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第三百三十九話 演者勇者じゃなくなる日1

「ふぁーあ……朝、か」

 カーテンを開けて、朝日を浴びる。良い天気だった。元々朝は弱くは無かったが、演者勇者になってからは何処か心に緊張感というか、意識する物があったか、寝坊らしい寝坊はほとんどしていない。

「まあ、でももうそこまで肩ひじ張らずにしててももういいのかもな」

 ローズを連れて帰還後、見事にローズは勇者に就任。そのままライトも正式にヨゼルドから演者勇者の任を解かれた。

「今日からまた、一般人だな」

 そう、もう自分は勇者ではないのだ。

 散々言ってきた様に、その立場に縋り付くつもりは微塵もない。そもそも惜しかったらローズをあそこまで後押しはしない。だから何の後悔も無いが、それでもそれなりの長さ、演者とはいえ勇者として生きてきた。分かり易い実感こそまだないが、でも心境としては不思議な感じ、というのが一番しっくりきていた。

「さて、「やらなきゃいけない事」、てんこ盛りだ、ぐうたらしてる場合じゃないな」

 うーん、と体を伸ばし、気持ちを入れ、着替え、部屋を後にするのだった。



「そうなんですか! お疲れ様でした!」

「うん、ありがとう」

 朝食を終え、ライトがまず始めたのは自分が演者勇者としての任務を終えた事を、お世話になった人達に直接報告に行くことだった。と、道中で出会った、ハルの直接の部下で双子の――

「ところで……ルラン、だよね?」

「正解です! 流石正解率トップスリーも狙える的中率ですよ!」

 ――ホラン・ルラン姉妹のルランに、折角だからと報告。相変わらずどっちがどっちなんだか見分けが付き辛い。いい加減何か目印が欲しい。何故にニロフは的中率百パーセントなのか。……何故にレナは的中率ゼロパーセントなのか。

「あまりこうやって話したりする機会も無かったけど、でもハルが時折褒めてたのを知ってるから。自分が居ない間、任せっきりになっても安心だって」

「ハルさんそんな事言ってくれてたんですか、嬉しい! あ、でもお城に戻ってくると、逆にハルさんはライト様の事を良くお話してくれましたよ」

「そうなの?」

「はい! ライト様の事、凄い信頼なさってるんだな、って。いやもうあれは信頼の域を超えてますね」

「え?」

「私達の妹に、ルリ、リルっていう双子の姉妹がいるんですが、折角だからここに就職してライト様の専属の使用人に立候補させようかなって思ってたら、そこまでする必要はない、ライト様にお世話が必要ならスケジュール調整して自分がやるって言って」

「……そっか」

 最近は実を言えば合間を縫ってだと思われるが、ハルは時折ライトの部屋に来ては掃除等をしてくれていた。忙しいだろうから無理はしないでくれ、自分でやれるからと言っても、自分がやりたいからと頑なに譲らず。そんな掃除するハルを見てると、何だか不思議な気持ちになって、でも嬉しくて。……そこまで自分がやるって言ってたのか、ハル。

「……うん? ちょっと待って妹もまた双子なの? 四姉妹?」

「はい、ルリとリルはそっくりですね」

 次いで気付いたのはその点だった。どんな血筋だよ。

「何にせよ、これからライト様の第二章の物語が始まるわけですね! ライト様の次回作にご期待下さい!」

「その応援物凄い不安なんだけど!?」

 俺終わっちゃう。……まあ、でも、

「第二章の始まり……か」

「ライト様?」

「ああうん、何でもない。何にせよ、ありがとう」



「そうか、勇者がついに見つかったのか」

「うん。昨日付けで、俺は勇者……演者だけど、まあ何にしろ勇者じゃなくなった」

 ハインハウルス城の裏庭にある運動場。イルラナス達が運動中と聞き、訪ねた所丁度休憩中だったので話をする。今日は特に何の任務も無いのか、レインフォルも一緒だった。

「私としては、旦那様がそのまま勇者を続けても何の問題も無かったと思うが。聖剣も抜いてたじゃないか。わざわざ本物を探す必要性があったのか?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、でも今後の事、魔王との決戦を考えたら、本物じゃないと」

「何にせよ、大役を務め切ったのね。お疲れ様、ライトさん」

「お疲れ様です、団長さん」

「お疲れ様ッス! え? 団長さん、今までが何でこれから何になるんスか? 昨日までは団長さんで今日からは団長さん……あれ?」

「ドゥルペ、俺の立場わかってなかったのか……」

「僕が後で説明しておきます……」

 それにしても、この説明をイルラナス達にする、という事は。

「イルラナス。それに皆。皆からしてみれば、本物の勇者が見つかるっていう事は……その」

 魔王討伐に近付く、つまりイルラナスにとっては自分の父親の討伐が現実味を帯びたという事。レインフォル達にしても、かつての仲間達の終幕の近付きを意味している。

「ありがとう、気を使ってくれて。ライトさんは、本当に優しいのね。レインフォルじゃないけど、私も貴方が勇者のままでも良かったと思うわ」

「まあ、そう言って貰えるのは光栄だけど」

「ごめんなさい、はぐらかすつもりはないの、質問に答えるわね。――勿論、何も感じないって言ったら嘘になるわ。私にとっては血の繋がった父親。あの人の下で王女として活動していた時間は無かった事にはならないもの。でも、私は覚悟を決めてこちらの来てる。そして、私には目標が出来た。その目標の為なら、父……魔王は、討伐しなくてはならない。だから、大丈夫よ」

 力強い笑顔で、イルラナスはそう宣言した。疑いようのない、真っ直ぐな目で。

「私はイルラナス様の忠義の騎士であり、旦那様の忠義の騎士だ。お二人の意思があるなら、何も怖くはない」

「僕も、覚悟の上でここにいるんです。今更気持ちを揺るがすつもりはありません」

「自分も平気ッスよ! レインフォル様には及ばないッスけど、自分もイルラナス様の為の騎士ッスから! イルラナス様が進む道を、信じて一緒に進むだけッス!」

「そっか。その答えを聞けて、安心したよ。――ありがとう」

 イルラナス達は、魔族として、その新しい一歩を踏み出している。その事実が見れたのが、純粋に嬉しかった。

「あっ、ごめん、他にも報告しに行かなきゃいけない人達いるんだ。それじゃ」

 そう告げると、ライトは立ち、その場を後にする。その背中を見送る四人。

「律儀ですね、旦那様は」

「そうね。でも、そういう人達がいるから、私達は新しい目標を見つけられたの。あの人達の活躍に負けない様に、頑張らないと」

「はい」

 その背中を見送りながら、改めての決意を固める。

「あれ?」

「ドゥルペ、どうしたんだい?」

「自分馬鹿だから結局わからないんスけど……団長さんは、つまりは今日は団長さんなのはいいとして、明日からどうなるんスか?」



「ええっ、昨日でライトさん勇者役降りたんですか?」

「うん、本物の勇者が見つかったからね」

 ハインハウルス魔術研究所城内支部。ライトはフリージアとソーイの二人に報告に来ていた。

「言ってくれたらプレゼントや花束の一つや二つ、用意したのに! 水臭いですよー」

「いやいや、そんな事してくれなくていいから、気持ちだけで十分」

 流石に二人共仕事の手を止め、休憩がてらライトの話を聞く形になっていた。フリージアがコーヒーを淹れてくれたので、ライトもありがたく頂く。

「でまあ、俺はもう勇者じゃなくなったわけで……その、ジア、ごめんな」

「? 何であたしに謝るの?」

「折角これからの任務の為に国王様の人事を受けてこっちに来てくれたのに、何か、えーっと」

 ライトが言葉を選んで何かを言おうとしてると、

「痛っ」

 ピン。――フリージアがライトのおでこに軽くデコピンを一発。

「それはライトが謝る事じゃないでしょ。寧ろライトが頑張った結果なんだから、あたしに謝られても困る」

「まあ、そう言われるとそうなんだけどさ」

「あたしがライトを支えたい助けたいって言ったのは、ライトが形式上の勇者様だったからじゃない。ライトが誰の為じゃない、あたしにとっての勇者様だからそう思ってる。それは今も変わらない。だからライトは、今でもあたしにとってはかけがえのない勇者様。だからあたしは、これからもライトを支えるつもりなんだけど」

「ジア……」

 何の迷いもなく、ストレートな言葉をフリージアはぶつける。その言葉が嬉しくて、こそばゆくて、そして、

「……ふぅ……」

 その優しさに甘えて、全てを委ねてしまいそうになるのを堪える。

「ライトさん?」

「ああごめん、というわけで今日はとりあえず報告まで、って事で。他にも報告したい人達がいるから俺はここで」

「あ、はーい! お疲れ様です!」

 そう言って、ソーイの声に見送られ、部屋を後に――

「ライト」

 ――しかけた所で、フリージアに呼び止められる。

「あたしは同じ過ちは繰り返さない」

「……ジア?」

「だから、ライトのこれからの道、本音で口を挟むから。覚悟してね」

 一見すると普段通りのクールな目。でも付き合いの長いライトはわかる。フリージアなりの、覚悟の言葉だと。

「わかった。俺も、逃げないから」

「うん」

 その言葉だけ交わすと、ライトは今度こそ部屋を後にする。

「? ? どういう意味?」

 ソーイは勿論わからない。ライトの背中とフリージアの顔を交互に見るが、

「はい休憩終わり。仕事仕事」

「あっ、誤魔化したな!」

 フリージアは何事も無かった様にデスクに戻った。

「気になる、気になるじゃん! ソーイさんは二人の味方だぞ! だからちょっとだけ、触りだけでいいから! でないと仕事ボイコットするぞ!」

「なら給料全カットだけど」

「真面目に働きますー!」

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