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第三百七十六話 演者勇者と復讐の魔導士と魔王19

「はあああああっ!」

 ズバシュッ!――ローズがエクスカリバーを使った渾身の一振りを放つ。

「っ……がは……!」

 魔王はかわしきれない。膝を折り、その場に崩れ落ちる。――カッ!

『ローズ、回避だ』

「っ……」

 だが直後、フラッシュと共に魔王は復活する。そのままローズにカウンターで攻撃。エクスカリバーとのコンビネーションで回避には成功するが――果たして何度目だろうか。

「さ……流石にちょっと疲れてきたッス……魔王様も自分達も一息入れられないッスかね……自分お茶用意するッスよ……?」

「その提案が通る様なら苦労しないよ……」

 各々の疲労は、ハッキリ言って隠し切れなくなった。

 戦力的にはハインハウルス側が上。現に個人技、連携プレイ、全てを活かして何度も魔王に決定打を放っている。だが魔王は復活してしまう。そうなってくると不利なのは勿論ハインハウルス側である。体力は無限ではない。

「チッ、あの鏡さえ壊せたらこっちのモンなんだけどな」

 吐き捨てる様にぼやくニューゼ。実際隙を見て誰もが蘇生装置と思われる鏡の破壊に挑んだが、どんな攻撃も受け付けず、どうしても破壊出来ない。

「でもきっと、あの鏡の魔力も無限じゃないわ。私達に勝機は絶対にある。やるしかないわ。――レインフォルちゃん、行くわよ!」

「ああ!」

 ガッ、と再び始まるヴァネッサとレインフォルのツーマンセル。魔王も魔法で迎撃を試みるが、その圧倒的動きに翻弄され、ダメージを重ねていく。……というよりも。

(復活する度に、少しずつ動きが鈍くなってる……無理もないかもしれないけど)

 精神的な物か、体力的な物か、はたまた両方か。

「私は……負けん……私は死なん……!」

 それでも相手は魔王。圧倒的実力の持ち主。たった一人で六人相手に未だ戦い続けていた。

「それでも私達は……私は、貴方を倒します……!」

 イルラナスが攻撃魔法を放ち、魔王の魔法とぶつかり合う。敵味方全員少しずつ疲れが見え始める中、イルラナスの攻撃魔法の威力が上がり始めていた。

「いつまで……いつまでこんな無意味な戦いを続ける気ですか!? この戦いの先に、お父様が望む未来があるとでもお思いですか!? 魔王たる者ならば、もう結末など見えているでしょう!」

「何も知らぬまま人間に媚を売ることを覚えた者が私に説教をするか!」

「じゃあお父様は一体人間の何を知っていると言うのです!? 人間の何を知って、何を見て、滅ぼす為に戦い始めたのです!?」

「魔族の為だ! 私は魔族を導く立場として、魔王として、お前の――」

 そこまで言って、魔王の口が止まった。いや口だけではない。動きが止まった。それはまるで、大事な何かに気付いたかの様で。――ズバズバズバァァン!

「ぐ……っ」

 動きの止まった魔王の体を、イルラナスの高威力の攻撃魔法が貫いた。――カッ!

「…………」

 やはり直後に復活する魔王。だが、今までは少しずつだったのに、今回の復活では明らかに疲弊が見えた。――後少し。……後少し? ならその少しの先に、何がある?

「王妃様!」

 タッ、とヴァネッサに近付いたのはローズ。

「私に、あの鏡の破壊を任せて貰えませんか?」

「出来るの?」

「魔王と同じで、少しずつあの鏡の魔力放出も乱れ始めてます。隙が出来てる気がするんです。全神経集中で、その隙間をエクスカリバーで通します。なので、集中させて欲しいんです」

 この戦いの中でも確実に、ローズは成長していた。その目が、勇者の力が、天騎士ヴァネッサさえ掴み切れていない何かを捉えようとしていた。

「わかった、ローズちゃんに任せる。――失敗を怖がらないで。失敗しても、まだチャンスはあるし、作り出してあげる」

「お願いします!」

 直後、ローズはエクスカリバーを持ち直し、目を閉じて全神経を集中させ始める。勿論無防備なので、フォローが必要。

「勇者の嬢ちゃんのガードはあたし達に任せな!」

「指一本尻尾一本触れさせないッス!」

「ヴァネッサ様、レインフォル様、イルラナス様は攻撃を続けて下さい!」

 状況を察した三人が直ぐに動く。ヴァネッサとレインフォルはお互いを見て軽く頷くと、再び地を蹴り、ツーマンセルへ。

(お父様……!)

 そこに更に加わるイルラナスの攻撃魔法。ヴァネッサとレインフォルはそれも織り込み済みであり、スリーマンセルと言っても過言ではない状況が生まれ始める。

「……っ……」

 一方の魔王。迎撃反撃はするが、先程までと比べると徐々に落ちていた精度がここへ来て一気に落ち込んだ。精彩がまるで無い。ダメージもあっさりと重なり、追い詰められる。

「――ここっ!」

 その時、カッ、とローズが目を見開き、エクスカリバーを降り抜いた。しなやかで鋭い、まるでリボンの様な剣の波動が伸び、蘇生装置に届く。

 魔王が再びとどめを刺されるのと、ローズの一撃が蘇生装置に届くのは、ほぼ同時だった。カッ、と蘇生装置は光るが、そこにローズとエクスカリバーの攻撃が届き、

「蘇生装置が……壊れた……!」

 バリィン、と激しい音と共に、蘇生装置は粉々に壊れた。――だが蘇生装置は壊れる直前に作動している。魔王は最後の復活を遂げるが、

「……がはっ」

 復活すると同時に、何もせずとも、その場に崩れ落ち、倒れ込んだ。――魔王は蘇生装置をチラリと見、破壊されたのを確認すると、

「よもや、人間所か、裏切られた自分の娘にとどめを刺されるとはな……本当に、負けるのか、魔王であるこの私が」

 そう自若気味に笑い、呟いた。――これ以上の裏も復活もない。そう悟ったヴァネッサ達は、ゆっくりと魔王に近付く。

「満足か、イルラナス」

 魔王はイルラナスを見ると、そう問いかける。

「今は断言出来ません。でもこれで良かった、これで間違いなかったと胸を張って言える世界を、この方々と共に作り上げていきます」

「相変わらず口だけは達者だな。もうその結論を見届ける事も出来ないか。――昔は碌に攻撃魔法など使えず、病弱な存在だったが、そんなお前が、裏切ったお前が一番変わるとはな。客観的に見れたら、何て面白い世界だっただろう」

「……お父様」

「人間の総大将よ」

「何かしら?」

「お前はイルラナスを受け入れた。魔族を受け入れた。あれだけ戦い、お互いを削り合った魔族と、手を取り合うなどという提案を呑んだのだ。この先、楽な道ではないぞ」

「貴方に諭られなくても、その位わかっているわ。平和なんて、苦労無しで手に入る物じゃない。現にこうして決戦に来てるわけだし」

「フン、覚悟があるということか。ならば、もしもイルラナスが道を踏み外したら、その時は、その時こそは魔族を全て滅ぼせ。その手で、イルラナスを葬れ」

「何で貴方に指図されなきゃいけないのかしら。まあでも、イルラナスちゃんがもしも貴方みたいになったら、その時に考えるわ。そんな事は有り得ないと思うけどね」

 呆れ顔のヴァネッサに対し、魔王は大きく息を吐く。――終わりが近付いているのが、わかる。

「イルラナス。最後に聞かせてくれ」

「何ですか?」

「飯は……美味いか?」

 …………。

「……どういう意味ですか?」

「言葉のままの意味だ。ここへ来て裏など無い。飯は満足に食べれているか、と訊いている」

 謎の質問だった。死に間際、魔王からしたら裏切った相手に、最後の問いは食事の話。イルラナスが困惑していると、

「滞在しているハインハウルス城では非常に美味しい食事を私込みで頂いています。イルラナス様が健康になったのはそのお陰もあります」

「それはこちらの城にいた頃よりも、か?」

「間違いなく」

 食事に五月蠅いレインフォルが戸惑うイルラナスの代わりに答える。イルラナスもその言葉に頷き、魔王を見た。

「そうか。それならいい」

 その表情を見た魔王は、満足そうな顔をして、天井を見上げた。



『魔王様! 王位継承おめでとうございます!』

『魔王様万歳!』

『いいか、よく聞け。私はこれまでにない魔族の国を作る。何者にも邪魔されない、魔族だけの国だ。敵となる者は全て排除し、他の介入など許さない、絶対の国を作り上げる!』

『ははーっ! 魔王様、万歳!』


『……何だ、これは。これが食事だと?』

『申し訳ございません……最近の天候の悪さに加えそもそもこの辺りは土地が耕作に向いておらず……これでもまだ良い方なのです……民に至っては食事にありつけない者も……』

『魔王がこんな物を口に出来るか。――無いのなら奪いに行く。直ぐに出撃だ。直接出る』

『は、はっ! で、ではこちらは』

『同じ事を何度も言わすな。そんな物を口に出来るか。――雑兵か民にでもくれてやる。それに約束してやる。直ぐに食料事情など安定させてやるとな』


『ま、魔王様、宜しかったのですか?』

『何がだ』

『折角の御息女とのご対面ですのに……もう少しゆっくりなされては』

『必要無い。そんな時間があるなら少しでも多く人類の領土を奪う。――イルラナスは外には出すな。あんな病弱な体で人間に捕まったらそれこそ思う壺だ。人間を勢い付かせるわけにはいかん』

『で、ですが』

『可能な限り豊富な食事と安全な生活を与えろ。それだけでいい』


『申し上げます! バンダルサ城陥落! イルラナス様、行方不明との事!』

『報告は以上か?』

『は、はい、その』

『なら下がれ。――奪われたなら奪い返しに行く。それだけだ』

『は、はっ!』

 …………。

『ああ、そうだ。人間を滅ぼさねばならない。魔族の国を作らねばならない。それが、私の使命だ。何を失ってでも。魔族を――』



「……結局私は、魔王の器では無かったわけだ」

「え……?」

「つまらん。何の為にここまで生き延びてきたのか。くだらん」

 最後まで何を言いたいのかわからない。吐き捨てる様な言葉だが、表情からはそんな様子は見られない。

「でも幸せ者よ。これだけの事をしておいて、最後は自分の娘に看取られて死ねるなんて。感謝する事ね」

 ヴァネッサのその言葉に、もう一度だけ魔王はイルラナスを見た。

「それが……くだらんと……言うのだ……」

 そしてその言葉を最後に、魔王は二度と口を開かなかった。



 魔王、死す。

 人類を恐怖に陥れた絶望の象徴は、人類が作り上げてきた希望の光と力によって、ついに消え去った。

 誰も真意を、悟る事など出来ないままに。

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