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第三十一話 演者勇者と魔具工具師1

「あ、マーク、ちょっと訊きたいんだけどさ」

 収穫祭も終わり少ししたとある日のライト騎士団団室にて。ライトはマークの姿を見つけ、声をかけた。

「はい、何でしょう?」

「この俺が最初に貰った勇者グッツってさ、補充って出来ないのかな?」

 何だかんだでライトは勇者グッツにはお世話にはなっていたし、まだまだお世話になりそうな気がしている中、今まで使った物はそれぞれ一つずつしか支給されておらず、便利そうな物は補充をしておきたいと考えており、それでマークに尋ねてみることにしたのである。

「ちょっと入ってる鞄、見せて貰っていいですか?」

「うん」

 マークに鞄を手渡すと、マークは中身を何個かチェックする。

「これは……ああ、魔具工具室で作られた物ですから、そこに頼めば同じ物を作ってくれると思います。三階の東側にありますよ」

「そっか……今日何もないよな、ちょっと行ってくる。ありがとう」

 ライトはマークから鞄を受け取り、団室を後に――

「あれでしたら僕行って来ましょうか? 危ないですし」

 ――しようとした所でマークに引き留められた。

「いや、何でもかんでもマークに頼むのは悪いから、ちゃんと自分で行くよ。どんな感じで作ってるのかも気になるし。それじゃ」

「あ、いえ、その……あ」

 が、ライトはその提案をやんわりと断り、何かを言いかけていたマークを残して部屋を後にした。

「おはよー」

「あ、おはようございます」

 マークが何となく硬直していると、ほぼ入れ替わりに近い形でレナが団室に入って来た。

「どしたのよ、そんな所で固まっちゃって」

「その……ライトさんが、勇者グッツの補充に魔具工具室へ行ってくるって。僕が行くって言ったんですけど自分で見ておきたいって」

「あー、そゆこと。大丈夫でしょ多分。死にはしないよ。多分。……多分」

「多分が多過ぎですよ! 不安煽らないでくれませんか!?」

 そんな客観的に見れば不安しかない会話が流れるライト騎士団団室であった。



「三階の東側……この辺かな」

 一方のライトは順調に城内を目的地に向かって移動中。城での生活にも慣れては来たが、普段行く所はやはり限られており、広い城内は迷子にならないように――は大げさだが、キョロキョロと周りを見ながら移動する感覚でいた。

「にしてもマークも過保護だな、流石にこの位行けるっての」

 それでもいい大人である。例え迷子になってもその場で保護されましたとかはないだろう。自力で誰かに尋ねて帰ること位出来る。――何も危ないだなんて言わなくても……危ない?

「……危ないって流石に大げさだよなあ」

 確かにマークはあの時、危ないから自分が行くと言った。迷子が危険でないとするとまるで道中にモンスターが居て襲ってくるような言い方である。――マークはしっかりしている。何も考えずに危ないと言うような人間ではない。でもまさか城内でモンスターが出てきたり誘拐されたりはしないだろう。言い間違いかな?

「あ、ここかな」

 そんな事を考えている内に、「魔具工具室」と書かれた部屋のドアを発見した。――トントン。

「……うん?」

 ノックをしたが返事がない。不在なのだろうか。念の為にもう一度ノックをする。――トントン。

「……もしかして誰もいないから待ち時間が危険なのかな」

 何となく頭から消えないマークの言葉を無理矢理結び付けてみたが、解決には至らない。ここは一度出直すべきか、と考えたが、

「すみません、どなたかいませんか」

 一応ドアを開けて中を確認してみる事に。魔具工具室、という部屋が一体どんな部屋なのかという好奇心もあった。ドアノブを取り、ゆっくりとドアを開けると――ズドーン!

「ええええええ!?」

 爆発した。成程こりゃ危険だ、一本取られちゃったぜ……なんて言ってる場合じゃない! 爆発したよいきなり!

 ハッとして見れば、部屋の奥で爆発したらしく、ライト自身は強い風を受けただけで済んだが、その奥に行けば行くほど爆風で物が散乱、山積みになっていた。

「だ、誰かいますか! 大丈夫ですか!?」

 足場を確保しつつライトは奥へ。幸い焦げ臭い匂いはしない。火は出ていない様だった。――そして、

「駄目かあ……中々上手くいかないなあ……」

 奥の作業場と思われる箇所で、山積みのゴミなのか何か用品なのか、どっちかライトにはわからないが、兎に角山積みの何かが喋った。――成程こりゃ危険だ、ゴミ喋るってやばいだろ……っていやいや違う、違うよ俺!

「大丈夫ですか! 今助けます!」

 明らかに人が埋もれている。そう感じたライトは急いでその山をかき分けることに。

「え? え? あ、あの、どなたかいらっしゃるんですか?」

「はい、ですから直ぐに助けますよ!」

「あ、あの、ごめんなさい、お茶も出さずに」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょう!? 兎に角助けますから!」

 緊張感の無い返事をとりあえず無視してライトは山をかき分ける。すると中から人が出てきた。――良かった人間だった。いやでも……

「大丈夫ですか!? 凄い事になってますけど……!」

 ボサボサの髪の毛、汚れた顔、ヨレヨレの作業着。まさに爆発に巻き込まれましたと言わんばかりの状態であった。……のだが。

「あ、その、爆発する前からこうだったので……爆発自体は大した規模じゃなくて、その、魔法でシールドを出して防御したので、大丈夫です。その、えっと、日常茶飯事なので、慣れてます。ありがとうございます」

 ペコリ、と頭を下げてきた。本当に大丈夫らしい。――となると、爆発前からボサボサヨレヨレというのも本当らしい。

「あの、ところでどちら様ですか?」

「あ、魔具工具室の人に話があって来たんですけど」

「ボクに話……ですか? あ、そうだ、お客様ですよね、お茶入れます」

「あ、いや、お構いなく」

 寧ろこの部屋の惨状の最中お茶を出されても、と誰しもが思うような状況下である。――ズドーン!

「あ、失敗しちゃった……」

「ええええ!?」

 そしてそのお茶すら準備をしている途中で小規模だが爆発した。――お茶って手順間違えると爆発するんだっけか。なんなんだこの人もこの部屋も。……何となく、マークが危険と言った意味がわかった。早めに用件を済ませて切り上げた方がいいかもしれない。

「あの、今日この部屋に来たのは――」

 ライトが状況打破の為に強引に話題を切り出そうとした、その時だった。――タタタタ、バン!

「サラ! また爆発騒ぎ起こしたの!? あれ程注意しなさいって言ったじゃない!」

 小走りで姿を現したその人物は、怒りと呆れの混じったトーンで、そのまま部屋に入りながらそう告げてきた。

「しかもまたこんなに部屋グチャグチャにして……どうせ爆発させる前から整理整頓してなくて、爆発してゴチャゴチャになったんでしょう! まったくもう!」

「う、うん……その……ごめんね……」

「しかもその髪の毛、その恰好……最低限の身だしなみにも気を配りなさいって言ってるでしょう!? どうしてそうなの!」

「あの……つい、実験に夢中になっちゃって……」

「ちゃんとご飯は食べてるの? あなた夢中になるとご飯食べるのも忘れるんだから。これも何度も言ってるけど、面倒臭いからってご飯後回しにするのも体に毒なのよ」

「ご飯は……えっと、食べた……と思う」

「兎に角、まずは片付けよ。ほら、私も手伝うから、順番に片付けていくわよ」

 例えて言うならば一人暮らしを始めたズボラな子供の様子を見に上京してきた母親……といった感じの説教というか会話というか、そういった物が怒涛の如く続く。呆気に取られて置いてけぼりのライト。その光景にも驚いてはいたのだが、ライトが何よりも驚いたのは――

「あの……ハル?」

 そう、怒涛の如くやって来て捲し立てている方が、自分の見知った顔の、自分の見たことない状態であった、ということである。姿を見せ説教をし出したのは、ヨゼルド専属使用人兼ライト騎士団団員である、ハルであった。――あのいつでも冷静なハルしか知らないライトにすれば、この口調と勢いで喋るハルに驚きしかなかった。

「ちょっと待って、今この子の事をやってるから――え?」

 一方そんなライトの心境を無視して声をかけられても気付かずに話を進めようとしていたハルだったが、チラッとライトが視界に入ったのだろう。少しずつライトの存在、という新たな情報が頭に入ることで一瞬体が固まってしまう。

「ライト様……?」

「えっと……俺も何か、手伝おうか?」

 ははは、と気まずくならないようにライトは笑顔でハルにそう告げる。――直後、ハルの硬直が溶けると、恥ずかしさが込み上げてきたか、顔を赤くして、

「ご無礼を働きました、申し訳ございません!」

 と、勢いよく頭を下げてきた。ライトとしては気にするような案件ではないのだが、ハルの中では正式謝罪の案件らしい。――爆発とはまた違う意味でライトとしても困ってしまう。

「いや、俺も偶々居ただけだから、そんな勢いで謝らなくていいって!」

「いえ、使用人として騎士団団員として、あるまじき行為です」

「とりあえず……ゴミ箱ゴミ箱……あっ」

 ズドーン!

「あ、ゴミ箱爆発しちゃった……」

 ――そしてそんな二人を他所に、爆発行為(?)は続いていた。

「ちょ、この部屋どれだけ爆発案件あるの!?」

「えっと……数えます?」

「わーわー数えなくていいよ! 爆発しちゃう気がするから! というか数えられるの!?」

「サラ、とりあえず手を止めて! 状況確認を先にするから!」

 こうして、三者三様の理由で何かしらを把握出来ていないので、状況確認という名の話し合いが始まるのであった。

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