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第三百四十一話 演者勇者じゃなくなる日3

「……ふぅ」

 挨拶回りも終え、自室でライトはベッドに腰掛け、一息つく。――そう、気付けばここがすっかり「自室」になっていた。

 最初の内は違和感だらけだった。広い部屋、高い調度品、整えられた設備。でも、気付けばそれが当たり前になって、慣れていた。――人間って凄いな、とライトは苦笑。

「さて、覚悟を決めないとな」

 答えは出した。後はこの足を動かすだけ。怖くないと言えば嘘になる。でも、その恐怖と同じ位、いやそれ以上に、今までの経験が、仲間達との冒険が、ライトに勇気を与えてくれた。

 のんびりしていたら、決意が揺らぐかもしれない。まだやらなくてはならない事も残ってる。気合を入れ直し立ち上がり、部屋を出ると、

「ライト君みっけ」

「レナ?」

 レナだった。察するにドアの前で待っていた様子。

「もう、何処か行く時は三十分おきに連絡をくれなきゃ。私以外の女と私抜きで会ったりしてない? 別の女の匂いがする。まさかね? ライト君そんな事しないよね? してたら私、この剣で……ふふ、うふふふふ」

「何でヤンデレ化してんの!?」

 勇者引退したら護衛がヤンデレ化。――なわけがなくて。

「で、どうしたんだ? 俺に用事?」

「あ、うん。確認に来たんだ。進歩具合の」

「進歩具合?」

「ライト君、この城を離れて、旅に出るつもりでしょ。で、関係者各位に挨拶に行って、色々支度してる」

「……あー」

 図星だった。――演者勇者の任が終わり、次にやる事、やりたい事。それは、軍を離れ、一人で旅に出る事だった。

 最初から最後まで、仲間の力を頼ってここまで来た。でもそれは、演者勇者だったから。それが終わった今、自分一人の力で、道を切り開いてみたい。そう思ったのだ。勿論実力が足りないのは承知している。それでも、一人で、出来る所までチャレンジしてみたい。努力して、足掻いてみたい。そう思う様になったのだ。

「いつ頃から気付いてた?」

「んー、勇者の血筋が見つかったって話が出た頃からかな。伊達に君の横にずっといなかったよ」

「御見それしました」

 まさか見抜かれていたとは思わなかった。本当に、最後まで俺の事を見ていてくれたんだな。――感謝の気持ちで一杯になる。何も恩返しは出来ないけど、でも、せめて……

「あ、ちなみに私は支度終わってるから。今日フリーになったおかげでバッチリ、いつでもオッケーよ」

「……はい?」

 ……せめてありがとうの言葉を伝えようと思ったら、予想外の言葉が重なって来た。――支度終わった?

「何の支度?」

「旅に出る支度」

「何処に行くんだ?」

「ライト君が行く所なら何処でも」

「それって、もしかして」

「もしかしなくても」

 一緒に行くって事か。いや、でも……と、ライトが困惑と葛藤をしていると、

「……え?」

 レナが、優しく抱き着いてきた。

「忘れたとは言わせないよ? 私は、もう立場云々抜きで、君の護衛だって、宣言してる」


『もう君が、勇者でも勇者じゃなくても、どっちでもいい。これからずっと君の隣で、君を守らせて。ライト君っていう、その存在を、私にずっと守らせて』


 それは、レナが過去と決別し、炎翼騎士として生きていく事を決めた日の夜の想い。

「君の隣が、私の居場所。それはここでもここじゃなくても、もう一緒」

「もしかして……軍辞めるかも、って言ってたのって」

 抱擁を終え、レナが微笑む。その笑顔が、返事だった。

「勿論君の覚悟を邪魔しちゃうのは申し訳ないなって思うけどさ。でもま、私が居たって、いいじゃん」

「レナ……」

 ライトの覚悟が揺れる。いや、揺れるというよりも、新しい形となって――

「ちなみにあたしは、ライトと仲直りしてからいつでも対応出来るように支度してあったから」

「ジア!?」

 フリージアだった。落ち着いた表情で、腕を組んでそこに立っていた。

「あたしはライトを支える。それなのに肝心のライトが居なかったら意味がない。ライトが一人で頑張ってみたいっていうのはわかる。でも、人を惹き付けるのがライトの力なんだから、その力を抑えないで使うべき。――あたしは、もう見失わない」

 ライトの覚悟が、更に変化し始める。――俺と、レナと、ジアと……?

「奴隷を残して一人旅する主人など聞いた事がないぞ」

「レインフォル!?」

 と、レインフォルも登場。ライトとの契約の証である首輪をアピール。

「いや、でもほら、レインフォルはイルラナスが」

「事情を説明したら見分を広げるのについて行きたいと言っている。旦那様とイルラナス様が一緒なら、私も安心だ」

「ちょっ、契約を解除すればいいだけの話では」

「それは嫌だ」

 いやいや、待てちょっと待て、俺と、レナと、ジアと、レインフォルと、イルラナスと、

「長、俺は軍を辞めて長と同行する事にしたぞ。よく考えたら長と決めている人と共に行動しない理由は無いな」

「我も主に会いに行く前に、もう少し世界を見て回りたいとも思っておりました。ライト殿と一緒ならば楽しく回れるでしょう」

「私はマスターの事務官として、マスターをトップにした正式なクランを作り上げるわ! ライト騎士団、第二章よ!」

「私も、「アタシ」と相談した結果、軍に拘る必要はない。寧ろ団長に拘りたいと思います。ですので共に」

「ボクも、もっと一人前に近付ける様に、旅に出るよ! ま、まず一人は怖いから、ライト君と一緒に」

「この城を離れたらライト様のお世話をする者が居なくなってしまいます。ですのでヨゼルド様には休暇届を出して参りました。これで旅先でもライト様のお世話が可能です」

 ライト騎士団の仲間達。

「ライト、諦めなさい。貴方を、一人で何処かになんて行かせませんわ。手放しません」

「いやでも、流石にエカテリスは無理だよな?」

「あら、いざとなったら行きますわよ? このエカテリス=ハインハウルスを、舐めて貰ったら困ります」

「そして当然ですが、姫様のある所このリバールあり。姫様優先にはなりますが、勿論ライト様のお世話もさせて頂きます」

 全員+αが揃ってしまった。一人旅とは一体。決意とは一体。

「ああ、やはり私が一番最後になってしまった様だな」

「国王様!」

 そして、最後の一人が姿を現す。――国王、ヨゼルド。

「ライト君、君は言っていたね。演者勇者を終えた時の報酬。あの気持ちは、今も同じかね?」

「はい、それは」

「残念ながらその報酬は与えられないな。――「全員に、笑顔で見送って欲しい」は、もう無理だろう」


『俺が欲しい報酬は、「仲間全員での、俺の旅立ちの笑顔の見送り」です』

『本当にそれが希望なのかね? それでいいのかね?』

『はい。それだけで、俺は満足です。それに……何よりも高級な報酬だと思いませんか?』

『ははっ、かもしれないな。――君らしい』


 自分の旅立ちを、笑顔で後押しして欲しい。――演者勇者が終わる間際になって出来た想いは、それだったのだ。

「この状況下で、笑顔では皆もう見送ってはくれまい。寧ろ君に同行してしまう。ここにいる全員居なくなるのは私的に立場的にも個人的にも流石に辛い。エカテリスまで居なくなるとかパパ耐えられない」

 確かに、ヨゼルドからしたらエカテリスもハルも居なくなったら日々が一体どうなってしまうのか。国王としても、内陸部で多大なる戦力を誇るライト騎士団が全員居なくなったらどうなってしまうのか。

「その代わり……というわけではないが、私なりの代替え案を用意した。――正式な話をしよう。玉座の間へ来てくれ」

 そのままその場にいた全員で、玉座の間へ移動。ヨゼルドが玉座に座る。

「ライト君。君に、特別称号として、「勇導師ゆうどうし」という肩書を授けたい」

「勇……導師?」

「勇者を導きし者、という意味合いを込めてある。本物の勇者を見つけ、我が国に正式に招集し、更には師匠にまでなった。君にピッタリの肩書だ」

 ヨゼルドの提案に、周囲はライトを置き去りにして喜ぶ。――いや、あの、え?

「特別称号ってどういう意味合いですか?」

「三大剣豪、隼騎士、炎翼騎士の「称号」と違って、大きな権力は無い。だが、君が今までこなしていた「演者勇者」位の力は考えている。――君は演者勇者じゃなくなり、今はもう何の立場もない。そう考えてるね?」

「それは……はい。その立場が無くなった以上、軍人でもなくなりますし、ただの一般人だと」

「君はもう一般人ではないよ。あれだけ色々な事をこなしてきた一般人などいるものじゃないさ」

 確かに、一般人では経験出来ない様な任務事件を体験してきた。それは紛れもない事実。

「ですが――」

「仲間のお蔭だと言うのなら、その仲間の絆を作り上げた功績が、君には無いとでも?」

「…………」

 それを否定すれば、自分達の仲間の絆を否定するも同じ。それに気付いた時、ライトは返事に戸惑う。――その様子を見て、ヨゼルドは優しく笑う。

「謙虚は良いが、自分がやって来た事を認めるのも大事な事だ。――君は、仲間達と、この国の為に、沢山の事をこなしてきたのだ。演者勇者だから、の一言では片付けられない位の事をな。――その事実を、誇りに思いたまえ」

「国王様……」

「君が一人旅に出たいというのもわからないでもないさ。でも、君は無理をして一人で戦う人間じゃない。仲間との絆で、何倍も強くなれる人間なんだ。だから――これからも、君が作り上げたその絆と、仲間達と共に、ライト騎士団団長として、勇導師として、新しい一歩を踏み出してみないかね」

 ヨゼルドの言葉が優しく刺さる。――俺は、頑張ってこれたのか。俺に出来る事を、ちゃんと頑張ってこれたのか。こんなに大勢の仲間達に、本当に認めて貰えていたのか。

 俺は――俺でも、まだここで、この先に進んでもいいのか。

「国王様」

「うむ」

「俺でいいのなら、その特別称号、喜んでお預かりします」

 喜びと、嬉しさの涙を堪えて、ライトはヨゼルドにそう宣言した。

「わかった。――これからも宜しく頼むぞ、勇導師ライトよ」

「はい。宜しくお願いします」

 パチ。パチ。パチ。――パチパチパチ。

「あ……」

 振り返れば、集まった仲間達が全員、ライトに向けて笑顔で拍手を始めていた。

「その、皆、心配してくれてありがとう。こんな俺だけど――」

「わかってないなあ君は」

 ライトの言葉を遮ったのはレナ。そして、

「皆、そんな君だから、ここに居るんだよ」

 そう、優しい笑顔で告げてくれる。その笑顔が、皆の笑顔が、嬉しくて、愛しくて。

「ありがとう。本当に、ありがとう」

 ライトは精一杯のお礼を、全員に告げた。



 ハインハウルス王国史上初、「特別称号」制定。「勇導師」ライト、ここに誕生の瞬間であった。

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