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第三百十四話 幕間~刻みたい理由、二つ 後編

「アルファス君やっほー」

 アルファスがまだ軍所属、それでいて剣聖を正式に名乗っていた頃の事。城で待機中だった彼の所へやって来たのはヴァネッサだった。

「お疲れ様です。この間の作戦も綺麗にいったみたいっすね。俺が抜けた影響無さそうだ」

「そんな事ないわよ、やっぱりアルファス君の存在は大きかったわ。だからこそ軍の事を考えて独り立ちして貰ったんだけど。それにアルファス君の穴はしっかりとリンレイちゃんが埋めてくれてるわ。新副長として頑張ってくれてる」

「あいつも立派になったもんですね」

 猪突猛進で何でも自分に突っかかって来ていた頃が懐かしい。

「でもアルファス君が居ないのは寂しいみたい。時々会いに来てあげて」

「そんな事したってあいつの成長に繋がらないでしょ。もうあいつは一人前だ」

「鈍いわね……そういう所よ」

 ヴァネッサは軽く溜め息。リンレイがいつからアルファスの事を想う様になったかはさておき。

「? 後ろの奴は新人ですか?」

 ヴァネッサの後ろには、淡い赤髪の若い女騎士。独特のオーラを漂わせてそこに立っていた。

「私がスカウトしてきたの。いい子でしょ。アルファス君に専用の武器を作ってあげて欲しくて」

 当時からアルファスは今ほど数はこなしていないが、特定の人間の為に武器を作っていた。――ヴァネッサさんが認める奴、か。

「レナです」

 表情一つ変えず、女騎士――レナは短い自己紹介をした。その目を見て思う事。

「ヴァネッサさん、本当にこいつ資格あるんですか?」

 目に覇気がない。何処か「違う所」を見ている。そんな目をしていた。

「アルファス君は、私の目が節穴だって言いたいの?」

「いやそうじゃないっすけど」

「別に作って貰えないならいいですよ。特別今の剣に不満があるわけじゃないし。剣聖さんの事は詳しく知らないし。王妃様が勝手に言い出した事だし」

 そして言葉に想いが乗っかっていない。――何だこいつ?

「…………」

 次の瞬間、アルファスは剣を振るい、

「アルファス君!?」

 ピタッ。――レナの首元、寸止めでその手を止めた。

「…………」

 レナは動じなかった。死を恐れないその目が、先程とは違い、ハッキリとアルファスを見る。……ああ、こいつ。

「ふぅん。まあヴァネッサさんの紹介ならテストもへったくれもねえ、作ってやるよ」

「意味がわからないんですけど。何ですか今の。気に入らないなら斬ってくれても」

「俺なりのテストって事だ」

 レナは軽く溜め息。――本当、わけのわからない人ばっかりだな軍ってのは。

「んで? どんな感じの武器がいいんだ?」

「敵が倒せれば何でもいいです。目の前の敵が倒せれば」

「というわけでアルファス君、レナちゃんの剣は、「誰かを守る為の剣」にして」

「いやまったくもって会話が繋がってませんが」

 当のレナも不満気な顔でヴァネッサを見る。勿論ヴァネッサは気にしない。

「レナちゃんは、誰かを守る事が出来る子。そういう強い子だから」

「……だそうだ。諦めろ、この人言い出したら俺に拒否する権利はねえ」

 これがアルファスとレナの出会い。そして「最初の剣」を作る切欠だった。



「ええ!? レナさん称号貰うの!?」

「うん、今そのテストをアルファスさんがしてる」

 ライトは玉座の間を後にして、一人戻る途中でネレイザに遭遇。事情を簡単に説明すると驚かれた。

「やっぱり称号って凄いんだな……」

「勿論……欲しいですじゃああげます、の流れじゃないもの。ライト騎士団のメンバーでも今まで誰も持ってなかったのが良い例よ」

「だよなあ」

 国内屈指の部隊と称されても、団員の中にそれを持つ人間はいなかった。今回上手くいけばレナが初めて称号持ちとなる。

「にしてもあのレナさんが称号欲しがるなんて……」

「お父さん――レガリーダさんの名前を、自分自身に正しく刻んでおきたいって」

「そっか……レナさんにとって唯一の肉親だった人だもんね」

 マークという大切な兄を生きている状態で持つネレイザとしては、レナの家族を想う気持ちはわかるのだろう。

「……でも、それだけじゃ弱い気がする」

「え?」

 ……それでもレナを何処かやはり疑ってしまうのだが。というか、

「マスター、本当にそれだけ? 他に何か理由、言ってなかった?」

「いや……言って無かったと思うけど……」

 ライトの為に本気になったとは言い辛かった。自分の為だよ、と言うのは恥ずかしいし、何よりネレイザが対抗心を燃やすのが目に見えていた。余計な火種が怖いライトだった。

「怪しい」

「いや俺を怪しまれても」

 その小さな動揺を見逃さないネレイザ。ずい、と疑って詰め寄ってくる。何となく後退し、壁に追い詰められるライト。――うんまずいな。どうしよう……と思ってると。

「こらー、そこの事務官。私の護衛対象をこれ以上困らせるなら護衛として排除するぞー」

「レナ!」

 当の本人がやって来た。傍らにはアルファスの姿も。

「お疲れ様、思ったより早かったけど……どうだったんだ?」

「いやー、驚いたよ。これでもアルファスさんには勝てなかった」

「驚いたのはこっちだぞ……お前どんだけの才能隠し持ってたんだ……」

 トラウマを解き放ち全力を放ったレナでも、アルファスを驚かせる事は出来ても勝てなかったらしい。剣聖の名は伊達ではなかった。――あのレナでも勝てないのか。

「え、っていう事は、称号は貰えない?」

「俺に勝てなきゃやらんとは一言も言ってねえ。武器のテストと一緒だ、力を振るうだけの人間かどうか戦闘を通じて俺は見ただけだ」

 と、いうことは。――改めてレナを見ると、誇らしげにピースサインを見せた。

「うおお、マジか! おめでとうレナ、凄いな!」

「まーね。これで遠慮なく「炎翼騎士えんよくきし」を名乗れるよ」

 史上五人目の称号持ちの誕生であった。大躍進である。――あのレナが。

「テストしてやった俺がある意味一番驚いてる。何があるかわかんねえな、人生は。――あー疲れた。俺はもう帰っていいらしいから帰るわ」

「あ、お疲れ様です」

 アルファスはそのままライトの横を通り過ぎ――

「あいつ一人の称号じゃねえ。わかるな?」

「!」

 ――様とした所で、ライトに一言そう告げて、また歩き出した。

 アルファスは結局、ライト込みでレナの事を見た。ライトの為に。つまりそのライトが駄目だったら称号も何の意味も無い。だからライトに、その覚悟を託した。これでわからない様なら、直ぐに無かった事にすればいい。

「はい。――俺なりに、もっと精進します」

「バーカ、今のままでいい。無理はすんな。今のお前を維持するのだって、俺からしたら一苦労なんだよ」

 ライトが決意を伝えると、アルファスは軽く笑ってライトの肩をポン、と軽く叩き、今度こそ帰って行く。

「アルファスさん、ありがとうございました。ついでに新しい剣が欲しいです」

「だろうな。テストは要らねえ、落ち着いたら作ってやるよ」

 レナもお礼と新たな依頼(!)をすると、アルファスは止まる事無くこの場を後にした。

「まさか本当に称号貰うなんて……本物のレナさんよね……?」

 ネレイザは今度はレナそのものに疑いの目を向けた。

「安心していいよ、いざって時の為の話だから、普段はぐーたらなレナさんだから。好きでしょ?」

「好きじゃないわよ! ぐーたらは直しなさいよ!」

 あっはっは、とレナは笑う。本当にいつものレナだ。――いつものレナが居る安心感。それが貴重なんだと、改めてライトは感じる様になった。

「さて。ねえライト君、折角だから二人で外にご飯でも食べに行こうよ。お祝いお祝い」

「え?」

「ああうん、その位なら構わないよ。昼の予定も無かったはず」

「やったー、じゃあ行こ行こ。ネレイザちゃん、また後でねー」

 ぐいっ。――レナがライトの腕を取り強引に組み、軽く引っ張る様に連れて行く。

「ちょっ、そんな事しなくても行くから大丈夫だって! おーい!」

 ライトの抗議にも耳を貸さず、比較的そのまま体を密着させて歩いて行く。――少し行った所で、ふっとレナだけがネレイザの方に振り返った。そして、


『負けないからね』


「!」

 口パクでそう伝えて来た。解読した時には、挑発的にでも優しい笑みを残し、再びライトと共に歩いて行った。

「あの人……まさか、まさか……っ!」

 一方の残されたネレイザは、当然意味を理解する。――まさかとは思ってたけど、そういうつもり……!? そういえばさり気なくマスターの事名前で呼んで……っ!

「っ、いいじゃない、そっちがその気なら、受けて立つわ! 私は負けない、称号なんて無くたってその場所は譲らないから!」

 こうして、レナとネレイザは、改めてライバル関係となるのであった。



「あ」「あ」「あ」「あ」

 城下町に出てしばらくして(流石に腕組みは解消して貰った)、同時にその声を上げる四人。二人はライトとレナだが、もう二人は、

「ドライブと、シンディさん」

「ライトさん、レナさん。こんにちは」

 ドライブとアジサイこと見習いテイマーのシンディの二人組であった。ぱっと周囲を見れば犬魔獣達は居ない。すると、

「おー、二人共デート?」

「えっと……」

 直ぐに切り込むレナ、少しだけ言い淀むシンディ。でも直ぐにシンディも意を決して――

「いやデートではない。サルマントルに行った土産を渡していたのと、今度はシルバー達と一緒に散歩をする予定だからその話をしに来たんだ」

 ――デートと宣言しかけた所でドライブの否定が入った。ガクッ、と膝から崩れそうになる三人。

「ドライブさあ……いやまあ、何でもないけど」

 頑張れシンディ負けるなシンディ。――もう心の中での応援しか出来ない二人だった。

「えっと、ライトさんとレナさんはデートですか?」

 一方で諦めきれないシンディがそんな問い掛けを二人にしてくる。何とかデートの話題を引っ張りたい。

「そだよー」

「ぶっ」

 その意図を汲んだかどうかはわからないがレナがあっさりとそう認めた。ライトがどうしようと悩む暇も無かった。

「ちょっと良い事があってさ、ライト君にお祝いして貰うんだ。じゃ、またね二人共」

 ばいばい、と半ば強引にその場を去るレナ、着いて行くしかないライト。――「成程、護衛もデートの一環なのか」という謎の解釈をするドライブの声が少しずつ遠くなっていく。

「もどかしいねえあの二人も」

「まあでも、いつかドライブもちゃんと心を決める日が来るだろ。――団室で全員に相談始めそうだけど」

「あー、しそうだわ」

 真剣な面持ちで全員に向かって「シンディとお付き合いしたいのだが」を議論に持ち出す姿が容易に想像出来た。

「というわけでさライト君。君の中では保留でも、私の中ではこれはデートですよ。君はドライブ君程わからないとは思いたくないですねえ」

「あ……」

「あっはっは、でもひとまず私の気持ちは想像に任せておこうかな」

 ニヤニヤしながらレナはライトに向かって断言する。――えーっと、これは、その。まさか。

「まあ私は君の考えを尊重するよ。まだ君は「勇者君」でもあるわけだし、それに支障をきたしたら意味ないもんね。君の思うまま、正直に進んで欲しい」

「……レナ」

「私は君を守る。君は君の守りたい物を守る為に頑張ればいいよ。その君を、私は守ってみせるから」

「ありがとう。まだまだ色々あると思うけど、これからも宜しくな」

「うん」

 そう言って、二人で笑い合った。――裏表ない純粋な想いが、そこにあった。

「なあ、レナ」

「うん?」

「何はともあれ、ひとまず、今日のこの時間は、デートだ。護衛と護衛対象じゃない、対等な立場の」

「あっ、じゃあ何かあっても守らなくていい?」

「そういう話になる!?」

「あはは、冗談冗談。――ありがと。初デート。皆には内緒の、初デートだよ」

 こうしてその日は、夕方まで二人で「デート」を堪能するのであった。

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