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第三百五十九話 演者勇者と復讐の魔導士と魔王2


「魔王城が……光った?」

 謎の報告であった。城が光る。勿論それだけじゃ何の意図も掴めない。

「もう少し詳しく説明しなさい。抽象的過ぎて何もわからないわ」

「はっ! 次の作戦まで予定通りの布陣のまま魔王城を監視し続けていた所、魔王城が一瞬ですが、でも大きく不自然に光りました。今までにない現象なのでご報告をと」

 先程見せて貰った地図からしても、最前線とはいえ魔王城とはそれなりの距離がある。それでいてハッキリと光ったとわかるのなら、かなりの光を一瞬放った事になる。

「光ったのは一度だけかしら?」

「少なくとも自分が伝令の為に陣を離れるまではその一回だけでした。部隊に影響も及ぼしていません」

「わかりました。キースさんに伝えて下さい。引き続きの監視を。こちらはヴァネッサ様とライト騎士団が到着済み、急ぎ対策を講じると」

「はっ!」

 伝令は頭を下げると、この場を後にする。

「……ヴァネッサ様、いかがなさいますか?」

「そうねえ……」

 伝令とのやり取りをリンレイに任せ、話を聞きながら考え込んでいたヴァネッサ。うーん、と軽く口を尖らせる。

「イルラナスちゃん達は、何か心当たりはある? 魔王城にそういうギミックがあるとか」

「すみません、初めて聞く話です……私が知らされていないだけかもしれませんが」

「私も聞き覚えがないな。ただ私もイルラナス様が魔王城から離れるのと共に前線に移ったので、その後の事は把握していないが」

「僕らもそれに関しての知識は」

「ッスね」

 元魔王軍でもわからない事案であった。大小あれど不安が過ぎる。

「この位置から特別な魔力は感じないですな。お嬢、こちらを動揺、急かす為の罠という可能性もありますぞ。我が単独で調べられる位置まで接近して調査という手も」

「でしたら私も。忍の血、全力で生かせてみせましょう」

 偵察を名乗り出るニロフ、リバール。その案に対し、ヴァネッサは腕を組んで数秒考えこむが、

「二人共ありがとう。でもその案は受け付けられない」

 二人の提案を却下した。

「まず、ニロフの言う通り罠の可能性は十分にある。それに対して二人を偵察に回して何かあったらそれこそ取り返しがつかないわ。二人以上の調査能力がある仲間もいないので他の人を回す事もしない。それにこんな最終決戦の時にニロフとリバールだけ行ってきて、なんて言って納得してくれる団長さんじゃないものね?」

「えーと、それは……まあ、はい」

 ならライト騎士団全員で、と後一歩でライトは言い出す所であった。見抜かれていた。

「罠だったとしてもそうじゃなかったとしても、今の私達が負ける要素はハッキリ言って見当たらないわ。勿論注意しての監視は続けるけど、行軍は予定通りの日程で行う。万全の状態で挑む。――リンレイちゃん」

「承知致しました。ではその様に」

 そのまま軍議は再開。先程の進行ルートの説明の再確認を行い、日程も確認。――出発は、二日後だった。

「じゃあ軍議はここまで。二日後の出発まで、各々準備を怠らない様に」

 こうして軍議は終了、各々宿舎に――

「申し上げます!」

 ――戻ろうとした所で再び伝令役と思われる兵士が。

「キース隊からの伝令が到着、光った魔王城に対しての王妃様の御意見を頂戴したいとの事!」

「作戦に変更無し。現状維持で監視だけ続けて。勿論大きな変化があった場合は直ぐに対応するわ」

「はっ!」

 伝令は頭を下げると、この場を後に――

「申し上げます! キース隊からの伝令です!」

 ――後にしたら直ぐに次の兵士がやって来た。

「王妃様が最前線にお戻りになる日の確認がしたいとの事!」

「作戦に変更無し、出発は二日後。何かあった場合は急ぐから、心配はしないと伝えて」

「はっ!」

「申し上げます! キース隊からの伝令です! 不測の事態が起きた場合を考えた時、キース隊だけで対応出来るかどうかの確認をしたいとの事!」

「大丈夫、何かあったら駆け付けられる位置にはいるから。キース君の近くにマックさんもいるわけだし、退却のタイミングは見極められるはずよ」

「申し上げます! キース隊からの伝令です! 王妃様不在時の士気低下を考慮した場合の進撃ルートを不安視したいとの事!」

「だからそれは――」

「申し上げます! キース隊からの伝令です! 王妃様御到着ならば王妃様もしくはリンレイ様に前線の指揮をお願いしたいとの事!」

「申し上げます! キース隊からの伝令です! 王妃様早く来て怖い! との事!」

「申し上げます! キース隊からの――」

「うるさーーーーい! 大丈夫って言ってるでしょ! 全員戻りなさい!」

 ヴァネッサが流石に怒った。ハッとして天幕の外を見たら、あと十人並んでいた。――あれ全部キース隊の伝令待ち?

「……レナ、そのキース隊? どういう隊なの?」

「前線任せて大丈夫な部隊だよ?」

「これで!?」

 奥が深いなハインハウルス軍。――ライトは謎の感心をするのであった。



「この規模の駐屯地に来ると、前線に戻って来たんだな、っていう気持ちになりますね」

 軍議も終わり、再びしばしの自由時間へ。ソフィのそんな一言。

「私もです。王妃様の駐屯地は別格ですよね」

 ネレイザ。最前線経験者らしい感想である。

「あっ、団長誤解しないで下さいね、私は今、ライト騎士団として、団長と共に戦える事を誇りに思っていますので」

「私もよ、紆余曲折あったけどマスターの事務官を誇りに思ってるから」

「大丈夫、変な気持ちで見てたりしないから」

 ずい、と詰め寄りながら二人が念押し。苦笑しつつも内心は嬉しい言葉である。

「うーん……」

 一方で真剣に考え込んでいたのはサラフォン。何かあったの、と訊こうとすると、

「王女様、王女様って国家予算はどの位動かせますか? ライト騎士団が駐屯地を作るとしたら、ここに負けない、それ以上の規模を作りたいんです。無駄遣いはしないけど、でもある程度は資金は必要なので」

「その辺りの心配はいりませんわ。お父様をつつけば幾らでも。サラフォンの腕を信用してますわ」

「何の計画立ててるのそこ!?」

 謎の対抗意識を燃やす二人がいた。何故ヴァネッサを越えなければならないのか。普通は越える物じゃない。

「! 長、あれを見ろ!」

「!? どうしたドライブ、何か異変が――」

「テイマーだ! 大型の犬魔獣を連れてるぞ!」

 がくっ。――事件を発見した勢いで呼ぶから何かと思えば。

「最前線にもいるんだな……少し交流を深めてくる」

「大丈夫か? 無言で見つめるだけとかまた誤解を生むぞ?」

「最近はいつでもおやつを携帯している」

 そう言うとドライブはスッ、と誇らしげにポケットから犬用おやつを見せた。――成長したんだな。後退しないよりマシか。

「初めましてッス! 自分、ライト騎士団に入団が認められたドゥルペっていうッス! 人間の友達百人目指してるッス! 清き一票をお願いするッス!」

「君は一体何処の選挙に出馬したんだよ……」

 一方で人間と魔族の垣根をぶち壊して笑顔で挨拶周りをするドゥルペと、心配で付きそうロガン。その躊躇の無さと人柄に、挨拶された側も戸惑いは出来ても敵意や疑いを持つ事はなく、挨拶を返していた。

「というか皆自由過ぎない?」

 後二日で魔王を倒しに行くというのに、何だろうこの感覚。

「はっはっは、良いではありませぬか。今から既に緊張していては、出来る物も出来ないという話」

「まあそうなんだけどさ」

「それに、お嬢が言っていた事は本気ですぞ。お嬢がいる。主力がいる。我々がいる。負ける要素が今の所見当たりませぬからな」

 確かに、ライトが今まで参加してきた任務の中で、当たり前だが飛びぬけて戦力が揃っている。ここに居ないだけで城を取り囲んでいる部隊も大勢いるはずだ。

「まあ、そう言ってしまうと残念なフラグになってしまうわけですが」

「それここで言う!?」

「ライト様。城に戻りましたら姫様の部屋の次に掃除をしに伺いますからね……」

「そこはそこで何だかフラグの立て方微妙だし!」

 何だかんだでリバールは冗談が好きである。

「先輩、無理をしなくてもライト様のお部屋は必要でしたら私が掃除しますから」

「そこで謎の対抗心!?」

「現実的な落とし所を考えたらあたしがするのがベスト」

「ジア大丈夫だそもそも俺悩んでないし自分で掃除するし!」

「皆の間を取ったら私とイルラナス様で掃除だな、旦那様」

「安心してライトさん、私も掃除する体力位ちゃんとついたから!」

「何の間が君達なのかどう計算したのか!?」

 最早カオスになってきた。俺の部屋そんなに汚いと思われているのか。

「あっはっは、いいじゃん。ライト君ハーレムまっしぐら」

「その感想もどうかと思いますがね!」

 勿論その感想を抱くのはレナである。

「でもま、私達はいつも通り。そういう事でしょ。今まで通り皆で任務をこなして、皆で帰る。きっとそういう事なんだよ」

「……そう、か」

 気付けばライトの緊張は薄らいでいた。いつも通りの仲間達に囲まれ、いつも通りの立ち位置で。

「なら、俺がする事も、いつも通り。そうだよな」

「そゆことよ。君のする事も、私のする事も、皆のする事も。楽な任務だって今まで無かったわけだし、何とかなるでしょ」

 気持ちを改めて、前を向く。今までの集大成の戦いが待っている。緊張して失敗なんて、有り得ない。

「それじゃ、いつも通り景気付けにあそこの入浴所で皆でハーレム混浴しますか」

「今までそんな景気付け一度もしたことねえええ!」

 そりゃ確かに出来れば元気一杯……いやそうじゃなくて。

「ん? あの時の混浴が忘れられないから私と二人っきりがいい?」

「そういう意味合いでも無くてだな!」

 と、レナともいつも通りの(?)やり取りを繰り広げていたその時だった。

「あっ! レナじゃん! ひっさしぶりー!」

 そんな元気な声が、その場に響き渡るのであった。

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