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第二百九十五話 演者勇者と炎翼騎士2

「えええええええええ!?」

 告白された衝撃の事実。予想外の再会の喜びなど束の間に。――マークとアルテナが結婚を前提にお付き合いしている。

「えええええええええ!?」

 思えばマークに女性の気配が無いな、大丈夫かな、とライトとレナは話をした事もあった。決して馬鹿にしているわけではないが、そのマークにお付き合いしている女性。しかも知っている、しかもしかも美人の教師。

「えええええええええ!?」

「気持ちはわかりますけどそんなに何度も驚かないで下さいよ!」

 マークが顔を赤くしながら全員を止めた。アルテナも恥ずかしい事この上ない様子を隠せない。

「マーク……マーク! 良かったな、おめでとう!」

「はは……ありがとうございます」

 ガッ、とライトはマークと握手を交わす。落ち着いてみれば非常に嬉しいニュースである。それを封切りに各々が喜びのコメントを出し始める。

「アルテナ先生、私も自分の事の様に嬉しいですわ! 国を代表して、見守らせて頂きますわね! 何かあったら直ぐに私に伝令を飛ばして宜しくてよ!」

「大袈裟です王女様。でも、ありがとうございます」

 速攻で国家公認にするエカテリス。

「ご安心下さい。現在、マークさんに他の女性の影は見当たりません。お幸せに」

「リバールさんはこの短時間で一体どれだけ僕の事を調べたんですか!?」

 好意からだがとんでもない発言をするリバール。

「マーク君、私は孫の顔を楽しみにしてるからね」

「レナさんいつの間に僕の親になったんですか!?」

 いつも通りからかいつつ、でもちゃんと嬉しそうな顔をするレナ。

「アルテナ様。マーク様はお世話をする隙がありません。でもそこを掻い潜って支えるのが隣に立つ者の定めだと思います。なので私が考えるマーク様のお世話をする隙の考察を」

「ハル落ち着いて! ハルはそこは気にしなくて大丈夫だよ! あっ、マークさん、アルテナ先生、おめでとうございます!」

 謎のレクチャーをしようとするハルを、珍しくサラフォンがツッコミを入れる。

「マーク殿ぉぉ……マーク殿ぉぉ! 我は、我は今猛烈に感動しておりますぞぉぉ! マーク殿ぉ!」

「ニロフが泣いてる……」

 主であるガルゼフの手紙を読んだ時以来の涙を流すニロフ。

「何だか、普通にお祝いするのが恥ずかしくなりますね。でも、私も嬉しいですよ。お似合いです」

「俺も初対面だから何とも言えないが、でも前事務官として皆に慕われていたのがよくわかった。――おめでとう」

 ソフィとドライブが普通に祝うのが最早逆に珍しくなってしまった。――こうして、思い思いの言葉を告げる中、

「…………」

 口が半開きの状態で硬直してしまっているのが一人。――ネレイザである。当然衝撃のあまり、であろう。マークとアルテナが顔を見合わせると、二人でネレイザの前に行く。

「ネレイザ、驚かせてごめん。もっと早く知らせるべきか悩んだんだけど、ちゃんと会って報告したかったんだ」

「マークに会うまでは貴女の事は学園内の事しか知らなかったけど、マークにそれ以外の事も聞いたわ。複雑なのはわかる。でも、出来れば貴女にちゃんと認めて欲しい」

 その二人の言葉に、ネレイザの開いていた口がゆっくりと閉じ、同時に顔を俯かせてしまう。

「……本気で言ってるの?」

「うん」

「お兄ちゃん、今大事な時でしょ? 今うつつを抜かしてたら、こっちにいつ戻れるかわからないじゃない!」

「うつつを抜かしてるつもりはないよ。寧ろアルテナは、僕の事情を知って僕を支えてくれてる」

「知ってる? 私の方がお兄ちゃんの事はよくわかってる! 誰よりも何よりも!」

「……ネレイザ」

 ネレイザにとって、例え今他に恋心を抱く人間がいても、兄マークは絶対の存在に違いはない。そんな兄が、言い方を悪くすればあっさり呆気なく恋人を作ってしまった。自分の目が届かない箇所で。――その事実が、ネレイザから冷静さを奪う。

 わかってはいる。自分に口を挟む権利なんてない。でも、でも――それでも。

「ネレイザ。確かに私は、貴女よりかマークの事はわかっていないかもしれない。でもこれから、貴女と同じ位、彼の事を理解出来る様に努力する。その努力する時間を、私にくれないかしら」

 アルテナも穏やかに、でも覚悟の目でネレイザを見る。――止めて。止めてよ。そんな目で見ないでよ。そんな目で見られたら。

「ネレイザ」

 ポン。――少し悩んだが、ライトは気付けばネレイザの横に行き、優しくネレイザの肩に手を置いた。

「大切な人が自分の手が届かない所に行ってしまう気がする。辛いよな」

「……マスター」

「でもアルテナ先生はマークを大切にすると約束してくれる。ネレイザを越える努力をするって約束してくれた。……努力、大変なの、わかるよな? その努力を、見守ってあげたらどうかな」

「っ」

 ネレイザの魔導士としての才能は努力の末の開花である。その努力を、何よりも誰よりもマークが見守ってくれた。――努力の意味を、ネレイザは良く知っている。

「それに――マークは、遠くになんて行かないよ。いつまでもずっと、ネレイザのお兄ちゃんだ。――そうだよな?」

 その問い掛けに、マークもアルテナも優しく頷いた。――零れそうになる涙をネレイザは拭う。

「……もし、お兄ちゃんを裏切ったり、足を引っ張ったり、傷付けたりしたら絶対に許さない。魔導殲滅姫とまで言われた私が、全力で貴女にその重さを思い知らせに行く」

「わかったわ。そんな事は絶対にしないけど、もしもそうなってしまった時は、いつでも」

「お兄ちゃんも。お兄ちゃんはライト騎士団でしょ? 私はお兄ちゃんと一緒にマスターを支えるつもりでいるの。必ず帰って来てよ。ここで終わりになんて、絶対にしないで。……その人と、一緒で構わないから」

「わかってる。必ず帰るよ、約束する。――ありがとう、ネレイザ」

 マークもネレイザにお礼を言う。軽く唇を噛んで、ネレイザはマークの目を見る。今のこの目を、自分の目に焼き付ける為に。

「皆さん。これからもネレイザの事、宜しくお願いします」

 そしてマークは、ライト騎士団全員にそう挨拶した。

「こちらこそ、だよ、マーク。ネレイザは今やライト騎士団に欠かせない立派な事務官だから。それとは別に、俺もいつかちゃんとマークがまた戻って来てくれると信じてるよ。ライト騎士団の団員だからな」

「はい。その約束、必ず守ります」

 こうして、サプライズハプニングありのマークとの再会は、

「折角だからお兄ちゃんの好物を教えてあげる。お兄ちゃん、私の手作り料理凄い好きなんだから!」

「ネレイザちゃんそれはまた今度にしようか。この街が消滅するから」

「もうあの時みたいに下手じゃないから! ドゥルペに習ってマスターしたから!」

「ネレイザ、それはもうドゥルペに失礼になる……」

「マスターまで!?」

 最後にはにこやかに(?)終わり、一行は宿へと入るのであった。



「ふぅ……」

 マスクドの中央にある庁舎。マークはライト達を宿に送り届け、アルテナを家まで送った後、再びこの職場に戻り、明日からのライト達との合同任務の最終確認を――

「してると思ったよ。普通あの流れなら恋人の家に行ってイチャイチャするでしょうよ。真面目か」

「自分で言うのもあれですけど、真面目が取り柄なんですよ……」

 ハッとして見れば、入り口に軽く寄りかかりながらレナがこちらを見ていた。

「どうしたんです? 何か気になる事でも?」

「別に懸念事項はないよ。ただ久々だから、マーク君とお酒でも飲みたいなって思って」

 どん、とテーブルの上に酒、ツマミ、コップを置く。――マークは溜め息。

「ここ僕の職場なんですが」

「知ってる。まあでも今もうマーク君しか居ないの確認したし」

「明日の最終チェックの途中で――」

「何回ももうしたでしょ? 終わってるも同然だって」

 そう言いながらレナはもうコップに酒を注ぎ始めている。――もうこうなるとどうにもならない。ライトなどよりレナとの付き合いが長いマークである。諦めて、資料と筆記用具を片付ける。

「明日から任務なんですから、飲み過ぎは駄目ですからね」

「わかってるって。軽いのにしたし。かんぱーい」

「乾杯」

 コツン。――グラスを軽く合わせ、アルコールを口に運ぶ。確かに軽めの、飲み易い品だった。

「いやー、でも安心したよ。マーク君がこっちでチャラくなってたらどうしようって心配で夜も眠れぬ日々が」

「多少の心配事があっても寝る人がよく言いますね。仮に僕がチャラくなっても寝るでしょう?」

「仕方ないじゃん眠いんだから。まあでも実際、あんな可愛い彼女作る様になってるのは本気で驚いたけど」

「まあそれは……自分でも、そんなキャラじゃない事は自覚してます」

「でも真剣なんでしょ? 自分でも言ってたけど、本気で先の事だって考えてるでしょ? マーク君だし」

「まあ、その……はい。考えてはいます」

 先の事。改めてそれを問われ、恥ずかしくなりつつも、でもマークはしっかりと断言した。

「そっか」

 そのマークの様子を見てレナは、からかうのではなく、

「何か安心した。やっぱりマーク君はマーク君だ。――肩の荷が、一つ降りたかな」

 そう、穏やかに、嬉しそうに笑う。――でも何処か、少しだけほんの少しだけ、その笑顔が寂しそうにマークには見えた。

「レナさん?」

「うん?」

 だがその名前を呼んだ時、既にその「寂しさ」は消えていた。――気のせいだったかな?

「そっちはどうですか? 勿論公務任務の内容は耳に届きますが、細かい話までは入って来ませんし」

「それこそ変わらないよ。勇者君もずっとあのままだし。いや寧ろハーレム度が増した。ある意味安心」

「ライトさんをどうしたいんですかレナさんは。全然安心出来ませんよそれだと」

「えっとね――」

 そこから始まるレナの報告は、ライトの話で溢れていた。容易に想像出来る話に、楽しそうなレナに、マークも嬉しくなる。

「だからもう少しだけ、私が隣に居る感じになりそうだよ」

「何言ってるんですか。最後まで、ライトさんの護衛は……隣は、レナさんですよ」

「かもね。――さて、それじゃ無断で出て来たから戻らないと怒られるかもだから戻るや」

「やっぱり無断だったんですね……」

 そんな気は薄々していた。自然とマークが片付けを始める。レナはんー、と体を伸ばしほぐし、立ち上がった。

「マーク君。――勇者君も言ってたでしょ? ちゃんと、戻ってくるんだよ」

 そして背中を見せながら、そう告げてくる。

「その時は、レナさんが僕の獲得に動いてくれるんですよね?」

 それは、ハインハウルス城を去る時にレナが告げた約束。勿論マークは忘れていない。

「彼女が出来たのに、他の女との約束に固辞したら駄目だよー」

「いやこの話はそういう話じゃないでしょ」

「はっはっは。――まあ、その時にまだ私がいるべき場所に居たらね」

 そう言って、レナは部屋を後にした。――その背中が、やはり一瞬寂しく見えた。気のせいだろうか?

「レナさん。……レナさんは、もっと皆に……ライトさんに、心を開いてもいいと思いますよ」

 言ったら怒られそうだな、と思う独り言を、マークは呟くのであった。

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