表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
374/383

第三百七十二話 演者勇者と復讐の魔導士と魔王15

「はああああっ!」

 気合一閃。先陣で切り掛かったのはヴァネッサ。その圧倒的気迫、そして敢えて比べた時その気迫すら超える速度と威力を込めた愛用の騎士剣を真正面から振るう。

「……フン」

 ズバァァァン、と魔王が放つ波動と激しい衝突。お互いそのまま譲らない。

「でりゃっ!」「はあっ!」「ふっ!」

 そのぶつかり合いの中、別方向からドゥルペ、ロガン、ニューゼが攻撃を仕掛ける。

「隙だらけ、とでも言いたいか? その程度ならば、隠す程もないまで」

 だがその言葉通り、魔王は三人の攻撃に反応すらしない。三人の攻撃には、もともと仕掛けてあったのか自動でバリアが張られ、結果呆気なく防がれる。――三人が手を抜いたわけでも弱いわけでもない。

(成程……流石一筋縄じゃいかないってわけね……!)

 要は、その三人のレベルの攻撃ならば放っておける程に魔王の魔力による防御力が高かったのである。

「意気揚々と来るのはいいが、まともに戦えるのは貴様だけか? 話にならん」

 バァン、と更に激しくぶつかり合い、魔王とヴァネッサの間合いが開く。

「流石、一兵卒の事はまったく記憶に無いご様子」

 と、思った次の瞬間、そこにはレインフォルがいた。魔王はやはり弾き飛ばそうとするが、

「ふううっ!」

「!」

 レインフォルのラッシュに一歩遅れ、カウンターまで届かない。

「貴様……魔族の癖に……」

「私は魔族だが、イルラナス様の騎士! イルラナス様の意思に反する者なら、例えそれが魔王であれどこの剣で葬り去るのみ!」

 あの黒い甲冑と大剣なくとも、ヴァネッサと互角と言われたその腕は伊達ではない。

 そしてその様子を確認し、ヴァネッサが再び身構える。

「さーて、行くわよレインフォルちゃん!」

「いつでも来い! 一世一代のツーマンセル、見せてやる!」



「ツーマンセル? 私とお前でか?」

 決戦前日。ヴァネッサはレインフォルを個別に呼び、その話を持ち掛けた。

「そう。魔王の方に向かう固定メンバーの中に、私とレインフォルちゃんいるでしょ? 必要かな、って思って……ううん、そこまで仕込んでおく必要があるかもな、って思って。――自惚れじゃないけど、私と本気でツーマンセル出来る人間は限られてるわ。フウラ君、ここには居ないけどアルファス君、そしてレインフォルちゃん。将来的にはローズちゃんもきっと出来る様になるけど、今出来るのはきっとその三人だけ」

 三大剣豪、そしてヴァネッサと幾度となく互角の戦いを繰り広げたレインフォル。確かに肩を並べられるのは限られる。そして、

「卑怯とかプライドとか言ってられないもの。本当に勝たなきゃ意味がない戦いだから」

 その二人でツーマンセルをされて、勝てる存在などいるのだろうか。それ程までの二人である。

「言いたい事はわかった。どんな手を使ってでも勝たなければいけない戦いなのは私もわかる、それに関しては異論は無い。だが、長年のパートナーなら兎も角、今突然お前と私と組んで戦力指数がそこまで上がるものか?」

 接近戦二名によるツーマンセル。勿論息の合ったコンビネーションが必須である。お互いの実力は認めても、未だ共闘の経験は無し。失敗すればお互い単独で戦った時よりも戦力指数が落ちる事になる。

「だから、今から完成させるの」

 だがそんな一般常識さえも、ヴァネッサはその実力で越えてくる。

「散々戦って来たんだから、お互いの手の内はある程度は感覚で把握してるでしょ? それをちょっと立ち位置変えて、後は今ちょっと練習すれば何とかなるわ」

「何とかなる……か」

 傍から聞けば、実に身勝手な発言に聞こえる。

「あら、もしかして自信無い?」

 でも常識を越えたヴァネッサが選ぶこの相手は、同じく常識を呆気なく越えてくる実力者であり。

「笑わせるな。お前に出来て私に出来ないわけがない。――もう私は、誰にも負けない。イルラナス様の為に。その為なら、ツーマンセルだろうがなんだろうが、何だってやってやるさ」

「そうこなくっちゃ。――それじゃ、ちょっと合わせてみましょ」

 こうして、そのまま「簡単な」練習をする。そして――



「はあああああっ!」「おおおおおおっ!」

 開いた間合いを再び詰めるヴァネッサ。そのままヴァネッサとレインフォルのツーマンセルが始まる。

「……っ!」

 それまでは余裕の面持ちで一人でハインハウルス勢全員を相手にしていた魔王の表情が、一瞬変わる。――明らかに、驚きを隠せなかった。

「……マジッスか」

 ドゥルペ、ロガン、ニューゼは開いた間合いの中、つい足を止めてその戦いに見入ってしまう。――自分達よりも実力が上なのは重々承知していた。だから自分達よりも凄い動きをされても、今更驚く事など無いと思っていた。

 だが今目の前のヴァネッサとレインフォルのツーマンセルは、その予測の範疇を大きく越えていた。昨日ツーマンセルをしようと決めた即興の二人組とは思えない圧倒的動き、コンビネーション。一ミリのブレもないその攻撃は、個々で戦うよりも何倍もの力となり、魔王を追い詰めていく。

「舐めるな!」

 だがそれでも決定打は打てない。魔王は余裕を無くすのと引き換えに神経を研ぎ澄ませ、その二対一の不利と思われる戦いに順応していく。結果として一歩も譲れない互角の戦いが繰り広げられる。

(凄いわね……完璧なツーマンセルにしたのに、押し切れない)

 今この世界を探しても、誰も対応出来ないだろう。そこまでの自負があるツーマンセルなのに、不利にはならないが有利にもならない。――これが魔王。人類を恐怖へと追い詰めようとする存在。

「だからこそ……どんな手を使ってでも、勝つ!」

 ズバァン!――右からヴァネッサ、左からレインフォル。同じタイミングで同じ速度での攻撃は、激しい衝突で間合いこそ一旦開くが、ダメージになる。

「小賢しい真似を……!」

 だが間合いが開いてしまった。仕切り直し。一度種がわかればやり方もある。魔王は直ぐに体制を立て直し、再びの接近戦に備える。

「今っ!」

 しかしそれも、ヴァネッサの作戦通り。最強のツーマンセルすら、お膳立てに過ぎなかった。――魔王を取り囲む、膨大な量の魔法球。

(いつの間に……!? この二人は流石に魔法球を用意する事までは出来なかったはず……!?)

 二人の接近戦を警戒していたせいで、魔法に対する警戒が薄れていた。その隙を突く様に、一気に魔法球が魔王に降り注ぐ。――その魔力を直に喰らい、感じ取った。

「っ……イルラナス……!」

 そう、この魔法を放ったのはイルラナス。

「お父様からしたら信じられないでしょうね。体の弱い私が、ここまでの魔法を放てるなんて。――私なりの、覚悟です」

「ぐっ……!」

 絶え間なく続く魔法球の攻撃。防御が遅れた魔王に降り注ぎ、確実にガードを削り倒していく。その攻撃力、自分が知るイルラナスの実力を遥かに越えている。自分の知らないイルラナスが、自分を追い詰めようとしている。

「うおおおお!」

 それでも魔王は倒れない。決定打にはならない。イルラナスに才能があっても、それでも魔王には後一歩及ばない。イルラナスと魔王の魔法の撃ち合いは、少しずつ魔王が優勢になっていく。

(そんな事は最初からわかってる……私はだから、違う道を行く! 力でねじ伏せるだけが、戦いじゃない!)

 イルラナスが撃ち合いで押されていくのすらも、ヴァネッサの予想の範囲内だった。少しずつ、だが確実に魔王の視界が開けていく。

「行くよ、エクスカリバー」

『ああ。――全力で、切り伏せるぞ。私を信じて、全てを出し切れ』

「うん!」

 その晴れた視界の先に、切り札は待っていた。敢えて選ぶとしたら一番警戒していなかった。その少女が、腰の剣を抜いた瞬間、

「な……んだと……!?」

 敢えて比べたら、ヴァネッサもレインフォルもイルラナスも全て前座。そう思わせてしまう様なオーラが、剣から迸っていた。そして留まる事無くそのオーラが増幅されていく。

「私はローズ、勇者の名を受け継ぐ者! その称号に懸けて、この力で貴方を倒します!」

「勇者……!?」

 そんな物は御伽噺だと思っていた。現に今まで自分の下へ辿り着く存在は居なかった。だが目の前の少女、剣の存在感。最早否定のし様が無い。――勇者が、万全の状態で、自分を倒しに来ているのだ。

「はああああっ!」

「やらせん、やらせはせん!」

 そのままイルラナスの魔法の援護を受けつつ、ローズは突貫。急ぎ迎撃しようとする魔王の魔法を弾き飛ばしながら一気に接近、瞬間まるでエクスカリバーと一心同体の様に重なり、渾身の一振り。

「が……はっ」

 その刃を、止める術を魔王は持っていなかった。その巨大な体、全身で浴びる形となり、崩れ落ちた。

「…………」

 一瞬、誰もが固まってしまう。魔王はピクリとも動かない。

「やった……ッスか?」

「少なくとも、僕は魔力も生気もほとんど感じない。つまり」

「勇者のお嬢ちゃんのあのぶっ飛んだ一撃が決定打ってわけか」

 撃破。勝利。徐々にその意味が浸透する。――だからと言って、今直ぐ「ヒャッホーゥ!」とはなれない。勿論それは、

「…………」

 イルラナスの心境を想ってである。間合いを置いて全力で魔法を放っていたイルラナス。ただ落ち着いた目で、魔王が倒れている場所を見つめている。

「……イルラナス様」

「ごめんなさいレインフォル。私なら大丈夫。――これが新しい一歩だもの。これを乗り越えて、私達は二度と同じ過ちを繰り返さない様にするの」

 覚悟を決めたか、イルラナスが魔王の方へと歩き出す。寄り添うレインフォル。倒れた魔王を見下ろせる位置まで後数歩といったその時であった。――カッ!

「!?」

 突然激しいフラッシュ。攻撃性は無いが、突然の事であるのと、この玉座の間を一気に覆う激しさで、流石に全員が一瞬目を背ける。急ぎ目を開け、状況を確認しようとしたその時。

「――え?」

 巨大かつ鋭い魔法の刃が、イルラナスを襲い、衝突し、激しく吹き飛ばした。ハッとして見たそこには。

「な……!?」

 先程まで倒れていたはずの魔王が、無傷の状態で、そこに立っていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ