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第三十四話 演者勇者と魔具工具師4

「よくぞ参った勇者ライトとその仲間達よ。私はヨゼルド。ハインハウルス王国の国王だ」

 ライトがサラフォンの銃の技術を訓練場で見た翌日。ライト騎士団全員が、ヨゼルドの命により玉座の間へ集められていた。

「あのすみません、なんで今更自己紹介を?」

「最近ライト君に会う時はなんやかんやでドタバタしていたからな。偶にはちゃんと国王としての私を見せておかないと」

 キリッ、と凛々しい表情を見せるヨゼルド。そんな御託を述べている時点で何の意味もない気がしたが、一応言わないでおくライトであった……のだが、

「お父様、私達を全員集めたということは、正式な任務があるのでしょう? そんな嘘臭い詐欺師みたいな表情を作ってる暇があるなら説明を早くして下さい」

「娘が冷たい……任務内容を娘の心を私向けに柔らかくするに変えたい……」

 エカテリスの一言で、凛々しい表情は一気に崩れ、半泣きで落ち込んでしまった。

「王様ー、姫様がツンデレに目覚めたって想像して乗り越えて下さい。ほーら段々ツンデレな気がしてきた」

「む……ぐ……ぬ……アリだな!」

 そしてレナの適当な案で復活した。――本当に何なんだろうかこの人は。何がアリだな、だ。

「では正式な話をしよう。一週間後、キリアルム家で大々的な社交パーティが行われる」

「私も出席しますわ。確か、キリアルム家の創業記念日のはず」

 エカテリスが出席となると、パーティの規模は勿論だが、そのお家柄も相当な物だろう。……ライトはうろ覚えだったが。――えーっと、確か……

「キリアルム家は、古くから宝石商、貿易商として有名な家です。ハインハウルス王国の発展にも貢献しており、王家とも良い関係が築けています」

 スッ、とハルが横に来て、ライトにギリギリ聞こえる程度の声で解説を入れてくれた。――そうか、商店とかそういうので名前を聞いたことがあるんだ。宝石になんてまったく縁がないのに聞き覚えがあるってことは相当だな。

「先日、そのキリアルム家に「雷鳴の翼」と名乗る者から窃盗予告が届いたのだ。「キリアルム家が所持している宝の中で、一番高価で美しい物を頂きに行く」と」

「うわー、予告状送ってくるとかナルシストじゃん。盗みたいならこっそりやればいいものを、今時そんなのいるんだ」

 呆れ顔のレナ。ストレートな言葉だが、他のメンバーも大小あれど似たような感想を持った様子だった。……ただ一人を除いて。

「雷鳴の……翼……」

 難しい表情を見せたのはリバールだった。

「リバール、聞き覚えがあるのかしら?」

「はい。今から五十年程前に、その名を轟かせていた怪盗です。目当ての品には必ず予告を出し、傷付けることなく奪い去っていくとか。裏稼業では伝説の名前の一つかと」

 今でこそ裏稼業にはいないものの、血筋を持つリバールだからこその話であった。確かに五十年も前なら、一般の人間は知らないのが当たり前だろう。……って、

「五十年前に名前を轟かせてたの? それじゃ今いくつなんだ?」

 当時どんなに若かったとしても、五十年も経てば七十前後となっているはずである。

「そもそもが五十年前を最後に、その名前は聞かれなくなったと聞いています。引退か死亡かわかりませんが」

 それが五十年ぶりに名前を出しての予告状。年老いての復活か、名前を継いだ者か、偽者か。

「何にせよ、予告を出された以上、今回の社交パーティが狙われる可能性がある。キリアルム家の他にもラーチ家、ナトラン家など多くの貴族が出席するパーティを危険に晒すわけにもいかぬのでな。そしてエカテリスが参加するパーティで危険な目など起こさせてはならない。何よりエカテリスが危険な目に合うなどあってはならない。大事な事なので二回言いました」

「…………」

 本当に真面目な表情で最後まで言い切るので何とも言えなくなるライト騎士団の面々である。――大事に想っているのはいいことだしわかるけど。

「まあここまで言えばわかるだろう。ライト騎士団に、キリアルム家創業記念日パーティの警備をして貰いたいのだ。今城内にいる小隊単位で一番優秀なのは君達なのでな。大概のハプニングにも対応、対処してくれると信じている」

「わかりました、早速調査、準備に――」

「あ、ライト君、君は参加出来ないぞ」

「え?」

 参加出来ない? 弱いからかな?

「元々このパーティ、ライト君の社交界デビューの場にする予定だったものでな。つまり、ライト君はパーティそのものに参加して貰うのだ」

「え……ええ!? 俺、高級貴族のパーティにデビュー予定だったんですか!?」

「勿論勇者としてな。権力を持つ人間の前に存在をアピールするのも君の任務となる」

 そう言われてしまうと何とも言えなくなってしまう。元々の仕事というか立場というか、その為の存在なのだ。――仕方ない。

「当日は勇者として王女であるエカテリスをエスコートしての会場入りだ。……もしも、エカテリスに恥をかかせようなものなら」

「ものなら……?」

「ショックで私が泣くぞ」

「…………」

 怒られるわけではないのだが、それはそれで成功させないといけない気がしてくる内容だった。ふとエカテリスを見れば、楽しそうにこちらを見ていた。

「当日のエスコート、宜しくお願いしますわね、ライト」

「わかって欲しいんだけど、俺、そういう場のマナーとか何も知らない……」

「パーティまで一週間ありますわ、その間に練習しましょう。服もオーダーメイドが必要ですし。両方とも私が監修しますから、安心して」

「宜しくお願いします」

 覚悟を決めよう。勇者って大変だな……と、ついライトは他人事のように考えてしまった。

「勇者君頑張れー、私は会場警備しつつ陰ながら応援してるよ」

 そして本当に他人事の応援をするレナ。まあいつも通りなのでライトとしても驚きはない。……なかった、のだが。

「? 何を言ってますの、レナも当然パーティに参加ですわよ」

「……へ?」

 普通のトーンでツッコミを入れるエカテリス。そして呆気に取られるレナ。――珍しく、レナの予想外の展開が待っていた。

「貴方はライトの側近で護衛、ドレスアップして同伴に決まってるでしょう。私もリバールを連れて行きますもの」

「ちょ、え、嘘でしょ、私そういう場のマナーとか何も知らない」

「なら貴方もライトと一緒に練習ね。ドレスもこちら持ちでオーダーメイドして差し上げますわ」

 笑顔のエカテリス。一方のレナは分かり易く嫌がってるのが表情から見て取れた。そんな息苦しい場所行きたくないと顔に書かれている様だった。

「私も練習って……え、リバールはもう会得してるわけ?」

「はい。レナさんと同じで私も最初は不慣れでしたが、姫様のドレスアップ姿を傍で見れる喜びの為なら頑張れますよ」

「あんたと一緒にしないで……いやちょっと待って、こういう場合、側近ならマーク君の方が適任なんじゃ」

「そうかもしれませんが、僕じゃ護衛が務まりませんって」

「でもほら、それを差し引いても私だよ?――あっそうか、雰囲気的にソフィの方が適任だって」

「万が一「アタシ」になったらそれこそ適任どころじゃなくなって困るでしょう? レナじゃないと駄目よ」

 ことごとく可能性を潰され、レナはガックリと項垂れた。――落ち込むレナというのは斬新だった。

「……勇者君さあ」

「……何?」

「一緒に駆け落ちしない? どっか遠い世界に行こうよ」

「どんだけ行きたくないんだよ!?」

 かくして、ライトの(レナを引き連れての)社交パーティデビューが決まったのであった。



「……というわけなので、少しの間、こちらに来て訓練する時間が取れないかもしれないです」

 そして社交界デビューが決まった日の午後。ハインハウルス王国城下町、武器鍛冶アルファスの店……の裏庭。今日も今日とて、ライトはアルファスに稽古を付けて貰っており、ついでに事情を説明していた。

「成程な、まあそういうのも通る道だな。会得してどんだけ得があるかはわからねえけど損はないだろ、俺の事は気にするな。最初に言った通り、来れる日だけでいい」

「はい、ありがとうございます」

 勿論素振りは続けるつもりだし、時間があればちゃんと来るつもりでいた。――少しでも強くなりたいという想いの他に、剣を振ることが体に馴染み始めているライトであった。

「お疲れ様です。こちら、どうぞ」

「ありがとうございます」

「サンキュ」

 と、訓練終わりを見計らって、セッテが冷たい飲み物をライトとアルファスに持ってきてくれる。――これも毎回なのだが、見事なセッテの気遣いだな、とライトは感心していた。……いつでもいるのには慣れた。

「それで……その、あちらの方は、今日はどうなされたんです?」

 チラリ、とセッテが促す先には、引き続きガックリきているレナの姿。セッテは紆余曲折あってレナを少々快く思っていないのだが、そのセッテが心配するレベルの様子。――護衛として同行して貰ったのだが、果たして護衛として機能していたか疑問になる。

「ああ、あれはですね」

 簡単にライトはアルファスとセッテにレナの今の状況を説明。

「なんつーか、あいつらしくてある意味安心するわ」

 ストレートなアルファスの感想。ライトも苦笑するしかなかった。

「アルファスさんも比較的私寄りの人間じゃん……わかるでしょうよ……」

「わかるけど仕事なんだから割り切れよ」

「しかも今回行くってことはこれから定期的にあるってことじゃない? そんな定期的にキラキラした場所で「ワタクシ今日も一億円で買い物したザーマスザマス」とか飛び交う場、その内耳が腐るよ……」

「お前は一体何のパーティに出席するつもりでいるんだよ……」

 レナの想像する社交界は随分内容に偏りがありそうだった。……ライトも想像しか持っていないので間違っていると断言も出来ないのだが。

「でも、エカテリス様公認の方にオーダーメイドのドレスを作って貰って参加するのでしょう? 私は女として、興味と羨ましさの方があります」

「あ、セッテさんはそういう風にやっぱり思う? 俺も喜んで参加するわけじゃないけど、でもどういう物なのか、っていう興味があることはあるよ。後はそうだな、美味しいもの出るのかな、とか」

「ふふっ、食べ物の興味はわかります。帰ってきたら、感想聴かせて下さいね。女性陣がどんなドレスだったかとか」

「うん」

 そんな会話をして、さあそろそろ今日はお暇しようかな、と思っていると――

「あれならセッテも参加しようよ。勇者君のお友達枠で通れるでしょ」

 レナからまたとんでもない案が飛んできた。

「いやレナ、セッテさんには悪いけどそれは無理だろ……」

「セッテは姫様も知ってるし大丈夫だって。今度のドレスのオーダーメイドの時に一緒においで、姫様に頼んであげるからさ。もうこうなりゃヤケだよ私は。興味あるんでしょ?」

「ありますけど……でも流石に迷惑じゃ」

 相手の損得は兎も角、兎に角誰かを引きずり込みたいレナ。流石のセッテも遠慮気味であった。――が、レナはセッテを動かす方法を知っていた。

「ああそっか、エスコートして貰わないとなのか。その点も心配ないよ、アルファスさんがいるじゃん」

「え?」

「ぶっ、ちょ、待てお前」

 アルファスが口に含んだ飲物を吹き出しそうになる。

「アルファスさんは勇者君の剣技の指導者だから、それこそ通れるよ。アルファスさんの「パートナー」としてパーティに参加。どうよ」

「アルファスさんの婚約者として社交界デビュー……私達の仲は、世界中から祝福される……」

 アルファスという要素を盛り込むことで、セッテは常識の物差しが折れるのであった。既に脳内で色々なシーンが再生されている様子。

「レナ、テメエ……とんでもないものぶっ込んで来やがったな……! おいセッテ、お前が行くのは勝手だが俺は行かないぞ」

「大丈夫ですアルファスさん、私、当日までに一生懸命マナーの勉強しますから、恥はかかせません!」

「そこの心配じゃねえええ! 第一お前俺の婚約者じゃねえし! おいライト、お前も何か言え!」

「えっと……その……最悪、アルファスさんも俺と一緒にマナーの勉強、します?」

「そういうことじゃねえわ! 何か言えって言ったけど悪化させろとは言ってねえよ!」

「大丈夫だよアルファスさん、セッテ可愛いからドレス着せたら映えるって。心配ないって」

「レナさん……! 良い人だったんですね……! 私、誤解していました……! アルファスさん共々当日まで宜しくお願いします!」

「うん、任された」

「任すな任されるな! 何なんだお前等!?」

「はは……ははは……」

 新たに生まれるレナとセッテの友情、届かないアルファスの怒り、乾いたライトの笑い。場が収束するのには大層時間が掛かった。そして――

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