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第三百三十話 演者勇者と勇者7

『大丈夫。私は貴方の傍にいるわ。貴方が特別だって、関係ないもの。だから、心配しないで』


 そう言って優しく微笑んでくれた人は、自分の傍から離れて行った。――自分が、特別だからだった。

 知らない人からすれば、凄い力なんだろう。だがこの力は、自分には何ももたらしてくれない。寧ろ自分から、全てを奪い去っていくだけだ。

 今、最後に残った大切な宝物――娘すら、この力のせいで、居なくなろうとしている。それだけじゃない。娘は、自分と同じ道を進みかけている。不幸になりかけているのだ。そんな悲しい事があっていいのだろうか。

 でも、今の自分にそれを止める力は無い。これだけ特別な力があるのに、大切な人の不幸を食い止める力は無いのだ。

 誰かを救う力があっても、私達を救ってくれる存在など存在しないのだ。

「……皮肉な世界だ」

 誰が悪いわけじゃない。でも、誰も自分の想いを汲み取ってくれる人は――

「そうですね、確かに「誰も」人は汲み取ってはくれないかもしれませんね」

「……!?」

 ハッとして振り返ると、知らない女がそこに立っていた。

「誰だ……?」

「貴方と同じです。――孤独を知る者ですよ」

 そう言って女は笑う。知らない女だが、嘘を言っている様には何故か見えなかった。

「でも安心して下さい。もしも貴方が信じられるのならば、「神様」だけは貴方を救ってくれるかもしれません。そうすれば、貴方はもう孤独じゃなくなる」

「は……?」

 こちらの問いに答える事なく、女は優しい笑顔を浮かべて、私の手を取った。そして、

「貴方に、神の御加護を」

 そう言って、祈りを捧げた。――神、だって?

「生憎、突然そんな話をされて信じる程お人好しではないが」

「あら、それは残念です。――でも構いません。私が祈りたくて祈ったまでの事」

 そう言うと、女は背を向けて、家を後にする。――普通に考えれば不審者だ。無断で家に入り、勝手に神に祈りを捧げて帰る。

 だが、その女を追求する気には何故かならなかった。何となく、その背中を見送る形となる。

 そして――女の最後の呟きまでは、聞こえなかった。


「勇者が、正式に誕生してくれないと困るもので。――この世界の為に、宜しくお願いします」



「ヤザックがまだ元気だった頃は、この街の為に色々やってくれたもんさ。下手な傭兵なんかよりもずっと強かったからな。元々優しい奴だった、嫌な顔一つせず頼めば動いてくれてたよ。あいつは街の英雄だった」

 懐かしむ様に店主は、ヤザックの最後の剣を見ながら語り出した。

「ローズちゃん、今の率直な感想を一言」

「父は確かに優しい人です。でも……その、あまり街の人と仲良くしている姿を私は見た事がなかったので、驚きです」

 レナにそう問われ、ローズも戸惑いながらその答えを口にした。――要は、ローズが物心ついた時には既に最初にライト達が訪ねた時の様に、あまり愛想が町人達に対しても良くないのだろう。でも、昔は違った。

「部外者の俺達が訊くのもあれですが、ヤザックさんが変わってしまった切欠って、やはり奥さんが」

「だろうなあ。時期的にも丁度だし、俺も見舞いに行ったりしたんだが、会っても貰えなかった。いつか元気になってくれるかと思ってたんだが、数年して元気な顔を見せてくれる様になったのは娘さん――ローズだったよ」

 店主がローズを見て優しく微笑む。

「俺達も安心したよ。こんなに立派な娘さんに育ってたなんてな。だからヤザックもいつかは昔みたいに顔を見せてくれる様になる。そんな気がしてたんだ。――最近、ヤザックはどうだ? 少しは元気になったか?」

「あまり変わりません。悪化はしてないですけど……」

「そうか。――ローズも悩むよな。お前の事だ、ヤザックの事を強くけしかけたりも出来ないだろ。俺達が何かしてあげられたらいいんだが」

「大丈夫です、その気持ちだけで十分です。ありがとうございます!」

 ガバッ、と元気よくローズがお礼を言いながら頭を下げる。――ローズが、この街の人に愛されているのが良くわかった。そしてヤザックも心配されているのがよくわかった。

「んー……」

 その様子を見て、レナが何か言いたげな表情を見せる。――これは多分。

「レナ、我慢な。ローズの為に」

「わかってるって。私が今怒ったってどうにもなんない話だし」

 要は、レナから見ればヤザックの「甘え」という事なのだろう。確かに彼は愛する人に裏切られた。でもその後、ずっと傍で支えてくれた人がいた。街の人も、助けてくれた恩義もあり、優しく見守ってくれていた。その甘えにいつまで縋り付いているんだ、と。そしてそれを伝えた所で――今のヤザックの気持ちが、変わるわけではないだろう事もわかっていた。

「ただ逆に言えば、説得が難しくなったってのがよくわかる話でもあったね」

「それはな……」

 長年寄り添ってきた娘、町人達の話も届かないのに昨日今日やって来たライト達の話など余計届かないだろう。――どうしたものか。勢いで計画練ってるけど上手くいくかな……

「それじゃ、この剣、お預かりしますね。大切に使います!」

「おう。ヤザックにも宜しく言っておいてくれな」

 こうして解決の糸口は掴めないままだったが、ローズはヤザックの為に作られた剣を手渡されるのであった。



「お待たせ。遅くなったかな」

「大丈夫です、ご心配なく」

 装備も揃った所で、一向はフリーの傭兵や冒険者の仕事の仲介所であるギルドへ。先に足を運び良さそうな依頼を探していたソフィ、ドライブらと合流する。

 要は、ローズにそういった体験をさせてあげる手っ取り早い方法が、ここで仕事を請け負う事だったのだ。

「何か良さげなのはあった?」

「そうですね……」

 ジッ、とソフィは真剣に数枚の依頼書と睨めっこ。

「とりあえず、この三枚を同時にこなせばよい体験になるかと思います。追い込まれた時に人は新しい物が見えますから」

 ソフィの持っていた依頼種は全てモンスターの駆除依頼で――

「って言いたいことはわかるしソフィはそれがあっての今なのは重々わかるんだけどちょっと今日はコンセプト違うんじゃないかな!」

 初日からハード過ぎる。そして仮にそれをしたとしても結局は狂人化バーサークソフィが一人でこなしてしまう気がする。

「長、マイルドなのが必要ならばこれはどうだろう。良い体験にもなるぞ」

 ドライブが持っていた依頼書には「使役魔獣の世話」と書かれていて――

「って確かにマイルドだし良い体験になるけどこれも今回のコンセプトと違うんじゃないかな!」

 明らかにドライブの私欲が混じっている気がする。

「ライトくん、やっぱり冒険はダンジョンでしょ? だからダンジョンの依頼なんてどうかな」

 サラフォンが持っていた依頼書には「ダンジョン入口付近の清掃・だだしモンスターの遭遇の可能性あり」と書かれていた。

「うん、あまり経験のない俺が言うのもあれだけど、いいんじゃないかな。人の役に立つ、ダンジョン、モンスター……って、サラフォン背中のそれ何?」

 サラフォンの背中にはロケットの様な銃の様な魔道具が。

「ボクがこの前作った清掃用の魔道具だよ! 隅々まで汚れを落とせるし、モンスターが出てきた時は銃として使用可能! 勿論ローズちゃんにも貸してあげるから!」

「サラフォン、そうなってくるとまたコンセプトが違ってくるから……」

 何の為に装備を揃え、ヤザックの剣を引き取ったのか。サラフォンの道具お披露目会になってしまう。

「サラフォンの依頼は何というか、惜しいんだ、そういう方向性の何かないかな」

「もうライト君が依頼したら?」

「それはそれでどうなの!?」

 本末転倒な気がする。

「ふむ。でしたらこの辺りが良いかもしれませぬな」

「大丈夫か? 美人百人集めなさいとか格好いい仮面の作成とかじゃないよな?」

「……流れ的にそう思うのはわからないでもないですが、ライト殿はもう少し我を信用してくれても良いのですぞ?」

 そう言ってニロフがライトに見せた依頼書は、先程とは別のダンジョンでの捜索依頼だった。どうやら探索に行ったパーティと連絡が取れないらしく、関係者が捜索を依頼している。

「成程……困ってる人を助ける、ダンジョンの探索、即ちモンスターとの戦闘の可能性……」

 見事に希望に沿った依頼書だった。これならば。

「ローズ、この依頼を体験してみる形でいいか? 勿論俺達が一緒だ」

「はい! 宜しくお願いします!」



「王女様、勇者様が来て下さるなんて……! どうか、どうか息子達を助けて下さい!」

 ライト達はその足で依頼主の元へ。出迎えてくれたのは四十代位の女性。連絡が取れないのは彼女の息子がリーダーを務めるパーティらしい。日帰りで帰ると言い残して行ったのに三日前にダンジョンに行ったっきり連絡が途絶えているとのこと。

「大丈夫です、息子さん達はきっと無事です! 私達が、必ず助けてきます!」

「え……ローズちゃん? 貴女、どうして」

 依頼主はやはりローズの事は知っていた。ローズは今見習い期間で一緒に付いて行く許可を貰った事を説明。

「そう、ローズちゃんも大きくなったものね……ヤザックさんの娘さんだものね……」

「やっぱり、父の事を」

「凄かったのよ、ヤザックさんは。元気が無くなってしまって心配だったし残念だったけど、こうしてローズちゃんが元気に育ってくれてるのはヤザックさんにとってもとても良い事だわ。――ヤザックさんに受けた恩を返せずに、ローズちゃんに頼る事になるなんて思ってもなかったけど」

「気にしないで下さい! 困った時はお互い様ですから」

「ありがとう」

 色々な感情が混じってしまったか、女性の目には薄っすらと涙も浮かんでいた。ローズはそれを見て、ぐっ、と拳を強く握り、

「師匠。必ず助けましょう。私が勇者とか抜きで、助けてあげたいです」

 そう力強くライトに宣言した。

「わかってる。直ぐに準備に取り掛かろう。――ネレイザ」

「位置情報は取得済みよ。荷物の整理だけするわ」

「ネレイザ様、お手伝い致します」

 こうして、ライト騎士団+ローズの初任務が決まったのであった。……その一方で。

「ねえニロフ。こういうのは「私の役目」じゃない? ニロフっぽくないけど」

「レナ殿は勘違いしておられますな。我々は仲間、平等。レナ殿一人が泥を被るのはおかしな話でしょう。それにまだ、結果が決まっているわけではありますまい」

「そうなんだけどさ」

「いずれの結果にしろ、経験になるでしょう、ローズ殿にとっては。その結果、彼女が本当にどうしたいかが見えてくる」

「それをウチのリーダーがどう受け止めるか、だね」

「ええ」

 そんな会話をしている二人がいるのは、ライトはまったく気付かないのであった。

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