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第三百六十八話 演者勇者と復讐の魔導士と魔王11

「同じ体験を……させる、だって……!? どういう意味だ!」

 だがその問いに対する返事は無かった。代わりに広がる、平和なヘイジストの光景。

(どういう事だ……ヘイジストに飛ばされた……? でも何年も前って言ってた……夢……幻……?)

 そういう意味ではあの白い世界の時点で現実か空想かの区別はつかない。ただ少なくともライトの意識はハッキリしている。一概に夢とは言い切れない。そんな謎の世界のヘイジストで、同じ体験をさせ、傷を刻み付ける。

「まさか……ジアか!?」

 思い当たる節はある。あの日のフリージア。――精神的に壊れた、実の父親に未遂の事件を起こされている。

「くそっ!」

 兎に角何もしないでこの世界から抜け出せるとは思えない。ライトはフリージアの家へ走った。全力で走り、辿り着いたフリージアの家のドアを迷わず開ける。するとそこには、

「がはぁ!」

 ドカッ!――ベッドの上で半裸にされたフリージアの上に跨る彼女の父を、今正に殴り飛ばして強引にどかす二人組の男。

「どけよおっさん。そいつは俺達が前々から狙ってたんだよ」

 そのまま男達は、無気力のままベッドから動けないフリージアに近付いていく。

(何だ、何なんだこの世界は……!? どうしてこうなってる……!?)

 実際の所、フリージアの父親は彼女を襲おうとしたが、当時のライトが家を訪ねて来た時にフリージアが振り切ったので未遂に終わっている。こんな男達の乱入の事実など存在しない。これもヨルマンが用意したシナリオなのか。

 だがライトに深く考えている余裕は無かった。実際に、今目の前でフリージアが襲われようとしている。あの日ギリギリで避けられた事案が、この世界では実際に起ころうとしているのだ。

「お前等、何してるんだ、止めろ!」

 喰い止めなくてはいけない。それが例えヨルマンの罠だったとしても。――ライトは身構えて叫び、男達の動きを制止させる。

「ああ? 誰だお前、邪魔すんな!」

 勿論はいすいませんでしたで止まったりはしてくれない。二人の内一人が迷わずライトに向かってくる。ならず者だが剣術の嗜みはある様で、ライトも応戦するが押されていく。

「おい、お前も手伝え!」

「馬鹿言え、女に逃げられたら困るだろうが」

「逃げられない様にしておけばいいだろ、どうせ生かしてはおかないんだ」

「ああ、そりゃそうか」

 そう言うと、フリージアを抑えている男の方が腰からナイフを取り出した。――ナイフ。突き刺したまま。


『言ったはずです。傷を刻み付けると。――同じ体験を、して貰おうと思いまして』


 ヨルマンの言葉の意味がわかった。本当に、ライトに同じ体験をさせようとしている。

「っ……させるか……やらせるか……傷付けさせるか……!」

 怒りと焦りが混ざり合い、ライトに力を与え、ライトから冷静さを無くす。――そして周知の通りライトの実力は足りない。状況を打破出来るはずもなく。

「うわああああああ!」

 現実は無残である。ライトの叫びと同時に、フリージアに振り下ろされるナイフ。ライトはそれを視界に入れる事しか出来ない。――そして、

「五月蠅い冷静になりなさい馬鹿」

 その冷静過ぎる一言と、ライトのおでこにデコピンが突き刺さったのだった。



「んー……ネレイザちゃん、ちょっと」

「何?……って本当に何してんのレナさんいきなり!? ズルい私も……じゃなくて!」

 不意に呼ばれて振り向けば、レナがライトを抱き締めていた。本当にいきなりの出来事にネレイザも本音が隠せない。――だが。

「緊急事態。王妃様呼んで来て」

 よく見れば、レナは翼を広げてその翼でもライトを包み込む様にしており、真面目な顔でネレイザにそう依頼。――ネレイザも直ぐに察する。確かに緊急事態だ。

「わかった、直ぐに皆も呼んでくるから」

 直後、主要メンバーが集合。

「突然ライト君が寝ちゃった。私よりも寝付きの速度が速いとか有り得ない。この状況下で。分かり辛いけど、一瞬変な魔力が流れた。急いで全部がライト君に流れるのは防いだけど、ちょっと解除までは出来ないし私も防ぐだけで今動けない」

 ライトが白い世界に飲み込まれた瞬間、当然レナも隣にいた。異変に気付き最悪の結果を防いだ結果である。

「ライト殿の体に支障をきたしてはおりませんな。ですが意識が無いという事は精神的な部分に何かが干渉している。そうですな、簡単に言えば「覚めない夢」を「誰か」に見せられている」

「まさか……あのヨルマンと名乗る魔導士が? でも気配なんて微塵も感じませんでしたわ!」

「きっと本体ではなく、精神体だけで近付いたのでしょう。マック殿の交戦時もそんな気配だった様子」

 ニロフのその指摘に、マクラーレンも頷く。実際撃破時に彼はそのまま消えた。

「ニロフさん、それじゃその魔導士を倒さないとライトくんはずっと寝たままなの? ボクの魔道具で起こすのは危ない?」

「無理矢理起こすのは危険ですな。ライト殿の精神が取り残されたままだとライト殿が一生植物人間になってしまう可能性があります。今直ぐ安全に起こすには、今見ているライト殿の夢に誰かが自分の意識を繋いで連れ戻す事。それが確実でしょう。――こういうからめ手を使ってくる相手なのは少々予想外ではありますが。我としても迂闊でした、申し訳ありませぬ」

「貴方の責任じゃないわ。それを言ったら統括している私の責任になるもの」

 魔術で隙を突かれた。その事実に人一倍悔しそうな様子を見せるニロフをヴァネッサが慰める。

「それに、このまま黙ってるニロフじゃないでしょう?」

「ええ。第三者が作り上げた精神世界、我からも一名でしたら直ぐに接続してみせます。――レナ殿、今の状態をしばらくキープする事は出来ますか?」

「まあそれ程魔力は消費しないから大丈夫。私自身が突入出来ないのは癪だけどね」

 レナが今の保護をキープしていないとライトの状態が不安定になる。いつもなら何だかんだでレナが行きそうなシチュエーションだがレナが行けない。となると、ニロフとレナ以外で誰が行くか――

「「「「「「はい!」」」」」

 大勢が一斉に立候補、挙手した。

「まあ、お気持ちは皆さんわかりますが、我が現状直ぐに接続出来るのが一名だけですので、そこは」

「事務官なんだから私に決まってるでしょ! マスターを支えるのが私の役目!」

「それを言ったら奴隷の私に決まってる。主人を守るのが奴隷の役目だ」

「それでしたら団員として団長を守るのが私の役目です。「アタシ」も反応気味です、戦闘でしたら私です」

「行き先でライト様がどうなっているかわかりません。不測の事態に備えて使用人も兼ねている私が」

 やいのやいの。

「いや、我としても非常に気持ちはわかるのですが、出来れば一名の選出を」

「非常事態を見過ごすなんて王女として出来ませんわ! 私が向かいます」

「いかなるシチュエーションって言ったらエリートの俺だろ。安心しろ、どんな手段を使っても無事連れ戻して来るぜ、エリートとして」

「ああもう、皆で行く行く言ってたらニロフが困るでしょ! もういいわ、私が代表して行くから! リンレイちゃん後宜しく」

「ヴァネッサ様が流石に行くわけにはいきません、それでしたら私が行きます」

 やいのやいのやいのやいの。

「我……泣いちゃう……!」

「おー、よしよし」

 泣きそうになるニロフをレナが慰めるという珍しいシチュエーションも他のメンバーには見えていない。

「しかしライト君が信頼されてるのは利点なんだけど、こういう時足引っ張るよねー。もう適当にニロフが選びなよ」

「我それ恨まれません?」

「多少恨まれるね」

「我泣いちゃう!」

 本当に一向に話が進まない。――そんな時だった。

「あの」

 落ち着いた、でも芯の通った声。誰もが一旦権利の主張を止め、その声の主を見る。

「あたしに、行かせて貰えませんか。――お願いします」

 礼儀正しく頭を下げながらそう全員に願ったのは、フリージアその人であった。



「ライト、掴まってて」

「え?――うおっ!?」

 フリージアが右手を宙に掲げると、巨大な魔方陣が生まれ、辺りが一気に凍り始める。閉じ込められてしまう前にフリージアはライトを抱える様にして家から脱出。――直後、先程まで居たフリージアの家は氷の館と化していた。

「ジア……だよな?」

 落ち着いて改めて横を見る。自分一人が連れてこられたと思っていた謎の世界に、もう一人。しかもこの再現された場所に深い関わりのある存在。

「ライトに何か起きたのはレナさんが直ぐに見つけて、ニロフさんが一人だけなら直ぐに一緒の世界に送れるっていう話になって、皆にお願いしてあたしが来た。――ライトの夢って何となく、あたし関わりがありそうな気がしたから」

「そうだったのか……助かった」

 何分一人では実力不足な箇所は否めない。頭脳も戦闘力もあるフリージアの参加は大きい。――だが。

「でも、大丈夫か? その」

 たった今凍らせた家フリージアにとっては生家であり、昔の自分、その昔の自分を襲おうとしている父親。その姿を、もう一度客観的に見てしまった。フリージアにとってはトラウマと言っても過言ではない。

「精神世界なのは予測ついたでしょ? 昔のあれはあたしに良く似た別人。あたしじゃない。だから全然気にならない。「あの人」も別人。――まあ、本人でもそこは構わないけど」

「ジア……」

 だがフリージアは振り切っていた。それよりも、ライトを助ける事を重点に置いていた。その目に迷いは見られない。――ガシャァン!

「よくもやってくれたな……許さねえ……!」

「纏めてぶっ殺してやる……!」

 ハッとして見れば、凍り付いた家から例の男性二人組が出てくる。

「ほらやっぱり」

「え?」

 が、それにフリージアが動揺する様子はまったく見られない。

「あたし、二度と出て来れない様に凍らせたつもりだったのに、予想外に早く出てきた。多分この世界が作られた物だから、その作った人の力も加わってるんだと思う」

 確かによく見れば、手足もすっかり凍り付いてるのにまったく気にせず普通に歩いて来る。苦しそうな様子も見られない。

「じゃあ、細かい事は気にせずあの二人を倒せば」

「ううん。「三人」」

「……まさか」

 フリージアのその指摘に、ライトも再度家の方を見れば。

「ジア……ジア……」

 敢えて比べたら男達よりも更に凍り付いている、フリージアの父親が呻きながらもこちらに向かってくる。

「ごめんライト、全然気にならないってのは嘘かも。――見ていて虫唾が走る」

「それは俺もだ。――こんな形で、ジアを侮辱するのは俺が許さない」

 ライトとフリージア、改めて身構える。――二人組んでの戦闘。何年ぶりだろう。

「ライト。――あたしを信じて」

「ジア……」

「もう同じ過ちは繰り返さない。必ずライトの思う通りに動いてみせるから」

 足を引っ張る、ごめん、と謝る前に、フリージアからその言葉。――そうだ。謝ってばかりいても仕方ない。だったら俺は。

「ああ。――信じてる。俺とジアなら、誰にも負けない」

 こうして、数年ぶりにライトとフリージアのツーマンセルでの戦いが幕を開けたのであった。

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