第三百五十話 演者勇者と聖剣9
エクスカリバーと二人だけで話をした後、残りのメンバーにライトから掻い摘んでの説明。
「成程ねー、確かにそういう事なら今までの事も全部辻褄が合うね。魔剣、か」
ふーむ、といった感じでレナがライトが持つエクスカリバーを改めてまじまじと見る。
「今後だけど、まずは聖剣カリバーンを見つけたい。ここまで来たんだ、エクスカリバーの心残りを無くしたい。その後の事は……まあその時にもう一度」
言葉を濁すライト。(いい意味で)やりたい事は決まってる癖に、という目で見るレナ、エカテリス、リバール、ネレイザ、アルファス。
「アルファスさんもすみません、もう少しお付き合い頂けたら」
「ここまで来て途中で帰るとか言わねえ安心しろ。お前の指示に従うさ、団長殿」
「何かアルファスさんに団長とか言われると変な気持ちなので止めて下さい……」
現メンバーの中では最強、軍経験、しかも指揮を執る経験もあるので何一つ勝てる要素が今更の再確認だが無いので、そう言われてしまうと何処か身構えてしまうライトである。
「私も呼び方変えてみようかなー、えーっと」
「コラァァァその呼び方は禁止! 絶対駄目、どうしてもって言うなら私が先にそう呼んでから!」
「……まだ呼んでないけどネレイザちゃんは私が何て呼ぶと思ってたの?」
「アルファスさん、私も呼び方変えましょうか! もっと距離が近くなる感じで」
「じゃあ俺はお前の事三センチって呼ぶわ」
「その距離じゃなくてですね!?」
そんな会話をしつつ、ある程度の資料を回収し、一度宿へ戻る事に。
「師匠。私がエクスカリバー、持ってもいいですか?」
道中、ローズのその申し出。ローズの目は、エクスカリバーと距離を縮める事を諦めていない。
「エクスカリバー、いいよな?」
返事はやはりないが、そうライトは問いかけた後にローズにエクスカリバーを手渡す。
「エクスカリバー。大変だったんだね。何も知らないで、色々気持ちをぶつけてごめんね」
ローズは両手でエクスカリバーを前に持ち、語りかけ始めた。
「でも、私の気持ちは変わらないよ。寧ろ、私は勇者だから、貴方の事を持てるんだよね? だったら、私が貴方を一人にさせない。私がずっと持っててあげるから、だから、そんなに自分を追い詰めないで」
「それに、何の支障もなく持てるのがローズ一人とまだ決まったわけではありませんわ」
と、口を挟んで来たのはエカテリスだった。勝ち気な目でローズが持つエクスカリバーを見る。
「私は王女であると同時に、一人の武人、騎士としてもあるつもりです。魔剣だから持てないなんてそんな軟弱な事は言いたくありませんわ。例え今は持てなくとも、必ず持てる様になってみせますわ」
誰かが持ってその持ち手が壊れてしまうのは、エクスカリバーにとってのトラウマ。断言をしているわけではないが、そのトラウマも消してみせると二人は言っているも同然である。
『…………』
エクスカリバーは何も言わない。嬉しいのだろうか。これ以上はもう何も言うなと突き放したいのだろうか。表情があるわけではないので無言だとやはり伺えない。
「それに、もう一つの懸念点も心配いりませんわ。大人な女性が好みなのでしょう? 私はお母様の血をしっかり受け継いでます、自分を磨く事も忘れてません、後数年で満足させてみせます」
「エカテリス、そこは話半分でいいから……」
「あら、ライトは私が大人な女性になるのは嫌かしら?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
寧ろ今ですら十代後半なのに綺麗なのだから、今から更に磨きがかかったらどうなるんだろう、という興味はある。エカテリスに良く似ている母親であるヴァネッサも年齢を微塵も感じさせない若さを保っている。
「なら問題ありませんわね。ライトも楽しみに待っていて」
「う、うん」
勝ち気な笑顔で、でも真っ直ぐな目でそう言われるとライトとしてもドキリとしてしまう。返事がどもった。何気ないその言葉を良く考える余裕もない程に。
「わあ……王女様、流石です素敵です! 私も王女様みたいに大人な女性の階段を登りたいです!」
「ローズ、今度私の部屋へいらっしゃい。リバールと二人で色々教えてあげるし、私ので良かったらいくつか譲りますわ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ローズ、目出度く今度こそ大人の階段を登る為の師匠を発見。……今度こそ?
「うっ」
その様子を見ていた前師匠ネレイザがダメージを負う。育成に失敗して自然退任(?)している。ネレイザの方がエカテリスよりも差は少ないとはいえ一応年上なのもダメージに繋がっている様子。
「ネレイザちゃん、大丈夫だって。一緒に弟子入りしてくればローズちゃんにも教えてあげられる」
「余計に傷を抉らないで!」
そんな少しだけ現状を忘れにこやかに話しながら歩いていると、鉱山も出口に差し掛かる。時刻ももう夕方。今日は宿に戻ってゆっくり休んで、明日から……
「そういえばエクスカリバー、カリバーンが具体的に何処にあるのかがわかったりするのか?」
ふと気になったので再びローズからエクスカリバーを預かり、ライトはその質問をぶつけてみる。
『流石に具体的な場所まではわからん。この地に戻ったのも久々だ。だが、気配は感じる』
「つまり、この街の何処かにある?」
『そこまでは断言出来ん。だが、当たり前かもしれんがこの街に手掛かりはある』
「なら今度はカリバーンの手掛かり探しで明日はこの街の探索かな」
ライトはエクスカリバーから貰った言葉を仲間に説明。
「あ、じゃあ明日とりあえず皆で図書館行かない?」
と、意外にも最初に意見を出したのはレナだった。
「全員で調べ物したら能率が上がる、とかか?」
「そうじゃなくてさ、私とライト君とネレイザちゃんとローズちゃんで図書館行ったじゃん? そこで軽く昼寝したんだけど、その時変な場所見つけたんだよねー」
「ちょっ、その前にレナさんやっぱり昼寝したの!? あの時座って休んでただけだって言ったのに!」
「ごめんごめん、十五分だけだよー。次からは十分にするし、夢の中でネレイザちゃんの恋を応援するから」
「時間の問題じゃない! 後応援するなら現実で!」
「じゃあ今応援する。皆さーん、聞いてくださーい」
「やっぱり現実も止めてええええ!」
ネレイザがレナの肩をグワングワンと揺らして制止する。
「レナさん、変な場所とはどういう意味ですか? 私が先行して調査しましょうか?」
「あー、リバールが出しゃばる程でもないよ。やろうと思えば私でも掻い潜れる。でもそういう仕組みが施されてるって事は」
「重要な何かがある。一般人が利用する図書館という施設に。その点が問題ですわね」
「それならまず明日、全員でそのレナが見つけた場所に行ってみよう」
「成程な。一見普通のロープに見えて魔力が込められてる」
翌日、図書館にて。レナの案内で見つけたその通路を塞ぐ立ち入り禁止の紙とロープ。辿り着いて直ぐにアルファスが反応。――残念ながらライトは違いがわからない。
「アルファスさん、私もわからないんですが、例えばあれに触ったりするとどうなるんですか?」
「試しに触ってくるか? そしたらお前をこの街に置いて俺は帰る」
「何となくわかりました絶対に触りません」
要は憲兵とかその手の人間が捕まえにやって来る、という事である。
「じゃあ、どうやってあの中を調べるか、ですね! エクスカリバーの力でどうにかなるかな?」
「私一人でしたらあの程度のトラップなら感知されずに抜けれます。あ、姫様を抱えながらでも可能です。寧ろ姫様を抱き締めたい」
「マスター、一応私の魔力で強引に抑えらるけど。強力な魔力で塗り替えるの」
「私が燃やしてあげよっか? 一応跡形なく燃やせるよー」
「あー、一応俺は感知されないで斬れるぞ」
「皆強引に入る事に慣れ過ぎてない!? エカテリスが居るよ俺達には!」
ローズは新人なのに既に染まりかけているのが怖いライトである。――というわけで、エカテリスの身分を明かし、上の人間を呼び、あの奥に何があるのかを尋ねる。
「大袈裟な感じにしてしまって誤解を招いて申し訳ありません。記録用の書庫となっておりまして、王女様が見たがる様な品は特に」
勿論顔を出したのはトップである館長。そう笑顔でエカテリスに説明するが、
「私達、この街に伝わる魔剣の伝説について調べてますの。もしかしたらその資料があるかもと思っています。念の為に直接目を通したいですわ」
エカテリスも笑顔で退かない。――館長の笑顔が、一瞬曇る。
「畏まりました。ご案内致します」
だがこれ以上拒むのは無理と判断したか、館長はそう告げ、先頭を歩き出した。――レナが昼寝時に発見したロープの通路に辿り着き、館長はグローブをはめると、それがロープの魔力を防ぐのかその手でロープを握り、外して中に案内する。
通路の奥にある扉を開けると、中の部屋は確かに書庫の様で、本棚がいくつも並んでおり、本がぎっしりと。
「中、確認してもよろしくて?」
「はい。一応私はこの部屋に居させて頂きますが」
「それは構いませんわ。立場上当然ですもの」
というわけで、自然と中にある本をめくってみる作業が始まる。結構な量、果たしてこの中に手掛かりが――
「ライト君ライト君。私達はあっち」
「? 流石にベンチも無いから寝れないだろ」
「……素でそれ言われると流石にちょっと反省するかも」
と、思っていた所でレナが促したのは。
「館長さん?」
「手っ取り早く当たってみた方が早いでしょ。普通の書庫なら魔力込みのロープで立ち入り禁止なんてしないもん。王女様居るのに若干拒んだしね。何かあるって」
というわけで、
「館長さん。少しお話伺っても宜しいですか?」
ライトとレナは入り口付近で待機している館長の下へ。
「館長さんは、この街の魔剣伝説というのは御存知ですか?」
「いえ。立場上お恥ずかしいのですが、出世して館長にはなりましたが、あまりそういうのは知識になくて」
少し恥ずかしそうに館長はそう返した。――なら違う方向性で。
「でしたら……ケイル、という名前に聞き覚えはありますか?」
「!」
その名を聞いた瞬間、隠し切れない驚きの表情を館長は見せて「しまった」のであった。