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第三百十九話 演者勇者と勇者の血筋が眠る村5

「リバール、貴女はあちらの風呂を案内されていたでしょう? 勝手にこちらに来たら」

「私は姫様のお付きなのです。姫様をお一人にするなど有り得ません」

「入浴位一人で出来ますわ。今更何の心配をしているのかしら」

 だがもう何を言ってもこうなったらリバールは動かないだろう。エカテリスも諦める。

「まあ、いいですわ。リバールと一緒に入るのも久々ですし、私だけ一人なのは何だか勿体ない気がしてましたもの」

「はい。お供させて頂きます」

 そのまま二人はお互いの背中を流し合い、温泉に浸かる。その気持ち良さは格別で、流石のリバールもエカテリスへの身体検査(?)よりも純粋に温泉を堪能してしまう程に。

「……あら?」

「どうかなさいましたか?」

「あそこに並んでる……太鼓? かしら。どうしてお風呂に太鼓が並んでるのかしら」

 見れば数個の太鼓が綺麗に並べられていた。そうまるで、ここで演奏でもするかの如く。

「インテリア、オブジェクトの一つでしょう。まさか裸の姫様を前にふんどし一枚の男共が乱入して太鼓で歓迎などとわけのわからない事をするわけがありません」

「……いやに具体的ね?」

「そうですか?」

 どうしてリバールが具体的にそんな事を言ったのかは――お察しと言った所か。何にせよ、この風呂には村からの乱入者――もとい、歓迎のサービスはやって来なかった。

「この村を手掛かりに、本物の勇者様が見つかるのかしら。――不思議な気持ちですわ」

「と仰いますと?」

「もしも私達の滞在中に大きな手掛かりを見つけて、本物の勇者様の血筋を見つけられた栄光を感じられたらそれは喜ばしい事ですし、私達の悲願でもありますわ。でもそれは」

「同時にライト様の立場を無くす事を意味しています……ね」

 エカテリスがコクリ、と頷く。

「姫様は……ライト様の事を、どう御思いですか? 人として……踏み込んでしまえば、殿方として」

「…………」

 ぶくぶくぶく、と顔半分を沈ませて考える。ライトの事。ライトとの別れ。

「大前提として、同じ目的を持つ仲間、友、というのはありますわ」

「それは僭越ながら私も同じです。あの方は、私達騎士団の団長であり、ここまで導いて来た方です」

「それから、ネレイザがハッキリと異性として想いを寄せているのもわかります」

「そうですね、それも全員……はわかっていませんけど。大よその方が認識していますね」

「だから例えば、ネレイザや、フリージアが正式にライトと結ばれたのを想像しても、祝福の想いしか生まれませんわ。でも」

 ぶくぶくぶく。再び数秒、顔半分を沈ませて気持ちを整える。

「シンプルに、ライトがただ離れていくのを考えると、凄く辛い」

 何だかんだで、ここまで素直な気持ちをエカテリスが明かせるのは騎士団の中ではリバールだけである。それは長年の信頼の証。

「ポートランスで私を助けてくれた時、傍で最後までライトの戦いを見届けると改めて決めましたわ。それが終わった時、素直に見送って手放せる自信がないの。もっともっと、彼の隣で一緒に戦いたい。それが……その、殿方として想っているかどうかは、自分でもわからないけれど」

 客観的に見れば答えは出ている様な気がする発言ではある。本人が認めたくないのか、それとも本当に気付かないままなのか。

「わからなくても良いではないですか。ただ手放したくない。傍にいて欲しい。その想いを持つのは悪い事ではありません」

 だからリバールは、その葛藤のエカテリスをあるがままで受け止める。

「確かに時間はあまり残されていないのかもしれませんが、でも逆に言えばもう少しだけ時間はある。もう一度、見つめ直してみるのが良いかもしれませんね。お立場とかじゃなく、一人の人として、一人の相手の事を。それに……どんな結論に達して、どんな結果になったとしても、このリバール、姫様を傍でお支え致しますから」

「ありがとう、リバール」

 ずっと傍にいてくれた。これからもいてくれる。リバールの存在は、やはりエカテリスにとって本当に大きかった。

「勿論、だからといって勇者様の捜索、調査の手を抜くつもりはありませんわ。しっかりと見つけてこの国を導かなければなりませんもの」

「承知しております。それでこそ姫様です」

 姉妹の様な二人の入浴しながらの語らいは、この後ももうしばらく続くのであった。



「遠慮などなさらないで下さい。私達も、勇者様がお相手でしたら光栄ですので」

 ライトの入浴現場に突入してきた村の若い女性四名。ライトを前に、四人共躊躇わず身にまとっていたタオルを――ガシッ。

「お待たせ致しました、勇者様。今日は「私の番」ですよね」

「レナ!?」

 ――取ろうとした女性陣の肩に手を置いて動きを制止させたのはレナだった。わざとらしい口調で登場。

「というわけで皆さん、勇者様に関しては私が「お世話」しますので、お引き取り下さいねー」

 そして尚も留まろうとする女性陣を、半ば強引に脱衣所へ押し返した。ガチャッ、とドアを閉めて排除完了すると、

「ふーっ、まさかこういう動きに出られるとはね。やっぱりライト君を一人にしちゃ駄目だったよ、ごめんごめん」

 自分は浴場に残り、ライトにそう切り出す。

「え、もしかしてあの人達、何か俺に対して悪い事をしようとしてたとか」

「あ、そんな感じじゃないけど、でも結構強引にライト君のコネを作ろうとしてたんじゃない? 何だか他の場所でも胡麻すり軍団が出没してるっぽいし。そういうのって万が一って事があるから、やっぱり好きにさせるわけには私の立場的にいかないわけよ」

「そっか……助かったよ、ありがとう」

「とか言いつつ実は堪能したかったとかなら呼び戻すけど」

「勘弁してくれ、実際どうしていいかわからないから!」

 下手な事をして勇者の失態とか汚点を付けるわけにもいかない。

「というわけで、私もここで入るからね。ここまでこの格好で来たから湯冷めしちゃうし」

 そう言うと、レナは何の躊躇いもなく体に巻いていたタオルを外して――

「――ってちょっちょっと待てぃ! 俺普通にいるけど!?」

「いや知ってるけど。私がライト君の幻を見ながら謎の行動を取ってるとでも思ったん?」

「違うよ! その、堂々とタオル外したら、色々見えるだろ!? 恥じらい持って!?」

「でも外さないと浸かれないじゃん。――よいしょ」

 チャポン、という音と共にレナが温泉の中に。ライトは何も隠れていないレナの後ろ姿を完全に見てしまった。綺麗だった……いやそうじゃなくて!

「あー、気持ちいいわこれ。ほら、ライト君もおいで」

「だから、そのだな」

「ライト君の疑問に答えると、別に恥じらいがないわけじゃないよ。それこそこの村の連中相手だったらこんな事しないもん。でもま、ライト君なら見られても構わないかな、って思うから」

「……気にしてる俺が馬鹿みたいじゃないか」

「気にしてくれるのは嬉しいよ。そうやって気にしてくれるライト君なら、ってことよ」

 笑顔でそう言われると、ライトとしても腹を括るしかなくなる。

「じゃあ、俺も遠慮なく入るぞ」

「どうぞどうぞ」

 チャポン。――さて何処に座ろう。離れるのは変だし、真正面に座れば本当に何もかも見えそうだし。……と、なると。

「隣、いいか?」

「勿論」

 そのまま隣に腰掛けた。途中少しだけ視界に入った湯に沈んで揺らめくレナの体は、とても綺麗だった。……見過ぎたらそれこそ大変な事になるかもしれない。横で正解だった。

「でも、ここまでゆっくり出来るなんてな」

「だねー。正直この村で勇者の証拠が見つかっても見つからなくても、今回は別に私達の責任じゃないから、本当に慰安旅行みたいになったね」

「演者勇者、最初で最後の慰安旅行だな」

 そういう意味では、思い出が出来るのは嬉しく思う。……思い出。

「よっと」

 少しライトが思いふけっていると、それに気付いたか、レナが体をずらしてライトに近付く。肩と肩が触れ合う。

「思い出ってさ、悲しかったり楽しかったり、色々だけどさ。私は今日こうしてライト君と肩を並べて温泉に入ったのを、楽しい思い出として、普通に話が出来たらいいと思ってる。ううん、今日だけじゃない。一緒にやって来た事、楽しく君と振り返れたらいいなって思ってる。だから、いつでも話そうよ。私は、君の隣にいるから」

「……レナ」

 隣にいる。隣にいてくれるなら。隣にいてくれる、今ならば。

「そうだな。俺も演者勇者としての事を振り返って、悲しくなりましたなんて嫌だ」

 そう言ってふと横を見れば、優しい笑顔。――ずっと隣にいてくれたな、本当に。

「……ありがとう」

 ライトはその一言だけは小声で呟いた。いつでも普通に言えてたのに、何故か今この時だけ、恥ずかしかった。

「? 今何て言った?」

「何でも」

 そのまま二人は少しのぼせる位には時間を忘れて、演者勇者としての任務の思い出を楽しく語り合ったのだった。



 カポーン。

「…………」

 静かな空間。温泉の音が綺麗に響く。ネレイザは一人、温泉に浸かって――

「――って何で私一人なの!? リバールさんは王女様の方に……レナさんは!? あれいつの間に居ないの!?」



 翌日。温泉は良かったものの流石に無許可でのサービス乱入は頂けないと一行は村長にそれとなく注意を促しに行く事に。

「まあ、昨日話を聞いた感じではあの村長さんが積極的にやってるとは思えないけど」

 何処か村人のはしゃぐ姿を見守る様なそんな雰囲気を感じ取れた。

「いやーわかんないよ? 実は「ピー」の勇者で「ピーピーピー」とか」

「それはただの犯罪者だからな!?」

 レナが何を言ったのかは想像にお任せする。……と、村長の家の前に到着すると、その村長の家を数名の村人が困った様に取り囲んでいた。

「何かあったのかな。――すみません!」

 声をかけると、天の助けと感じたか、村人達が駆け寄ってくる。

「王女様、勇者様、大変なんです! 村長が……行方不明なんです!」

 不穏な事件は、唐突に訪れたのであった。

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