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第三百七十三話 演者勇者と復讐の魔導士と魔王16

 ヨルマンと対峙したライト達。先に動いたのはヨルマン。

「グオオオオオォォォ……」

 だが動いたと言っても、直接攻撃を仕掛けてくるわけではなく、周囲に改造魔族を呼び寄せる。

「流石に私一人対貴方達全員では私が不利でしょう。この位はさせて頂かないと」

 正気を失っているのは同じだが、元々の個体の強さだろうか、表で遭遇した改造魔族よりかは迫力を感じる。中でも一体、存在感の大きい相手が。

「…………」

 呻き声こそ出さないが、雰囲気から改造魔族だとわかるその存在。装備品も他とは違いしっかりしており、武人の佇まいを見せる。

「ああ、彼ですか? 魔王軍の幹部の一人です。他の兵士達は兎も角、彼は自ら進んで改造を申し出てきました。魔王軍の為ならと。素晴らしい忠誠心です」

「でもその忠誠心を貴方は利用してる。貴方のその技を使えば、忠誠心も何も無くなる」

「はは、それは貴方とて同じ事ではないのですか?」

 ヨルマンは少し笑うと、ライトから視線を少しずらす。その視線の先にいたのは――

「っ! お前――」

「ライト殿。我は気にしておりませぬよ。それにそう捉われても致し方ない話です」

 ニロフ。――ヨルマンなりに、ニロフの特殊な存在にある程度気付いたのだろう。直ぐにニロフがライトを宥める。

「仰る通り、我は特別なる存在。ですが、我は我の意思でここに立ち、彼らと共にいるのです。その辺りは訂正させて頂きましょうか」

「そうでしたか……中々信じ難い話です。そんな事が有り得るとは」

「まあ、信じて頂かなくても結構です。我は我の事は別に何を言われても構わないと思っております故。ですが――」

 キィィィン、と不意にヨルマンを中心に地面に魔方陣が浮かび上がる。

「話を聞く限り、要所要所でライト殿を小馬鹿にしている感が拭えませんな。我は、我の仲間を、友を馬鹿にされても、平気ではありませぬぞ」

 ズバァァン、とそのまま一気に魔力が膨張し、爆発。――ニロフの先制攻撃である。それを封切りに、ネレイザ、フリージアが魔法で更に畳みかける。

「…………」

「忠誠心、ね。あんたは忠誠を誓う主の為にその身に落としたんだろうけど、少なくとも私は忠誠心が反映されてる様には見えないよ」

 その爆風の中、幹部騎士が突貫。レナが真正面から応対。多方面での戦闘が開始される。――ズガァン!

「やれやれ。心無きゴーレムならその使い方もアリなのでしょうけど、あまり好感の持てる方法ではありませぬな」

「!」

 ニロフのその言葉でライトも気付く。――ヨルマンは、一部の攻撃を多数呼び寄せた改造魔族を盾にして防いでいた。捨て駒。その言葉が脳裏を過ぎる。

「同情している余裕がおありですか? 奴らも貴方方にとっては敵でしょう。貴方方が消すか、私が消すか。その違いです」

「勉学で数式があるとしたらそうなのでしょうけど、人の心というのはそういう物ではありませぬぞ。まあ確かに、気を配っている余裕はないですが」

 事実、ニロフの攻撃は激しく、喰らった改造魔族は散っていく。

(クソッ……考えろ、俺は何をすればいい、どうすればいい)

 ヨルマンに勝って、ヨルマンがした事を説明したとしたら、きっとイルラナスは仕方がなかった、覚悟の上だと納得するだろう。でもそれは被害が大きければ大きい程、彼女が心を痛めるのを隠すという事であり。

 少しでも、ほんの少しでもその痛みを和らげたい。その為に自分が出来る事は無いか。

「! 頼む、効いてくれ!」

 困った時の勇者グッズ。鞄を漁って取り出したのは一冊の冊子。

「ね~むれ~ね~むれ~良い子よ~ね~むれ~」

 そしてライトはそれを開いて歌った。

「ライト君の私に対する誤解が日に日に酷くなっていく……流石の私もこの状況下では寝ていいと言われても嬉しくない……」

「レナへの応援歌じゃねえ!?」

 そんなやり取りと同時に、若干改造魔族の動きが鈍る。仲間達の目には、眠気を堪えている様に見えて――

「! マスター、それって」

「「勇者の子守歌」。眠らせたい相手を寝かしつける道具なんだけど……駄目か……!」

 ――堪えている様に見える程度。つまり、微々たる差しか生まれていない。相手のレベルが高いのと、改造魔族という特殊な存在なのもあるだろう。ライトは諦めて、次の手を――

「ネレイザさん、お願い出来る?」

「任せて。魔導殲滅姫の異名は伊達じゃありませんから。マスターをお願いします」

 ――模索する前に、フリージアがライトの後ろに回り、ライトを抱き締める様にその手を取る。

「ジア?」

「ライト、もう一回。あたしが魔力を送るから。諦めないで」

 単純なライトのレベル不足。それを補う体制をフリージアは選んだ。自分の分の攻撃力を爆発力が自分よりも高いネレイザに託して。

「っ、わかった、やってみる! ね~むれ~」

 ライトも意図を理解し、もう一度歌う。その手からフリージアの魔力が伝わり、何よりその温もりが力となり、先程よりも強く広く空間に歌が広がっていく。

「なんと……」

 結果、全てを抑える事は出来ないが、一部の改造魔族は眠りに落ち、多数の改造魔族の動きが確実に鈍り始めた。効果が出た。

「面白い品をお持ちですね……中々に興味深い」

 ヨルマンも自分の改造を突破されたのが予想外だったが、驚きを見せる。

「しかし誤解をしていらっしゃる……一度改造を施してしまえば、もう元には戻れません。仮に貴方方が勝利したとしても、結果として彼らには止めを刺すしかないのですが」

「それでも……それでも、お前の思い通りにはさせたくない!」

 無様な死に方ではなく、可能ならせめて安らかに。ヨルマンの下にいてはその可能性は無いのだから。

「まあ、その事は我々の勝利後に考えましょう。客観的に見ても、ライト殿がそちらの所持するカードを奪った事に変わりはないのです。その辺りはどうなさるおつもりか」

 そう、ニロフとネレイザの攻撃は止まらない。要所要所で改造魔族を盾に使っていたがそれが使用不可となると、

「……っ」

 直接攻撃が届き、ダメージが重なり始めるという事である。ヨルマンの表情が少しだけ曇る。無意識の内に幹部騎士を手元に呼び戻そうとするが、

「聞こえてないと思うけど念の為に言っておくよ。アンタが忠誠誓ってのって魔王でしょ? あの爺さんにじゃないでしょ? そういうのは忠義って言わないよねー。というか本物の忠義の騎士、もうウチらの仲間にいるし。まあ何が言いたいかってさ」

 ズバァァン!――激しい炎の魔法剣の一振りが、幹部騎士を覆う。

「ここで散る運命なんだよ多分、ってこと」

 決して弱い相手ではなかったが、一対一で翼を広げたレナに勝てる程の相手ではなかった。……それに。

「……もしかしたら、本気出してなかったのかもね。無意識の内にちゃんとわかっててさ」

 それはあくまでレナの仮説で、倒した後もあり証明のし様がない物だったが。

「では、我々も決めてしまいましょうか。――ネレイザ殿」

「オッケー!」

 結果、手持ちの札が無くなるヨルマン。ニロフ、ネレイザの激しい攻撃魔法に防御が追い付かず、

「ぐ……はっ……」

 ついに激しいダメージと共に吹き飛ばされる。――どれだけ魔力があって、どれだけ魔法の才能があっても、人間としての肉体は年相応の老人。防ぎ切れなくて直接喰らったダメージは遥かに重く、動きが止まる。

「……どうして、復讐以外の道を選べなかったんですか」

 レナに護衛の位置をキープされつつも、ライトは倒れたヨルマンに近付く。

「それだけの才能があれば、もっともっと何でも出来たでしょう!? 一人でそれだけの事が出来たなら、誰かに頼らずにそれだけ強くなれたなら、もっともっと正しい使い方が出来たでしょう!? なのにどうして!」

 それは才能無き者の叫び。不意に漏れる、ライトの本音だった。

「……正しく生きたかったわけでも、色々な事がしたかったわけでもないのです。ただあの子が居てくれたらそれで良かった。あの子を失ったこの想いを、何処かにぶつけなければ生きていけなかった。死んだらあの世で会える? そんな都合の良い話などありません。ならば生きている間に、私はこの想いを刻み付けなければいけなかった。重く重く、何処までも重く。あの子が受けた仕打ちを、綺麗事で解決などしたくなかった」

「それはっ!」

「ライト君」

 ポン。――更に責め立てようとするライトの肩に、軽くレナの手が乗る。

「何を言っても通じない。否定も肯定も、同情も軽蔑も。――そういう人なんだよ。どうしても、いるよ」

「……っ」

 ライトとてわかってはいる。自分は綺麗事ばかり並べてしまっているのだと。実際の辛い想いは、ヨルマン本人にしかわからないと。でも、だからこそ、少しでいい。わかって欲しかった。

「俺達は魔王を倒し、勝利します。人類の、平和を勝ち取ります。――貴方の事は忘れない。でも貴方の事は認めない」

「それで、構いませんよ……私も最後に、全てを終わりにします」

「……え?」

 そう言うとヨルマンは懐から小さなビンを取り出し、中に入った液体を飲み干した。――直後。

「ぐ……お……おお……!」

 ヨルマンが一気に苦しみ出す。同時にヨルマンから溢れ出る膨大な魔力。

「な……何を――」

「駄目っ、一旦間合い開くよ!」

 ガシッ、とレナに捕まれる様にしてライトは一緒に移動、ヨルマンから間合いを置く。他メンバーも各々一旦間合いを置く。

「成程、そういう手を残してありましたか。――よくよく考えれば、可能性として十分あり得た話。迂闊でした」

「ニロフ、どういう事だ!?」

「彼は魔族に人間の魔力を注入し、改造を施していました。その改造の結果はライト殿もその目で見ているはず。――つまり、逆もしかり、なのですよ」

「!」

 そう。今まで魔族に人族の魔力を注入して強化してきた。つまり、人族に魔族の魔力を注入しても、同じ事が起こる。

「おおおぉぉぉぉぉ!」

 その結論に至った時、先程までそこで倒れていた老人は、強大な怪物へと変化していたのであった。

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