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第三百二十八話 演者勇者と勇者5

「お早うございます、師匠!」

 ででん。――朝、宿のドアを開けると聞こえてくる元気の良い挨拶。

「お……お早う、ローズちゃん」

「師匠、「ちゃん」は止めて下さい! 私は弟子です、呼び捨て当然! 寧ろ師匠が認めてくれるまでは「おい」とか「お前」とか「犬」とかそんな感じでも全然!」

「うわあ……ライト君、私はドMのライト君が好きだったのに……調教好きとか……」

「朝から前後でツッコミ所満載なの止めて!?」

 寧ろ朝からよくそんな横槍入れてこれるな、と感心してしまう程。――寝るの好きな癖に寝起きから何なんだ。


 状況を説明すれば、リバールの誘いを素直に喜び、ローズはライト達の宿で一晩一緒にお泊り。その状況を拒む様なライト騎士団の面々ではなく、素直なローズを可愛がり、話が聞きたいというので今までのライト騎士団の活躍で話せる内容を聞き易くお話。――その辺りはニロフを筆頭に話聞かせるのが非常に上手いメンバーが揃い、ローズは大興奮で話を聞いた。

 エカテリスに懐いたのは予想通りだったが、同じ位に尊敬の眼差しを向ける様になったのはライトだった。何もない所から勇者(仮)となり、エクスカリバーと心を通わせる(?)事が出来るライトを、師と仰ぐ様になってしまったのだ。


「えーっと……ローズ、俺は昨日も言ったけど、ちゃんとした勇者様が認められたら勇者じゃなくなるし、師匠と呼ばれる様な人間じゃないからさ、実力も無いし」

「違います! 私は師匠の人柄に憧れたんです! 勇者としての振舞いが、素敵だと思ったんです!」

 キラキラキラ。――そんな目で見られても。ライトは困ってしまう。

「いいじゃない、ライト。それこそ、私達ライト騎士団の在り方を表している様ですわ」

 と、その様子を見ながら笑顔で登場するエカテリス。

「私達は、厳しい言い方をすれば物理的な実力が足りない貴方を中心に、貴方がここまで引っ張ってきたんですもの。慕われる要素があって当然ですわ」

「俺が引っ張って来たんじゃなくて、皆で協力しあってここまで」

「その姿勢ですね師匠! 仲間を重んじる姿勢!」

 キラキラキラ。――目の輝きは止まらない。

「その謙虚な姿勢は長の長所だが、長が居るからこそなのは事実だぞ。そもそも俺は長の勧誘に負けて騎士団に入ったわけだし」

「私だって、マスターにビシッ! と言われてこそ今があるもの」

「ボクも、ライトくんの後押しがあったから、こうして頑張っていられるんだよ!」

「私も、夜な夜な調教されたおかげで炎翼騎士えんよくきしになれたわけで」

「ほら皆さんそう仰ってます!」

「一人だけ事実無根な奴がいるけどな!」

 そんな凄い理由で国から称号が得られてたまるか。

「兎に角、師匠は私にとって師匠です! 宜しくお願いします!」

 元気一杯、満面の笑みでそう頼み込んで来るローズ。ライトとしては戸惑いしかない。――そもそも俺自身がアルファスさんの弟子なのに、そこから更に弟子なんて。

「まー、逆に言えばライト君がそのアルファスさんに頼み込んだ時も近い物はあったけどねー」

「相変わらず俺の心をアッサリ読んでくれるな俺の横。……まあ確かにそうではあるんだけど」

 実際どうしたものか。例えば弟子入りを認めた所で、今後どうなるのか。……今後。

「ローズ様は、今後どうしたいとか、そういった希望がおありですか?」

 今後とは当然その疑問に辿り着くという事である。ハルが冷静に、ローズに尋ねるとローズも流石に複雑な表情を浮かべた。

「……もっと外の世界を見てみたい、という願望が無いって言ったら嘘になります。今回こんな風に皆さんと出会えたのは、奇跡だと思いますし、この機会を逃したらもう次は無い。その事位わかります」

 王国王女直々の勧誘。そう滅多にある話ではない。ローズ自身もエカテリスに憧れ、更にライトに憧れ。またとないチャンスなのは明白である。……だが。

「でも、父を置いていく事は出来ません。父の反対を押し切ってまで皆さんと一緒には行けません」

 唯一にして最大の難点はそこであった。ヤザックの存在である。父一人子一人、体を壊したヤザックを支えて暮らしている。そんなヤザックを置いて自分だけが華々しい世界へ行く事などローズには出来ないのだろう。

「あの、王女様、ローズちゃんとヤザックさん、二人共お城に来て貰うって事は出来ないんですか? ヤザックさんの補助が必要なら、ボクがそういう道具作りますし」

 見かねたサラフォンがそんな提案。

「勿論可能ですわよ」

 と、それに対してエカテリスはあっさりとそう言い切った。それに対しガバッ、とローズが食い入る様にエカテリスを見る。

「ヤザックもローズも、勇者の血筋を持つ存在。我がハインハウルス国にとって要人である事に違いないですわ。二人が望むのなら、それ相応の受け入れを用意出来ます」

「それじゃあ……!」

「ええ。――もう一度、落ち着いて話をしましょう。勿論私達が一緒にちゃんと説明しますわ。だからローズも、正直な想いをヤザックに伝えなさい」



「私はこの村を離れるつもりはありません」

 朝食を終え、ローズと共に再びヤザックを訪ねる。やはり家の中に入るのはローズの他にはエカテリス、リバール、ライト、レナ、ネレイザの五名。他は外で聞き耳を立てている(!)。

 ヤザックも一日経って気持ちは落ち着いたか、昨日よりかは冷静に口を開いた。勿論ライト達は正式に来訪を依頼。その返事がそれであった。

「お父さん……私」

「頑なに拒む理由を伺っても宜しいかしら? 条件は決して悪い物ではないと思います。お体の悪い貴方に無理をさせるつもりはありません、寧ろ来て頂けるのであれば最新の治療を施して差し上げる事も出来ますわ。ローズに至っても、必ずハインハウルス軍が守ります。王女の名に懸けて約束しますわ」

「そう言って貰えるのは光栄かもしれない。でもその案を受け入れた時点で、自分を「勇者」だと認めなくてはいけない。私はそれが嫌なんです」

 何かを言いかけたローズを庇う様にまずエカテリスが説明。だがそれもまったく受け入れて貰えず。

「ローズだってそうです。大切な娘を、危険な目に合わせたくはない」

「エカテリスが言った様に、俺達が全力でサポートします。決して娘さんを――」

「それはでも百パーセントではないでしょう? 確実に、何かをしなくてはいけない時がある。その為の勇者なのだから」

 そう言われてしまうと反論出来ない。現にライトも度々危険な目には遭ってきた。

「お父さん!」

 ライトが言い淀んでいると、意を決してローズが口を開いた。

「お父さん、もう一回考えてみよう? こんなチャンス、二度と無いよ。お父さんが何かをする必要はない。私が頑張れば、お父さんの体も良くなるかもしれないんだよ?」

「ローズ。ローズは、行きたいのか? 勇者に、なりたいのか?」

「うん。やってみたい。私に出来る所まで、やってみたいの」

「……そうか」

 ローズの返事に迷いは無かった。真っ直ぐな目でヤザックを見る。――ヤザックが、視線を外した。

「お前がどうしても行きたいというなら、俺に止める権利はない。お前の人生だからな。だが、俺は行かない」

「お父さん! 私はお父さんが心配で、でもこの話を受けたらもっと生活も楽になるし、それに」

「俺の事が心配で行けないなら、俺の事は忘れていい。親子の縁を、切ってもいい」

「!?」

 衝撃の一言だった。ヤザックは、冷静にそうローズに告げた。――これ程までに父親を想う娘に対して、あっさりと。

「お父さん、何で……!? 私は、ただ……」

 ローズの目に涙が溜まる。リバールがローズに寄り添い、優しく抱きしめて宥める。

「それが――貴方の、答えですか」

 そして、背中越しにリバールはそうヤザックに問いかけた。口調は冷たく、その表情は鋭い。

「いつからこの世界は、夢や希望ばかりに溢れる様になったんですか?」

 だがそのリバールの言葉にもヤザックは退く様子は見られない。こちらも冷静に、言葉を選んでいく。

「ええ、貴方達の世界は苦労の先に、夢や希望が溢れてたんでしょう。でも、全ての人がそうなるわけがない。ただただ現実が、拭い払う事の出来ない物が、見たくなくても見えてしまう。私はそんな人生を歩いて来たんです。今更どうにかなるとは到底思えない。――貴方達とは、違うんだ」

「んなことこっちだって百も承知だっての」

 レナだった。怒るわけでもなく、こちらも冷静にヤザックを見ている。

「救われる人間と救われない人間。どれだけ努力しても報われない人間。何もしなくても幸せになれる人間。誰かにすがって幸福を横取り出来る人間。色々な人がいる。否定はしないですよ。そっちの目に私達がどう映ってるか知らないけど、これでも色々な物、見てきたしそれなりの人生歩いて来たつもりなんで」

「だったら――」

「でも、あんたにローズちゃんの幸せを邪魔する権利はないでしょ。娘として愛してきて、親子として支え合って来たんでしょ?」

「だから言ったじゃないですか、自由にしていいと」

「言い方を考えろって言ってるんだよこのアンポンタンが。心に思った事をストレートに言えばいいとかガキじゃないんだから。いい大人だったら考えなよ」

「…………」

 レナなりのストレートな意見だった。ヤザックが冷たい表情のまま押し黙る。最もな意見ではあったが、勿論この場の空気は悪くなる。

「……もう、いいんです」

 そんな中、再び、ゆっくりとローズが口を開いた。

「そもそも、今まで何もしてなかった私が、勇者になんてなれるわけがない。王女様に勇者様に会ってお話が出来ただけで、一生分の思い出が出来ましたから。だから、私は大丈夫です。――お父さんも、我儘言ってごめんなさい」

 ローズは笑顔だった。年相応の笑顔だった。だからこそ――見てられない。

「許さない」

 そして、ライトは意を決して口を開いた。

「ローズ、君は俺に弟子入りしたんだろ? 君はもう俺の弟子なんだぞ?」

「それは、あの時の勢いで――」

「許さん! 俺の許可なく破門など許さんぞ! 弟子なら、卒業までしっかりと俺について来い!」

 どどーん。――ライトは高らかに大袈裟に、そう宣言したのであった。

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