバール。私は精々火だるまにしてあげる位だよ」

「これがアルファスさんの実力です! ふふん、アルファスさんは凄いんです! 私は隣に立てて幸せです!」

「ハル、ボク今小型爆弾用意したから、これを……あれ?」

「もう終わったわよ。あとそんな物騒な物その恰好で用意しないの」

 思い思いの言葉を出す仲間達。――誰も動じてないのはどうなんだろう、と何とも言えない気持ちになるライトであった。

「さて、それじゃライト。改めて、お願いしますわ」

「あ、うん。――こちらこそ、宜しくお願いします」

 エカテリスが軽くライトの腕を取り、それを確認した上でライトは歩き出す。そしてその周囲に仲間達。――最早会場を大注目の的の中、メンバーは中央へ移動していく。緊張こそすれど、周囲の仲間の存在のおかげで、ライトは悪い気分はしない。

「サラフォン!」

 やがて会場中央に到着と言ったその時、一行を――というよりも、サラフォンを呼び止める声が響くのであった。

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