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第二百八十三話 演者勇者と普通が決められた街6

「見付かって良かった。先生は何処? ライトが迎えに来てる。一緒に行こう」

 偶然が重なり、目的だった内の一人、ハルを発見したスティーリィ。当然サラフォンの居場所を尋ね、ライトが来ている事を伝える事で安心を与えようとしたのだが。

「…………」

 ハルは冷静な目で、無言で、スティーリィを見ていた。

「ハル、君の知り合いか?」

「いいえ、存じ上げません」

 そして男の方にそう尋ねられ、そう返事をした。――あれ?

「ハル、私。スティーリィ。どうしたの? 何があったの?」

 知らないわけがない。サラフォンに治療された時に、一緒にそこに居た。

「人違いではありませんか? 私は存じ上げません」

 が、二度目の確認を、二度目の否定で返される。

「……ふむ」

 そこでスティーリィは落ち着いて、ハルの魔力を「感じ取る」。乱れている様子は無い。つまり目の前にいるのはハル本人であり、何らかの理由があって自分の事を知らないと嘘をついている。

「お前、ハルに何した?」

 そうなると、当然矛先は男の方に向く。

「どういう意味だ? 俺は何も――」

「答えろ」

 次の瞬間、既にスティーリィは剣を抜き、男の後ろに回り込み、首筋に剣を充てて、鋭い殺気をぶつけて、

「――ふっ!」

 その手をハルに捕まれ、素早く鋭く投げ飛ばされた。綺麗に着地はするが、再び間合いが開く。

「大人しく人違いを認めて帰って頂けるのなら良かったのですが、その様な手段に出られるのであれば、容赦は致しません」

 そしてハルが男の前に立ち塞がり、守る様に身構える。その目に迷いは見られない。

「私の事、知らないんだっけ」

「ええ」

「じゃあこれは私の独り言。――私の知ってるハルは、私には勝てないし、その位は承知してるはずだよ」

「…………」

 スティーリィが改めて身構える。魔力をコントロールする為に装備しっぱなしの鎧の腕部が光った。

「御託はその位にしておいたらいかがですか。何にせよ、不法侵入者は排除します」

 対してハルも両手を前にし、気を練る。見えるはずのない気が、姿の見える球体となってハルの両手に包まれる。

「「はあああああっ!」」

 地を蹴ったのは同時だった。スティーリィの剣に込められた魔力と、ハルの気が正面からぶつかり合い、激しい衝撃と共にカッ、とフラッシュを起こす。ハルに守られる形で見ていた男も一瞬目を閉じてしまうが、

「……おお」

 再び目を開けた時、ハルは立っていて、スティーリィは倒れていた。

「お怪我はございませんか?」

「ああ。流石だな」

「この程度特に。――何者だかわかりませんが、処理して参ります。お茶に関しては代わりの者に用意させますので」

 そう言うと、気功で筋力をアップさせたか、ヒョイ、とスティーリィを抱え上げ、ハルは屋敷の方へと歩いて行くのであった。



 レーヨが紹介してくれた宿は、レーヨが運営している宿であり、豪勢な超一流ホテルであった。

「うおおおお……凄いッスね、あの領主さん、お金持ちなんスね! これ宿ッスよ!」

「勇者君大変だ、ドゥルペにギャグ取られてる! 始末、最悪始末!」

「しないよ寧ろギャグあげるよもう!?」

 芸人でもギャグを取られた位で始末はしないだろう……は兎も角。

「ここだけやけに浮いてるわね。別の街みたいに」

 フリージアの冷静な評価。――そうなのだ。イシンマの街並みは豪勢でも貧相でもなく、何処までも「普通」。店もいくつか見えた宿も皆そんな雰囲気だったのに、この宿だけやたらと豪勢さ立派さを隠そうとしない。

 ちなみに宿の隣にはレーヨが暮らす家――屋敷があった。繋がっているらしく、こちらもかなりの大きさ。

「ここまで来てレーヨさんの提案を無碍にするのは「普通」じゃないわ。ここは素直にお世話になりましょう」

 イルラナスの促しで、ライト達は宿の門をくぐる。――疑いたいが、疑ったままこの街に滞在するのは難しい。まずはこの宿に入らなければ駄目だろう。

 カウンターで話をすると、既に連絡が来ていたらしく、四部屋用意されていた。ライトとレナで一部屋、フリージアとスティーリィで一部屋、イルラナスとレインフォルで一部屋、ロガンとドゥルペで一部屋。

「おー、中も豪勢じゃん。ベッドもふかふかだし」

 ぼすっ、と部屋に入る早々、レナがベッドの心地を確かめる。――ネレイザが知ったらまた怒りそうだな、またレナと同室とか。いやそれよりも、

「スティーリィ……何処行ったんだろ」

 ミナエルと出会って逃げてしまったスティーリィは未だ行方不明。消息を探さないといけない人間が増えてしまった。

「んー、まあ心配はわかるけど、多分勇者君が想像してる以上に、スティーリィは強いし、経験豊富だと思うよ。簡単に騙されたりしないと思う。迂闊な行動も……してもスティーリィ自身は無事だよ」

「最後の評価が物凄い気になるんですが!」

 スティーリィが無事でも周囲が無事じゃないという事になる。この場合の周囲とは何になるのだろう。

「さて、んじゃ私達もする事しようか。――ちょっと待ってて」

「……?」

 レナが一旦部屋を出ると、また直ぐに戻って来た。――フリージアを連れて。

「フリージア、この部屋どう?」

「あたし達に充てられた部屋よりもワンランク上だと思う。広さも調度品も」

「つまり、リーダーである勇者君には最初からこの部屋が割り当てられる流れだったわけだ。じゃあ仕方ないね、始めようか。――念の為に訊くけど、何処までやらなきゃいけないかわからないけど大丈夫?」

「あたしはライト相手なら全然平気。レナさんは」

「まー、私も覚悟はあるよ」

 そして部屋の中で二人で謎の会話。

「あの、俺にわかる様な話ってある?」

 そしてそして置いてきぼりのライト。レナ発案の様だが、しっかりとフリージアには浸透している様子。素直に訪ねてみるが。

「あ、大丈夫だよ勇者君。直ぐに始めるから」

「だから何を――」

「い・つ・も・の」

 そう笑顔でレナははぐらかすと、

「え」

 ライトの後ろから抱き着き、腕を絡めて逃げられない様にして、

「な、ちょ、え!?」

 ドサッ。――もつれ込む様にライトと二人でベッドに倒れ込む。ライトが上、背中を挟んでレナが下だがレナが放さないのでライトは身動きが取れない。

「じゃあライト、リラックスしてて」

 そしてフリージアがライトの腰の辺りに軽く馬乗りになる。落ち着いて表情のままゆっくりと倒れ、ライトに抱き着いた。つまりライトは前をフリージア、後ろをレナに抱き着かれて倒れている状態で、

「いやいやいやちょっと待て待て!? 何で、急に何が起きた!?」

 前後から暖かく柔らかい感触と良い匂いがライトを包み込んで、ライトとしては――意味がわからない。突然過ぎて。本能が理性を消し去りそうになるのを必死に我慢する。

「落ち着こう、二人共落ち着くんだ、決して俺としては嫌とかそういうわけじゃないが、何しろ唐突過ぎて」

「唐突じゃないよ勇者君。だってほら、普段の騎士団メンバーが今は居ないわけじゃん? つまり今ならバレない」

「成程」

 確かに今は既存メンバーはレナだけだから安心――

「――出来ないよ!? 理由になってないよ!? 何か理由があるんだろ!?」

 この二人が組んで突然こんな事をやるには、理由がある。そうとしか考えられない。のだが、

「ねえライト。理由が無かったら、「求めたら」駄目なの? ライトは我慢出来るの?」

「既に限界ギリギリですが何か!?」

「じゃあ、いいじゃない。我慢しなくても」

 そうアッサリと言い切ると、フリージアは一旦体を起こし、羽織っていた上着を脱ぐ。肌着姿になるが、そのままその肌着にも手をかけ、ゆっくりと脱いでいく。

「!」

 ゆっくりと髪をかき上げるフリージアの、上半身の下着姿。そのスタイルの良さ、綺麗な肌からライトはもう目が離せなくなって――コトン。

「「見つけた」」

 小声だったが、同時にフリージアとレナがそう切り出した。直後、フリージアがベッドの上の自分が脱いだ上着を手に取り、明後日の方向に放り投げる。傍から見たらこれからの「行為」の邪魔だから放り投げた様にしか見えないが、投げた上着は部屋の角近くにあった木の彫刻に覆い被さる。更にフリージアは上着が覆い被さった彫刻に向けて右手をかざして――パリン!

「塞いだ。これで見るのは勿論、音もほとんど聞き取れないはず」

「オッケー、流石」

 何かの魔法を使うと、フリージアがそのままライトの上から降りる。するとレナも腕を離したので、ライトが解放される。

「……流石に説明して貰えるんだよな?」

「んー、監視されてたのよ、この部屋」

「監視……!?」

 気持ちの良い言葉じゃない。ライトの気持ちが一気に引き締まる。

「部屋に入った瞬間、なーんか変な感じがしたのよ。だからフリージアを呼んで、まずは部屋の差を確認した。そしたら私達の部屋の方が豪華だって言うじゃん? この部屋、私達が選んだんじゃなくて、向こうが案内して決めた部屋だよね」

「つまり……リーダーである俺を監視する事で、何かを調べようとしてる……?」

「宿に誘った時点で変だなー、とは思ったけど、あの人は私達の素性が気になるみたいだねー。つ・ま・り」

「ハルとサラフォンの行方不明に、大きく関わってる」

「可能性としては高いと思うよ」

 おかしいとは思ってはいたが、これでかなり確信に近付く事になった。

「あたしも直ぐにレナさんの考えてる事がわかったから、ここの監視を塞ぐ、更には相手を油断させる、その同時進行が出来る方法で、こういうやり方にした。あの彫刻から見てたけど、流石にあたし達の行動は予想外だったんじゃない? 動揺を見せ、反応を見せた」

「成程……な」

 肌着を着ながらするフリージアの説明に、ライトも納得した。突然仲間達と繰り広げられる行為。そういう人間なんだと思わせておけば、監視がし辛くなっても甘く見られる。すなわち、行動が取り易くなる。その作戦を瞬時にレナとフリージアは展開させたのだ。

「でも、だからと言ってそう時間が多くあるわけじゃないよな」

「だね。あくまで時間を稼いだだけで、状況が大きくこちらに傾いたわけじゃない」

「ついでだから少し作戦を練りましょう。どうせあたしはこっちで三人でしばらく居る事になってるんだし」

 確かに、もうしばらくはフリージアはこの部屋に居ないと万が一見られたら変だろう。

「ライト、ごめんね説明出来なくて。――お詫びにどうしても我慢出来なくなったら、言って。責任は取るから」

「ぶっ」

 後半を耳元で囁かれた。――その行為と声が俺の我慢を削ってるってわかってますか、と大声でライトは叫びたくなる。

「勇者君勇者君。逆に私達が我慢出来なくなった場合は勇者君どうする?」

「そしたら割り切って襲うわい!」

「うーわ、まあ仕方ないか」

 そんなこんなで、ドキドキしながら(!)の作戦会議が始まるのであった。

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