表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/383

第三百二十二話 演者勇者と勇者の血筋が眠る村8

 ざわざわ。――村の中心部に集められた村人達。ソフィ、ドライブを中心に睨みも効かせているので逃げ出そうとする人間はいない。誰も彼もが不安気な表情で、ライトもしくはエカテリスが口を開き出すのを待っていた。

「マスター、ほとんどの村人を集め終わったわ。病気の人や小さい子供がいて手が離せない人とか一部例外はいるけど」

「ああうん、流石にそこを強制するつもりはないよ。そういう人達は逃げようとか思えないだろうし」

「逃げようなどと思う様でしたら、このリバールの生霊が何処までも追いかけますのでご安心を」

「……リバールそのキャラ気に入ったの?」

「ちなみにライト君が気に入ったのは躊躇いなく服のボタンを外して色々見せてくれるリバールなのでした」

「違わないけど違うよ!?」

 真向から違うと言えばある意味リバールに失礼になるという判断が咄嗟に出来た結果の返事となった。……は、兎も角。

「さてと。――皆さん、お集り頂きありがとうございます」

 気持ちを入れ直して、ライトは口を開いた。

「まずは報告です。村長ケミドトさんは、無事に発見出来ました。――ああでもこの報告は要らなかったですね。何せこの事案、村人全員が知っていたんでしょうから」

 ライトのその一言に、誰もが目を反らした。――村ぐるみの犯行。

「では何故そんな事が起きなければならなかったのか。理由は一つ、ケミドトさんがこの村に隠された事実を俺達に告白する可能性があったからです。そしてその告白の結果を恐れたが故に、皆さんはケミドトさんを誘拐、軟禁しました。そうですね?」

 返事はない。だが反論も無かった。――村人の言葉を待つ事なく、ライトは続ける。

「そんな危険を犯してまで俺達に知られたら困る事。申し訳ないですがこの村の規模でそんな事案は一つしかありません。――この村に、勇者の血筋を引く者は居ない。皆さんはそれを既に知っていた」

 ピクッ、と反応する人がチラリホラリと見えた。

「恐らくですがその事実は、ハインハウルス国が調査しに来る前から皆さん知っていたのでしょう。皆さんにとっては過ぎた過去だった。……つい先日までは。そう、ハインハウルス国が正式に、この村を勇者の血筋を引き継ぐ村だと認定するまでは」

 そう、言われなければ気にしなかったはずなのに、国家が認定する事で、村人達は改めて認識する形となったのだ。だが。

「勿論国家認定、しかも勇者。多大なる名誉栄光が授けられる事になります。この村の暮らしも今までよりもかなり裕福になる可能性が高くなる。誰もがその事実に浮かれた。……でも、前述通り既にこの村にその血は残っていない事を皆さんは知っていた」

 手を伸ばせば手に入る名誉。はいそうですか、で諦められる人間はそう多くはないだろう。

「だから誤魔化す事にした。――皆さん一人一人が勇者を名乗っているのも、浮かれと同時に、この事実に気付かれない様に、というカモフラージュが含まれてた」

 村人達からすれば、発覚が少しでも遅れたら儲け物。その攪乱の一つとして、全員が勇者を名乗ったのだ。幼稚なカモフラージュではあるが、今思えばそれでも少しでも……という想いがこうなると滲み出ているのがわかった。

「では何故皆さん、この村に既に勇者の血が残っていないのを知っているのか。その答えは、恐らくこの写真が物語っている」

「!」

 今度は先程よりも多く、村人が反応した。――ケミドトの家にあった例の写真である。

「写っている三人。まず真ん中、若い頃のケミドトさん。そのケミドトさんの左右に、若い女性と――ケミドトさんに良く似た若い男性。普通に考えたらケミドトさんの血縁者だと思います。だがケミドトさんが行方不明になった時、皆さんはケミドトさんは家族は居ない、ずっと一人暮らしだったと証言した。皆さんにとっては事実を隠す為の嘘だったのでしょうけど、その食い違いが、逆に俺達を真相に近付けた。――リバールもだよな?」

「はい。一人この写真を見ていた時に、私は襲われました。この写真は、それ程までの事実を物語っている」

「迂闊でしたわね。リバールは、私が最も信頼する側近よ。ただの使用人じゃありませんわ。――本来ならば未遂とはいえリバールに手をあげようとした輩を私この手で裁きたい所ですが」

「ひいっ!」

「まあ、今はこの話をするのが先ですからそれは保留にしますわ。――リバールもそれでいいかしら?」

「はい。私としては姫様にそう想って頂けるだけで十分幸せですので」

 そんな事を言わなくてもやろうと思えばとっくに手は出せていた。ある種の説教に近い脅し、という事なのだろう。

「さて、それじゃ本題に戻ります。――ケミドトさん。この写真の真ん中は、若い頃の貴方ですよね?」

「はい」

「では、この左右の男女はどなたですか?」

「息子と、その息子の婚約者です」

「この村の人達は、どうしてその事実を隠したがるのか、心当たりがありますよね?」

 ライトのその一言に、ある意味被害者の一人であるケミドトも大きく息を吐いて、気持ちを整えた。そして、

「息子が、今この村には居ない息子が、勇者の血を継いでいる人間だからです」

 決定的な事実を述べた。周囲の村人から、「ああ……」といった感じの落胆の声が漏れた。

「お断りしておくと、私には勇者の血は流れていません。流れていたのは、亡くなった私の妻でした。とは言っても、妻も凄い力があったわけじゃない。人よりもちょっとだけ不思議な力があって、魔力が高かったりしただけ。私も、他の者も、何より妻自身も気には留めていませんでした。……ですが、息子はその才能が開花した。素人目にもわかる程の圧倒的才能を持っていました。そこで私達はようやく亡くなった私の妻が特別な血筋を持っていて、息子がそれを受け継いだという事に気付いたんです」

 そこまでならビッグニュースではあるが、でも悪い話ではない。では何故こんな事態になってしまったのかと言えば。

「結果、息子は恋人と共に、この村を出て行きました。自分の才能を知られてない土地で、普通の暮らしがしたいと。私は息子の想いを尊重し、村人達を説得しました。最後には皆わかってくれ、息子をしっかりと送り出せました。ですが」

「ここ最近になって軍の調査隊が、この村に血筋がある可能性を発見して、騒ぎになって、皆さんの諦めたはずの想いが再び蘇った」

 ゆっくり、でも大きくハッキリとケミドトは頷いた。

「私は村長です。村人達がもっと豊かになりたいと言えば、あからさまに駄目とも言えない。だからつい、皆の想いを汲んでしまった。でもそれが間違いだったんです。……王女様達のお手を煩わせた責任は、私にあります。ですので、村人達へはどうが恩情を……」

 そしてケミドトが頭を下げた。流石にその姿に、村人達は何も言えない。一部は涙さえ流した。客観的に見れば何て幼稚な話なんだと言われても仕方のない話。だが、本人達は真剣だった。だからこその涙だった。

「ライト君、締めの時間だよ。君の言葉で、君らしく」

「え、謎の解明はしたけど、結果どうするかは流石に俺が決めるのは」

「ライト、構いませんわ。ライトは私達の団長で、今は勇者様なのですから。貴方なりの答えを、聞かせて」

 エカテリスにそう促されたら逃げ道はない。――ライトは腹を括った。

「皆さんは勘違いをしてます。確かに勇者の血は唯一無二であり、素晴らしく貴重な存在です。でも、だからと言って皆さんが駄目なわけじゃない。何を綺麗事を、とお思いになるでしょう。ですが目前の大きな光に目が眩んで、元々皆さんが持っている小さくても大事な光を見失って欲しくありません」

 そしてライトはもう一度、腹を括る。――話さなくてはいけない事。

「今でこそ俺は王女様、国王様に認められこの立場にいますが、勇者様、勇者様の血筋が見つかり次第、自分の役目は終わります」

「え……!?」

 村人達が驚きの目でライトを見た。――まあ、そうだろうな。でも。

「言ってしまえば、一度何もない自分に戻るんです。大まかに言えば、皆さんと同じ一般人に。こうしてそれなりの間この立場で歩き続けてた自分は、もう直ぐ、その全てを失います」

 ライトの言葉に村人達だけではなく、仲間達も真剣に耳を傾ける。――ライトの想い。勇者が見つかった後の、ライトの想い。

「でも逆に言えば、その間、仲間達は自分を本当にこの立場として受け入れてくれました。実力の足りない自分を、形だけじゃない、本当の仲間として。自分で言うのも変ですが、そうして貰えるだけの要素を、努力を、自分はこなす事が出来たんです。だから、目の前に偶然降って来た幸運だけを理由に、投げやりな事はしないで下さい。この村を愛しているのなら尚更です」

 村人達は結局この村を愛していた。この村が嫌ならこの村を出ればいいだけ。でもそれをせず、ケミドトをさらってもあくまで軟禁であり暴行を加えたりもせず。暴走はしたが、ただこの村に、羽ばたいて欲しかったのだ。

「そして俺は皆さんが努力すれば、この村が輝ける事がわかってます。現に、この村のビーチ、温泉旅館、一部サービスを除いて本当に素晴らしい物でした。あれが出来るのならば、勇者の血筋などという肩書は要らないでしょう。だから俺は帰還して報告します。この村に勇者の血筋はもう残っていない、これ以上調査をする必要性はない。近年出来たビーチと温泉がとても良く、素晴らしいバカンスになった、と。……バカンスの部分は、報告以外に知り合いにもきっと話す事になるでしょうね」

「!」

 つまり、口コミを広げてあげる、という事である。――実際、乱入等のサービスを除けば海は綺麗温泉は気持ち良い料理も美味しい、本当に前半はバカンスであった。

「あの……私の事に関しては」

「村の中の細かい内輪揉めにまでいちいち手を出していたら、ハインハウルス軍がいくら強大でも魔王討伐が遅れますよ。だから……そちらにお任せします」

「……っ!」

 そしてケミドト誘拐に関しては見なかった事にする。村人達はケミドトが嫌いなわけじゃないのだから、落ち着けばこんな事態は起きないだろうから。

「自分達からの話は以上です。――ああ、もういい時間ですね。今日出発するのは無理そうだ。今日はもう一泊させて下さい。帰還して沢山の人に話したくなるサービスを、期待しています」

 こうして、ケミドト誘拐事件、そしてミスラルマの勇者の血筋調査は幕を閉じるのであった。



「でもさあ、ライト君の最後の一言は余計だったよねえ。サービス加熱してたじゃん。主に乱入の」

「それは俺のせいじゃないだろ……前日拒否された時点で察してくれよって話だろ……」

 翌日、帰りの馬車の中。そんな会話から感想が始まった。

 ライトの提案通り、温泉旅館にもう一泊。料理も美味しくさて温泉へと行けば、前日の乱入サービスを更に加熱させた軍団がやって来ててんやわんや。……そういえばそれの抗議に行こうと思ってケミドトさんを訪ねたら誘拐されてたんだった。

「というかまた私一人で温泉だったんだけど! 乱入サービスって何!?」

 そしてまたネレイザは一人だったり。何故か乱入サービスも来なかったり。

「ネレイザちゃんはまだ必要ないと判断されたんだよ、きっと。パパとママは何処かなー?」

「ムキィィィ! マスター、今度混浴っ、私はもう大人だって事見せてあげるから!」

「わかってる、わかってるから落ち着いてくれ……」

 実際騎士団最年少はエカテリスであるし、ネレイザが既に大人のプロポーションなのはビーチで本当に良くわかった。混浴などしたら大変である。

「あら、じゃあ私もライトと混浴しようかしら。ねえリバール?」

「そうですね、一緒にライト様のお背中を流しましょう」

「いやいや何の対抗心なの!?」

 混浴の人数を増やされたらもっと大変である。

「それなら私達も一緒ですね、ハル、サラフォン」

「そ、そうだね、皆と一緒ならボクも平気だよ。ハルも!」

「はい。ライト様とでしたら」

「いやいやいや!?」

 ……もっともっと大変である。いや大変なんだって。レナ一人でも大変だったんだから。

「ライト殿。実現致しましょう。混浴しましょう」

「長、交流は大事だぞ」

「そこも地味に落ち着いて!?」

 友情を選んだのでサービスを受けられなかった二人の熱望。二人の為という口実があれば……じゃなくて。

「まあでも、何だかんだでいい思い出にはなれたよ。こうして、皆との楽しい任務の思い出が出来て良かった」

 そしてライトの何気ない一言。――村人達への言葉といい、今はその一つ一つが寂しさを匂わせる。

 今回の事案で、ミスラルマにこそ血筋はないが、勇者への明確なるヒントが見つかった。――時間は、もう残っていない。

「って、そんな顔しないでくれって! 何も明日いきなり消えるわけじゃない、俺はまだ居るって! それに、結果として勇者様が見つかる事も、きっと成長の一歩になるはずだ。だから、前向きに考えたいんだ」

 寂しそうな表情を見せる仲間達に、急いでライトはそう告げる。その言葉にも嘘は無かった。全てを受け入れ、ライトは自分へのステップアップに繋げる。そのつもりでいた。

「皆、まだまだ宜しく頼む。俺達は、ライト騎士団だ」

 そう笑顔でライトは皆に告げた。――何よりも、自分自身が一番寂しいのを隠したままで。


 ――ライトの演者勇者としての任務の終わりが、カウントダウンを迎え始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ