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第二百七十九話 演者勇者と普通が決められた街2

「――というわけなんだけど、戦力として人手を借りたいんだ」

 ライトとレナ、二人だけでは未知の領域に踏み込むのは万が一を考えると危険。その判断から人員確保に動き出したライトは、まずは城の離れにある塔――イルラナス達が暮らす塔へと足を運んでいた。

「事情はわかった。確かに念を入れておくべき事案だ。私で良ければ喜んで力になろう」

「ありがとう、助かる」

 白騎士レインフォル、ライトの依頼を二つ返事で受諾。――「黒騎士」時代はヴァネッサと互角の勝負を繰り広げた圧倒的強者。経験も豊富だろう、戦力としてはこれ以上ない程ありがたい存在である。

「というよりも旦那様」

「え?」

「旦那様は私に命令出来る立場だろう、こういう時は遠慮なく命令を出してくれていいんだぞ」

 レインフォルはチラリ、と首輪――ライトとの繋がりである隷従の証――を見せる。

「あ……まあ、そうかもしれないけど、でも何となく普通に頼みたいというか」

 言い方は軽いが、嫌々やるのと自主的にやるのとでは仕事一つでも能率が全然違うであろう。――と、レインフォルが軽く笑う。

「済まなかった、責めるつもりはないんだ。寧ろそれが旦那様の良い所だからな、言っておいてあれだが変える必要もない」

 何だかんだでレインフォルは契約奴隷の立場を解除しない。ニロフ曰く可能なのだが、レインフォルが頑なに拒むのでそのままなのだ。

「団長さん、僕らも同行します。レインフォル様程じゃないですが、足手まといにはなりません」

「自分馬鹿ッスけど、単純作業と体力と戦闘には自信あるッスよ。団長さんを助けたいッス」

 と、続いて名乗りを上げるロガンとドゥルペ。こちらも嬉しい申し出なのだが、

「えっと、レインフォル、ロガン、ドゥルペ、三人共来ちゃうと」

「あら大丈夫よライトさん、私も一緒に行くもの」

 イルラナスどうするの、と尋ねる前に、そのイルラナスがそう宣言。

「おかげ様で体力もバッチリついたし、魔法使いとしてならレインフォルよりも才能は断然上よ。自分の身位守れるわ。――それに」

 ピリリッ!

「!?」

 部屋に一瞬、鋭く重い威圧が走る。無意識に跪いてしまいそうになる覇気。ほんの一瞬だったので直ぐに終わるが、

「自慢じゃないけど、こんな事だって出来るんだから」

 その言葉で、それを放ったのがイルラナスだというのがわかった。――魔王の娘、王女の覇気と言うべき独特の物。レナが怒った時に見せるのと似ているが、大きな違いとして自分自身で発動を完全にコントロールしているという点。

「レインフォルはこの申し出、受けちゃって大丈夫か?」

「ああ。いざという時はイルラナス様も旦那様も守ってみせるさ」

「わかった。――イルラナス、宜しく頼む、ありがとう」

 こうして、イルラナス達四人の同行がまずは決定した。



「ライト!」

 イルラナス陣営の協力の約束を手に入れたライト、再び城に戻り移動中。その呼び止める声に振り替えれば、

「ジア、どうした?」

 フリージアがこちらへ速足でやって来る所だった。

「それはこっちの台詞。何があったの? ライトとレナさん以外の騎士団の人達が真剣な面持ちで歩いてるのを見た。どうしてそこにライトとレナさんは居ないの? おかしいでしょ」

「……成程」

 見られたのなら仕方がない。ライトは事情を簡潔に説明。

「…………」

 すると数秒間、フリージアは考え込む様子を見せると、

「ちょっと付いて来て」

「え? あ」

 ガシッ。――ライトの腕を掴み、半ば強引に引っ張って行く。辿り着いた先は、

「あれ? フリージアどしたん、飲み物買って来るんじゃ……あ、ライトさん、お疲れ様でーす」

 所属する魔術研究所ハインハウルス城支部。部屋には副所長のソーイが――

「ソーイ。悪いんだけど、あたし少しの間出向が入ったから。その間一人で宜しく」

「はい!? 突然過ぎない!? 何の前触れも無しに!?」

「今やってる研究に関しては一人でも出来るでしょ? 速度が遅れるのは仕方ない、あたしが戻ってからカバーする。――これ、あたしがさっきまでやってたデータ」

「いやいやいやいや落ち着け落ち着くんだ所長殿! 何があったのよ!? 流石のソーイさんでも――」

「ソーイ」

 まるで事情を呑み込めないソーイに対し、一歩前に進み、被せる様に名前を呼ぶと、

「大変なのはわかってる。でもお願い。行かせて欲しい」

 フリージアは真剣な面持ちで、改めてソーイに頼み込む。――そこでようやくソーイも察する。そこにライトが居るというのも偶然ではない。

「――わかった。しばらくの間、こっちの事は考えないでいいから。ソーイさんに任せなさい」

 そして笑顔で、フリージアの頼みを受け入れた。

「ごめんね、ありがと。恩に着る」

「ソーイさん、俺からも。ありがとうございます」

「いいってことよ。――ライトさんも、お気になさらずー」

 というわけで、ソーイの承諾を得て、改めて廊下に出て、

「人手、足りないんでしょ? あたしも行く」

 フリージアは、そう宣言した。

「というよりも」

「え?」

「どうしてあたしに相談に来てくれないの? あたしは、ライトが困ってたら助けたい。助けるって決めてる」

「……ジア」

 真剣な面持ちでそう迫られ、ライトも反省。――蔑ろにしているつもりはなかったが、でもフリージアにはフリージアの仕事があるから、と頭数には入れていなかった。まず相談すべきだった。

「ライトはあたしが困ってたら、助けてくれるでしょ?」

「それは勿論」

「逆も然り。こういう重要な案件なら尚更。――あたしは、必ずライトを助けて支えてみせるから」

 力強い眼差しに感じる、頼もしさ、優しさ。

「ジア。――緊急の要件で人手が欲しい。手伝って欲しいんだ」

 それと先程までの会話を踏まえて、ライトは改めてフリージアにそう依頼する。

「うん。――必ず、ハルさんとサラフォンさん、見つけよう」

 こうして、更にライトはフリージアという大きな味方を手に入れた。



「――というわけなので、予定よりも稽古をお休みさせて頂く日付、伸びるかもしれません」

 ハインハウルス城下町、武器鍛冶アルファスの店。そもそもネレイザ主体の公務の予定もあったので前々からその間の稽古の休みは伝えてあったが、今回の案件で更にその日付にブレが生じる事を師匠であるアルファスにライトは報告に来ていた。

「ああ、俺は別に構わねえ。――気がかりなのもよくわかる、ちゃんと見つけてこい」

「ありがとうございます」

 報告を無事終えるが、今回の目的は「それだけ」ではなかった。

「それで、可能だったらでいいんですけど、今回わけあって騎士団からは俺とレナのみとなってまして」

「戦力か」

 アルファスも直ぐに察してくれる。――城下町商店街の一角とは思えない戦闘力のある店である。戦力は確保しつつあるが、それでも念の為に出来れば誰か一人の同行をお願いしたい所だったのだ。

「私で良ければ幾らでもついていくぞ、兄者」

 と、ヒョイ、と顔を見せたのはフロウ。話が聞こえていたか。

「店長、構わないか?」

「ああ。――ライト、それでいいか?」

「勿論です、助かります。――ありがとう、フロウ。恩に着る」

「構わないさ。いつでも頼ってくれ、と言っているだろう?」

 こうしてアルファスの所からは、フロウが――

「待った」

 ――同行決定、となりかけた所で、割り込んできたのは。

「スティーリィ?」

 先日から新しくアルファスの店の住み込み従業員(正式には保護観察対象)となったスティーリィであった。先日のタタスキア家の戦闘の影響か、腕の一部が籠手の様な装備をしたままだが、それ以外の装備は外し、他メンバーと同じエプロン姿。――ちなみに店では、セッテの裏方作業のサポートや、アルファスが鍛冶に使う素材の直接採取などの担当をしているとの事。

「話聞こえてた。先生のピンチ。なら私が行きたい。先生に恩返しのチャンス。――フロウ、私に譲って。アルファス、それでいい?」

 そしてそのほぼ健全な状態まで回復させたのは、サラフォンの功績が非常に大きいらしく、またスティーリィ本人もサラフォンを先生と称し感謝している。だからこその今回の申し出であった。

「私は構わないが」

「俺も構わないが、セッテに一応話通して来い。あいつ心配すっぞ」

「わかった」

 スタタタタ。――店の奥に消えた……と思ったら。……タタタタ。

「え? 何々、どうしたんですかスティーリィ。――あっ、ライトさんレナさん、こんにちは」

「こんにちはセッテさん」「こんちはー」

 奥からセッテを連れてきた。笑顔で挨拶。……これは。

「アルファス、構わないって言ったよね」

「まあ言ったが」

「言質。――セッテ、私ちょっとライト達の手伝いに行く」

 そこでスティーリィは自分の口からセッテに説明開始。

「勇者君。あいつ、中々策士だね」

「うん。……アルファスさんを盾にセッテさんの許可を貰うつもりだ」

 自分一人では説得出来ないと踏んだか、全員の前での説得になった。セッテの性格を踏まえている。――セッテは説明を聞いて直ぐに難しい表情に。

「スティーリィ、まだ万全じゃないでしょう? 気持ちはわかりますけど」

「無理しないから」

「スティーリィが行かなかったら、フロウさんが行くんですよね? それで十分安心じゃないですか。なら」

「それでも、私が行く。行きたい」

 セッテはスティーリィの事を本当に心配していた。そもそも頼み込んでアルファスが引き取る形にしたのも、スティーリィの事を大切に想っているからの結果である。

「アルファスはいいって言ってくれた」

「アルファスさん! スティーリィはまだ万全じゃないんですよね? それをわかってて」

 そして許可が下りないのでスティーリィ、最後のカードを切る。アルファス。当然セッテの矛先もアルファスに変わる。――はぁ、と軽く溜め息をアルファスはつくと、

「スティーリィ。お前は、何をしに行くんだ? 何をしたいんだ? それをちゃんと言え」

 スティーリィに、ヒントを出した。――スティーリィは少し考えると、

「セッテ。私は、戦いに行くんじゃない。先生を……大切な人を、助けに行くの。大事な人の為に頑張りたい」

 再びセッテに、そう強く談判した。――大切な人の為に。大事な人の為に。

「……わかりました」

 その言葉に、そのスティーリィの想いに、セッテも折れた。

「絶対に無理したら駄目ですよ? 勝手な事したりしないで、ライトさん達の言う事をよく聞いて」

「大丈夫。隊長はライト。ライトはアルファスの弟子。信用してる」

「ライトさん。私がお願いするのも変ですが、スティーリィを宜しくお願いします」

「大丈夫です。俺達もわかってます、無理はさせません」

 セッテを安心させる為に、ライトもそう約束する。……というか、

「セッテさん、本当のスティーリィのお姉さんというか、母親というか、そんな感じですね」

 年齢は勿論親子程離れていない。でも何処かそんな感じすらしてしまう。――短い間に、随分とお互いの信頼を得たのだろう。

「! アルファスさん聞きましたか! 私母親、つまり父親はアルファスさん、二人は夫婦ですって!」

「んなことライトは一言も言ってねえだろうが!」

 そしてセッテはいつものセッテであった。――何にせよ、スティーリィの同行が決定。


 こうして、臨時とはいえ、ライトは大きな戦力を集める事に成功したのであった。

 そして出発の日を迎える――

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