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第二百八十二話 演者勇者と普通が決められた街5

 ライト達に笑顔で突然挨拶をしてくる一人の女性。年齢は二十代半ば位か、その笑顔から明るく優しい印象を受け――

「――っ!」

「な、スティーリィ!?」

 ザザッ!――ライトがそう良い方の印象を受け取っていると、一方のスティーリィが一気に間合いを取り、路地裏に隠れてしまう。明らかに警戒のスタンス。

「あらー、嫌われちゃったかな。出てきてー、お姉さん悪い人じゃないのよ」

 女性の方もスティーリィに呼び掛けるが、出てくる様子が無い。――何があったんだ? まあでも、

「すみません、初対面の人に失礼を」

「いいのいいの、気にしてないから」

 礼儀として謝罪するライトを、女性は宥めた。

「それで、俺達に何の用でしょう?」

「えっとね、この街に久々に他所からの人、しかも騎士団風の人達が来たって聞いて、良かったらこの街を紹介してあげようかと思って」

「……!」

 情報が早過ぎる。目を付けられた、と考えるべきか。全員に緊張が走る。

「まずは自己紹介しましょ。私の名前はミナエル。元々この街の出身ではなくて、街から街へ旅するフリーの存在なんだけど、この街で領主……レーヨさんと知り合って滞在してる形」

 それを感じ取ったかどうかはわからないが、女性――ミナエルは、再び優しい笑顔で自己紹介をした。……領主の知り合い。

「ライトです。この街へは、連絡が取れなくなってしまった仲間を探しに来ました」

「仲間?」

 誤魔化せない。そう感じたライトは出来るだけ緊張を隠して簡潔に事情を説明。

「そう……確かにそれは心配ね。そっか……」

 話を聞くと、ふーむ、と考える様子を見せるミナエル。そして、

「良かったら、私がレーヨさんに話、通してあげようか?」

 と、そんな提案をしてきた。

「いいんですか?」

「だってまずはそこに行かないとお話にならないじゃない。足取りを探さなきゃ。普通ならアポ無しで行っても会えないけど、私が一緒なら会えるわ。どうする?」

「えっと――」

「どうして初対面の私達にそこまでしてくれるんですか?」

 と、ライトの返事を遮ってその質問をぶつけたのはレナ。いつもの表情で、でも冷静な目でミナエルを見る。一方のミナエルは、そのレナを見ても表情を変えず、穏やかなまま。

「困ってる人を助けてあげよう、って思うのは変?」

「普通ですね。――あー、そういえばこの街、普通で一杯でした」

 レナの返事には当然「含み」が込められている。でもミナエルもそれにまったく反応する様子はない。――ライトはメンバーを見渡し、目で確認。

「すみません、お願い出来ますか。どっちにしろ駄目元で訪ねてみようか、っていう話にはなっていたんです」

 レナの探りも効果がない。ならば……と、ライトは踏み込んで行く決心をする。

「うん、それじゃ案内するわね。付いて来て」

 何か思うことはあるはず。あるはずなのに、微塵も見せずにミナエルは先頭に立ち、歩き始めた。

「……ライト」

「ジア?」

 と、直後、フリージアがライトの服の裾を引き、軽く最後尾に下げ、小声で話しかけてくる。

「あの人の声、何処かで聞いたことない?」

「……? いや、俺は覚えはないけど……ジアはあるのか?」

「わからない……けど、何か引っかかって」

「そっか……思い出したら教えてくれ」

「うん」

 あまり後方でヒソヒソ話を続けても怪しまれるだろう。ライトは直ぐに前方に――

(……そうだ)

 ――戻る前に、ミナエルに対して真実の指輪を使用してみる。すると、


『ミナエル』


「!?」

「旦那様、どうした?」

「いや、何でも……」

「勇者君、いくらミナエルさんが綺麗だからってもう勇者君のハーレムに入れる計画を立てるなんて……」

「立ててねえええ状況考えて!?」

 名前しか見えなかった。いつもなら名前の後に何かしら見えるのに。魔力もしっかり込めたのに、名前しか見えなかった。

 彼女は……一体、何者なんだ……?



「私はね、相談役っていう形で色々レーヨさんにアドバイスしてあげてるんだ。私の中では「仮」なんだけどねー」

 ミナエルの案内でやって来たのはレーヨの住居……ではなく、この街の役所であった。この時間はここで働いているとの事。顔パスらしく、そのまま職員しか入れないドアを開け、ライト達を連れて行く。

「「仮」なんですか?」

「私風来坊なのよ。旅から旅へ、色々な所を行くのが好きで、一つの所に定住はしないの。それを今はレーヨさんに引き留められてる感じかな」

「そうだったんですか……」

 それはミナエルが余程優秀だからレーヨが必死に引き留めているのか、それとも。

「ライトくんは? リーダーなんだよね?」

「え? ええ、まあそうです」

「そっかそっか。格好良いよねえ。皆のリーダー!」

 うんうん、と嬉しそうに、まるで昔からの知り合いの様にミナエルはライトを見る。その距離がやけに近い。――つい恥ずかしがっている間に、一つの部屋の前に辿り着く。

「じゃ、私が先に話を通してくるから、ちょっと待っててね」

 そう言うとミナエルは一人先に部屋に入り、ドアを閉める。

「気に入らないな。何だあの女の、旦那様を見定める様な目は」

 そしてドアが閉まった直後に不満を漏らしたのはレインフォルだった。距離が近い=ライトを見定める、という判断に至ったらしい。

「まったくだよねえ。勇者君がいくらで売れるかは私達の方が正確な値段が出せるのに」

「俺護衛に売られかけてる!? いつの間にか査定されてる!?」

「は、冗談として。――勇者君、あの女に気は許さない様にね。なーんか、変なんだよね彼女。お誘いとかこっそり受けても、必ず私に相談する様に」

「あ……うん、わかってる。俺も気になる事があるし」

 いつもの冗談から一変、レナが真面目な表情で釘を刺してくる。勿論一人で飄々と付いて行くつもりなど微塵も無いが、それでもこうしてレナに指摘されると、一層気をつけなければ、と思う様になる。

「お待たせー、どうぞー」

 と、そんな会話をしていると、ドアが開き、ミナエルが入室を促して来た。

「失礼します」

 挨拶をしながら部屋に入ると、入れ違いでミナエルが部屋から出て行く。

(――ってあれ? 一緒に部屋の中に居るんじゃないのか?)

 チラリと見れば、もう用事は終わったと言わんばかりにミナエルは去って行った。――これはこれで逆に怪しく見えてくる。

「イシンマへようこそ。私、領主を務めています、レーヨといいます」

「初めまして、ライトといいます」

 が、それを詮索する前にまずは目の前。全員が部屋に入ると、レーヨが笑顔で挨拶をしてきた。――年齢は四十台半ば位だろうか。身嗜みもしっかりした、凛とした女性であった。

「何でも、人を探してこの街へいらしたとか」

「あ、はい。――先日、こちらで行われたパーティに、ラーチ家のサラフォン、そして彼女の従者としてハルという女性が参加していたと思うんです。普段は二人共ハインハウルス城で暮らしているのですが、帰宅する日になってもまるで連絡が取れなくなってしまったので」

「成程、それは心配ですね。遠路はるばるご苦労様です。にしても……確かにラーチ家からパーティに参加はして頂きましたが、日程通りお帰りになられましたよ」

「! 本当ですか?」

「ええ。勿論この街に滞在して頂いている間、四六時中見張っているわけではないので断言は出来ませんが、少なくとも私はそう認識しています」

「そう……ですか」

 その言葉を信じるとなると、サラフォンとハルはパーティ後、帰還中に何かに巻き込まれた、という事になる。――信じるのであれば、だが。

「お力になれず、申し訳ありません」

「あ、いえ、こちらこそわざわざありがとうございます」

 今はこれ以上どうする事も出来ない。お礼を言って、部屋を後に――

「皆さん、ラーチ家の方々のお知り合いなのですか?」

 ――しようとした所で、レーヨにそう呼び止められた。

「そうですけど、それが」

「長旅でお疲れでしょう? 良かったら、今日はこの街にお泊りになってはいかがですか? 宿は、私が手配します」

 そして突然、そんな提案をされたのであった。



「はっ……はっ……ふぅ」

 一方で条件反射で離脱したスティーリィ。汗も少しかいていた。ただ原因は走ったからではない。

「何あいつ」

 魔導戦士、というロストテクノロジーに値する能力を体内に持ってしまっているスティーリィ。他人とは魔力の見え方が違う。その結果、ミナエルから感じた魔力があまりにも異質で、咄嗟に我を忘れて体が動いてしまったのだ。

 整っている様な、乱れている様な、少ない様な、溢れ出る様な。あの一瞬で、様々な物を一気に感じ取ってしまった。実力も当然読めないが、ただ本能でこうして一度逃げてしまったという事は……

「というか、何処だろここ」

 結構な距離を移動してしまったらしく、周囲は商店街の景色から離れ、何処かの敷地内。

「もう、私から目を離して貰ったら困る」

 とんでも理論の独り言を呟きながら――自分が悪いとは認めないタイプである――改めて周囲を見る。整った広い庭に綺麗なテーブルと椅子。背景に大きな屋敷。結果、

「金持ちの家か」

 という事しかわからなかった。

「困った。金持ちは脅してもお金しか出てこない」

 また偏った理論の独り言を呟きながら、止まっているわけにもいかず、まあそもそも人様の家の敷地内の無意味に居ても仕方ないと思い、そのまま何も無かった様にこの場を後にしようと――

「おい、貴様何者だ」

 ――すると、後ろから声をかけられた。振り返れば、この屋敷の関係者だろう、身なりの整った二十歳前後の男がこちらを見ていた。

「何者……何者。うん。――私何者なんだろ? 知ってる?」

「訊いているのはこっちだ!」

 お互い「何者」の捉え方の大きさの違いがある為謎の食い違いの会話になった。――この場合悪いのはスティーリィではあるが。

「ああ、そういう事か。私迷子。いや違う迷子はあっち。私はちょっと迷っただけで。でももう人生には迷ってない」

「そうか、貴様この街の人間じゃないな……? 余所者がこの家の敷居をまたぐというのはどういう事かわかってないらしいな」

 そして食い違った会話は一部が繋がるという謎の現象。――もういいや、さっさと一回逃げよう。スティーリィが足に力を込めたその時だった。

「お茶をお持ちしました……って、何の騒ぎですか?」

 男に指示されていたのか、カートにポットを乗せた女性使用人がその場に姿を現した。

「あ、ハルだ。発見」

 そして、それはライト達の捜索対象の一人――ハルだった。

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