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第三百三十八話 演者勇者と勇者15

「ただいま!」

 一向は休む事も早々にヤザックの家に。――ローズは風天狗に一人で挑み、見事勝利した。ヤザックの出した任務を、クリアしたのだ。

 興奮した様子で説明しようとするので今一歩会話にならないローズを抑えて、エカテリスが結果を説明する。

「ちなみに嘘は言っていませんわ。ハインハウルス王国第一王女の名に誓って」

「……私も貴方達がそんな安い嘘をつく人達だとは思っていません。信じますよ。――本当に、ここまでやれるとは」

 ヤザックは風天狗が残したマントを見て、ふーっ、と大きく息を吐いた。

「さ、ローズ。落ち着いて。ヤザックさんに、自分の気持ちを話すんだ」

 ライトが促し、ローズは改めてヤザックの前に。場面が場面である事を察したか、先ほどの興奮は落ち着き、少しの緊張感さえ見せた。

「お父さん、私、改めて決めたよ。私に勇者になれる素質があるなら、勇者になる」

 そして、誤魔化しのない想いを、改めて伝えた。

「私の才能で、一人でも多くの人が救えるのなら、救いたい。私にはその力があるって、わかったから」

「……助けるというのは、辛い事だぞ。誰かを助ける事は出来ても、自分自身を助ける事は出来ない」

「その時は俺達が助けます。ローズを一人にはさせません」

 ライトである。真っ直ぐな目で、ヤザックを見て宣言。――自分も昔は、あんな目をしていたんだろうか。あんな目をして、誰かを助けていたんだろうか。どうして自分は、何も信じられなくなってしまんたんだろうか。

「お父さん――」

「俺の考えは変わらない。だが、ローズに試練を出して、それを突破したのは事実だ。それがローズの決めた道なら、行きなさい。――決めたのなら、精一杯やりなさい。辛くても押し潰されそうでも、逃げずに立ち向かいなさい」

 ヤザックは落ち着いた表情のまま、ローズにそう告げた。今までとは違い、しっかりとした言葉だったが、その口調からは優しさは感じられない。

「決めたなら、もう行きなさい。いつまでも、ここに居てはいけない」

「はい。――行って来ます!」

 そして出発を促した。ヤザックは振り返り背中を見せ、もうローズの顔を見ない。ローズも覚悟を決めたか、そう強く言い切り、家を――

「――お父さん!」

 出ようとした所でもう一度だけ振り返り、ヤザックを呼んだ。

「私は勇者だから、皆の勇者だから! だからいつか、お父さんの事も助けるから! お父さんが、もう一度私以外の人を信じられる様に、今の私を信じてくれなくても信じられる様に、頑張るから! 約束する、だから待ってて! 私は、お父さんの娘だから!」

 そして、力強く宣言した。自分は変わる事は無いと、そう伝えた。

 ヤザックは振り返らない。ただ背中を見せたまま、前だけを向いていた。ローズもヤザックが振り返らないとわかると、今度こそ家を出る。続く様にエカテリス、リバール、ネレイザ――

「――最後に、少しいいですか?」

 と、残りがライトとレナになった所で、ライトがヤザックに声をかける。

「ヤザックさん。それとも……風天狗さん、とお呼びした方がいいですか?」

「……!」

 そこでライトは、この試練を請け負った直後から持っていた予測を、ヤザックにぶつけた。ヤザックは一瞬、ほんの一瞬だけピクリ、と反応するが、

「仰っている意味がわかりません」

 口調は冷静なまま、そう返事をした。

「リバール……エカテリスの隣にいた彼女は、国で一、二を争う諜報の実力者です。急ぎ調べて貰いました。当時、確かに貴方がこの街の為に活躍していた記録は沢山ありましたが、風天狗なるものの記録はまったく無かった。――仮に実在したとして、そもそも今突然山に行っても出て来る保証もない。出て来たとして、本当にローズが倒した証拠も無い。それなのに貴方は今回の試練を与え、そして成功を疑わなかった。勿論ローズを信じた、というのはあるかもしれませんが、普通に考えれば、自分の目で見て自分が戦ったから、というのが一番しっくり来る」

「これは最初から疑ってたけど、病気ってのも嘘でしょ? あれだけバリバリ動いて戦ってたもん、あれは病気の人の動きじゃない、寧ろ普段動いてない癖にあれだけ動けるのは流石勇者様の血筋って思ったね。まあある意味精神的な病気だから、普通の病気よりも場合によっては重くて厄介だけど、でもそう言ってれば誰かを助ける為に頑張る必要ない。――誰かを信じられなくなるのは個人的にわかるけどさ、最初からずーっと一緒だったローズちゃんをここまで騙すのはどうなんだろね? 言ってもローズちゃんは信じてくれたでしょ多分。現に、今だってこれだけ突き放されてもあんたの事信じてるじゃない」

 ライトに続き、レナの言葉。流石に堪えられなくなったのか、ヤザックは振り返る。その表情から冷静さは崩れ、憔悴が目に取れた。

「……ローズには、この事」

「伝えませんよ。貴方の出した答えを俺達が崩しても、何の意味もない。――俺達が崩しても、ね。安心して下さい。ローズの事は、俺達がちゃんと守りますから。きっと使命を果たせる様に、立派な勇者になれる様に。……貴方を救うというあの宣言を果たせる様に」

「…………」

「だから待っていて下さい。逃げないで、待っていてあげて下さい。ローズは必ず、貴方を見捨てて去ったりしません。ここに、必ず帰って来ますから」

 そう告げると、ライトは軽く頭を下げ、レナを促してこの場を後にする。ヤザックは立ち尽くしたまま、ライトの言葉を、ローズの言葉を頭の中で繰り返した。そして――



「これで私、正式にライト騎士団の一員なんですね! 嬉しいです、宜しくお願いします!」

 ローズは移動しながら、嬉しそうにそう話す。嬉しいのは本音だろう。でも何処かに寂しさが見えるのが隠し切れない。

「そうだよローズちゃん! 入団記念に、お城に戻ったらボクの道具、色々あげるからね」

「お部屋や私生活に必要な道具等もご安心下さい、直ぐにご用意出来ますから。ちなみに服装の御趣味等をお伺いしても?」

 それを悟った上で、サラフォンとハルが挟む様にして話しかける。少しでも、その寂しさが紛れる様に。

「……しばらくの間は、ゆっくりして貰いたいな」

 当然だろう。家族として共に暮らしてきた父親と、何処かすれ違う様な別れ。きっと喧嘩等もした事が無かったに違いない。その生まれた溝を埋める予定も、今の所まったく見えないのだ。寂しいし、不安だろう。

 完全に自分達で埋める事は不可能だが、それでもその隙間を少しでも自分達で埋めてあげられたら。――そう思っていた時だった。

「ローズ!」

 ハッとして振り返れば――ヤザックが、家の前でその名を呼んでいた。

「……っ」

 そして何かを言おうとして、そのまま何も言わない。

 体に気を付けるんだぞ。

 無理をするんじゃないぞ。

 怪我にも気を付けるんだぞ。

 偶には手紙を書いて、近況を知らせるんだぞ。

 王女様達に宜しくな。困ったら、隠さず頼るんだぞ。

 お前の活躍、期待してるからな。

 辛くなったら――いつでも、帰ってきていいからな。

「…………」

 そんな言葉を全て呑み込んで、ヤザックはローズを見ていた。ただただ、見ていた。言わない道を選んだ。それがローズの為だと思って。――それが自分への戒めだと思って。

「お父さん!」

 だからローズは父を呼ぶ。その場で振り返り、その声を張る。

「行って来ます! 手紙書くから! 仕送り送るから! 頑張るから! いつか必ず……帰るから!」

 そして笑顔で手を大きく振って、そう告げた。その場でしばらく手を振った後、

「すみません、お待たせして。行きましょう!」

 再び前を向き、全員を促し歩き出した。そんなローズを、

「ローズちゃん」

「……え?」

 レナが後ろから優しく抱き締めた。そして、

「泣くのは、いくつになったって、別に恥なんかじゃないよ」

「!」

 その言葉で、優しく包んだ。

「これから勇者になるなら、尚更だよ。今君が泣くのは、人間らしさの象徴だもん。君が目指す勇者は、そういうのがわかる勇者でしょ? 少なくとも――君の「お師匠様」は、そういうのがわかる勇者様だよ」

 少しだけ振り向いて、ライトに向かって笑顔を見せた。――ああ、俺もよくこうやってレナに助けられてきたな、と思っていると、

「っ……ひぐっ……ふぐっ……!」

 ローズは、顔をくしゃくしゃにして、静かに涙を流した。

「ローズ。ヤザックさんは、きっと待っていてくれてるよ。だから、大丈夫」

「っ……はいっ……!」

 ライトのその言葉に、涙を流しながらも、笑顔で返事をする。――その返事は、ローズの、旅立ちの、勇者としての冒険の、始まりの合図となった。



「あー、緊張するなあ……」

 一行がローズと共にハインハウルス城帰還後。ついに勇者ローズと、国王ヨゼルドが正式に対面となる。今は玉座の間の扉の前で、一人ローズが待っている所。

 流石に正式な手順を踏んでの対面という事で、先にライト騎士団全員が中で整列待機。ヨゼルドが玉座に着席後、ローズは呼ばれ、玉座の間に入って……という手順の為、一人で待機しているのだが、勿論ヨゼルド――国王と初対面の為、ローズは緊張していた。ジッとしていられず辺りをウロウロ。

「おや、玉座の間に何か用かな?」

 と、そんなローズの様子が気になったのか、一人の中年男性が声をかけてきた。身だしなみはしっかりしている、政務官だろうか。

「あ、はい! 私その、勇者に選ばれまして、今から国王様と初めてお会いするんです」

「ああ、成程、それで緊張しているんだね。大丈夫、国王様は怖い人じゃない」

 笑ってリラックスを促してくれた。その優しい空気に、少し気持ちが解れる。

「でも、君が勇者か……まだ若いね。ああいや、君の実力を疑うんじゃないんだが、君自身は平気なのかな、と思って。まだ色々やりたい事もあったりしただろう? どうして勇者になる事にしたんだい?」

「うーんと、昔から誰かの為にこういう事をしてみたい、っていうのはあったんですけど……決め手は師匠――先代の勇者様が、格好良かったからです」

「ほう? でも彼は、実力は足りないと聞いているよ?」

「実力なんか無くても、私の師匠は私に勇者としての心得を本気で教えてくれました! 私にとっての、憧れの勇者様です! 私はあの人の意思を継いで、初めて正式な勇者になれると思ってますから!」

「そうか。――いいお師匠様を持ったんだね」

「はい!」

 そんな会話をしていると、残っていた緊張もほとんどが消えた。優しい人に会えて話が出来て良かった。さて、いつ呼ばれるんだろうと思っていると――ガチャッ。

「声が聞こえると思ったら……お父様何してますの? お父様までそちらから入って来てしまったら何の為の対面儀式かわからないですわ。さっさと支度して下さい」

「え?」

「というかそこで二人で話すなら今回の儀式は何の為にありますの? 私達だけ中で待たせるとか、最早馬鹿にしてるとか」

「なっ、違うぞエカテリス、パパはいつでもエカテリスの事を大事に想ってるに決まってるじゃないか! ただちょっとだけ先に話をしてみたかっただけで」

「それを中でやって下さいと王女様は仰ってるんですよ。早くして下さい」

 ガシッ、ズルズル。――玉座の間からエカテリスが顔を出して注意していると、ハルも出てきて、政務官――の格好をしたヨゼルドを掴んで中に引っ張っていく。

「わかった、行くから引っ張らないで服が伸びる! ではローズ君、中で会おう!」

 バタン。――訪れる静寂。

「ええええええええ!?」

 数秒後、ローズの驚きの声が上がった。


 …………。


「はっはっは、済まないな、まずは腹を割って話してみたかったんだ、許してくれ」

 というわけで、いつも通り(!)変装してローズと先に話をしたヨゼルドと、改めての対面。

「その……とりあえず、驚きました!」

「そうだろう、噂の国王がこんなにダンディでローズ君もびっくりふぐおぅ!?」

 ダン!――ハルがヨゼルドの右足を踏んだ。最早対面の儀式は何処へ。

「ローズ様は、ヨゼルド様がサプライズで先にお話をなさりに来た事に驚いているだけだと思われます」

「わかってる……流石にわかってるから……国王ジョークだから……」

 ふーっふーっ、と踏まれた右足を労わるヨゼルド。

「まあ、何となくわかってくるとは思うけど、ああいう人で――それでいて、慕われる国王様だから」

「はい。――立派な方だって、わかった気がします」

 ライトの小声でのアドバイスに、ローズも笑顔で答えた。

「さて。――ローズ君。よく来てくれた。正式な勇者の就任、この国の王として本当に嬉しく思う。これから、大変な事もあると思う。だがこちらからも精一杯のサポートをする事を約束する。共にこの国の、真の平和を目指して頑張っていってくれると嬉しい」

「はい! 精一杯頑張ります、宜しくお願いします!」

 ヨゼルドが手を差し伸べ、ローズと握手。団員達は全員で笑顔で拍手をした。その歓迎の拍手に、ローズも少し照れ臭そうにする。

「今後のローズ君のスケジュールに関しては、落ち着いてから決めていく形になる。まずは色々慣れて貰わんとな」

 その握手も落ち着き、ヨゼルドがそう切り出す。そして、

「それから――ライト君」

「はい」

 ライトを呼ぶ。ライトは、ローズと入れ替わり、ヨゼルドの前に。

「今まで、本当にご苦労だった。君は立派に「演者勇者」としての姿を成し遂げてくれた。そう思っている」

「ありがとうございます、そう言って頂けると安心します」

「うむ。本当にありがとう、ライト君。そして――本日限りで、君を「演者勇者」の任から解く」

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