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第三百二十六話 演者勇者と勇者3

 目の前の少女――ローズが、何の障害もなく、エクスカリバーを抜いた。勇者以外抜く事の出来ない剣を、今皆の目の前で。

「え? え? あの、私変な事をしちゃいました?」

「ううん、大丈夫。ありがとね」

 勿論周囲は驚きの目でその光景を見るし、見られたらローズも戸惑う。――レナは直ぐに優しく対応。鞘に戻させエクスカリバーを受け取り、ライトに手渡す。

「この剣はエクスカリバーっていって、本物の勇者にしか抜けない剣なんだ。今は訳あって俺が持ってるけど、俺は自由には抜けなくて」

「! それってつまり」

「ローズちゃんに、勇者の素質があるって事なんだ」

 少し悩んだが、ここで隠しても今抜かせた意味が無い。ライトはローズにそう説明すると、

「止めてくれ! ローズは関係ない!」

 ガッ、とヤザックが急ぎ立ち上がり、ライトとレナから庇う様にローズを抱き締めた。

「貴方達は一体何が目的なんだ! 私は、静かに暮らしていたいだけなんだ! 私達親子の幸せを、軍だからって邪魔する権利があるのか!? 何が勇者だ、何がこの国の為だ! 私達は――」

「ヤザックさん、落ち着いて下さい。さっき伝えた様に、俺達は強制的に連れて行きたいとかじゃない。ましてやローズちゃんをなんて」

「ですが!」

「落ち着いて、ゆっくりとでいい、考えては貰えませんか。こちらにも説明不足な部分もある。今日今直ぐ答えが欲しいわけじゃないんです。――今日の所は帰ります。また後日」

 今のまま話をしても埒が明かない。ライトは仲間達を促し、ヤザックの家を後にするのだった。



「何か叫び声が聞こえたと思いましたが、そういう事でしたか。順風満帆とはいきそうにないですなあ」

 とりあえず今日の宿へと移動中。ライト達は外で待っていたメンバーに事情を説明。最も、

「殆ど聞く耳も持たない状態でした。まるでお話にならなかった」

 というネレイザの呆れと少しの苛立ちを見せてのぼやきが、最もしっくりくる現状説明となってしまった。

「何か事情があるのでしょうが、そこを探る事からでしょう。唯一好感が持てたのはローズさんが姫様に尊敬の眼差しを向けていた点ですね。彼女は素晴らしいです。時間があれば更に姫様の良さを」

「……リバールお止めなさい。時間が足りませんわ」

 興味の無い人への入門編が座学で何時間もあるのに、興味ある人だったら一体何日かかる事やら。

「それに、リバールが事情を調べてそれで一歩踏み込んでも、解決しそうな雰囲気ではありませんでしたわね。向こうから話をしてくれる位じゃないと」

「でもあの様子じゃ、王女様だろうがマスターだろうが誰が何を言っても聞いてくれませんよ……ほとぼりが冷めるのを待っても」

「これ、私達の私情抜きにしても諦める事視野に入れるべきかもねー。私達があの親子説得するのに十年かかりますとかじゃ意味ないでしょ」

「また明日会って、落ち着いて話してくれる様にしてみよう。……会ってくれたらいいけど」

 訪ねたら失踪されてたとかありそうで怖かった。――最後の任務と思って来たら、想像以上に大変になりそうだった。

『ライト』

 と、ライトを呼ぶ声が。何処からともなくでも心に響く感じ。これは、

「……エクスカリバー?」

『ああ』

 渦中の一本、エクスカリバーであった。約束の三回も使い切り、もう話す事は無いと思っていたが。

『話がある』

「今回の件に関して……だよな?」

『そうだ。人払いをしろ』

 エクスカリバーの声はライトにしか届いていない。ライトは仲間達に事情を話し、エクスカリバーと二人きり(?)になる。

『今回の話、諦める事を前向きに考えろ』

「!」

 持ち手を選ぶ権利があるエクスカリバーからの厳しい言葉から二人の密談は始まった。

「ヤザックさんは、駄目なのか?」

『前提として勇者の血筋を引いているのは事実だ。だから私を持つ権利がある事は認めよう。だが抜かれた時にわかった。あの男、精神的に相当弱い。あんな状態で私を使っても、存分に振るう事も出来ず、生気を消費して最悪無駄死にするぞ』

「そこは、エクスカリバーの力でどうにかならないのか? それこそ俺が使ってもコントロールしてくれただろ」

『あんなの毎回やってたら疲れるから嫌だ』

 …………。

「ええ……」

 衝撃の告白だった。剣に疲れるとかあるのか。

『お前は三回という回数の約束もあったし、事情もあった。何よりフエノガージの時のお前の精神状態は立派な物だった。だから手を貸してやった。ところがあの男は何だ? 年中後ろ向きの一般中年。そんなのに持たれて活躍しなかったとか私のせいにされたら末代までの恥だ。何の為の私だ』

「何か凄い現実的な話だなおい」

 でも元々プライドの高い剣だった。なら仕方ない……のか?

「じゃあ逆に言えば、ヤザックさんがやる気に満ち溢れたらいいのか?」

『無理な話だとは思うがな』

「まあ、言いたい事はわかった。……ちなみにローズちゃんは?」

 彼女もエクスカリバーを抜いていた。素質はあるはず。

『あの娘も権利がある事は認める。だがあの娘も駄目だ』

「やる気が感じられなかったのか?」

『射程範囲外だ』

 …………。

「射程……範囲外? 何の?」

『女は二十歳を越えてからが本番だろう。子供に興味はない』

「うおおおおいいいなんじゃそりゃあああ! お前の好みの話かよ!?」

 ローズは恐らく十五歳前後。……そういえば持ち始めた当初、自分には電流が流れるのに美女揃いの団員には抜けはしないが電流が流れなかった。――とんでもない剣だった。色々な意味で。

『あの娘が美人の顔立ちをしているのは認める。将来は有望だ。だが今はまだ早い。後五年は早い』

「そんな理由を説明して納得して貰えるとでも思ってるのかよ!? お前聖剣、世界を救う聖剣、勇者の剣! わかってるか!?」

『だから後五年後だったらあの娘でいいと言ってるだろう。何ならそれまではお前が持てばいい。そうだな、お駄賃で一年に十回は使わせてやろう』

「安いよ!? あの命がけの三回をそんな理由で大幅に越えてくんなよ!?」

 ギャーギャーとエクスカリバーと揉めるライト。エクスカリバーの声はライトにしか届いていないので傍から見たらライトが一人で騒いでいるだけである。……場所移動して人払いして貰って良かった。

「ライト君、話終わったー?」

 と、レナがやって来る。ライトは溜め息交じりで事情を説明。

「あっはっは、何それ。もう笑うしかないじゃん」

「笑えないだろ……持ち手も剣も説得しないと駄目とか予想外過ぎるだろ……」

「いいんじゃない? ヤザックさん説得に二年半、エクスカリバー説得に二年半使ったらローズちゃんはもう立派な大人だよ。ライト君が手を出しても何の問題も無い」

「俺の心配いらないよね!?」

 どさくさに紛れて何の話だ。

「まー、国王様は私達には最悪諦めてもいい的な事言ったけど、私達が諦めたら、国王様は私達が使えない様な手を使ってでも招集する可能性は十分あるんだよね」

「え?」

「思い出してみ? 君をマーク君と一緒に迎えに行った時。結構強引だったでしょ」

「…………」

 目が覚めたら首元に剣の刃が充てられていた。脅迫同然だった。

「ああいうのを君にやらせないだけで、他の人間にはやらせるかもしれない。だって勇者なんてそう他にゴロゴロ代わりが転がってるわけじゃないもん。やっぱり必要でしょ、魔王倒すのに。そしてその責任を、全て背負うつもりでいるよ、国王様は」

「……そうか」

「そして、それをわかった上で、私達に託した。――諦めてもいいんだけど、諦めるわけにはいかないよね」

「!」

 合点がいった。ヨゼルドは、自分達を信頼している。その信頼を裏切りたくない。――だったら、

「俺達の手で、何とか穏便に説得しないと駄目だな」

「ヤザックさんでもローズちゃんでも、どっちでも両方でも。何とかしなきゃだねー」

 勇者を連れて帰ろう。その為の俺、それまでの間の俺なんだ。最後なら最後らしく、しっかりと決めよう。

「早く連れて帰らないと、ライト君の代役とか国王様用意するかもしれないし」

「俺の代役って事は演者勇者演者勇者……わけわからなくなる。――まずはあの親子の事をもっと」

「とりあえずあれだ。ローズちゃんを人質に取ればどうにかなるでしょ」

「さっきの俺の穏便っていう言葉は何処へ!?」

 それこそ絶対に協力的には動いてはくれないだろう。

「えー、そうすると美人局をヤザックさんに仕掛ける? 私はその役は嫌だなー」

「普通に! もっと普通に!」

「普通なんて人それぞれじゃん。――んで? さっき何か言いかけてたけど」

「まずはあの親子の事を知る所からだって言おうとしたんだよ……ヤザックさんがあそこまで俺達を警戒するのは理由がある。それを知らないと説得も何も出来ない」

 リバールに頼る事になるのか……と思っていた時だった。

「あの!」

 ライトを呼ぶ声が。今度はちゃんと周囲から聞こえてくるのでエクスカリバーではない。……というよりも、この元気な声は。

「ローズちゃん?」

 渦中の一人、ヤザックの娘、ローズであった。

「どうした? ヤザックさんに何か言われちゃった?」

「いえ、違います。私自身の意思で来ました。――お話しておきたいと思って。私達親子の事」



「……ローズ? 何処に行った? ローズ?」

 ライト達が帰った後のヤザックの家。突然の事に疲れしばらく座っていたら、ローズの姿が見当たらない事に気付いた。

「まさか、一人で話をしに……?」

 可能性はあった。行動力の強い子だ。――そうだとしたら、どうすべきか。決まっている。

「止めないと……!」

 自分達の小さな幸せを崩されてはいけない。崩させやしない。誰にも邪魔はさせない。――その想いを胸に、ヤザック玄関のドアを開けると、

「こんにちは」

「!?」

 そこには先程まで家にいた、王女専属使用人――リバールが一人で立っていた。周囲に先程までの仲間達は誰もいない。

「何か? 私は忙しいんです、ローズを迎えに――」

「お話しませんか? 貴方を見て、気になる事があるんです」

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