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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第三百四十九話 演者勇者と聖剣8

「エクスカリバーが……魔剣……」

 魔王を倒す為に勇者だけが持てる聖剣。そう誰もが疑わず、実際に限られた人間しか持てない状態だった。だがその正体は、人々を呪い、持ち手を壊し、そして何より作り手を苦しめ、そしてそしてそれを破壊する為に聖剣が作られし程の存在だった。

「三百年の間に情報が歪み、軍の調査機関もその情報を得てエクスカリバーを聖剣と認定したのでしょう。今の今まで誰もこの部屋に入れなかったのですから致し方無かったと思われます」

 冷静なリバールの分析。だが今は、それよりも。

「エクスカリバー、本当なの?」

 ローズがエクスカリバーに語り掛ける。勿論ローズの問い掛けには答えない。

「あの、よくわからないんですが、ローズさん持っていて大丈夫なんですか……!?」

 ローズを心配してか、ハッとした様子でセッテがアルファスに尋ねる。最もな心配ではある。

「断言は出来ねえが、多分大丈夫だろ。ローズの様子を見る限り、勇者、もしくはそれに程近い能力者である事は間違いねえ。あれならどんな魔剣を持ったって駄目になったりはしないだろうな。勇者しか持つ事が出来ないって話だったが、ある意味それは魔剣だったとしても同じだったわけだ。それに――」

「今までずっと俺が持ってました」

 そう言ってライトが近付き、ローズに近付き、エクスカリバーを手渡す様に促す。ローズもライトの目を見て、迷わずライトにエクスカリバーを手渡した。

「エクスカリバーからしたら「駄賃」だったでしょうけど、俺からしたら三回、こいつは俺を助けてくれました。それこそ何の耐性もない俺の為に、加減をして、気を使って、俺に使わせてくれたんです。今更誰かを呪うとか壊すとか考えられない」

 やろうと思えばとっくの昔にそうなっていただろう。でもしなかった。何より無意味に誰にも抜かせなかったのは、エクスカリバーが誰かを駄目にしたくないという想いからと考えれば辻褄が合う。

「まー、そう言われちゃうと私も助けて貰った身になるのかな、ライト君の言う通りだと思うよ。ただ、そうなってくると」

「この手記と、伝説は何なのか……という事になりますわね」

 だがその手記も伝説も間違いだとは思えない。一体何を信じたら……と困惑気味の中、

「ごめん皆、ちょっとエクスカリバーと二人だけにして欲しい。――話してくれよ、エクスカリバー。ここまで来て、もう黙ってる必要もないだろ」

 ライトは一人、迷わずそう切り出す。幸い鍛冶部屋とは別に就寝する為の部屋もあったので、エクスカリバーの返事を待たずライトはそのままエクスカリバーを持ったままその部屋に移動。三百年経って古ぼけていたがベッドだと思われる物に腰掛け、隣にエクスカリバーをゆっくりと置いた。

『お前は、ケイル――私を作った人間に、良く似ている』

「そうなのか?」

 そしてついに、エクスカリバーが再び口を開いた。

『ああ。お人好しで困ってる人を見捨てられない、努力家でその直向きな真っ直ぐさが人を惹き付けた。まあお前とは違ってハーレムを作ろうとはしていなかったが』

「待て別に俺も作ろうとはしてない」

『でも本当は?』

「本当も何も!」

 何その内緒にしておいてあげるからみたいなテンション。

『そしてお前ともう一つ違う点は、武器鍛冶としての才能があった所だな。非力な自分が誰かの為になるのならと惜しみなくあいつはその才能を誰かの為に使い続けた。あいつ自身も自分自身がもっと高みを極めれば、大きな平和に近付く。そう信じて止まなかった。……恐らくそんな想いの中で』

「お前を……作った」

『勿論私は出来た後の事しか知らないが、だがケイルを見ていれば想像に容易かった。あいつは私に言った。その力を存分に使って、持ち手を大いに助けて欲しいと。――前述通り人には好かれていた、私を正義の為に使おうとしてくれる人間はケイルの周囲には大勢いた。私は剣。武器だ。全力でその力を振るう事が役目。その力を大いに振るった。だが』

「お前の力に耐えられる様な人間はいなかった……のか」

 使った経験からあるからわかる。エクスカリバーは最早兵器に近い力を出せる。あれを迷わず振るう度に放出していたら、持ち手はとてもじゃないが精神的にも体力的にも持たない。

『結果、何人もの人間が潰れ、壊れ、再起不能となった。私は別に悪い事をしたとは思わなかった。使いこなせない人間が悪い。私を使いこなせれば全ての戦局を操れるのだから、使いこなせない方が悪いと』

「だがその理論は実際に使った人間、その周囲の人間、そして何より……ケイルさんには通じなかった」

 俺が何も知らずそっちの立場だったらどうだろう。使い手の周囲ならば何故警告してくれなかったとケイルさんを責めてしまったかもしれないし、ケイルさんだったら……きっと、自分を責めただろう。

『結果、あいつは変わっていった。更なる高みが解決に近付くと信じ、私を越える作品を求め続け、私の事をいつしか忘れ、剣を打ち続けた。周りも何も見えなくなった頃、あいつは一本の剣を完成させた』

「それが……聖剣カリバーン」

『最早当初の目的も寝食も全て忘れて作られたその剣は、確かに最高傑作だったかもしれん。だがそれを証明する前に――そもそもカリバーンを作り終えて直ぐ、ケイルは死んだ』

「…………」

 無念だっただろう。才能を開花させ、最高傑作を作り上げたが故に非難され、それを覆す事が出来ずに終わりを迎えたのだ。

『後はお前達の想像通りだ。三百年の月日はいつしか残された記録を薄れさせ、持ち手を選ぶ聖剣の存在だけが伝わり、それに関わっていた私がいつしか聖剣となってしまった。――否定する気力は無かった。私が何を伝えようとも誰も信じないだろう。ならば本物の聖剣となり、誰にも使わせなければいい。そうすれば、もう誰も傷付かずに済む。それだけだった』

「お前は、ケイルさんの名誉を守ろうとしてたんだな……」

 誰も知らない事実を守る為に、聖剣として存在し続けた。それが剣だからとかは関係ない。作ってくれたその人の事に敬意を払っている。感謝している。その想いだけなのだ。

『だがもう二度と誰にも使わせんと決めていたのに、それをお前がこじ開けてきた』

「あー……」

 コリケットでの勇者花嫁騒動の時、新装結界をその力で打ち破った。思いっきり説教をしたら使わせてくれた。

『ケイルに似ていたお前に言われるがまま、私も力を振るってしまった。その時感じてしまったんだ。もしもケイルが認められ続けた世界なら、こういう風になるのではないかと。その想いに、浸ってしまったんだ』

 やっぱり、寂しかったんだな。――そう言いかけて、ライトは止めておいた。

『そして私は聖剣のまま、お前と共にいた。見ていて楽しいと言ったのは本音だ。久々の感覚、新しい世界は退屈しなかった。このままこうしているのも悪くないかもしれんと思っていた。――だが、それは間違いだった』

「間違いなんかじゃ――」

『間違いだろう。本物の勇者が現れた。私を聖剣だと、魔王を倒す為の鍵だと信じて。――私は聖剣ではない。本当は魔剣だ。魔王を倒す為の鍵じゃない。その事実が発覚すれば、私を信じてくれたお前達を絶望させる。何よりも三百年経った今、再びケイルの名が汚れる。これ以上汚れる事が無いと思った名が再び汚れる。私の我儘でな。私はやはり、誰にも言わず見つけさせず自らを封印すべきだったのだ。――もう事実は発覚してしまったがな』

 剣だから表情はないが、その心に響く声は、本当に寂しそうだった。――これが、魔剣だって? 人を呪う剣の想いだって? 何でだよ。意思があるのは普通じゃないが、でも自分を作ってくれた、言わば親を大切に想う子供の気持ちじゃないか。

「頑なにローズに持たせなかったのも、自分が本当は聖剣じゃなかったからか」

『それもある』

「まだ……何かあるのか?」

『? 私の年齢の好みの話はしただろうが』

「それは本当なんかい!」

 誤魔化す為の嘘かと思ったら違った。――どっちにしろローズはいつまでも持てないじゃないか。

『何にせよ、お前に、お前達に嘘をついていたのは事実だ。すまなかった』

「お前が謝る話じゃない。お前は悪くないだろ」

 思う事はあるが、それだけは言える。エクスカリバーは、剣として主人の想いを叶えようとしただけだ。

『私は事を終えたら再び眠りに落ちよう。二度と目覚めない様に。今度こそ、永遠の封印としよう』

「それは――」

『今の話を聞いていてわかっただろう? お前が私を三回も使えたのは奇跡なんだ。私を傍に置くという事は、いつ何処で、どんな事故を巻き起こすかわからない。お前達との旅は、私の最後の思い出だ。いい思い出を貰った。感謝している』

「…………」

 そう言われてしまうとライトには何も言えなくなる部分がある。非力な自分では、大丈夫だと言い切れる物がない。仮に自分がどうなってもいいと思っても、それをエクスカリバーが望まない。――どうにもならない。

『勿論このまま直ぐに終わりにするつもりもない。嘘をついていた分、最後の駄賃も考えてある』

「最後の……駄賃?」

『本物の聖剣。カリバーンの在り処を探そう。私がいれば探し易いはずだ。きっとこの街に――ケイルの思い出があるこの街の何処かにヒントがあるはずだ。私と違って意思はないかもしれんが、ケイルの本当の最高傑作だ。それをお前達の目的に役立てるといい。それがあれば、勇者の力で魔王など一捻りだ』

「エクスカリバー……お前」

『そして、カリバーンを手に入れたら、引き換えに私を……人々を苦しめ続けた魔剣をこの地に、封印してくれ。――頼んだぞ』

 エクスカリバーは冷静に、それでいて……何処か寂しそうに、そうライトに告げるのであった。

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