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第二百九十七話 演者勇者と炎翼騎士4

「将来の夢?」

 ある日、食事中に突然訊かれた。

「ああ。訊いた事無かったな、と思って。――で? どうなんだ?」

「特に無いよ。多分普通に過ごして普通に大人になって、その時自分が出来る事をして、暮らしてるんじゃない?」

「少し位夢見た事はあるだろ。お嫁さんになりたいとか、俺みたいになりたいとか」

「少なくとも後者はない」

「酷い!」

 私にはなれない。柄じゃない。――でも、憧れてはいる。言うと五月蠅いから永遠の秘密だけど。

「じゃあお嫁さんはどうだ? お前は美人だ、花嫁姿も似合うぞ。今から想像しても……ああ何だか泣けてきた」

「残念ながら無理でしょ。見た目は兎も角私こんな性格だし」

「そんな性格だから、だよ。お前が優しいのは俺が一番良く知ってる」

 優しくなんてない。私は私のしたい様にしてるだけ。――大切な人を、悲しませたくないだけ。

「まーでも、変な職業についたり、犯罪集団の仲間入りしたり、心配かける様な事はしないから」

「そうか。――お前の将来が、楽しみだよ。その為なら俺はいくらでも頑張れるからな」

 そう言って笑いかけるその顔が、その安心出来る笑顔が、好きだった。でも――


 ――その人は、私の将来を、見届ける事は無かった。



 祠調査、二か所目。マスクドからロッテンに移動して、現在ライト騎士団はモンスターの処理中。

「いけっ!」

 ズガガガガァン!――サラフォン、連射式の魔法銃を乱射。

「ふっ!」

 バキッ!――それをサポートに、ハルが接近戦。意思疎通も完璧な、見事なツーマンセルで撃破していく。……だが。

「ねえハル、変だよね」

「そうね。――マスクドで戦ったモンスターと種族同じ、大きさもほぼ同じなのに、明らかにこちらで戦っているモンスターの方が手強くなってるわ」

「うん。耐久性も二十二パーセント上がってる」

 サラフォンの流石の正確無比の分析力はさておき、二人の意見は前述通りの内容で合致していた。――モンスターが強化されている。

「どっちにしろ雑魚に代わりはねえぞ。この位じゃ歯ごたえがねえ」

 そう言って物足りなさそうにするソフィ。――だが。

「でもマスクドの時は、この位の時にはもう戻ってましたわよ」

「あれ? そうでしたっけ?」

「前回は、「もう終わりかつまんねえ」って言いながら確かにこの位の時には戻ってましたね」

 エカテリスとリバールの指摘。ソフィの狂人化の時間が長いという事は、やはりモンスターが強化されている、という証明になった。

「念の為、マスターを呼んで来ますね。ニロフさんソフィさん、結界は一応待っていて下さい」

「僕も行くよ」

 ライトはレナを横に、やはり距離を取って待機中。なので報告を兼ねてマーク・ネレイザ兄妹が呼びに行く事に。

「ネレイザ的にはどうだい? 事務官の仕事は」

 多少ライトが居る所まで距離がある。マークは不意にそんな事を尋ねてきた。

「まだまだ。きっとお兄ちゃんには全然敵わない」

 そう言い切る横顔は、真剣。いつもの様にマークを持ち上げたいのではなく、自分自身を厳しく評価しているのだろう。……でも。

「ネレイザは、ちゃんとやれてると思う」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、でも」

「さっきの事もそうだよ。ライトさん達を呼びに行く判断もそうだけど、皆そういう発言をした時のネレイザを信頼している顔をしてた。それを見て、僕は安心したよ。上手くやれてるんだな、って」

 大好きな兄に褒められた。久しぶりの感覚がこそばゆい。

「だって、元々お兄ちゃんが居たポジションだもの。お兄ちゃんの妹として、恥ずかしくない様にしたいの」

「それに、ライトさんにももっと認めて貰いたいから?」

「うん。あの人はお兄ちゃんとは違う立ち位置で、私の事を見てくれる大切な人――って事務官としてよ!? あくまで騎士団の事務官として!」

 そしてつい口が滑りそうになる。マークは嬉しそうに笑っていた。――気付かれてなければいいけど。

「僕もいつかは戻るつもりでいるけど、でも僕が居なくても上手くまわってるのは安心出来るよ」

「まあでもレナさんには毎回手を焼いてるけど! 今だってそう、戻ったらどうせ腑抜けてるに決まってるんだから!」

 そう言いながらズンズンズン、と力強くライトとレナが待機している箇所に辿り着くと。

「おかえり。――その様子だと、違和感があったね?」

「え? え、あ、うん、それでマスターに報告に来たんだけど」

 出迎えの第一声はレナだった。ライトの横に立っている。だが、纏っている空気の違いが何となくだがわかった。――護衛として、周囲を警戒している。

 勿論レナはライトの護衛なのだからそれが当たり前なのだが、彼女の実力もあり、基本余程緊迫しないとそこまでの警戒をしない。今回のモンスターの処理案件も、確かにマスクドよりか敵は強くなっているものの、ライト騎士団の実力者達ならばそこまで問題にならないレベル。つまり、いつも通りならば前回同様、砕けているのが当たり前。……なのに。

「ライトさん、レナさん、この位置に居て何か違和感はありましたか?」

 当然マークもそれはわかっている。だが、彼は動揺を見せずにそれを尋ねる。

「うんにゃ、特に何も。んで? そっちは?」

「同型種のモンスターなのに、マスクドの時よりも強化が見られました。皆さんが苦戦する様なレベルではないのですが、ハッキリとわかるレベルだったので」

「一応私達を呼びに来て、結界は全員で見守る形にしよう、か。仕方ない、行こっか。――勇者君」

「あ、うん」

 こうして今度は四人で、他メンバーが待つ場所に戻る事に。

「マスター! マスター!」

 ぐいぐい。――その道中、マークがレナと話をしている隙を突きネレイザがこっそり後方に行き、ライトの服の裾を引っ張り小声で呼ぶ。……ちなみにマークがレナと会話をしているのも察しての行動である。

「待ってる間、レナさんと何かあった?」

「え? いや、普通に待ってただけだって」

「本当に? レナさんの様子、おかしくなかった? いつも通りだった? ちゃんと枕用意して寝てた? マスターを誘惑して来なかった?」

「偏見が酷い! 流石にレナでもあのシチュエーションで誘惑はして来ないし、偶にしか枕で寝ないぞ!?」

「偶に寝てる!」

 本当に寝てる事がある事に衝撃を受けるネレイザ。――いや今の本題はそこじゃない。

「今日は普通に話をした位だぞ? 話の内容もただの世間話だし。――どうした? レナが気になるのか?」

 この様子からして、ライトには気付かせていない。

「うん……その」

「おっ、ネレイザちゃん、マーク君がアルテナ先生に傾いた心のモヤを勇者君で解消しようとしてるね?」

 意を決してネレイザが話そうとした瞬間、マークとの会話が途切れたか、レナが戻って来る。

「それともあれかな? 勇者君がアルテナ先生を寝取る事でマーク君が解放されるからそれを促してるのかな? でもそうなると勇者君のハーレムが更に広がるから勇者君からの愛の割合が減って一長一短」

「そんなお兄ちゃんが悲しむ話マスターに相談するわけないでしょ!?」

「その前に俺はハーレム作ってるつもり微塵も無いんだけど!?」

「えー、ネレイザちゃんがこのまま事務官として残ったら、マーク君は勇者君のハーレムの事務官として戻るしか道は無いのに?」

「マーク……! 大丈夫だ、必ずちゃんとしたポジションを用意して待ってるから……! だから決して」

「大丈夫です、いつものレナさんですからライトさんも流されないで下さい……」

 そんな「いつもの」会話が始まり、結局踏み込んだ話は出来ず、

「皆、お疲れ様。待たせてごめん」

「大丈夫ですわ」

 全員と合流し、本来の目的に戻る。

「それでは始めてしまいましょうか。ソフィ殿、今回も宜しくお願いしますぞ」

「おう、任せろ。後は何ぶっ飛ばすんだ?」

 …………。

「――あれ? 何でアタシ、まだ「アタシ」のままなんだ?」

 ソフィの狂人化バーサークが切れていない。戦いは終わったはずなのに。

「もしかして、まだモンスターが隠れてるとか? リバール」

「ライト様のお考えが最もですが、周囲に気配はないですね……」

 今一度リバールが印を組んで辺りを警戒するが、そうではないらしい。

「長、俺は念の為に周囲を警戒しに行こう。終わり次第連絡をくれ」

「では私も」

「ボクも、偵察に行くよ」

 万が一を考えて、ドライブ、ハル、サラフォンが少し離れた箇所まで偵察へ移動。一方で、

「おいどうした「私」! 戻れ戻れ! 戦いの気配はねえ、お前の出番だぞ!」

 クシャクシャポカポカ。――髪の毛をかき回し自分の頭を叩き、一生懸命元に戻ろうとするソフィ。

「団長! アタシを殴ってくれ! それで何とか!」

「いやいや駄目だってそんなの! 百歩譲って戻るとしてもそのやり方は駄目だって! 一回落ち着こう、「私」と意思疎通は出来ない状態なの?」

「いや、「私」も元に戻るって言ってるんだけど、何か引っかかる物があって出てこれねえって」

 その後紆余曲折、十分程色々試した結果、

「すみません、お待たせしました……」

 何とかチェンジする事に成功。

「大丈夫?」

「はい……戦闘よりも疲れました。今までこんなこと無かったんですが……」

 ちなみにソフィの右手には臨時で作ったハーブティー。何処から持って来たのかニロフが大きな扇でソフィを優しく扇いでおり、乱れた髪の毛をリバールが整えてくれている。

「皆さんもありがとうございます、もう大丈夫です」

「これが原因で「アタシ」の方に変な影響とかは出てない?」

「えっと……大丈夫そうです。意思疎通出来ますね。とりあえず「アタシ」も疲れたって言ってます。……原因を探らないと」

「そりゃ祠じゃないの?」

 と、言い切ったのはレナだった。

「祠周辺でモンスターが活発化してんだから、結界張るまでそれこそ何か醸し出してるんでしょ。それに毎年の儀式、そんなシンプルなやつじゃなかったよね。初日に少し離れた箇所からお祈り、二日目に魔力が籠った伝統の道具を近くに置いて一晩眠らせて、三日目には祠の近くでお祈りした後、魔力持ちが特殊な詠唱でその道具を割る。それを決められた時間に、しかもそれぞれの祠でずれた時間でやる。――ピンポイントで何かズレたら事故だってあるでしょ。逆に言えばそういう祠なんだから、ソフィに変な影響があっても可笑しくないって」

 すまし顔でそういうレナを、

「あれ? 私何か変な事言った?」

 全員が唖然とした顔で見ていた。というのも、

「いや……普通にレナさんが全部把握してるな、って思って……」

「任務前に渡してくれた資料に書いてあったでしょ。あんだけネレイザちゃんが読め読めって言ってた」

「うん、まあ確かに私が読めって言ったんだけど」

 結局読まないのがいつものパターン。なのに今回は。

(……訊いても、答えてくれないんだろうな)

 ライトとしても今回の任務に関してのレナには違和感はあった。でも、それは時折今までも見せてきた「レナの心の奥」。触れてはいけない、触れられないもの。

(レナ、俺はいつだって、お前の話は聞く覚悟があるし、今更どんなレナだって驚かないぞ)

 届かない想いを、ライトは心の中で口にする。

「とりあえず、ソフィも戻ったのだし、結界を敷いて戻りましょう。街の人にも話をもう一度聞くべきですわね」

 こうして、二か所目の祠の作業を終え、ライト達は一度街へと戻るのだった。

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