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第三百十八話 演者勇者と勇者の血筋が眠る村4

「……もしかしたら、本当に観光地として一皮向ける為に準備をしてたのかも」

 ライトは一人、脱衣所で服を脱ぎながらその結論に辿り着く。

 結局少しのつもりが、ライト達はつい夕暮れまでビーチでバカンスを楽しむ形になってしまった。思えばこんな風に休暇を取った事が無かった。その初めての事に、つい全員気が緩んでしまった。何かあったら全員で連帯責任だ、と全員で苦笑した。

 じゃあ明日からちゃんとしよう……と宿に帰ろうとすると、何と二日目は違う宿を用意しているという。言っている意味もわからないまま案内されると、村の奥地に初日とは違う宿が建っていたのだ。古風かつ立派な建物は、古くからある屋敷を改装したものらしく、現代風に例えれば高級旅館の様な佇まいで。

 何故に初日はここじゃないのか、という疑問は当然浮かんだものの、出された夕食が絶品でその事は一旦忘れた。流石漁師の街、海鮮の料理が鮮度の良さもあり全員の手が止まらず。……料理を作ったのが三枚おろしの勇者というのは既に耳に入って来なかった。

 腹も膨れ、そうすると残されているのは入浴……と思っていると、何と天然の露天風呂、温泉まであるという。勿論団員は喜んだ。早速支度をして入ろうとするが、ここでまた一つ不思議な事が起きる。風呂は数か所あり、それぞれ場所を指定されたのである。

 勿論男湯女湯があるのだろうと思っていたら、ライトは一人。エカテリスも一人を宛がわれたので、団長と王女は位が上だと思われたのかもしれない。

「折角だったら一人じゃない方が良かったな」

 あ、いえ、女性陣の裸が見たいとかじゃなくて、ニロフやドライブと一緒に入った方が話もあるし楽しいじゃないか。いやでも裸が見たくないわけでもない。……そんな言い訳を心の中で一人でしながら着替えを終え、タオル一枚で扉を開ける。

「おお」

 広々とした浴場に、視界に直ぐに湯気が立つ見事な温泉が入る。これは気持ち良さそうだ。

「にしても……」

 重ね重ねになるが本当に広かった。明らかに一人で入る風呂じゃない。……明日もここなら希望を出して一人じゃなくそう。

「何にせよ、今日は一人で入るか」

 温泉に入る為に、まずは体を洗う。桶に座ってさて、と思っていると、

「失礼します。お背中お流ししますね」

「へ?」

 ガラガラガラ、とドアが開くと同時に、村の若い女性陣だろうか、四名程入って来た。四名共タオル一枚で、中々の美人揃い――

「ってえ!? な、え、ちょっと!?」

「勿論勇者様へのサービスです。ライト様も勇者様なんですよね? お一人で入浴させて誰もお世話しないなんて有り得ません」

 笑顔で何の躊躇いもなく、四人はライトに近付いて来る。――いやいやいや。

「あ、あの、お気持ちは嬉しいですけど、俺別に一人で入れますから! いつも一人で入ってますし!」

「ご安心下さい、私達それぞれタオルの勇者、入浴剤の勇者、頭髪洗いの勇者、お肌ケアの勇者です」

 違うそんな心配してない。

「それに――勇者様がご希望でしたら、「その先」もサービス致します。勿論私達、勇者様お相手でしたら」

「ちょっと待って下さい、その先もその前も本当に俺は希望してなくて!」

「必要でしたら口外もしませんから」

「そういう事でも!」

 だがライトの制止を聞かず、四人の風呂の勇者達は、ついに唯一纏っていたタオルに手をかけて――



「ドライブ殿ぉぉぉ! 申し訳ありませぬ、我が、我が骨だったばかりに!」

 一方こちら、二人で一つの風呂を提供されたニロフとドライブ。ニロフがドライブに土下座していた。

「止めてくれニロフ、お前は何も悪くない」

「ですが、ですが! ドライブ殿お一人でしたら女性達に背中を流して貰えたのに……!」

 要は、二人の浴場にもタオル一枚で若い女性陣がサービスにやって来たのである。団長・勇者であるライトの格差なのか、こちらはニロフ・ドライブの二名に対し四名だったが、それでもやって来た事に違いは無く。

 勿論そのままはいお願いしますとはいかなかった。当然原因はニロフ。風呂好きのニロフは喜んで温泉に入るのだが、服を脱げばそこは骨。それを一般人に見せるわけにはいかず、入って来たその女性陣をやむなく魔法で眠らせた。

 結果、ドライブにそのサービスを受けさせてあげる事が出来ずニロフが謝罪していた、というわけである。

「俺達は仲間だろう。俺一人で楽しんでお前を我慢させても、俺はまったく嬉しくない。逆の立場だったとしてもそうだろう?」

「ドライブ殿……!」

 そしてドライブは純粋に仲間との絆を選んだ。眠ってしまった女性陣に勿論何もせず、脱衣所へ運んだ。そして今に至る。

「しかし……ガラビアにはこういった観光地的な場所はなかったし、旅行等にも行った事が無かったからわからないのだが、一般的にこの様なサービスはあるものなのか? 普通か?」

「我も骨なので知識のみの判断になりますが、普通ではないでしょうな。普通はこの温泉に入れたら満足でしょう。この先のサービスが無くて怒る客はただの迷惑客でしょう。そのサービスが当たり前なのは大人なお店ですな」

「だとすると、俺達が勇者様王女様の一味だから胡麻をすりに来たというわけか」

「まあ、その考えが妥当でしょう。ですが彼女達」

「目に動きに一切の迷いが無かった」

 そのドライブの指摘に、ニロフも頷く。

「これが例えば村の上の方からの命令で接待してきなさい、で嫌々ならば表面上取り繕っても動き等に多少迷いが見られるはずです。だが彼女達にそれがない。つまり、自らも望んでやって来ているという事」

「しかも勇者様王女様の仲間である俺達にまで、だ。少々行き過ぎな話だ」

「ですな。勿論純粋な厚意という可能性も十分あり得ますが。念の為に裏の可能性を考える必要性がありますな。ですが」

「大きな裏の目的が持てる様な村の規模・存在ではないのだろう?」

 村ぐるみで国に対して反乱・反抗的な事が出来るレベルの人材や技術が到底ある様には見えない。

「しかもやっている事は矛盾なのですよ」

「矛盾?」

「勇者の血筋が自分達にあるアピール。これはザックリ言ってしまえば自分達の方が今回権利を持ってますよ、という上からのアピール。それなのにこの温泉旅館でのサービスは随分と下出に出ている。どちらが目的で何がしたいのか」

「成程な……調査の必要性が出てきたな」

 とりあえず現状で答えは出ない。このまま湯冷めしてしまうのもあれなので、二人は温泉につかる事に。

「くあぁぁ……! 骨身に染みますなあ!」

「確かに良い湯だ。女性サービスなどしなくても十分じゃないか」

「でも我が言うのもあれですが、折角だったら我が女性陣と混浴も良かったですなあ。素敵な眺めだったでしょうに」

「否定はしない。長もその方が嬉しいだろうしな」

 ははは、と軽く笑いながらそんな事を言って、

「あ」「あ」

 二人はようやく気付いた。――自分達以外の所にも、人が回されている可能性が高い事に。



「わぁ……! 凄いね!」

 こちら女性陣風呂その一。入浴者はソフィ、ハル、サラフォン。余談だが女性陣風呂その二はレナ、ネレイザ、リバールだったのだがリバールがエカテリス一人を許すはずもなく既にエカテリスの方へ向かっていた。

「ボク、温泉って初めてだよ! 天然ってこういう風になってるんだね」

「私もよ。ソフィ様は」

「私も初めてですね。ここまでバカンスになってしまうのも申し訳なくなってしまいますが」

「ここまで来て楽しまないのも失礼だよね」

 三人共その意見で一致。純粋に楽しむ事にする。体を軽く洗い、本命の温泉へ。

「うわぁ……」

 湯に浸かる時はタオルを付けないのがマナー。ここには女性しかいないのでソフィ、ハルは躊躇いなくタオルを外して湯に浸かる。その光景を見てサラフォンはどうしても自分の体形と見比べてしまう。見比べてしまうと情けない気がしてタオルを外し辛い。

「サラフォン? どうしました?」

「あ……いえ、入ります……ふぅ」

 温泉が気持ち良いのが救いであった。――うん、こういう差が気になるのはボクが精神的に成長した証拠。見た目を気にするのはいい事だってハルも言ってたし。……どうにもならない箇所があるけれど。

 余談だが決してサラフォンにその手の物がないわけではない。背も体系も平均値より多少小さい程度。だが一般に比べてライト騎士団の平均値が高過ぎているのがより際立たせてしまっていた。

 そんなこんなで温泉を堪能していると。――ドンドコドンドンドン!

「え? な、何!?」

 突然浴場に響き渡る太鼓の音。ハッとして入口の方を見てみれば。

「ようこそいらっしゃいました! ここからは当温泉旅館の特別サービス、太鼓舞踊ショーをお楽しみ下さい!」

 マッチョな男達が数名、太鼓を叩きながら入ってきた。上半身は裸、下半身は白いふんどし一枚。

「私は太鼓舞踊団のリーダーを務めています、先日からはめでたくふんどしの勇者となりました! さあお嬢さん方ご一緒にこの熱い音色を直接肌で――」

「ざけんなぁぁ全員ぶっ潰す!」

 どんがらがっしゃーん。――直接肌で感じる前にソフィが狂人化バーサーク、瞬時にタオルを巻いて湯から上がり瞬く間に全員を外へ放り投げた。

「何が太鼓舞踊ショーだぁ!? 風呂でやる事じゃねえだろ! 百歩譲って風呂でやるにしても女風呂にふんどし一枚で無断で入ってやるか普通!?」

 ソフィの怒りは最もであった。一歩ソフィが早かっただけで、ハルもあと少しで全員気功術でなぎ倒している所である。

「言ってしまえば、普通に覗き、性犯罪ですね……サラ、大丈夫? 見られてない?」

「う、うん、大丈夫。……でも、覗きが目的なら覗けばいいんじゃないかな、成功するかどうかは別として。建物の構造を把握してればそれこそ」

 そのサラフォンの仮設に、ソフィもハルも少し考えてしまう。確かに一理はある。覗きが目的なら堂々とし過ぎである。

「じゃあ……あいつら、本気でアタシらに太鼓とふんどし見せに来たってわけか? 馬鹿か?」

「どちらにしろ黙って終わりには出来ませんね。報告して、明日にでも抗議に行くようライト様王女様に許可を貰いましょう」

「う、うん、いくらボクが二人に比べて小さくても、流石に勝手に見られたくはないよ……」

 一応話は纏まり、さて……と思った時。

「――ちょっと待て、つーことはアタシ達以外の所にも何かしら変なのが足を運んでるんじゃねえか?」

「!」

 こちらでもその事実に気付いた。そして……

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