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第二百九十六話 演者勇者と炎翼騎士3

「では、改めましてこちらからの依頼について説明させて貰いますね」

 ライト達がマスクドに到着した翌日。朝食を終えた後庁舎へ出向き、会議室を借りてのミーティングとなった。――何年も間が開いたわけではないのに、マーク主導のスタートが懐かしく、嬉しくもあった。

「皆さんも参加予定のサルマントルの風神祭。風神祭は伝統ある祭でして、サルマントルだけではなく周囲の街、三つが関連しています」

 マークがテーブルに大きな地図を広げる。地図の中心にはサルマントル。

「サルマントルを囲う様に存在する三つの街には、近くに祠があります。サルマントルには風神が、祠にはその風神の従者が祀られていると言われており、風神祭本番の前に、祠でお祓い、お清めをするのが習わしなのですが、その祠周辺でモンスターの活発化の報告が上がってまして、皆さんにはその原因の調査、可能ならば排除をお願いする形となります」

「マーク、そもそもその祠周辺にモンスターはいなかったのですか? 「アタシ」曰く、街に居る限りでは危険な気配は感じないのですが」

「野生のモンスターは生息していました。ただ街から街への移動に被害を及ぼす様なレベルではなかったのに、最近その手の事故がいくつか勃発する様になりまして」

「それでここに来る私達に……ですか。理解出来ました」

 ソフィらしい視点の質問だった。

「前述通り、祠と、その祠に近接する街は三つ。まずはここ、マスクド」

 とん、とマークが地図のマスクドの位置に目印となる小物を一つ置く。

「次にここ、ロッテン」

 とん、とマスクドからそう遠くない位置に再び目印を置く。

「最後にここ、フエノガージ」

 とん、とそのロッテンからそう遠くない位置にやはり目印。――位置的には若干マスクドからは遠めとなっていた。

「以上三つの祠の周辺、全てに活発化の報告が上がっています。ですので、皆さんは自分と共に、その三つの祠の調査に出向いて貰う形になります。位置的にもまずはここマスクド、次にロッテン、最後にフエノガージと移動しながら――」

「それってさあ、部隊分けて同時にやったら駄目なん?」

 と、マークの説明に割って入ったのはレナだった。

「ほら、なんやかんやで私達、強いでしょ? 人数的に三つに分けてもどうにかなると思うんだよね。その方が早く終わってサルマントルにも早く行けるじゃん。私と勇者君はセットで勇者君の事を考えたら近場になるけど、真面目にやるし」

「レナさんの考えもわからなくはないんですが、モンスターの活発化、度合いが違うんです。比べた時、マスクドが一番弱く、次にロッテン、一番活発化が進んでいるのがフエノガージ。僕らを均等に分けるとそれぞれ三人程度。ここマスクドならばそれでも構わないと思うのですが、フエノガージに関しては僕も報告だけで実際目で見ているわけではないので、未知数な所があるんです。ですので、そこまで時間に追われているわけではないので、分けずに確実に行くべきかと」

「なら二手に分かれるのは? 半分ならいけるでしょ。半分はフエノガージ、もう半分はマスクドとロッテン。二か所の方が大変だけど、でもマスクドの割合はマーク君わかってるわけだし、これで――」

「レナ」

 レナの意見を途中で止めたのはエカテリスだった。

「貴女の意見もわかりますわ。筋も通っています。でも今は、マークの意見を通すべきですわ。比べた時より筋が通っているのはマークの意見ですし、何より――マークの事を信頼しているのでしょう? 貴女なら、特に」

「……あー」

 エカテリスに指摘され、一瞬複雑な表情をレナは浮かべるが、

「ごめんマーク君。私の言った事は忘れて。――皆もごめん。会議進めて」

 謝罪し、意見を下げた。――少し珍しい光景だった。あまりレナはこういった場で意見を出す様なタイプではない。特にライト騎士団では優秀な人材が揃っている為、何も言わなくても正しい方向へ進む。そう思っているのだろうか、うたた寝すらしている時もある(それはそれで駄目なのだが)。

 だが今回、随分とハッキリと自分の意見を通そうとした。――何かあるのだろうか?

「何にもないよー」

「本当だいつも通り俺の考えてる事を先読みするレナさんでした!」

 チラッと顔を見ただけなのにライトはレナにあっさりそう言われた。――にしても。

「別に俺もレナの意見が間違ってるとは思ってないぞ。意見を言うのは間違ってない」

「大丈夫大丈夫、何となく思った事を言っただけだから。それに結局私は勇者君を守るのがお仕事だもん。何処がどう、とか関係ないよね。関係ない関係ない」

 自分に言い聞かせる様にレナはそう言うと、何処か遠い目で窓の外の景色を眺め始めた。

(レナ……何か、あったのか……?)

 だがそれを訪ねても、やはり何でもないと言われるだけだろう。――そうこうしている間に会議は終了。マークの提示した通りの順序で動く事が決定したのだった。



 そしてその日の午後。まずはマスクドが管理する祠へ。

「皆さん、モンスターは主に祠を中心に生息しています。祠から一定以上離れると不審なモンスターの気配はありません」

 先に索敵をしたリバールの報告。つまりは、

「ある程度蹴散らした後、祠で結界を敷きましょう。その辺りは我とソフィ殿の聖魔法……ソフィ殿、戻れますか?」

「あ? 戦い終わったら何とかなんだろ」

 既にソフィは狂人化バーサークしていた。確かにこうなると封印とか結界とかそういった類の魔法が使えるかどうかは怪しい。

「なら俺達は、ソフィが元に戻れる様に素早く殲滅させるだけだな」

「おい、待てドライブ! アタシが殲滅させればいいだけだろ! アタシもやるぞ!」

 そんな二人の会話を封切りに、モンスターの殲滅を開始。あくまで祠周辺の安定が目的なので逃げるモンスターを追ったりはせず、無抵抗の相手を撃破したりもせず。そのルールの下にライト騎士団の戦力を考えれば、かなりの勢いで平定は進んでいく。

「ふぁーあ」

 お蔭でレナがライトの横で欠伸をする位には、ライトの周囲は平和であった。

「気持ちはわかるしレナの事は信頼してるけど気を抜き過ぎじゃないですかね」

「眠いものは仕方ない。それに何をどう間違えてもこっちまで敵が来る事はないでしょこれ」

 そう言いつつ、レナは二回目の欠伸。

「本当、毎日あれだけ寝てるのにどれだけ眠いんだよ……」

「うーわ勇者君、ついに私の寝てる姿をこっそりチェックしてたか」

「してないよ普通に沢山寝てるのが想像出来るだけだ!」

 勿論今回の任務にも何処でも寝れる様にマイ枕を持参している。それを見て寝不足と誰が思うだろうか。――すると。

「寝るとさ、いっつも同じ夢を見るんだよ」

「夢?」

「そう。全部燃えて無くなる夢。……ううん、違うな。私の大切な物だけが燃えて消える夢。夢だから展開は同じ。毎回、どうする事も出来ない。全てを失った所で私は目を覚ます。それの繰り返し」

「だから、寝不足?」

「勇者君、今度夜、私の手、握っててよ。君に手を握って貰えたら、怖い夢は見なくて済みそう」

 そう言って、レナはライトの手を軽く握った。突然の事、本当に握ってきた事にライトは驚いたが、

「レナ……?」

 レナの表情が、いつものすまし顔が、何処となく寂しげで、振りほどけない。――まさか、本当に……?

「あーっ! ちょっとレナさん何してんの!?」

 と、声を上げたのはネレイザだった。モンスターの処理が終わったのか、こちらに戻ってくる所だった。当然視線の先には繋がっているライトとレナの手が。

「ネレイザちゃん勇者君を責めないで。私が握りたくて握ったんだ。もうこのまま一生離したくない」

「だからそれを私は怒ってるの!」

「責任は取るから」

「だからあああああ!」

 話が一方通行。怒るネレイザをからかうレナ。気付けばいつも通りのレナだった。――先程感じた物は気のせいだったのだろうか。でも、確かにあれは。

「ネレイザ、それじゃレナさんが楽しいだけだから」

「お兄ちゃん!」

 と、ここで救世主登場。前事務官であり、レナの扱い(!)をネレイザよりも数段知る者、マーク。

「余裕がある時の行動は出来るだけ気にしない。ライトさんを守る、という概念は捨てないから、ライトさんの隣にいてくれるなら現状なら十分なんだ。ライトさんを窮地に追い込む真似はしない、つまり一定以上場を崩す事は絶対しないから。そういう風に考えて、安心する様にするんだ」

「おー凄いマーク君。流石わかってるぅ」

 そう言いながらレナはいつの間にか手を繋ぐ所かライトに抱き着いて顔をぴったりと近付けて――

「お兄ちゃん一定以上場が崩れてる! あれはいいの!?」

「いやーいいでしょ。だってネレイザちゃん考えてみ? マーク君とアルテナ先生も」

「むきぃぃぃぃ!」

「レナさん、僕を引っ張り出すのは止めて下さい……というより、僕を言うのはいいので、あまりネレイザで遊ばないでくれると。キリがないので」

 そんないつも通りのやり取りをしていると、他の面々も戻ってくる。

「ちなみに我は美女美少女のハグはいつでも大歓迎ですぞ。――はとりあえず置いておいて、無事祠の結界、敷き終わりましたぞ」

「お疲れ様。皆も」

 ライトはレナを振りほどき(!)全員を労う。

「ですが団長、少々気になる事がありまして」

 無事狂人化から元に戻って聖魔法で結界に参加したソフィからそんな申し出が。

「今回のモンスターの活発化、祠が外部から魔力を必要以上に受けた事による影響だと思われます。――実際、各地でそういった事が原因でモンスターが活発化する事は時折あり、魔力の流れの変化も自然の変化による物が多いのでそれ自体は問題ではないのですが」

「なら、ソフィは何が気になるの?」

「今回の魔力の流れの変化は、故意による物――他の場所での意図的な魔力操作が原因な気がするのです。これに関してはニロフも同意見で」

「ええ。つまり、ここの祠に関する他の場所、他二つの祠、もしくは風神祭が行われるサルマントル自体で何かが発生している可能性がある、という事なのです」

 特に何の問題も進むかと思われていた事前作業に、少しだけ暗雲が立ち込め始めるのであった。

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