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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第三百三十一話 演者勇者と勇者8

「ここがそのダンジョンか……」

 依頼を受け、街を出て一時間程移動した所に、そのダンジョン――洞窟はあった。まだ明るいが、その洞穴の奥は勿論暗く、独特の空気を漂わせている。

「それでは依頼を確認します。――依頼主の息子さんが率いる四人パーティが、帰還予定日より三日遅れても音沙汰無し。私達は現状の状況確認と共に四人パーティの捜索が目的です」

 事務官の顔になったネレイザが依頼書を見ながら全員にそう説明。

「元々日帰りのつもりだった、という事はそう深くないダンジョンかと思いますが、それでも私達には前情報がありません。野営の心構えもしておいて下さい。王女様には申し訳ないですが」

「大丈夫ですわ。その程度こなさなくて戦線など張れませんもの」

 流石にたくましい王女様だった。

「では早速――」

「ちょい待った」

 出発、と言いかけたのをレナが止めた。

「中に入る人数は絞った方がいいんじゃない? 私達の目標は依頼の達成と同時に、ローズちゃんの体験コースでもあるわけでしょ? 全員でゾロゾロ行っても体験も何もあったもんじゃないでしょ」

「……そういえば」

 このメンバーでひと塊になって進めばローズにしてみれば恐らくピクニックで終わってしまう位何もすることがない。簡単にでもローズが自分で何かをしなくては体験にならない。

「てなわけで二手に別れよう。ライト君とローズちゃんは中だとして……ライト君、後一緒に行く四人、選んで」

「俺が? 選んでいいのか?」

「君が選ばないで誰が選ぶのよ。師匠でしょ団長でしょ」

「……わかった」

 平均的になる様に、ローズの勉強になる様に、

「そして何よりも自分のお気に入りの女子を囲える様に」

「そんな事は考えてません!」

「師匠、大丈夫です! 私は師匠の行く道を信じます!」

「俺が大丈夫じゃないからね!?」

 出来立てほやほやの弟子に誤解される師匠とか。――とまあそんな話は兎も角。

「まあ、まずはレナな」

 ここは外せない。ライトとしてもやはり傍にいてくれるだけで安心感が違う。

「迷わずレナさんを……信頼なさってるんですね! 今までの会話といい、意思疎通が凄いです!」

「違うのよ私が調教されてるのよ」

「信頼です! 純粋な信頼です!」

 違う意味でローズが調教されてしまわないか心配になる。

「次は……」

 残り三人。ローズの為を思ったパーティにするとなると。

「――うん。ハルかな。お願い出来る?」

「はい。お供させて頂きます」

 ハル。冒険とダンジョン初心者のローズに優秀な説明役が欲しくなった。知らない事を聞くと何でも冷静に教えてくれる。勿論戦力としても前衛として申し分無い。――ライト自身もダンジョンの知識が足りないのでついでに聞きたいのは余談である。

「三人目……後方の役目が出来る人かな……」

 そうなると該当者はニロフ、ネレイザ、サラフォン。その中の誰か……

「がるるるる……!」

「! し、師匠、殺気を感じます! これがダンジョン……!」

「あー、それダンジョンじゃない気がするぞ……」

 だって味方の方からするもん。一人表情が怖い子がいるもん。……まあでも。

「ネレイザ、お願い出来る?」

「勿論! 私はマスターの事務官なんだから、選ばれて当然よね!」

 殺気が消えた。――ハルを先に選んだのは駄目だったか。まあ元々候補の一人だったし、ニロフだとオールラウンダーな事もしてしまうし、サラフォンの戦闘力はローズからしたら参考にはならないし、丁度いいだろう。

「そうなると、後一人は誰にしようかな……」

 結局全員優秀な為、誰を入れても大丈夫ではありそうな気がしてきている。まあでも、ローズの立場上、折角だから憧れのエカテリスを……

「ライト君。最後の一人はソフィにしておきな」

 と、エカテリスを指名しようとした所で、レナからそんなアドバイス。――ソフィ。

「ソフィ? 戦力としては問題ないけど、何か理由が?」

 寧ろ狂人化バーサークして一人突貫とかしないかちょっと心配になる位。

「主な理由は私の楽具合」

「理由が相変わらずストレート!」

 と、ツッコミを入れつつ感じる事。「主な」と言ったのには、逆に言えば他の理由もあるという事。そして何より、ソフィを推薦した時のレナの様子。表情はレナを知らない人からしたらいつも通りなのだが、ライトにはわかった。真剣な提案だということ。

「ライト殿、我からも。ソフィ殿を推薦します」

 そしてニロフからの駄目押し。――確信に至った。理由があるのだ。

「わかった。――ソフィ、お願い出来る?」

「はい」

 穏やかな笑みで、ライトの依頼を承諾。そのままソフィは数歩前に進み、ゆっくりと深呼吸。

「見てろよローズ。戦いってのが何なのか、アタシがその目に焼き付けさせてやるぜ」

「!?」

 そしてスイッチが入った。

「師匠! ダンジョンってどうなってるんですか!? ソフィさんが……!」

「大丈夫、ソフィのはダンジョン関係無いから」

 こうして、ソフィの体験会を兼ねた、ダンジョン調査隊が正式に結成されたのであった。



「ダンジョンと洞窟・洞穴との違いは正確に提言されているものではなく、案外曖昧な所があったりします。ですが一般的にその違いは、やはりモンスターの生息数の多さ、その穴の大きさなどがあり、それが大きいと比較的ダンジョン、と呼ばれる事が多いです」

 ダンジョン突入直後、ハルによるレクチャーが開始された。真剣に聞くローズ。……真剣に聞くライト。

「基本的に大きな洞窟にはモンスターが生息し易いので、どうしてもダンジョンと呼ばれる形になりがちです。なので定期的に誰かがダンジョンに入らないと、モンスターが溢れ近隣の街に被害を及ぼす可能性があり、冒険者や傭兵、軍などが入るのです」

「冒険の為じゃなくて、人々の生活の為に入るんですね!」

「入る側にもメリットはあります。モンスターの中にはやはり生活品や装備品、食料品の素材となる物も多く、ダンジョンでしか手に入らない品も多くなります。価値が高いものもありますから、腕のある人は定期的に入れば良い稼ぎになります。勿論こういった場所ですし、更にはモンスターを相手にするので、常に命の危険に晒されるので誰にでも出来る事ではありませんが。――ライト様、レナ様、ネレイザ様はポートランスのダンジョンを覚えていらっしゃいますよね?」

「忘れたくても忘れられませんよ。筋肉筋肉ってそこら中から筋肉が生えてきて」

「そんな気持ち悪い所じゃなかったよね!?」

「あーあそこね。寝る所無かったよねー」

「こっちは覚え方雑!」

 ライトの左右はあまりポートランスのダンジョンに良いイメージが無い様子。

「ああやって国が正式に管理する事で、安全度を高めて綺麗に運営している場所もあります。ですが中々全てのダンジョンをあのレベルで管理は出来ないので、こういった「野良」のダンジョンが出来上がってしまうのです。そして今回の様な依頼に繋がります」

 ダンジョンに入った冒険者達の事故。――切っても切れない関係なのだろう。

「おうハル、説明終わったか? そろそろ実戦入りそうだぜ」

「はい。そちらのレクチャーはお任せ致します」

「よし。――ローズ、武器を持っての実戦は初めてだな?」

「はい!」

「実際問題、経験無しに戦うのは死ねって言ってる様なモンだ。本気でウチらについてくる気があるなら、剣も習わなきゃならねえ。お前にどんだけ勇者の才能があっても、今倒せるのは簡単な奴だけだ。しかも一対一でな。そんな都合の良い話、ダンジョンじゃまず有り得ねえ。――つーわけでちょい見てろ」

 ソフィが愛用の両刃斧を握り直し、改めて前を見据える。すると、

「ガルルゥゥゥ……!」

 狼を巨大にした様なモンスターが三体、前から現れた。明らかに敵意も剥き出しで。

「っしゃあ! 行くぜ!」

 その三体に欠片の迷いも無く、直ぐにソフィは地を蹴る。同時に飛び掛かる三体に対し、両刃斧を大きく振るい三体の攻撃を同時にガード。

「オラァ!」

「ギャウン!」

 更に降り抜くと同時にソフィから見て一番右の個体は斧の当て方を変え、そのまま壁に打ち付ける様に吹き飛ばす。

「連携してえなら、もっと賢い連携をしてくるんだな!」

 一体を吹き飛ばす事で二対一となった時点で、更にソフィは真正面の個体に対し一気に間合いを詰め、両刃斧を振り上げる。強力な斬撃で戦闘不能に追い込むと、再び両刃斧を横に大きく振るい、左の個体に攻撃。こちらも戦闘不能に追い込む。

「ふっ!」

 そして最後には最初に吹き飛ばした右の個体に間合いを詰め、斬撃。体制を立て直す暇もなく、右の個体も戦闘不能に。

「っとまあこういう感じで基本戦うわけだ」

 以上、圧倒的速度でのソフィの勝利。……勝利はいいのだが。

「ソフィさ……薄々予感はしてたけど、あんた今回のコンセプトわかってる? 何の為にパーティっていう形で来てるのよ」

 圧倒的過ぎて勿論ローズには参考にならない。珍しく(!)レナが正論のツッコミ。

「パーティでダンジョンに潜るって話だろ? アタシは前衛なんだから斧振ってナンボだろ」

「いや普通のパーティは前衛一人に任せて後は見学とかないから。他のメンバーの援護とかあるから」

「あー、そういう話か。よしネレイザ、普通に魔法撃っていいぜ。そういうのやればいいんだろ?」

 と、少し歩くと再びモンスターが。今度は大きな蛇が二匹。

「っしゃあ! 見てろよ!」

 再びソフィが迷い無く地を蹴る。直後、ネレイザが詠唱を開始。雷系統の魔法球を放ち――

「おらああぁ!」

 ズバァァン!――気合一閃でソフィが両刃斧を振るうと、巨大蛇も「魔法球も」消えた。……同時に掻き消した。

「とまあ、味方からの攻撃に当たりそうになってもこうやってだな」

「私ソフィさんの訓練の為に魔法撃ったんじゃないんですけど!?」

 とりあえずソフィは攻撃力も防御力も高いというのが良くわかった。――いやそんなの十分知ってる。

「ライト君、ほれ。何とかしてきなさい」

「えーっと……ソフィ、次丁度良さそうなのがいたら、俺とローズに挑戦させてくれないか? ソフィはいざとなったら来てくれたら」

「! 団長の特訓の成果ってやつか、わかった、見せて貰うからな」

 ライト込みになる事で、一旦ソフィが素直に退いてくれた。入れ替わる様にライト、ローズ、そして護衛としてレナが前に出る。

「ライト君、私は」

「いざとなったら、で頼む。ネレイザもハルも」

「うん」「承知致しました」

 直後、今度は大きめのスライムが一体、道を塞ぐ様に出現した。

「師匠、私に出来ますか……?」

「出来なくたっていい。大丈夫、必ず守る」

 ある意味スパルタかもしれない。でも「戦い」を感じ取って、その結果気持ちをしっかりと決める切欠になってくれたら。

「わかりました。――やってみます!」

 気持ちを固めたか、ローズが武器屋で受け取ったヤザックの剣を抜いた。そして――

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