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第二百八十九話 演者勇者と普通が決められた街12

「何の……何の騒ぎ……!?」

 ライト達による行動が激しくなりつつある中。ついに異変、騒ぎをレーヨは聞きつけた。

「誰か! 報告して!」

「は……はい! この街に来た例の者達を捕らえようとした所失敗、各所で戦闘になっている様です!」

「失敗……!? チッ、使えないわね!」

 各々へ「罰則」を施さなければ。――それよりも。

「例の人質、ダイホウに確認を取らせて!」

 探しに来たのが彼女達ならば、キーパーソンはそこになる。……が。

「そ、それが……ダイホウ様は、半裸で気を失った状態で自室で倒れておりまして、部屋には他にはもう誰も」

「!?」

 レーヨの部下達もわかっているので、ダイホウにも直ぐに報告に向かった。ところが結果、既にライト達がハルを助け出した後。つまり……ハルに股間を蹴飛ばされた後であって。

「何をしてるの、あの子は……!」

 我が子ながらまだ教育が足りなかった。上に立つ者としての「指導」を厳しくしなければ。――いやそれよりも。

「ミナエルは!? 直ぐにミナエルを呼んで!」

 彼女はレーヨが持つ隠し玉で最大戦力。鎮圧には欠かせない。……が。

「そ、それが……「多分レーヨさんに呼ばれると思うけど、私やりたい事あるから、どっか行ったって言っておいてー」と」

「!?!?」

 やはりレーヨの部下達もわかっているので、ミナエルに頼りに行った。レーヨやダイホウよりも断然話し易いというのもあったからだ。ところが結果はそれ。

「何の為に……何の為に大金を支払って雇ったと……!」

 誰が上なのかまだわからせていなかったか。自分の統率者としての手腕をもっと見せつければよかった。……というか、

「使えないわねどいつもこいつも! お前も!」

「ひっ!」

 苛立ちが高まり、レーヨは手元にあったグラスを、報告に来た部下に投げつける。部下は体を強張らせ、目を一瞬閉じてしまうが――パシッ。

「おー、高そうなグラスなのに勿体ない。勿体ないお化けが出ますよ。夜な夜な枕元に立たれますよ。「貴女、勿体ナイデスヨ。イラナイナラ私ニクダサーイ」」

「それ勿体ないお化けじゃなくてただの物ねだりだろ!?」

 そのグラスを飄々とキャッチしながらそんな事を言う女と、ツッコミを入れる男。

「! 貴方達は……!」

「どうも。相談役が欲しいなら、俺達が話を聞きましょうか?」

「勿論、そっちの態度次第で、私達はアンタの前で大暴れだけどねー」

 ライトとレナが、レーヨの前に立ち塞がったのであった。



「はあああああっ!」

 ズバドガバシドバッ!――庭に飛び出して、激しいラッシュの攻防。

「おっ、いいよいいよ、ハルちゃん。私と別れた後も、鍛錬欠かさなかったかな?」

 ハル対ミナエルの師弟対決。お互い気功を練り、拳と拳のぶつかり合い。本気のハルに対し、ミナエルはまるで弟子に対して稽古をつけてあげている様な目。

 ズバァン、と大きな衝突で一旦間合いが開く。

「どうして……あのような者に手を貸しているのですか」

「うん?」

「確かに師匠は風来坊で掴み所のない人です。でも、私に大切な人を守る術を授けてくれた人です。師匠がいなかったら、今の私はありません。サラも私も、違う人生を歩いていた可能性が十分にあります。……感謝、していたんです」

「お、ありがとー」

「だからこそです。私の知ってる師匠は、こんな街であんな仕打ちをしている人に手を貸す様な人じゃなかった。何故ですか」

 戦う覚悟は決まっていた。でも、知っておきたかった。――本当に、尊敬していたから。

「うーん、そうだね。ハルちゃんは私を買いかぶり過ぎだよ。私そんなに立派な人じゃないし。レーヨさんに手を貸したのだって、面白そうかな、って思っただけだし」

「本当に……本当に、そんな理由ですか……!?」

「疑っちゃう? なら……私に勝てたら、もっと本音で喋ってあげる。おいで」

 くいくい、とミナエルは手招きのポーズ。それは何処までも、稽古をつけてあげる師匠の姿。――勝負する相手として、ハルを見てはいない。

「ふっ!」

 冷静に、でも力強く。ハルは再び地を蹴り、戦いを挑む。再開される打撃戦。先程よりも攻撃に鋭さが増し、ミナエルを追い込む。

「ハルちゃん。ハルちゃんに、謝らないといけない事があるんだ」

 そんな中、やはり落ち着いてミナエルは口を開く。

「私、ハルちゃんに気功術、それを使った格闘術、教えてあげたでしょ?」

 打撃を止め、蹴りをかわしながらミナエルは続ける。

「ハルちゃんに教えてあげられたのはね、私の中の大体五割位。つまりね」

 ヒュン!――突然ハルの視界からミナエルが消えたかと思うと、

「残りの五割は、ハルちゃんが知らない私なんだ」

「!?」

 ミナエルは既にハルの後ろに立っていて、

「つまり、五割のハルちゃんが、十割の私に勝てる見込みなんて、ないんだよ」

 ドカッ!

「がっ……」

 気付いたらハルはミナエルの攻撃で吹き飛ばされていた。

「勿論、ハルちゃんが鍛錬を続けて、五だったのが六、七、もしかしたら十になってるかもしれない。でもね、私はまだまだ現役なんだ。私も、あの頃の十をまだ超えてる」

「ぐっ……!」

 ドガガガッ!

「私を甘く見てた? それとも自分を過信してた? 駄目だよー、そういうの」

「がはっ……!」

 ドガドガドガガガッ!――圧倒的ラッシュが決まり、ハルが一気に吹き飛ばされた。

「うーん、勝負あり、かな。さて、ライトくん達は面白くなってるかな。見に行こうっと」

 何事も無かった様にミナエルはその場を離れようとした……直後。――ドォン!

「師匠。師匠も、私を甘く見ていませんか。それとも、自分を過信していませんか」

 吹き飛ばされた瓦礫の中から、ボロボロの服で、傷だらけの体で、ハルはまだ立ち上がった。

「師匠が私に十を教えてくれていないのなんて、わかっていましたよ」

「え、そうなの?」

「だからここからは師匠の知らない私です。独学と、天騎士ヴァネッサ様に稽古をつけて頂いた結果です」

 ハルが神経を集中させると、目に見える様にオーラがハルの体に纏われ、いつしかそのオーラが龍の姿へと変わった。

天竜天真てんりゅうてんしん

 次の瞬間、先程よりも更に鋭い速度で、ハルが地を蹴った。

「おっ、確かに気功も相当練り込まれてるし、私の知らないハルちゃんだ。でも、どれだけ身体能力を気功で上げても――」

「ふっ!」

 ハルは聞く耳を持たず、拳を振るう。ミナエルは見切るが、

「!?」

 見切ったはずの拳に纏われた龍のオーラが、拳とは別の軌道で攻撃を仕掛けて来た。――この戦闘で、初めてミナエルが驚きの表情と共に、回避出来ずにガード。

「はあっ!」

 そこから始まるハルのラッシュ。左の拳を見切ってもそこから生まれる龍の軌道まで読めない。右の上段蹴りを見切ってもそこから生まれる龍の軌道まで読めない。左の飛び蹴りを見切ってもそこから生まれる龍の軌道まで読めない。

「っ」

 バァン!――ついにミナエルにハッキリとダメージが入る。衝撃で間合いが開く。

「成程。――認めるよ。ハルちゃんを甘く見てた」

 これがハルが生み出した奥義「天竜天真」である。練り込み生み出した龍のオーラを自分の体とは別行動をさせ、一人で何段階もの攻撃を仕掛ける事が出来る。相手は一人で多人数を相手にするよりも「気功」という攻撃方法の為、更に対応が難しくなる。

 勿論デメリットもある。いつもの気功術よりも多くの気功、更に龍の具現化という精神的負担も多く、長時間は使えない。使えば使うほど、後に体に反動が来てしまう。――正に奥の手、であった。

「――命を賭ける程、大事なんだ?」

 ミナエルも、ハルの技が危ういのは受けて直ぐにわかった。

「はい。サラを守ると決め……ライト様を支えると決めたのです」

「そっか。その状態でそこまで言い切れるハルちゃんに、師匠って呼ばれるのは、私としても誇りかな、うん」

 そして満足気な笑みを浮かべ、再び身構える。

「それじゃ、決着つけよう。私も、本気出してあげるよ」

 ドッ、とミナエルから気功が迸る。単純な技術なら、ミナエルが上だろう。それでも、

「負けません。――負けるわけには、いかない」

 その想いを胸に、ハルは再び地を蹴るのであった。



「ハルは救出しました。サラフォンも間も無く救出出来ます。この街の仕組みも聞いています。到底許される物じゃない」

 ライトはレナを横に、レーヨに詰め寄る。

「貴方達に許して貰う必要が何処にあるんです? この街の領主は私、この街で犯罪を犯していたわけではないというのに」

「いやだからハルとサラフォンを救出したって今言ったじゃん。つまりこの二人を誘拐監禁したって罪があるでしょ。馬鹿だなあ」

「っ!」

 呆れ顔でのレナのツッコミに、レーヨの表情が崩れる。

「たかが一端の冒険者集団に、何の証言力が! あの二人が自分の意思でこの街に留まったと言いきればそこまで!」

「ええい控えろ! この紋章が目に入らぬか!」

 そう言いながら、レナはライト騎士団の紋章を見せる。――って、

「いや本当にそれ言わなくても。百歩譲ったとしてもイルラナスに言わせてあげてくれ」

「じゃあ私何すればいいの? お風呂でお色気シーン担当?」

「普通に俺の護衛は!?」

 馬鹿なやり取りは兎も角。オホン、とライトは一回咳払い。

「我々はハインハウルス軍、ライト騎士団。自分は団長のライトです。これ、団の紋章なんです」

「んで、この人勇者ね。私は勇者の護衛役」

 正体を明かした。ライト達が持つ切り札の一つである。

「ハインハウルス軍……勇者……」

 だがその言葉に対しては、レーヨは何故か冷静な反応を見せた。――あれ?

「ハルもサラフォンも、騎士団の一員。俺達の大切な仲間です。その二人を窮地に追い込んだのが一つ。そして上に立つ人間として、街の人達に自分の考えを強制させて苦しめているのが一つ。――領主だから自由にしていいなんて通しませんよ。国王様に話を通して、罪を償って貰います」

 ライトとしてもそこで言葉を止めるでもない。ハッキリと言い切った。勿論本音ではあるが、同時に勇者も板についたのかな、なんて思ってしまったり。……すると。

「……を」

「え?」

「お前等……ふざけるな! 私を誰だと思ってるの!? この私をっ!」

 レーヨはその「驚愕」の言葉を怒りながら発したのであった。

「――っ!」

「レナ、どうした?」

「勇者君、ちょっと予想外の展開かもしれない」

「え?」

 レナが思う、予想外の展開。それは――

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