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第三百五十四話 演者勇者と聖剣13

 私は剣である。

 剣とは何かを斬る物であり、決して飾り物ではない。持ち手が斬りたいと思う物に、その力を存分に振るう存在である。

「お前は俺の最高傑作だよ、エクスカリバー」

 私を作ったその男――ケイルは、私にそう語り掛けてきた。

 冷静に考えれば変な話である。普通剣は話さない。だから剣に話しかけたりはしない。でもケイルは、私に自分の意思が通じると信じて止まないかの如く、私に語り掛けてきた。

「だからお前は、その力で、伝説を作ってくれ。お前なら出来る。何せ、俺の最高傑作だからな」

 今思えばそのせいなのかもしれない。剣という存在でありながら、自我というのが目覚めたのは。そして、そのケイルの願いに応えたいと思う様になったのは。

 だが、私は最高傑作「過ぎた」。それ故に、私を使いこなせる人間はいなかった。それどころか――私を使った人間は、皆私に込められた力に耐えきれず、壊れていった。

「どうして……どうしてなんだ……! どうすれば、認めて貰える……!?」

 そしてケイルは壊れていった。私などを作り出さなければこんな事にはならなかったのに。彼は、私の知るケイルでは無くなっていった。その才能だけを秘め、爆発させ、壊れていった。

 だから私は己を封印する事にした。誰にも使わせない。そうすれば、もう誰も傷付かずに済む。そして、長い長い眠りについた。誰かに持って欲しいなどという想いは捨てた。

 だが、長い年月が過ぎ、私のその鍵をこじ開ける人間が現れた。非力なその男は私に説教をして、本来の存在価値を思い出させた。その男は――何処か、ケイルに似ていた。だからこそ余計に壊させるわけにはいかないと思った。制約を付けて、使わせない様にした。

 しかしそこでその男が終わる事は無かった。その男は、私を「扱える」人間を見出した。ケイルの想いを受け継いだ様に、私の居場所を作り上げようとしていた。

 私はそれも拒んだ。そんな物は夢物語だと。いつかは壊れてしまうと。このケイルに良く似た人間を、悲しませたくないと。

 でも彼らはそれ以上に私を認めてきた。語り掛けてきた。力を振るって欲しいと、共に戦って欲しいと。私の自我を――ケイルの願いを、再び呼び覚ましたのだ。

 そして今一度、私は剣として、この場で、力を振るう。彼らの為に。――ケイルの為に。



 ズバァァァン!――神々しい刃が、激しくカリバーンとぶつかり合う。エカテリスやアルファスが駄目だったわけではないが、でも確実に今、それ以上の光でカリバーンに戦いを挑んでいた。

「ローズ! それに……!」

「大丈夫です師匠! 私達が、カリバーンを喰い止めます!」

 その手に、抜刀した状態のエクスカリバー。強引に抜いた様子もない。エクスカリバーが、納得した状態で、ローズに使わせている。

「はああああっ!」

 そのまま始まるローズとカリバーンの激闘。ローズの手でうなる様にそれでいて鋭くエクスカリバーが刃のオーラを弾かせていく。

「あれが……エクスカリバーの、本気なのか……」

 ライトは自分で使った事があるからわかる。自分の時は、手加減されていた。自分が壊れない様に。ヴァネッサと一緒の時ですら。勇者だから、ローズだから、今エクスカリバーは、全てを解放出来ている。

(魔剣なんかじゃない……本当に、勇者の為の剣じゃないか……!)

 胸が熱くなった。三百年という長い年月を過ごし、ついに巡り合えたのだ。

「そういう意味じゃ、「あいつ」にもその資格はあるのかもしれねえぞ」

「え?」

 一度ローズにその場を預け、レナの援護に入ったか、アルファスがライトの横に。そのアルファスが促したのは。

「まさか……カリバーン?」

「エクスカリバーと同等、もしくはそれ以上だろうな。それこそローズの嬢ちゃんじゃなきゃ扱えない。ヴァネッサさんなんて悔しがるぜ、自分が持てない激レア剣なんてな。この勝負、勝った方がある意味本物だ」

「……!」

 同じくケイルが想いを込めて生み出した「聖剣」、カリバーンであった。エクスカリバー程ではないが自我を持ち、こうして想いを遂げる為に力を解放している。――二本とも同じ人間が作った物だと思うと、やりきれなくなる。

 二本両者の想いを両方叶える事は出来ない。ならせめて、出来る事は決まっている。

「うっ……!」

「!?」

 ハッとして見れば、ローズが苦戦し始めていた。――いや違う。これは苦戦していると言うよりも、

「要所要所でエクスカリバーの力を扱いきれてない。流石に初日からマックスで使うには経験が足りないよ。翻弄されてる」

 今度はレナの解説が入った。――そう、ローズはあくまで扱える「素質」があるだけで、まだ基本的戦闘の経験も足りない。その強大な力に体はついていけても、感覚がついていけていないのだ。

「エクスカリバー、駄目! 手加減しないで!」

『!』

 どうすべきか迷う前に、ローズがそう叫ぶ。――ローズ本人が気付いている。自分が上手く扱いきれてない事に。そして正に今、エクスカリバーも経験不足の為に力をライト使用時の時の様にコントロールしようとしていた所なのだろう。

「本気で倒さなきゃ意味がないよ! 本気で倒して、私とエクスカリバーが最高のコンビだって証明しなきゃ、カリバーンも……ケイルさんも、納得してくれない!」

『……ローズ』

「お願い、やらせて! 私なら大丈夫だから!」

『わかった。――信じるぞ』

「うん!」

 体制を立て直し、再びローズが地を蹴る。エクスカリバーの力を一身に纏い、戦いを挑む。エクスカリバーの為に。カリバーンの為に。ケイルの為に。

「レナ!」

 その姿を見て、ライトは直ぐにやるべき事を決めた。せめて自分に出来る事。自分がして貰った事。

「俺一人じゃ無理なんだ、だから一緒に――」

「だったら、今回はアルファスさんでしょ」

「え?」

 そしてライトの想いを直ぐに見抜いたレナが、そう提言する。

「ローズちゃんの師匠はライト君。ライト君の師匠はアルファスさん。今回は、そういう話じゃない? アルファスさんならライト君の身も安心だし」

 その言葉を聞いたアルファスが、ふぅ、と軽く息を吐く。

「ライト行くぞ。長引かせるメリットなんざねえ」

「! はい! ありがとうございます!」

「礼を言われる話でもねえよ」

 そして内容を察し、直ぐにライトを促す。この場の戦況をレナとエカテリスに任せ、ライトとアルファスはローズの下へ。

「はああああ!」

 一方のローズは、技術不足をひたすらに気合だけでカバーしていた。勇者の素質と精神論だけでエクスカリバーを振るう。カリバーンには喰いつくが、戦況が逆転はしない。ズバァン、という激しい衝突音と共に吹き飛ばされ、再びダメージと共に着地。

「ローズ!」

「師匠……!?」

 そこに、ライトは待っていた。ライトはそのままローズの手の甲越しに、一緒にエクスカリバーを握る。

「諦めない気持ちは凄い。エクスカリバーを解放したのも凄い。でもだからといって、一人で頑張らなくていい。俺達は仲間だ。いつだって、助け合うんだ。ライト騎士団は、そういう場所だ」

 ライトの出した結論は、補えない技術をカバーしている精神を底上げするという物だった。傍にいる。隣にいる。一人じゃない。それだけで、人は強くなれるから。

「ライトの弟子だってんなら、もっと人に甘えろ。それが申し訳ねえと思うなら、後々立派になってから返してやればいい」

 そして反対側からアルファスが同じくローズの手の甲越しに、一緒にエクスカリバーを握る。

「大師匠……!」

「これからは空いてる時間はお前も俺の店に来い。足りない技術、少しでも埋められる様にしてやる。後大師匠は止めろって言っただろ」

 両隣で師、更にその人の師が自分を支えてくれている。自分は一人じゃない。わかっていたつもりの事を、ローズは改めて自覚する。

「お二人共、ありがとうございます! エクスカリバー、行くよ!」

『ああ』

 ローズが改めてエクスカリバーを強く握り締める。するとエクスカリバーが今までよりも更に光り、その光の刀身が伸び、建物並の大きさとなる。

「いっけええええええ!」

 振り下ろした刃が、カリバーンとぶつかり合う。数秒間激しくぶつかり合ったが、やがてパリィン、という音と共に、カリバーンは粉々に砕け散った。ローズの、ローズとライトとアルファスの、そしてエクスカリバーの勝利の瞬間であった。


『ア リ ガ ト ウ』


 砕け散ったカリバーンはまるで天へ召される様に、跡形もなく消えていった。そして消える直前、そんな声が聞こえた気がした。そして……



「報告書は読ませて貰った。ローズ君がエクスカリバーに認めて貰う為にアイアコルへ行って、騒動に巻き込まれてしまったらしいな。災難だったが、解決出来て何よりだ」

 ハインハウルス城に帰還し、流石にあれだけの騒動を起こしておいてヨゼルドへの報告を怠るわけにはいかない。というわけでこの場を設けて貰ったのだが。

「でも国王様、お蔭で私とエクスカリバーの絆が深まりました! 勇者として「聖剣」エクスカリバーを使いこなせる様に、これからも精進します!」

 実は聖剣を破壊して、エクスカリバーの正体は魔剣でした……とは言えず(言うべきかどうか話し合いをしたが、ローズが頑なに言わない方向性を譲らなかった)、フェイクの報告書になってしまっている。

「しかし、アイアコルに突然現れた謎の剣、か。エクスカリバー並みの力を持っていたらしいではないか。正体が気になる所ではあるな」

「すみません、私がエクスカリバーと一緒に壊してしまったので……でもエクスカリバーは無事です! 聖剣ですので! もうこうして自由に抜き放題です!」

 シャリン、と何の障害もなくローズはエクスカリバーを抜く。――そう、抜ける様になったのはいいのだが。

「魔剣を極秘に作っている店も検挙したそうだな」

「でもエクスカリバーは聖剣でした!」

 …………。

「ローズ君」

「はい!」

「エクスカリバーと分かり合えたそうだな」

「はい!」

「エクスカリバーは」

「はい!」

「ローズ君は」

「はい! はい!」

「そのだね」

「はい! はい!」

 …………。

「私をダンディだと思っているかね?」

「はい! はい! はい!」

 …………。

「あ……あれ? 私、その……」

 エクスカリバーの秘密を守ろうと必死なのはわかるが、必死過ぎて怪しさ爆発状態であった。ライト達は頭を抱え、

「ふふっ……あっはっは!」

 ヨゼルドは我慢出来なくなったのか、大きく笑った。

「あの、国王様、その……」

「安心したまえ、私は君達を信頼している。私は直接何も見ていない。だから報告書を信じるだけさ。――ローズ君の成長は嬉しい限りだ。魔王との決戦も近い。これからも頑張ってくれたまえ。勇者として、「聖剣」と一緒に」

 そう告げると、笑顔のままヨゼルドは玉座の間を後にした。

「あ、あの、師匠、私、もしかしてやらかしちゃいましたか……?」

「大丈夫。国王様は、あの言葉の通り、俺達を、ローズを信じてくれてるよ」

 裏で何かを隠している事を込みで、ね。

「それに、何があったとしても、ローズが勇者として、エクスカリバーを聖剣として使いこなせばいいだけの事。そのつもりだろ?」

「勿論です! 私は勇者として、聖剣エクスカリバーと一緒に、この世界を平和にしてみせます!」

「その意気だ」

 こうして、勇者ローズは、改めて「聖剣」エクスカリバーを手に入れたのであった。

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