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第三百七十七話 演者勇者と復讐の魔導士と魔王20

 ガヤガヤ。――行きかう兵士達。運ばれる負傷者。降伏、もしくは抵抗の末拘束され、連行される魔族達。魔王城では、そんな多くの人の行き来が続いていた。

「終わった、んだな」

「そだね。終わったよ」

 その様子を、座れそうな瓦礫に腰掛けながら何となく眺めていたのはライトとレナ。

「何て言うのかな、魔王を倒したらどんよりとしていた空気が一気に晴れて、光が差し込んで、世界中の人達に笑顔と輝きをもたらしました、みたいな現象が起きるかとちょっと思ってた」

「いやいや、ライト君小説の世界を鵜呑みにし過ぎだよ。もうちょっと大人にならないと、笑われちゃうよ?」

「リバール、リバール! おかしいですわ、魔王を倒したのですから、もっと神々しい現象が起きてもおかしくありませんわ! 何か気配は感じてないかしら!」

 …………。

「おーいエカテリス、レナがちょっと言いたいことがふごっ」

「おっとー手が滑ったー」

 レナの手がライトの口を塞いだ。――手が滑って起こる動きでは当然ない。

「まあでも、その位起きないと何となく実感が沸いて来ないっていうのかな、そんな気分なんだよ。戦後処理って言うのか? そういうのこうして目にしてると」

「ま、言いたいことはわかる。凄い現実味溢れる光景だもん。これで私達の活動もひと段落ついた事になるけど、ピンとは来ないよね」

 そう言って、二人で軽く笑い合う。

「そういえば、ライト騎士団ってこれからどうなるんだ?」

「解散って事は当分ないよ。ライト君は特別称号持ってるし、ローズちゃん――勇者の任務だって魔王倒して終わりじゃない。それこそ広報活動とか増えるかもね。各国のお偉いさんに挨拶、パーティとか。勿論師匠であるライト君も一緒。あれ、って事は……うーわ自分で言ってて凄い面倒な事に気付いた」

「ハインハウルスでは貴重な称号持ちなんだからその辺りは我慢しなさい」

「もう返上しよっかなー」

「早いよ!?」

 そんな会話の最中にも、色々な人影が目の前を行き交う。――聞いた所によれば、落ち着き次第、この魔王城は取り壊されるという。戦いの跡地は、残らない。

「そろそろ、会いに行ってもいいかな」

「愛人? 隠し子?」

「どっちでもねえ!?」

「あ、ごめん、正妻を正式決定してなかったね。誰にしたん? 私何番目?」

「そういう意味の否定でもないから!」

 レナが何番目と言われても困る。……本当に困る。

「イルラナス達にだよ。――そろそろ落ち着いた頃だと思うから」



 魔王との激戦が繰り広げられた、玉座の間。そこにイルラナス達はいた。

 戦闘の内容、突然城が光った理由等は粗方耳にした。驚きと、それでも無事に勝てた事の安堵と、その上でイルラナスの心境を思いやったりすれば、どうしてもどんな表情で会えばいいのかわからなくなる。

「ニロフにお面借りてくる?」

「そういう意味合いじゃねえ!?」

 これでライトが仮面をつけて登場したら相手が逆に困るだろう。――というかまた心を読まれた。何にせよ避けるわけにも避ける理由もない。

「イルラナス」

 声をかけると、ゆっくりと振り返る。表情は落ち着いていた。

「お疲れ様。皆も、無事で良かった」

「旦那様も無事で何よりだ」

 そのままレインフォル、ロガン、ドゥルペ、ニューゼの無事を労う。相手側からの労いも受けた。

「……気持ちはどう? 大丈夫? 無理してない?」

 そして、イルラナス。どんな形であれ、実の父親を討ったのは事実。当然感じる物があるだろう。

「今、最初で最後のお祈りをしていたわ。この城は取り壊されるし、万が一取り壊されなかったとしても、もう私は祈りを捧げない。……捧げられない」

「大丈夫。イルラナスを責める人は、俺達の仲間にはいない」

「ありがとう。――実感はあまりないわ。私は私の目指す目標の為に戦った。後悔はしてない。これで良かったと思ってる。でも……何処か不思議というか、何とも言えない気持ちが残ってる」

 イルラナスはもう一度振り返り、戦闘の結果だろうか、既にボロボロになっている玉座を見た。――あそこに魔王が座っていた。

「結局、何を考えているのか、わからないままだったわ」

「魔王が? 人類を滅ぼして、この世界を征服したかったんじゃないの?」

「そうなんだけど……それにしては、あの最後の意味がわからなくて」

 イルラナスはライトとレナに、魔王の最後の様子を話した。――最後の会話は、イルラナスの食事に関して。それを聞いて、満足気な表情を浮かべてこの世を去った。

「実の娘として、私には興味は無かったのに、何が言いたかったのかさっぱり」

「最後の最後、父親として、娘の未来を案じたのかもしれない。イルラナスが体が弱かったのは知ってたんだろ?」

「そうだけど……でも」

「もう証明のし様がない。仮説を立てられるだけだ。だったら――少し位、都合よく考えてもいいんじゃないかな」

 そのライトの言葉に、イルラナスは少し驚きの表情で、ライトを見る。

「最後の最後、死に間際。もう自分に出来る事は何も無い。イルラナスは魔族として、その立場を隠さずに生きていくと宣言した。だったらそのイルラナスの無事を、健康を、幸せを、最後に願った。そういう風に受け取ってもいいんじゃないかな。肯定出来なくても、否定する証拠もないんだ」

「不思議ね。知らない誰かに言われたら何をそんな、って思う所だけど、ライトさんに言われると、本当にそんな気がしてくるから」

「そういう人なのよこの人。私もあれよあれよと言いくるめられて」

「何その俺がレナを騙したみたいな言い方」

「まあ、私もそういう意味じゃ旦那様に言いくるめられたと言えるがな」

「何その俺がレインフォルを騙したみたいな言い方!?」

 そんな会話で、その場のメンバーが笑い、空気が和む。

「迎えに来てくれてありがとう、ライトさん、レナさん。――もう行きますね。私達、ここからがスタートだもの。いつまでもセンチに浸ってる場合じゃないわ」

「具体的な計画って、もう色々決まってたりするの?」

「まずは、私の身分立場を正式に公表しないと。それに関してはヨゼルド様、ヴァネッサ様ともどういった場で形で公表するか、改めて念入りに話し合うわ。それからライトさんを交流の親善大使に任命して貰うの」

「そっか、俺を親善大使に任命……俺を!? 聞いてないけど!?」

「だって言ってないもの。今思いついたから。駄目かしら?」

「駄目じゃないけど!」

「ライト君その場に流されるのも得意じゃん」

「流石団長さんッス! 得意技多いッスね!」

「純粋にそう言うけど俺今褒められてないからな!」

 そんな会話をしつつ、その場を離れて行く。

「…………」

 イルラナスは最後にもう一度だけ、振り返った。誰もいない玉座。想像の中で魔王――父親が座っている。想像の中でも、彼は笑う事なく、厳しく自分を見ていた。

(それでいい。そして私がもし足を踏み外したら、あざ笑ってくれたらいい。そうさせない為に、私は進んでみせる)

 その決意を胸に、イルラナスは再び前を向くのであった。



「こ、これが噂の蘇生装置の鏡!? す、凄い、こんな魔道具が存在したなんて……それをボクが解体していいだなんて……! ハァハァ」

「魔力の流れも実に巧妙なんでしょうな! 我はアンデッドなので生きる為の魔法とは無縁、その最高峰が知れるとは……! ハァハァ」

 そしてもう少し時間が経過した玉座の間。魔王討伐の大きな障害となった蘇生装置の鏡。ローズが見事破壊したとはいえ、勿論その残骸は残っている。そしてそれを調査しないわけにはいかない……のだが。

「うん、フリージアちゃんにも来て貰って正解だったわ。あの二人を制御する人間が必要だもの」

「……あたし、研究所の所長の実力を買われて選ばれたんじゃないんですか?」

 調査に適任なメンバーとしてサラフォン、ニロフ、フリージアが選ばれ、監督としてヴァネッサが最初だけ顔を出している形である。

「ほらほら、二人共! 本格的調査は城に持ち帰ってから! 今は城に持ち運ぶのに危険や問題が無いかどうかの調査がメインなんだから、ここで本格的な解体とかしないのよ!」

「はーい!」「はーい!」

 ヴァネッサの呼びかけに対し、返事だけは良い返事だった。遊びに制限をかける母親と子供みたいになっていた。フリージア、軽く溜め息。

「というか、フリージアさんはどうして興奮しないんですか? こんな凄い魔道具を目の前にして!」

「あたし別に好きが高じてこの仕事をしてるわけじゃないから」

「何と! では今でさえ研究者として優秀なのに一体フリージア殿が好きになってしまったらどれだけのパワーが……!?」

「なりません知りません。――早くやりましょう。本当に持って帰れる様にしないとどうにもならないでしょう」

 というわけで、三人で簡易的な調査、解体を開始。何だかんだでその手のプロ三名が集まれば仕事は早い。

「でも、本当に凄い装置です……ボクもここまでの品は作れるかどうかわかりませんから」

「そこに手を伸ばす必要はないでしょう。自然の摂理を破壊する品などあってはなりませぬ。あくまで今後の為の研究で、我々で量産しようという話ではありませぬからな。――もっとも、作成した魔王本人がもう居ないので第三者が作る事は無理でしょうな」

「え? ニロフさんこれ、ヨルマンっていうお爺さんが作ったんじゃないの?」

「違うでしょうな。ヨルマン殿の魔力、更には改造魔族の魔力の痕跡もありませぬ」

 ニロフは一般人では感じ取れない、本当に微々たる魔力の残りを感じ、誰の魔力かを調べる事が出来る。つまりこれはヨルマンが手を加えた物ではない。――だが。

「でもこれ、人が作ったと思う。しかも相当の魔力の使い手が。この魔力の流し方、作り方、魔族の物じゃないよきっと」

 サラフォンはサラフォンで魔道具の中を見ただけで大よその事はわかってしまう。その腕を疑う者は居ない。つまりこれは高い魔力を持った人間が作った品。――つまり。

「待って。二人の意見を統合すると、ヨルマン以外の高い魔力を持った「人間」が、この装置を作り上げたって事になる。――誰が、何の為に?」

 フリージアのそのまとめに、サラフォンもニロフも、監督のヴァネッサも、そしてフリージア自身も考え込んでしまう。――嫌な緊張が走る。何か良くない事が起きそうな、開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったかの様な。……そんな時だった。

「伝令! 緊急伝令! 王妃様はどちらに!?」

 兵士の一人が、息を切らしてヴァネッサを探してやって来た。

「どうしたの? 何か問題……って貴方本国所属じゃない。城で何か起きた?」

 兵士の腕章を見れば、ハインハウルス城所属。つまり彼は今回の戦いには参加しておらず、ハインハウルス城から伝令で今ここまで辿り着いた者であった。

「はっ! タカクシン教なる宗教団体が、建国宣言を出しました! 各国に対して会談の場を要求、我々ハインハウルス国に対してもです!」

「は……!?」

 驚きを隠せないヴァネッサ。ヴァネッサだけではない、聞こえていたサラフォン、ニロフ、フリージアも手が止まり、驚きを隠せない。

 こうして、魔王を討伐したハインハウルス国に、新たなる脅威が迫り来るのであった。

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