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第三百十三話 幕間~刻みたい理由、二つ 前編

「今思えば、お前は母親――ミナに良く似てたよ。容姿も性格も」

 初めて母親の事を話してくれたレガリーダ。その日から――残念ながら彼が他界するまで、わずかな日数であったが――レナに、彼女の母親であり、彼の愛した人、ミナの事を語ってくれる様になった。

「俺の炎の才能と、ミナの容姿と内面に溢れる優しさ。その二つを受け継いで成長してくれた。俺からはもう何も言うことはないよ」

「何か私が結婚しますみたいな言い方してるけど何もないからね。何を突っ走ってるんだか」

 レナがそう言うと、不意にレガリーダが笑い出す。

「ああ、いや、そういう所もミナに良く似てるんだ。褒めても疑って喜んでくれないんだ」

「……よく結婚出来たね母さんと。仮に私と似てたとしたら、父さんは生まれた時から私の傍にいるから良いも悪いもないけど、これが第三者だったら悪い人じゃないとは思うけど結婚には到達しないよね」

「そこは父さん頑張った。色々なアプローチをしたよ。何度憲兵に通報されたかわからん」

「犯罪者! 私犯罪者の娘だったの!?」

「安心しろ、そこは俺のコネとパワーで無罪にして貰ってだな」

「余計質が悪いじゃん!?……ちなみに通報って何したらされんのよ」

「最初の内はな、剣と鎧で武装してる人は心の中が見えないから嫌いって言われたから、何もない日にパンツ一丁で会いに行ったわけよ」

「本当に駄目なやつだった聞かなきゃ良かった」

 若き日の自分の父親がパンツ一丁で街を歩いているシーンは想像したくなかった。

「俺はだから最初の内はパンツの柄が問題なのかと思ってだな」

「もうそのエピソードいらない! エンディング直前までワープ!」

 若き日の自分の父親がパンツを並べて柄で悩むシーンは以下省略。

「でも、ミナはずっと孤独だった。その性格もあって初めて会う人には心を開かない、それでいて思った事をストレートに言うからな。でも、俺はそれはミナの優しさから生まれる不器用さだと思った。だから、俺はアプローチを止めなかった」

「それで、最後には?」

 レガリーダは、満足気に頷いた。

「言って貰えたよ。自分の事を想ってくれる俺の事を、世界一大切にしてみせるって」

「そっか。……愛し合えてたんだね」

「まあな。だからさ、レナ」

 不意にレガリーダが優しくも真面目な表情になる。

「全部の人を愛する必要はない。そんな事をしろとは俺は言わないさ。だからその分、お前が本当に大切だと思えた人を、心から大切にしろよ」

「それは……」

 今の所父さん位だよ、とは口には言えない。恥ずかし過ぎた。そんなレナには気付かず、レガリーダは続ける。

「いつか必ず出会える。お前の全てをわかってくれて、それでいてお前を受け止めてくれる人が。その人を、お前の全力で、愛して、守ってみせる。支えてみせる。それでいい」



「あれ? アルファスさん?」

 サルマントルの風神祭も無事に終え帰還して数日後の午前。ライトはハインハウルス城内ではあまり見かけないその顔を発見する。

「おう」

「どうしたんですか? お城に来るなんて」

 顔パスで玉座の間に入ってくる存在だが、だからといって自ら用も無いのに足を運んだりはしない。

「オッサン――国王様に呼ばれた。正式な使者を寄越してどうしてもって話だからな」

「それで今から面会ですか? あれ、でも俺も今から国王様と会うんですが」

「多分お前も必要なんだろ。何でもお前の護衛に関する話だとさ」

「レナの……?」

 ちなみにレナはすっかり元通りになった。緊張感は消え、暇さえあれば寝ている。――そもそも寝てばかりいるのは過去のトラウマの夢を見てどうしても睡眠不足になっているからだったのだが、いざその悩みが解消されても寝る癖は消えなくなったらしい。昨日のライトのアルファスの店での稽古の時もしっかり寝ていた。

 そんなこんなでそのまま二人で玉座の間へ行く。

「ライト君、アルファス君。よく来てくれた」

 出迎えてくれたのはヨゼルド。傍らには側近としてハル。そして、

「お疲れ様ですー」

「レナ?」

 レナも先に到着していた。アルファスが言っていたレナに関する話というのは本当らしい――と思った矢先。

「おう、俺が剣聖の肩書名乗ったのはあの時だけだって言っただろ。それなのに何で剣聖としての俺を呼んだ? それなりに情報は掴んでる、ヴァネッサさんに色々チクってもいいんだぞ」

「ひいっ!」

 開口一番、怒り気味でアルファスはヨゼルドに詰め寄った。――大事な時以外はヨゼルドに対しても口調も態度も国王相手とは思えない態度で対応するアルファス。過去に何があったんだろう、とライトはつい呑気に思ってしまった。……いやそれよりも。

「アルファスさん、剣聖として呼ばれたんですか?」

 三大剣豪の一人であるその称号はハインハウルス夫妻から与えられた物で、この国において圧倒的な物である。本人曰く引退した、のだが当然周囲の認識は今も剣聖。

「し、仕方なかったんだ! 本当ならヴァネッサを呼びたかったけど、ヴァネッサがこういう時困ったらアルファス君を呼びなさいって言うから!」

 ササッ、とヨゼルドがハルの後ろに隠れた。――直後、ハルに首根っこを掴まれてアルファスの前に差し出された。彼は本当にこの国の国王なのだろうか。

「ヴァネッサさんに言われたからって俺を頼るな。あんた国王だろ、一番偉いじゃねえかこの国で。それこそヴァネッサさんよりも敢えて比べたら偉いだろ……って、ヴァネッサさん呼べたらヴァネッサさんを呼ぶ様な案件なのか?」

「ごめんアルファスさん、私の我儘なんだ」

 と、口を挟んで来たのはレナ。

「国王様にお願いしたんだ。正式な称号が欲しいって。だから実力上で査定する人が必要になっちゃって」

「称号?」

 理由を聞いていないライトとしては、その理由を聞いてもピンと来ない。――と、いつも通りスッ、とハルがライトの隣に移動し、補足を開始する。

「ハインハウルス軍の実力者の一部の方々に、異名があるのは御存知ですよね?」

「えっと……ネレイザの「魔導殲滅姫」とかエカテリスの「飛龍騎士」とか」

「はい。でもそれはあくまで異名で、国から認められた物ではありません。実際に国――ヨゼルド様、ヴァネッサ様ががお認めになった異名を、称号として特別な肩書として名乗る場合があります。それは実力者の証であり、軍の中でもかなりの権力を持つという事。――現在称号として認められているのは三大剣豪である天騎士、夢幻騎士、剣聖。それからリンレイ様の隼騎士。以上の四名のみです」

「えっ、それだけ? マクラーレンさんとかも違うの?」

「確かにあの方の「堅騎士」もほぼお認めになられている様な物ですが、こういった正式な授与はされていないかと。――授与には相応しい人柄かどうかでヨゼルド様、更にその称号を名乗るだけの才能実力があるかどうかの推薦者、二名の推薦があって初めて許可が下ります」

 要は国家公認で、その実力と存在を大きく認める、という意味合いらしい。――って、

「それを、レナが欲しがってる……?」

 という事である。流石に予想外だった。それに関してはアルファスも同意見の様子。――ふっ、とアルファスは真剣な面持ちになり、

「国王様は既にお認めになられたんですか?」

 そうヨゼルドに尋ねた。――真面目な話になり敬語になったのは余談。

「うむ。理由と報告を聞いて、私は認めた。後はもう一人、実力者の推薦が必要だからな」

「それで王妃様が不在だから、俺が呼ばれたわけですか」

 確かに称号持ちと並ぶとなれば、実力者として許可が出せそうなのは身近にはアルファスしかいない。――そのままアルファスはレナの前に。

「国王様にも答えて許可が下りたんだろうから俺が訊くのも野暮だが、それでも訊くぞ。どうして称号を欲しがってる? そんなキャラじゃねえだろお前」

「理由は二つ。一つ目は、正式に父さんの名を、私らしく、正しく刻み込んでおきたい為」

「レナ……」

 その時点で、レナが欲しい「称号」がライトはわかった。――「炎翼騎士えんよくきし」。レナはレガリーダのその名を、正式に受け継ぐつもりなのだ。

「二つ目は、ライト君を守るっていう、私なりの覚悟の証」

「!」

 そして二つ目の理由。ライトはこれに関しては予想外であり、驚きを隠せない。――その驚いたライトに向かって、レナは優しく微笑む。

「両方共俺は理由としてわからねえぞ。でもまあ一つ目はいい、俺は事情を知らねえし、その事情を知った国王様が認めた。それを俺がああだこうだ掘り下げるつもりはねえ。ただ二つ目は何だ? お前は何だかんだで、今までもライトの事はしっかりと守ってきたはずだ。それだけなら肩書なんざ要らねえだろ。寧ろお前が嫌いな余計な立場が付きまとうだけじゃねえか」

「この先、ライト君はもっと大変になっていくでしょ。魔王討伐も近い。一端の護衛が出来るのは、物理的に守る事だけ。そうじゃなくて、ライト君自身を、もっとちゃんと守る立場になりたいんだ」

 今のレナはあくまで護衛であり、戦闘的な場面からライトを守る立場。政治やライトの立場関連に関しては(独特な)意見は言えても行使は出来ない。だが国家公認の称号があると、その手の話に少なからず今よりかは口を挟める様になる。勿論基本的な部分はヨゼルド、ヴァネッサ、エカテリスらが守ってくれるが、いざという時に咄嗟に手が出せたら。――レナは、その細かい隙間すら埋めて、ライトを守りたいと思う様になったのだ。

「成程な。――お前に何があったのかはまあ訊かねえ。お前がそう思うのは悪い事じゃねえしな。ただ、それに相応しい実力の持ち主かどうかは確認させて貰う」

「うん。――宜しくお願いします」

「国王様、訓練場を一つ、お借りします。ついでにその訓練場、人払いを」

「うむ。第一訓練場を開けよう。――ハル君、手続きを頼む」

「承知致しました」

 ハルが小走りに玉座の間を後にする。

「あの、俺は」

「お前も悪いが何処かで待っててくれ。あくまで俺とレナだけ。一対一だ」

「わかりました。――レナ」

「大丈夫、アルファスさん相手に勝てる気はしないけど、でも負ける気もしないから」

「言ったな。俺個人としても、お前の「本気」には興味があった。全力で来いよ」

「勿論。というか、私が全力じゃないの、見抜いてたんだ」

「当たり前だ」

 そう言いながら、アルファスとレナは、第一訓練場の方へ歩いて行くのであった。

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