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あこがれのゆうしゃさま  作者: workret


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第二十七話 演者勇者と手品師の少年7

「うわ、何だこれ……」

 目の前に広がる光景に、ライトはつい緊張感のない呟きを漏らす。――視線の先には大量の財布がまとめて放置されていた。

「増援の為に移動中だった兵士数人が発見しました。断言は出来ませんが、盗まれた人達の聴取から照らし合わせても、数といい形といい、これがあの現場で盗まれた財布と見て間違いないと思います」

 現場へ案内したマークの説明。――今度はトラル一座を見張る為にレナ、ソフィがあの場に残り、ライト、エカテリス、マークの三人でこちらへ急いで移動して来た。既に現場では何人もの兵士が財布を調べたり、周辺の調査をしたり、周囲の住人に聞き込みを行っていた。

「兵士総動員ですわね……警備の兵士は足りてますの?」

「もうギリギリですよ。――ああ、報告が遅れました。あの現場あのタイミングで、「モンスターが出た」って騒いでくれっていうバイトを頼まれた人間が数名、確保されてます」

「そういうことか……どうもあの瞬間、人数が増えた気がしたと思ったんだよ」

 ライトが感じた人数が増えた感覚は、勘違いではなかったのだ。

「深く考えずに受けた若者、チンピラ数人。探せばまだいそうでした。あまりの騒ぎの大きさに怖くなって自首してきたのがいて、そこから搾り上げてます」

「信じられませんわね。そんなことをしてどうなるかもわからなかったのかしら」

 鼻息がまた荒くなりそうなエカテリス。勿論、それに関してはライトもマークも同意だった。小遣い欲しさとはいえ浅はか過ぎる。

「兎に角、これ以上何か出て来たら何処かしらに穴が空きます。早急な解決が必要です」

「わかった、急ごう。――見せて貰っても大丈夫?」

「はい。行きましょう」

 現場を管理している兵士に説明し、財布を何個か調べさせて貰う。

「……確かにお金、入ったまんまだな」

 細かいお金だけを残した、とかではなく、明らかに取りやすい大きなお金も残っていた。説明によると全ての財布でそうなっていたらしい。――つまり、意図的にお金は盗んでいない、ということになる。

「一見路地裏の端に見えますけど、公演会場からさほど離れていませんわ。犯人はあの騒ぎで私達が統制を取る前に盗んでここに置いてあの現場に戻った、と考えるのが自然ですわね」

「意味がわからないな……そんな事して何になるかな」

 純粋な疑問であった。エカテリス、マークもやはり同様の疑問を持った様子。

「後でお金だけ抜きに来るつもりだったんでしょうか」

「だったとして、いくら路地裏とは言えここに置くのは無計画過ぎるだろ……もっとばれない位置に隠さないと」

「そもそも、トラル一座が犯人だとして、モンスターテイマーを雇ったり、あれだけの騒ぎを起こす準備をしたり、計画は綿密に練られていましたわ。つまり、このわざとらしい行動にも何か意味があると考えるのが自然ではないかしら」

「見つからない方が普通の犯人だったら都合がいいのに、あえて簡単に見つかるようにした理由、ですか」

「しかもお金入ったまんまの、な」

 うーん、と三人は考え込んでしまう。兵士にも確認をしてみたが、未だ有力な情報は挙がってきていない様子。――行動に詰まりそうになってしまった、その時だった。

「お、何だかわさわさしてるからもしかして、と思ったら丁度いい所にいるな」

「え……アルファス師匠?」

「師匠呼びは止めろって言ってんだろ」

 割り込むようにこちらに近付いてきたのはアルファスだった。兵士にこの人は大丈夫、と指示を出し、現場に招き入れる。

「丁度いい所に、って事は、俺を探してました?」

「お前ってか、誰か知り合いの軍関係者をな。――何だか忙しそうだな」

「ええっと」

 チラリ、とエカテリスを見ると、コクリと頷く。喋っても構わない、という合図だろう。ライトとしてもアルファスは信用出来る人間である。よって、簡単に事情を説明することにした。

 説明を聞くと、アルファスは数秒考えたが、直ぐに答えが出た様子を見せた。そして、

「成程な、繋がったわ。――おそらくだけど、答えられるぜ、お前等の疑問に」

 と、アッサリと告げてきた。

「本当ですか!? 一体どういうことです!? というか、「繋がった」って……!?」

「まあ落ち着け。――兵士何人か連れて、俺の店今から来てくれるか。その道中で話すわ。引き取って欲しい「ブツ」があるんだ」

「ブツ? 何か危険な物ですか?」

「あー安心しろ、「話し合い」の結果、危険は無くしておいた」

「……はい?」

 意味がわからない。「ブツ」と話し合いをして、結果として危険を取り除いた。その「ブツ」とやらは喋れる様子。話をしたらわかってくれたのだろうか。――やっぱり意味がわからない。

「時間無えんだろ、行くぞ行くぞ。兵士集めろ」

「あっ、はい。――マーク、お願い。それからレナとソフィにも連絡を飛ばそう」

 こうしてわけがわからぬまま、今度はアルファスの店にライト達移動するのだった。



「さあ皆、この家だ」

 そして時刻は過ぎ、収穫祭初日、夜。街外れの一件の古びた家に入っていく人影。――夕刻に、証拠不十分として一旦釈放されたトラル一座であった。

「オランルゥ、後を付けられたり監視されたりはしていないか?」

「その辺りの心配はない。俺のスキルを信じてくれ団長」

「そうだな」

 先頭に立って案内していたのはオランルゥ。ドアを開け、団員を招くように家の中に入れ、全員入った所でドアを閉めた。

「話によれば……確か、ここだ」

 奥の居間に、大きなタンスと本棚があった。タンスの一番下の引き出しを開け、手を伸ばし、ガコッ、という音と共に隠してあったレバーを引っ張ると、隣の本棚がズズッ、と動き、隠れていた階段が出てきた。

「凄い、秘密基地みたいだ!」

 その階段を見て、ネイが興奮する。実際、隠し通路、隠し部屋など、普通に考えれば物語だけの存在であり、子供のネイには興奮材料としては十分だった。

「実際に秘密基地なんだよ。ああいう奴らが一つの街に根付いて活動するには、やっぱりこういう場所が必要なのさ」

 松明の明かりを頼りに、ゆっくりと階段を降りて行く。降りた先には部屋があり、常設してあるらしいランプ等の明かりに火を灯すと、部屋の様子が見えてくる。

「広いね……」

 再びネイは驚きの声を上げる。――実際、広かった。食料品、備品などが置いてはあるが、それを差し引いてもかなりの広さ。トラル一座が全員入っても圧倒的余裕があった。

「確かに、ここで我々が公演することも出来そうな感じだな。――オランルゥ、時間は?」

「時間差を付けて入る約束をしたからな。あいつらが来るのは一時間後だ」

「なら少し寛ぐか。皆、楽にしていよう」

 ケンザーのその一言で、全員が思い思いリラックスし始める。食料、飲物を持っていた人間もおり、各々に配ったりもしていた。

「しかし、今回のMVPはネイだな。お前の才能は本物だ。今度、もっと難しい技も教えてやるからな」

 オランルゥが、笑顔でネイの頭を撫でる。ネイに「技術」を仕込んだのはオランルゥだが、オランルゥ自身自分と同等かそれ以上の才能をネイには感じていた。

「取り損ねた財布の金も気にするな。お前は十分頑張った、それに見合う報酬はやるからな。これからは、もっと好きなもん買えるし食えるぞ」

「違うよオランルゥさん、僕あえて財布からお金は抜かなかったんだ」

「うん? 何でだ?」

「僕らが狙ったのはこの街にいる悪党貴族の隠し財産なんでしょ? 普通の人からお金を取ったら正義じゃないよ」

 そう。結局、あの混乱の中で財布を盗んだのは他ならぬネイであった。子供という身長差も生かし、混乱に招じて観客席に降り立ち、一定数の財布を盗み、離脱。あの場所に置いてきていた。――それが、正義の行為であると、信じて。

 ネイの言葉を聞き、オランルゥら他の団員は一瞬顔を見合わせて、笑い出す。

「お前はいい奴だな、ネイ。そういう奴の方が、案外こういう世界じゃ成功していくんだ。お前の将来が楽しみだ」

 ネイは財布を盗んだ。それが正義の行為であると信じて。――それが正義の行為であると、言い聞かされて。

「? ? えっ?」

 どうして大人達が笑っているのか、ネイにはわからない。

「ああ勘違いすんな、お前を馬鹿にしてるんじゃない。――ま、何にせよ、もう直ぐ大金が転がり込んでくる。俺達は豪勢な暮らしが出来る、それはトトアも同じ。つまり、お前は立派な親孝行をしたんだよ」

「オランルゥさん、何言ってるの……? この街に悪党貴族がいて、街の人を苦しめてるから、そいつらからお金を奪って、困ってる人達に返してあげるんじゃなかったの……!? この街の義勇軍と組んで、懲らしめるんじゃなかったの……!? それじゃまるで、僕らが欲しいから盗ったみたいに……!」

「大丈夫。貴族なんて無駄に金を貯め込んでるんだ。一回盗った位で俺達と違って潰れたりしないさ」

 ネイは必死に思い出す。オランルゥに教えて貰ったこの街の現状。その為に、自分の立場、才能が必要だという話。――自分が、自分達がやった事が客観的に見て犯罪である事がわからない年齢ではない。それでも、弱者の為になるのならと手を汚した。昔から憧れていた、ヒーローに少しでもなれるならと手を汚した。なのに――

「嘘……だったの? 全部、嘘だったの!?」

 わかってしまった。全てが、自分を一緒に動かす為の、嘘だったと。

「ネイ、わかってくれ。俺達はもう、限界だったんだ」

「限界……?」

「旅先でどんだけ頑張っても俺達は小さな劇団だ、都合よく金は入ってこない。いつかは成功して、いつかは大きな劇団に、そう思って昔から頑張ってきたけど――もう無理だって、わかっちまった。後は劇団を潰すか、こうするかの二択しかなかったんだ。ネイ、お前だって劇団を潰したくはないだろ?」

「そんな……! 僕、貧乏だって全然いいよ! だからまだ頑張れば――」

「それが無理だってわかっちまったんだよもう!」

 オランルゥが声を荒げた。ビクッ、と驚き、そのままネイは言葉を失う。

「安心しろ、捕まったりはしない。組んだ奴らとも折版したら、今後関わることもないからな。それに……トトアだって、同意してるんだぞ」

「っ!」

「お母さんも……!?」

 ネイがトトアを見る。――反射的に、トトアが目を反らした。

「お母さん、本当なの……!? ねえ、お母さん!」

「ネイ……ごめんね……お母さん……その……」

「……!」

 明言こそしないものの、トトアはネイに謝った。この状況でその謝罪の意味がわからない程、ネイは幼くはなかった。悲しさ、悔しさ、怒り、情けなさ……色々な感情が、心の中を渦巻く。――僕は、僕はヒーローになりたくて……! ヒーローは、ヒーローだったら……!

「僕……お城に行って、自首してくる」

「な」

「大丈夫、皆の事は言わない。僕が一人で勝手に財布を盗んだことにする」

 ザッ、と力強い足取りで、ネイはこの場所を後にしようとする。

「オランルゥ、ネイを止めろ」

「おいネイ、落ち着け、大丈夫だ、直にお前もわかるようになる」

「嫌だ! 離して、僕は、僕は!」

 素早くネイを掴み、動きを封じるオランルゥ。大人の力で抑えられて十歳の子供が無理矢理進めるわけもなく、ネイはそれ以上進めなくなる。――それでもネイは暴れて、何とか振りほどこうとする。

「離してあげたらどうですか? どちらにしろ、これで貴方達の犯罪は明るみになるのですから」

 そして――その声がしたのは、そんな最中であった。同時に、コツン、コツンと階段を降りてくる音。

「誰だ!」

 ランプを近付け、姿を照らす。――この場所に似合わぬ、一人の女性メイドが立っていた。

「勇者様の……メイドの、お姉さん……」

「何だと……!?」

 迷わずに部屋に入り、リバールはゆっくりと周囲を見渡す。

「申し訳ないですが、貴方達の計画は全て明るみになりました。モンスターの襲撃騒ぎ、財布の窃盗騒ぎ、そしてあえて意味深にする為に直ぐに見つかる位置に放置された盗まれた財布。――全て、本命の大型窃盗に対する目を緩くして、成功させる為だったんですね」

 そう、トラル一座の一連の行動は、全て軍の人間を攪乱させる為だけの物だった。収穫祭初日という賑わう日に、外部からモンスターを襲撃させ、内部でもモンスター騒ぎを起こし、更に財布の連続窃盗事件。そしてそれに関わっているかもしれない、外部からやって来た旅芸人一座。軍はそれぞれに注意を払い、兵士を派遣し、対応しなくてはいけない。人手は足りなくなり、要所要所の警備に明らかに隙が生まれる。その隙を現地の闇組織と組んでおいて、大金が盗める貴族なりの屋敷に窃盗・強盗に入って貰う。普段よりも警備や通報に対応に遅れる分、成功率は格段に上がる。そして成功して奪った金銀財宝を闇組織と折半。――それが、今回の事件の計画の全てだったのだ。

「おかしいと思ったんです。あのモンスターテイマーの方に、報酬は弾む、と言ったそうじゃないですか。――財布を盗んだだけで、流石に弾んだ報酬が払えるとは思えない。つまり――本命が、別にある」

 その事に気付いたリバールは、単独別ルートで、色々調査に向かっていたのである。

「先に申し上げておきますね。――目的の大金は、来ませんよ」

「!」

「知り合いの方が、偶然貴方達と組んだ組織の末端を捕まえまして。そこから芋づる式に辿り着かせて頂きました」

「チッ……」

 アルファスとセッテが偶然にもぶつかった若者達は、トラル一座が関わった組織の一員だったのだ。個人的な感情でアルファスがその五人を捕え、色々吐かせ、身柄を渡す為にライト達と合流して、それぞれの話を照らし合わせて――全てが、明らかになったのだった。

 リバールは再び周囲を見渡す。それぞれが、しまった、やられた、悔しい、という表情を見せる。――ケンザーだけは、冷静な面持ちのままリバールを見ていた。

「さて、観念して頂けるのなら、ハインハウルス城までご案内致しますが」

「何を馬鹿な。我々が君の言う組織と関わった証拠は何もないだろう」

「私が今見聞きした事と、ネイ君の証言があれば立証は可能です」

「なら、ネイを行かせず、君の口を封じてしまえば立証は不可能になるわけだ。――オランルゥ」

 ケンザーに名前を呼ばれ、オランルゥがリバールの前に立ちはだかる。

「無駄な事は止めなさい。多少時間を稼いだ所で、結果は同じですよ」

「お姉さん、随分自分に自信があるのか、俺達を馬鹿にしているのか……それとも両方か」

「……どういう意味です?」

「俺達が、ただの旅芸人一座だと思ったら、大間違いってことだよ!」

 その言葉の瞬間、オランルゥはリバールの前から姿を消しており、

「俺がネイに教えた「技術」の行きつく先が、どういう物なのかも、ちゃんと推理しておくんだったな!」

「っ……!?」

 気付いた時にはリバールの後ろに立って、持っていた剣を、リバールの体に突き刺していた。――ドサッ、というリバールが倒れる音が、静かに部屋に響く。

「あ……お、お姉さん……お姉さん、しっかりして、お姉さーん!」

 そして、間髪入れず、ネイの叫びが、部屋に今度は大きく響くのであった。

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