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第二百九十一話 演者勇者と普通が決められた街14

「きゃああああ!」

「ど、ドラゴンだ! 逃げろー!」

 先程までレーヨを追い詰めていた住民の声が、同じ声量で突然現れた龍に対する悲鳴に変わった。――ガシャン!

「っ! レーヨさん!」

 レーヨはまるでそこにベッドがあるかの様に、ふわり、と窓から飛び降りる。

「まさか歯か何かに仕込んでおくとはねー。暗殺者と暗部の勢いじゃん。流石に防げないよあれ」

「落ち着いて分析してる場合じゃない! レナ!」

「わかってるよ君の言いたい事は。でも君もわかってる? 私の優先順位は勇者君、私達の仲間、罪のない人、どうでもいい奴、の順番だよ。流石にあれに対してそれを当てはめたら全部は守れない」

「わかってる! それでも、頼む!」

 自殺で終わりなんてさせない。――させてたまるか。

「オッケー。――じゃ、行くよ」

 そう言うと、レナはライトの腰に手を回すと、

「よっ」

「え……ええええ!?」

 そのままレーヨが飛び降りたルートで、ライトを抱えながらジャンプして飛び降りた。着地寸前で炎の魔法で衝撃を和らげ綺麗に着地。勿論抱えられたライトも無事なのだが、

「飛ぶなら飛ぶって言って!?」

「緊急事態。一分一秒が大事じゃん? 気持ちはクライマックス」

「ならもっと前から緊張感持って!?」

 レナがどういう人間かわかっていてもついツッコミを入れずにはいられないライトであった。――その一方で。

「早く! 出来るだけ早くこの場から離れて!」

「化け物! 相手は僕だ!」

 龍が見ていたのは逃げ惑う住人達。急ぎ避難を促すイルラナスと、囮になる為に突貫するロガン。――キィン!

(っ……硬いな……!)

 愛用の大鎌がその鱗を簡単に貫通しそうにない。ダメージを与えられなければ見向きもされない。

「生きて帰ったら、ライトさんのお師匠様に武器、僕もお願いしてみようかな……!」

 勿論そこで諦めるわけにもいかない。ロガンは魔力を込めて大きくジャンプ、大鎌にも魔力を込めて龍の顔の側面で再び攻撃。――ズバッ!

「グルゥゥ!」

 邪魔だ小虫――そう言わんばかりの勢いで、ロガンを振り払う龍。口を大きく開いて、そこから炎を――

「おー、デカい口。でも、逆流させられた事はないでしょ」

 ブオオォォ!――吐こうとした瞬間、レナがジャンプ、その口に向かって炎の魔法を流し込む。

「ギャオオォォォ!?」

 予想外だったが、龍が怯んだ。――隙が出来た。ロガンも体制を立て直す。

「レナさん! 助かります! でも団長さんを優先させて下さい!」

「大丈夫、その程度は経験上わきまえてるから。この前も確か勇者君守りながら龍と戦った気がするし」

「ははっ、頼もしいです!」

 その間にライトはイルラナスの下へと走り、合流し、住民達の避難を促す。

「この広場から離れて下さい! あれは俺達が倒します! 避難を!」

「近隣の方は家も危険よ! 避難出来る施設があるならそこに!」

 ライトとイルラナスは必死に住民の動きをコントロールしようとするが、パニックになっている住人相手には中々上手くいかない。時間が経過すればする程、住民達が、そして彼らに付き添うライト達が危険になる。

(うーん……あの時程じゃないけど結構なドラゴンだね……長引かせたくはないけど)

 一方で現状戦っているのはロガンとレナのみ。それでいてレナはライトに気を配りながら。即ち決定打が遠い。レナとしては住人達は勝手に避難して、イルラナスが魔法でフォロー、ライトがもっとしっかりと目の届く所に居てくれるだけで違うのだが、その意見を呑んでくれるライトとイルラナスではないのがネック。

「もうちょい耐えてみるか、仕方ない」

 散り散りになっている仲間達はいる。騒ぎを聞いて駆けつけてくれるまでの辛抱か――と思ったその時だった。

「龍よ! 召喚したのは私、主は私よ!」

 ハッとして見れば、飛び降りたダメージでふらつきながらでも立ち上がり、龍に向かってそう叫ぶレーヨの姿があった。

「私が憎い? 憎いなら殺しなさい! 殺して、この街も全て焼き払いなさい!」

 両腕を広げてレーヨはアピール。全てを終わりにするつもりなのだ。――自分の命さえも。

「……グルゥ」

 すると龍の視界が動き、レーヨを捉えた。召喚者という事で、何か感じる物があるのかもしれない。そのままレーヨを見据えると、身構える。――攻撃の、合図。

「レーヨさん! 貴女が死んでもこの街が滅んでも、何も変わらないんだぞ!? 母親を越えたいなら、自己満足に浸るなよ!」

 勿論ライトも気付いたが、位置が悪かった。レーヨは龍を挟んで向こう側。声は届いても手は絶対に届かない。

「っ――」

「行かせないよ」

 ガシッ!――思わず走り出しそうになったライトを、レナが喰い止める。

「あそこで危険を犯して君が走って失う物はあっても手に入る物なんて無い。それこそ君の自己満足。――お願い、わかって」

「く……そっ」

 反論出来ない。自分が行けば、レナも危険に晒す事になる。――見届けるしか、ないのか。

「ガオオォォォォ!」

 龍が動き、翼の先の爪をレーヨに向けて振り下ろした。――ズサァッ!

「え……!?」

 だが、振り下ろした先にレーヨは居なかった。レーヨが自ら避けたわけでもない。――レーヨを横から抱き抱えて無理矢理回避させた人間が居たのだ。

「あの坊主の言う通りだ。お前をこれ以上自己満足に浸らせはせん」

「ボガード……!? どうして!」

 住人にして元執事である事が発覚したボガードであった。年齢に似合わぬ鋭い動きだった。

「儂は長年この街の領主の家に仕えて来た。この街が滅ぶのなら、それも最後まで見届けなければならん。――この街に嫁いで来た時に儂はお前に言ったはずだ。領主とは、考えている以上に重く厳しく、大切な立場であると。失敗したから途中で投げる事など許されるものか。死にたければ、国からの断罪でも待つんだな。――必要ならば、付き添ってやる。執事としてな」

「離して……離せ! 私は――」

「ガオオォォォォ!」

「ボガードさん……!」

 レーヨを庇い続けるボガード。その二人にターゲットを絞り、龍が攻撃を仕掛ける。戦闘経験があるのか、ボガードは年齢より数段上の動きを見せるが、言う事を聞かないレーヨを庇いながら戦い続けられる程ではなく――ガキィン!

「その「忠義」の姿、見事。――我が主「達」に代わり、助力させて貰う」

「レインフォル!」

「すまない、遅くなった。――ロガン! 私に合わせろ!」

「はい!」

 成す術もなく……と思った矢先、二人を庇って現れたのは、レインフォルだった。愛用の二本の長剣で龍の攻撃を防ぐと、ロガンを従えてそのままカウンターからの攻勢に移る。

「良かった、無事だったんだな……という事は」

「自分も無事ッス! レインフォル様が救援に来てくれたッス!」

「うん、ドゥルペも無事そう……に見えねえ!?」

 一緒に来たと思われるドゥルペは包帯を全身にグルグル巻きにされていた。ミイラか。

「負傷してたんでレインフォル様が応急処置してくれたッス。ちょっと口の中が変ッスけど」

「何処が!? 明らかに怪我してない所も包帯巻かれてるぞ!? 口の中変って普通歯は包帯巻かないから!」

「レインフォルはこういう所が雑なの……ドゥルペ、来て。急いでやり直してあげるから」

 呆れ顔のイルラナスが急ぎ包帯を巻き直す。――歯に包帯とか器用なんだか不器用なんだか。

「ふーっ、助かる。レインフォルはホントに助かるわー」

 と、レインフォルと入れ替わる様にレナが一旦ライトの元へ戻って来る。

「レナ! 大丈夫か?」

「まあね。まーでも油断は出来ないかな。はいそうですか、で遭遇するレベルの龍じゃないね。何でそんなもん召喚出来る様に仕込んであったのやら」

「…………」

 言われてみれば疑問であった。レーヨは確かに人を動かしてコントロールする技術はあったのかもしれないが、直接的な戦闘技術がある様には見えない。魔力も然り。あんな龍が召喚出来る様な存在じゃないのだ。

 なら、彼女にそれを与えた人間がいる事になる。あれ程の物を簡単に。……嫌な予感がした。でも今は。

「兎に角、あれを止めないと! イルラナス、ドゥルペ、二人はボガードさん達を頼めるか?」

「任せて!」「了解ッス!」

 保護するだけならイルラナスとドゥルペなら十分保護出来るだろう。

「後は――」

「ギャオォォォォ!」

「っとっとっと!」

 レナ、レインフォル達の援護を頼む――そうライトが言おうとした所で、龍が広範囲にブレスを吐く。レナがライトを庇いながら後退。援護出来る射程から外れてしまう。

 長期戦覚悟か、と思われたその時。――バリバリバリッ!

「ギュウ!?」

 突然龍の周囲が一気に凍り始め、数本の氷柱が生まれる。

「よいしょ」

 そしてその氷柱を足場に、緊張感の無い掛け声とは裏腹に膨大な魔力を込めた剣を振るう姿があった。攻撃ば見事に龍に決まり、龍がよろめく。

「ライトごめん、遅くなった」

「ジア!」

 氷を走らせたのはフリージアだった。到着参戦、という事は。

「無事で良かった、でもジアが無事って事は」

「うん。無事合流出来た」

「出来た」

「スティーリィ! 何処行ってたんだ、心配したぞ!」

 スタッ、とライトの隣に降り立ったのは、氷柱を足場に攻撃したスティーリィであった。

「大丈夫。ただの迷子だった」

「それは大丈夫とは言わねえ!?」

「でも先生も見つけた」

「だからって――って、つまり」

 ズバズバズバッ!――何処からともなく龍に向かって突き刺さる細く鋭い魔法波動。「狙撃」。つまり、

「サラフォン!」

 少し遠い所にある高い建物の屋上に、その姿が確認出来た。声は届かないが、姿は見える。ライトは精一杯手を振った。――良かった。本当に良かった。

(戦力は揃った……後は!)

 もう一人、後一人。彼女の無事が確認出来れば。――そう思った矢先だった。

「わー、凄い事になってるね。大決戦じゃない」

 姿を見せたのは、待っていた最後の一人――と、戦っていた相手。……ミナエルだった。

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