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第三百五話 演者勇者と炎翼騎士12

 翌日。モリダを連れて、ライト騎士団は祠――正確には祠の裏手にあったという岩の調査に乗り出した。朝食を終え、モリダを迎えに行き、いざ出発。

「…………」

 ――したのはいいのだが、道中の空気が絶妙に重い。当然原因はモリダである。皆どう口を開いてどういった空気を作っていいか悩む所なのだ。

 レナはどちらかと言えばムードメーカーに近い物があった。ライトや他のメンバーを弄り、笑いを起こす。そのトークが場の空気を変えてくれる事もあった。

 だが今回に至ってはそのレナが一番ピリピリしている。当然ではあるが。――よって、どうしても無言のまま歩を進める事になってしまった面々であった。

「仕方ありませぬな、ここは我が一肌脱いで……あっ我脱いだら骨しか無かった!」

 …………。

「く……我の渾身のギャグが」

「いや面白かったけどな。というか絶妙に危険なギャグだぞそれ」

 モリダには意味が通じないし通じていたら駄目である。――というわけで、ニロフ渾身のギャグも虚しく。

「あの……勇者様、少し宜しいでしょうか。お話したい事が――」

 と、そのモリダが不意に口を開く。ライトに対して――

「駄目。勇者君は忙しい」

 …………。

「マーク、ネレイザ、ちょっとだけお願い出来る?」

「レナさん、気持ちはわかりますけど話だけ伺うだけですから」

「ほーらレナさん、寝心地が良さそうな枕。こっちこっち」

「ネレイザちゃんは私の事馬鹿にしてる?」

 埒が明かない。流石に困っていると。

「レナ、任務に必要な事かもしれませんわ。マークの言う通りライトに話を聴いて貰いましょう。護衛の事も心配いりませんわ、しっかりと全員でカバーすれば」

「……はーい」

 あからさまに不満気な返事をしつつ、レナが少しライトから離れた。モリダと話す体制が出来上がる。

「それで、俺に話って」

「勇者様は、レナの事をどう思っていらっしゃいますか? 勇者様の目から見て、レナは」

 昨日の質問の延長線の様な話だった。ライトにとってのレナ。付き合いも長くなってきた。

「護衛として、本当に助けられてます。性格も癖はありますが俺の事をちゃんと想ってくれていて。大切な仲間、かけがえのない存在の一人です」

 それは迷いなく言えた。断言出来る答えだった。――大切な仲間。大事な存在。

「そうですか。――勇者様にそう言って貰えて、安心しました」

 実際モリダは、胸をなでおろした様な表情を浮かべた。

「レナから十年前の事は伺っています。正直俺としてもあまりこの街にいい印象は持てませんでした」

 なので、少しだけこちらからも切り込んでみる事に。一方的に安心だけされて満足されてもライトとしても少々引っかかる。

「お気持ちはわかります。言い訳のし様がありません。――我々が炎翼騎士えんよくきし……レガリーダをあんな結果にさせてしまったんですから。レナの心の傷は、到底計り知れる物じゃないでしょう」

「……そこまで分かった上で、話って何です?」

「レナに、謝罪がしたいんです。せめてもの贖罪をしたいんです」

「ちょっと失礼」

 そこでライトはモリダに向けて真実の指輪を使用してみる。すると、『モリダ フエノガージ町長 後悔』という文字が見えた。……後悔。

(後悔はしてるのか……)

 ここで言葉だけ、ライトへの胡麻すりだったとしたらこの場で蹴飛ばせたのだがそうでもないらしい。――なのでライトは次のステップへ進む。

「きっとレナは、貴方からの謝罪も贖罪も求めてないと思いますよ」

 正直にストレートに告げる事にした。これに尽きた。どうしてもとか言ったら「じゃあここで自害して」とか言い出しそうだ。

「俺達は、ここの調査と祠の結界張りが上手くいき次第、サルマントルに行きます。もう早々会う事も無いでしょう。――貴方には申し訳ないが、それでもういいんじゃないでしょうか」

「それじゃあ申し訳が立たない……! レナにも、天国のレガリーダにも……! ほんの少し、ほんの一握りでいいんです、何か罪滅ぼしになる事が出来たら……! 勇者様、何とか仲立ちをお願い出来ないでしょうか……!」

「レナなら……」

 そんなのただの自己満足じゃん。心の中に勝手に作った私と父さんに許して貰いたいだけでしょ。悪いけど、私はそれすらさせる気はないから。……と言いそうだな、とライトは直ぐに思った。

「貴方の気持ちはわかりました。覚えておきます。――勿論だからと言って俺が協力するかどうかはわかりませんが。期待はしないで下さい」

「勇者様、お願いします、どうか、どうか……」

 放っておいたらこの場で土下座でもするんじゃないかという勢いだったのでライトは直ぐにモリダを窘め、話を終わらせた。

「何の話してた?」

 入れ替わりで直ぐにレナがやって来る。――うーん、これは隠しようが無いな。

「レナに謝罪と贖罪がしたいんだって。許されるとは思ってないけど、それでもしたいと」

「私は――」

「レナはそんなのはきっと求めてないって伝えておいたよ」

 この展開を読んでいたライトは直ぐに半ば無理矢理レナの文句をシャットアウトし、その後の流れも簡単に話した。

「何も知らなかったらモリダさんにもう少し肩入れしてるかもだけど、レナの話を聞いてるからさ」

「そっか。――でも駄目だよ勇者君、それはもしかしたら勇者としては間違いかもしれない。私に肩入れして名声を落としたら」

「そしたらそこまでだよ。レナに肩入れして落ちる位の名声なんて必要ないだろ」

 ずっと一緒にやって来た。ずっと守って貰って来た。そんなレナを名声の為に捨てるなどライトとしては有り得ない。それが例え誰かに怒られる結果になったとしても。

「……勇者君は、本当に私の事を信じてくれてるんだねえ」

「迷惑なら今すぐモリダさんに謝罪の場を用意するけど?」

「まさか。純粋に嬉しいんだよ。――ありがと、ホントに」

 安らげる場所を初めて見つけた子供の様に、レナは穏やかに笑ってお礼を言った。――二人の距離が、近くなる。

「むぎぎぎぎ……もしかして全てこうなる為のレナさんの根回しなんじゃ……!」

「流石にそれは考え過ぎだよ、ネレイザ……」

 その様子を恨めしそうに見てマークに宥められてるネレイザと、

「レナ……」

 何とも言えない表情で見つめるモリダがいたのであった。



「おう、またモンスター沸いてんじゃねえか、どうなってんだよ」

「ソフィ様、言葉とは裏腹に嬉しそうですが」

「一日一回暴れる事がアタシの健康の秘訣なんだよ」

 謎の理論を語り、ハルに溜め息をつかせるソフィ。――祠に到着すると、昨日ある程度殲滅したにも関わらず再びモンスターが沸いていた。ペースとしては早過ぎる。

「とりあえず辺りを落ち着かせましょう。でないと次の行動に出れませんわ」

 というわけで、エカテリスを先頭に再び戦闘開始。――ライトとレナは離れて待機、そしてモリダは、

「この円の範囲からは出るな。出た場合万が一があると考えておけ。代替案として首輪で繋ぐというのがあるが」

「で、出ません! 宜しくお願いします」

 ドライブが護衛に入ったのだが、謎のルールをドライブは提案していた。――もしかしたら護衛には向いていないのだろうか。代替案首輪って。犬かよ。

 殲滅にそこまで時間はかからなかった。落ち着いた所で全員が集合。

「昨日と戦った感じ、特に強さが変わったとかは無かったと思う」

 測定正確無比のサラフォンの情報。

「しかし、逆に言えばこのレベルが毎日当たり前の様に復活して沸いてくる。今辺りを警戒しても出現する気配すらありません。それなのにまた明日復活する?――可笑しな話です」

 そしてこちら索敵正確無比のリバールの情報。

「とりあえず、モリダさんが気にしている裏手の岩を見てみませんか? 解決に繋がる糸口があれば」

 というわけで、マークの促し、そしてモリダの先導によりそのまま移動を開始。

「あれです」

 実際そう遠くない所にその岩はあった。成人男性の平均身長位の大きさの岩。

「……レナ、何かあれ不気味じゃないか?」

 見た目はただの岩。だが違和感を大いに感じ取れた。そこにあってはいけない様な、嫌な感覚がする。

「実際変だと思うよ。言い方悪くてごめんだけど、勇者君が感じられるって相当だもん。――迂闊に近付かないようにね」

 レナに釘を刺されて、ライトに更に緊張感が走る。――そしてレナが釘を刺す人物がもう一人。

「後はそうだね、こんなのが昨日今日で出来るとは思えない。場合によっては十年前の原因もこれかもね。つまり、この十年何をしてたんだって話になるんだけど」

 レナは決してモリダの方を見ないが、明らかにモリダに向けての発言である。

「っ……もう、フエノガージにこれを調査出来る様な人材は居ない。大人しく、経過を見守るしか無かったんだ」

 モリダも十年前の災害の原因ではないかと思う事もあったが、手を出しようが無かった。実際十年間何も起きなかった以上尚更である。

「まあまあレナ殿。――では我が近付いて少し見てみましょう。いざとなったら骨は拾って下され」

「ギャグだよなそれ!?」

 本当にニロフの骨ギャグは分かり辛かった。一本二本は抜けるとか言ってたし。

「……ふむ」

 発言は兎も角、ニロフも真剣な様子で近付き、その岩を調べ始める。――再びライトにも緊張が走る。

「ニロフ、どんな感じだ?」

「皆さんが感じておられます様に、不思議な魔力が篭ってますな。それに吸い寄せられてモンスターが沸いている可能性は十分にあります。ただこの岩が何故ここまで不思議な魔力を帯びているのかが少々わかりかねます」

「詳しくは調べられない?」

「どれだけ危険かわからないので時間がかかりますな。今この場で危険を冒してまでやる事ではないでしょう。我が無事でも例えばフエノガージまで何か被害が出てからでは」

 ふーむ、といった感じでニロフも結論に困っている様子。……ただ、あまり安全な品ではないのはわかった。

「ただまあご安心下され。応急処置の魔力放出緩和は出来そうですぞ。これをやれば風神祭本番までは持つでしょう」

「お、本当か、流石だな」

「いえいえ、この程度でしたら。――可能ならば風神祭終了後、フリージア殿やソーイ殿が調べられるような環境を作りたいですな。欠片の一つでも持ち帰る事が出来ればよいのですが」

 ニロフが先の先まで色々考えていると、

「あの、少し宜しいですか?」

 モリダだった。おずおずと手を挙げて発言を開始する。

「私がその岩を見つけた時、変な物があったんです。それはありませんか?」

「ふむ、変な物とは」

「ここだと位置が説明し辛くて。そちらに行っても宜しいですか?」

「ニロフ、大丈夫そうか?」

「構いませぬ、どうぞ」

 そのままドライブに連れられ、モリダも岩の近くに。

「それで、モリダ殿が見た変な物とは」

「これです」

 モリダは自分のズボンのポケットからハンカチを取り出す。そして、

「!?」

 バッ、とそのハンカチを持ったまま、「何か」をその岩に押し当てた。次の瞬間。――キィィィン!

「え……岩が、光始めて……」

「っ! 全員伏せて下され!」

「勇者君っ!」

 ニロフの避難勧告と、レナがライトを庇うのはほぼ同時だった。直後、光った岩にヒビが入り、バァン、と崩れ落ちた。そして、

「ォォォォォ……!」

 遥か遠くに、炎の巨人が突然出現したのであった。

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