表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
282/382

第二百八十話 演者勇者と普通が決められた街3

「よし、それじゃ出発前の最終確認を」

 ハインハウルス城、正門前。今回、サラフォン、ハル探索の為に集まった総勢八人。ライトとレナ以外は普段ライト騎士団としては行動しないメンバーという異色の集まるとなった(レインフォルは騎士団所属だが同行することが現状無い)。

 それでも全員、ライトの協力を快く引き受けてくれた、そして実力者ばかり。ライトとしては有難く頼らせて貰う事になる。

「まずは俺とレナとレインフォル以外はこれ、持ってないよな。渡しておく」

 そう言ってライトはメンバーにライト騎士団のエンブレムを渡していく。魔力を少し通すだけで何処にでもくっつく優れもの。

「私知ってるわこれ! 「こういう者なんですが」って内ポケットから見せるのよね!」

「イルラナス、何の本からの知識だかわからないけど多分違う」

「そうなの? 崖で説得するのに憧れてたのに……」

 何の本を読んだんだこの魔王の娘は。

「勇者君的にはこれで一気に詰め寄るつもりなん?」

「いや、何が起きてるかわからない以上、まずは身分を隠したい。皆に渡したのは、いざという時に権力的な物が上手く使えればと思ってだ」

「私知ってるわそれ! 「この紋章が目に入らぬか!」って一度は臆させるんだけど、ええい偽者だやっちまえ! って言って戦いになるのよね!」

「レインフォル、ちょっとイルラナスを宥めてくれ」

「イルラナス様、ひとまず本の事は忘れましょう」

 本当に何の本を読んでるんだこの魔王の娘は。

「ロガン、ロガン! 自分、目ぇ小さいみたいッス! 紋章目に入らないッス!」

「ロガン、ちょっとドゥルペを宥めてくれ!」

 イルラナス陣営だけで話が進まない。心配になってきた。

「オホン。――勿論、街に入ってすぐ戦闘が必要だったり緊急事態だったりしたら遠慮はいらないけど、まずは落ち着いて、情報集めだと思う」

「ライト、ハルさんとサラフォンさんの向こうでのスケジュールはどの位把握してるの?」

「行く日と帰って来る日以外は何も知らないんだ……イシンマの偉い人と食事をするってのは聞いてたんだけど」

「それで消息不明、ね。――パーティの参加者一人の仕業か、主催である領主の仕業か、それとも街ぐるみか。でもパーティに参加なら、糸口は必ずあるわね」

 フリージアが冷静に思考を巡らせる。

「ライトライト。領主は大体悪いのが多い。ぶっとばそう」

「スティーリィはとりあえず俺の許可が下りるまで止めてくれ。というかセッテさんも領主の娘さんだって話だからな」

「領主は中には良い人もいる」

「コロッと意見変えたな……」

 ドゥルペはロガンに任せるとして、俺はスティーリィに気を付けよう。

「勇者君勇者君。ぶっとばして悪くなかったら隠蔽すればいいよ」

「レナもとりあえず俺の許可が下りるまで駄目だから!」

 ……レナにも気を付けよう。これはいつもの事だけど。



 そして馬車に揺らされる事半日。朝一番で出て来たので今は午後の昼下がり。ライト達はイシンマに到着した。

「……とりあえず、普通に入れたな」

 検問でトラブルになったりはせず、偽勇者騒動の時と同様、フリーの騎士団として普通に入れた。怪しまれる様子はゼロ。

「街並みも人の様子も普通……ね」

 フリージアが軽く周囲を見渡す。いやフリージアだけじゃない。任務が任務だけに、つい全員街の様子を伺う様な形になってしまう。

「おや、この街は初めてかい?」

 と、流石にそんな様子が気になったのか、町人と思われる若い男性が話しかけて来た。

「ええ、まあ」

「特に変わった物のない、普通の街だけど、逆に言えばそれが自慢の街さ。平和に平凡に毎日暮らせる。一周回って気付くんだよな、普通が一番って」

 ははは、と男は一人で軽く笑う。

「ああ、勿論お兄さん達が使う様な宿とかそういう施設はちゃんとあるから安心していいよ。じゃ、ごゆっくり」

 そしてそのまま男はライトの反応を待つ事なく、その場を去って行ってしまった。

「……え、何? 詰まる所、普通をアピールされただけ?」

「よっぽど勇者君が普通に見えなかったんだろうね。これだけ美女を抱えてれば普通じゃない」

「レナにとって俺の普通って何!?」

「普通はもう何人かに手を出しててもおかしくないでしょ。――え、やっぱり私の把握してない所で出してる? ある意味レナさん安心です」

「出してねえええええ!」

 フリージアが冷たい目で見ているのを見ない振りをする。――違うぞジア、本当に出してないからな。

「ロガン。――自分、世の中に普通って存在しないと思うッス」

「その考えを僕は否定はしないけど、そもそも何で君は急にそこで哲学的になってるの……?」

 兎にも角にもこの場で留まっているわけにもいかない。ライト達は歩を進める事に。案内看板を見つけ、宿の位置を確認。数か所あったので大人数でも泊まれる所を選ぶ為に直接訪ねてみる事に。

 道中は普通の商店街だった。色々な店が立ち並ぶ。武器屋、防具屋、本屋、薬屋、道具屋、酒屋、その他諸々。

「――ってあれ、スティーリィ?」

 ハッとして見れば、スティーリィは焼き饅頭屋の屋台の前で、饅頭の匂いを嗅いでいた。

「いい匂い」

 ちなみにスティーリィはお金を所持していない。「何かあった時は使え」とアルファスに幾らか代理でライトが持たされている。――子供の引率じゃあるまいし、と冗談で言ったら「いやそう思え」と真剣な面持ちで返された。おかしい。俺は手伝って貰う立場なのに何故世話をする立場に変わっているのか。

「スティーリィさん、気持ちはわかるけど駄目よ、匂いなんて嗅いだら夢に出てくるわ。私も良く夢に出るの、知らない匂いはどんな味なのか気になって、食べても食べてもお腹一杯にならない夢が。ひもじいのは貴女だけじゃないわ。ああでもいい匂いね。この匂いを今日は夢に」

「何か恥ずかしいから止めてくれないかな!? 買ってあげるから!」

 説得しに行ったと思ったイルラナスは敵だった。レインフォルが「すまない旦那様……」と謝っていた。最初に出会った時のイルラナスは何処へ行ったのか自由奔放だ。――色々な縛りから解放されて元気なのはいい事ではあるけれど。

 というわけで、全員分の焼き饅頭を購入。

「まいど!」

「この辺りって、他に名産とかあります?」

 良い機会なので、少し話を聞いてみることに。

「特に無いよ。普通の有り触れた街だからね。でも、普通が一番だよ」

 ははは、と笑顔でそう饅頭屋の男は答える。

「でも、綺麗でいい街です。領主様はどんな方ですか?」

「この街の今を築いてくれた方さ。あの人あってのこの街だよ。――あ、いらっしゃい!」

 他の客が来たので、そこでライトは素直に退く。焼き饅頭を食べながら歩き、見渡す街。確かに、普通の有り触れた街だ。

「……んー」

「? どうしたドゥルペ」

 と、メンバーの中で複雑な顔をしながら饅頭を食べていたのはドゥルペだった。

「あ、いや、大した事じゃないッス。あのオジサン、何で楽しくも無いのに笑ってんのかな、って思って」

 その一言に、他のメンバーがハッとなって一気にドゥルペに注目する。

「ドゥルペ、もう少し分かり易く話せる? 僕らや団長さん達にもっと伝わる様に。あの饅頭屋、楽しくも無いのに笑ってたのかい?」

「そうッスよ。あの笑顔偽者ッス。本当は凄い難しい顔してたッスね。饅頭は本物ッス」

「旦那様、ドゥルペのこういう感覚は本物だ。信頼していい」

 つまり、作り笑顔でライトに応対していた、という事になる。確かにサービス業だから作り笑顔は必要だが、ライトが尋ねたのはこの街の事、この街の領主の事。そこに、そこまで作り笑顔が必要だろうか。

「ねえライト。あたし達の発言も含めて、この街に入って、何回「普通」っていうフレーズ耳にした?」

「え」

 と、そこでフリージアのそんな指摘。正確な回数など覚えてはいないが、

「あー、成程ねー。街入って普通だってアピールされ、見た目普通だなって思って、お饅頭食べて普通をアピールされ、この短時間で普通普通普通。……もうこれは「普通」じゃないね。それこそドゥルペじゃないけど、普通なんてそうゴロゴロしてないでしょ案外」

 レナがフリージアの意見に同意した事で、ライトも理解する。――確かに、やたらと普通っていうフレーズが出てきた。

「僕は少し早計な気もしますが……偶然という事も」

「いや、ジアとレナの意見を頭に入れるべきだ。――この街で、ハルとサラフォンと連絡が取れなくなってるんだから。この街は、普通じゃない」

「! 先生達は、その普通の隙間に巻き込まれた」

「普通じゃない、普通の街、か」

 レインフォルの呟き後、改めて街の様子を見てみる。――普通の街だ。本当に、普通の……

「――! ライトさん!」

「っ! あれは」

 と、その異変にいち早く気付いたのはイルラナス。道の真ん中を、傷だらけでボロボロの男がふらつきながら歩いている。歩くのもやっと、今にも倒れそうで。

「大丈夫ですか!? 直ぐに治療を――」

「! お待ち下さいイルラナス様!」

 その手の事案を人一倍放っておけないイルラナスが、直ぐに駆け寄ろうとするが、ハッとしたレインフォルが腕を出して半ば無理矢理イルラナスを喰い止める。

「レインフォル!? 何をするの、あの人が――」

「お気持ちはわかりますが、手を出すのはお待ち下さい。――これこそ、普通じゃない」

「え……?」

 ハッとして見れば、そこには異様な光景が広がっていた。

 道の真ん中を前述通りボロボロで歩く男。だがその男に対し、ライト達以外は誰も気にも止めない。まるでそこに存在しないかの如く、普通に歩き、普通に話し、普通に買い物をしている。

 よく見れば、気付いていないわけではなさそうだった。チラリチラリ、と見る人間もいる。でもそうやって見る人間も、見てはいけない物を見てしまったかの如く、まったく見ないで気付かない振りをする。

 これだけの負傷者が道の真ん中を歩けば、もっと大きなリアクションが出て当たり前。イルラナスの様に駆け寄る人間が現れて当たり前。――でもそれが、一切現れないのだ。普通じゃ、なかった。

 その事実に気付いた時、ライト達も動きが止まってしまった。――何だ? 何が起きてるんだこの街は、と思った、更に次の瞬間。……ゴーン、ゴーン。

「あ」

 突然街中に、大きな鐘の音が響き渡る。その鐘の音に関しては、街の人間は気付く事を隠す様子は無かった。

「え……な……!?」

 そして、その鐘の音を合図に、その辺りに居た人間は、ライト達を除いて、全員がそれぞれの建物へと入って行ってしまった。

「う……」

 直後、傷だらけの男が倒れる。道に取り残されたライト達は、その異様で謎の光景にただ唖然とするしか出来ないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ