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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第三百三十四話 演者勇者と勇者11

「お父さん。私、王女様達に付いて行って、真剣に勇者を目指したい」

 ダンジョンにて一通りの経験をした翌日。ヤザックとの再びの面会。ローズの第一声が、それであった。

「私に何が出来て、何処まで出来るかはわからない。でも、だからこそ私に出来る事をしてみたいの」

 真剣な面持ちで、真っ直ぐな眼差しで、ローズはヤザックにそう訴える。

「……この前も言ったはずだ。行きたいなら行けばいい、ローズの人生だ。でも、その場合――」

「そして、私はお父さんの娘である事を誇りに思い続けたい」

 そしてヤザックの突き放す言葉を最後まで言わせず、ローズがその思いをぶつける。

「お父さんが一緒に行きたくないならそれでもいい。でも、私はお父さんの娘。お父さんの娘だから、勇者を目指したいの! いつかお父さんが、勇者になった私を自慢出来る様な、そんな人になりたいの!」

 そこで気付く。――ローズは、勇者になってライト達と共に戦いたいのと同時に、ヤザックにこの才能で不幸になる事はない事を証明したい。つまり、ヤザックのトラウマを消し去りたいのだ。自分が特別な力を使っても誰からも軽蔑されず、沢山の人に人として愛され慕われる存在になれたら、ヤザックも考え方が変わる。この才能が憎いなんてことは無くなる。その想いがあったのだ。

「…………」

 ヤザックも一度言葉を失う。ここまでの想いを持って、ここまで言われるとは思っていなかったのだろう。

「ヤザックさん。貴方の事は少しだけローズから伺ってます。貴方の気持ちは、悔しいけど俺にはわかりません」

 意を決して、ライトが口を開いた。

「でも、自分自身の才能や実力に悩んだ事は俺にもあります。俺は貴方とは真逆の立場でしたが、大切な人との差に悩みました。埋めたいけどどうにもならなくて、理想と現実が離れていって……結局俺は一度、全てを諦めました」

「なら何故、ローズの味方をするんですか?」

「気付いたんです。諦める事で、大切な人も、自分さえも、傷付いてた事に」

 仲直りしたとはいえ、やはり今でもあの頃を思い出すと胸がチクリと痛い。

「俺はもう一度やり直して、その傷付けてしまった人と、向き合える様になりました。――何回だってやり直せます。やり直すチャンスは、まだあるんです。少なくとも、娘さんは――ローズは、貴方を裏切ったりはしない」

「……っ」

 ヤザックがぐっ、と強く拳を握った。――過去の事を思い出しているのだろうか。目を閉じ、少しだけ険しい表情をして数秒後、ふーっと大きく息を吐く。

「やり直しなんて、効かないんですよ」

 腹を括ったのか、落ち着いた口調でヤザックが語り出す。

「特別視されていた生まれ育った村を出て、この街でやり直し始めた。何も知らないこの街の人達の為なら、少し位力を使っても大丈夫だと思った。喜んでくれる街の人の顔を見るのが好きだった。そんな自分の姿を、彼女も喜んでくれてると思っていた。……でも違った。自分が一番守りたいと思っていた人の心は、この街の人の笑顔と引き換えに、知らない誰かの物になっていた」

 ふと見れば、自虐的な笑みさえ浮かべていた。――確かに、皮肉な話ではある。同情の余地は十分にある。

「挙句の果てに、最後に残った自分の大切な宝物は、自分が間違えた道を歩きたいと言い出した。自分から離れてもいいと言い出した。この力は、一体どれだけ俺を苦しめれば気が済むのか」

「お父さん、師匠が言ってくれた様に、私はお父さんを裏切ったりしない!」

「そうだな。でもなローズ。お前が俺を裏切ってなくても、俺から見たら裏切った事になっているんだよ」

「……っ」

 ローズの表情が曇る。決心が揺らぐ。

「ヤザックさん」

 そこで一歩前に出たのは、エカテリスだった。ローズを庇う様にヤザックの前に立ち、

「王女としてではなく、ローズとそう歳の離れていない人間として言わせて頂きますわ。――私がローズだったら、貴方を殴ってでも行かせて貰いますわね。愛する父親の弱さも受け止めるつもりでいるのに、その想いを拒むのなら、もうこちらから願い下げですわ。――父親なら、娘の想いを汲み取るべきではなくて!? それが愛すべき尊敬すべき父親の姿でしょう!?」

 ビリッ、と閃光を走らせる様にエカテリスが吠えた。ヨゼルドという(普段こそあれだが)敬愛する父親を持つエカテリスの叫びに、

「っ……」

 ヤザックも目を反らし、動揺する。――直後、ゆっくりと立ち上がり、窓の方へ。

「あの山、御覧になれますか」

 促す先には、緑生い茂る山があった。

「あの山には、風天狗というモンスターが住み着いています。それを討伐してきて貰えますか。――ううん、正確には、ローズが一人で倒してこれる様にして貰えますか」

「それは、どういう意味ですか?」

「私がこうなる切欠となった相手です。強力な個体を命がけで深手を追わせて撤退させて帰ったら、妻だった人は居なくなっていた」

 景色を眺めるその目を細めた。――本当なのだろう。

「つまり、私がそれを倒せたら、お父さんは心から認めてくれるの?」

「わからない。でも、気持ちが変わる切欠になるかもしれない。――お前が死んでしまって、本当に全てが終わりになるかもしれない。ローズ、そこまで言うのなら、その全てを懸けて、やってみせてくれ」



「ローズ、今更ながら本当にごめんなさい。私達がこうして貴女を訪ねて来なければ、こんな事にはならなかった」

 ヤザックからの試練。さてどうしようか、という話の前に、エカテリスの謝罪が入った。

「そんな、止めて下さい! 王女様は悪くありません! 私は私の意思で、皆さんと一緒に行きたいって思ってるんです!」

 ライト騎士団が悪いわけでもない。勿論ローズも悪くない。そして――ヤザックも、決して悪くはない。彼は彼なりに、自分の経験上から娘の心配をしている。

 だがその想いがぶつかり絡み合った結果、複雑な今が出来てしまっていた。

「分かり易く悪人! とかだったら楽だったのにねー。ローズちゃん、ローズちゃんはあんな自分のパパ、どう思う?」

「大好きで、大切な父親です。家族です」

「こうなるとぶっ飛ばせないわな流石に。大切なんだもんね」

 父親を擁護するローズを擁護するレナ。父親というカテゴリー絡みだからだろうか。

「大丈夫です。私、やってみせます! 父がトドメを刺せなかったモンスターに、勝ちます!」

 ぐっ、と握り拳を作り、ローズは力強く宣言。

「ですが現実問題として、ローズさんが討伐出来るのか、という話になります。皆さんのお話から、ローズさんに才能がある事はわかりましたが、経験不足は否めないでしょう。風天狗というモンスターがどれ程の強さかにもよりますが、そう簡単な話ではないはず」

 リバールの冷静な分析。最もな話ではある。ダンジョン内でローズが戦ったのはスライムのみ。圧倒はしたが、それ程強い相手ではない。

「ライトくん、ローズちゃんにエクスカリバーを使って貰うのは駄目なのかな?」

「俺も考えなかったわけじゃないけど、それでヤザックさんが納得してくれるか怪しい所だし、何より」

 スッ、とライトがエクスカリバーをローズに手渡そうとすると、

『ばぶー』

「ついに幼児退行が始まったんかい!」

 相変わらずエクスカリバーが拒否してくる。……本当に伝説の聖剣なのかこいつは。

「数日間でもいい、訓練をしてみたらどうだ」

 と、ドライブからそんな提案。

「幸い俺達は自分で言うのもあれだがその辺の兵士騎士よりも断然実力は上だろう。各々で得意ジャンルを教えれば、何か違ってくるかもしれない」

「! 私、頑張ります、宜しくお願いします!」

 すぐさまローズが返事をした。何処までもやる気に満ちた目で。――本当に、真っ直ぐな子なんだな。

 どうにかしてあげたい。ヤザックの心を溶かす事は出来ないかもしれない。それでも、出来る限りのベストエンドを迎えさせたい。

「俺からも、宜しくお願いします」

 気付けばライトもお願いをする形になっていた。――ローズが来たら、自分は勇者じゃなくなる。後腐れなくこの任務が終わるのが一番いい。その想いが無意識に出た結果だった。

「師匠……!」

 そして一緒に頼んでくれるライトに、ローズは感動。尊敬の念を更に強くする。

「では私は、基本的な接近戦の仕方を教えますわ」

 まずエカテリスが基礎。勿論得意ジャンルである。

「では私は、効率の良い体の動かし方を。戦いは攻撃だけではありません、相手が強ければ強い程、回避等が重要になりますので」

 リバール。忍者らしいジャンル。

「では私は体術ですね。受け身や緊急時、手足を使った攻撃等を」

 ハル。拳闘士らしさのジャンル。

「俺は気の練り方の話をしよう。ハルのとは違い、人間誰にでも最低限の気は持っている。力の入れ具合で確実な差は生まれる。近接職なら特にだ」

 ドライブ。紋章を出す事にも繋がっているのか、ライトとしては意外なジャンルだった。

「私は敵の気配の感じ方ですね。感じる事で効率的な攻撃、防御、回避、全てに繋がります。「アタシ」の戦闘スタイルもそれがあってこそ、ですから」

 ソフィ。だからこその狂人化バーサークでの特攻が可能なのだ、必要な話だろう。

「我は勿論魔力に関してですな。当然ローズ殿にも魔力はあります、使い方次第で天と地の差が生まれるでしょう」

 ニロフ。ここの教え方にはライトとしても自分の経験上絶大な信頼がある。

「なら私はその先の攻撃魔法ね。距離取っての攻撃は攻撃魔法が一番シンプル。ローズの魔力なら、簡単な攻撃魔法なら直ぐ使える様になるから」

 ネレイザ。その一撃は特級。勿論信頼出来る。

「ボクはその、何も教えてあげられる事がないから、出発の日までにローズちゃんの装備を改造するよ。教える事は出来ないけど、それに関しては自信があるから、任せて」

 サラフォン。機転を利かせた良い案だった。短期間での分かり易いパワーアップに期待が持てる。

「じゃあライト君は剣の使い方だねー」

 ライト。剣の握り方、振り方等を――

「って俺そこ!? 俺自身がアルファスさんに教わってる立場なのにっていうかそもそも俺教えられる立場じゃないよね!?」

「でもウチのパーティ、ライト君以外誰も剣使わないよ?」

 槍、短剣、斧、薙刀、格闘、杖、杖、銃、枕。

「――って違う、最後の枕違う、レナも剣!」

 危うく騙される所だった。――レナが枕をチラ見させていたから。

「いや実際問題私何かを教えるの苦手なの知ってるでしょ」

「……そういえば」

 魔法を教わろうとしたが謎の言葉だけで何もわからなかった思い出があったり。

「サポートはするよ。だから剣はライト君だって。逆に言えばアルファスさんから教わってるんだから。それに……ローズちゃんもライト君に教わるのが一番嬉しいんじゃないかな」

「師匠! 私も弟子の第一歩をついに……!」

「いやちょっ眩しい!」

 ぴかー。――ローズの目が光った。魔法かもしれない。……は兎も角。

「……わかった。俺に出来る事を、出来るだけ教えるよ」

「! ありがとうございます!」

 ライトは折れた。――まあでも、剣以外に色々伝えられる事が出来たらそれで。

「皆さん、改めて、宜しくお願いします! 私、全力で頑張ります!」

 こうして、ローズの短期集中特訓が決まったのであった。

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