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第二百七十二話 誰よりも、君の幸せを願う22

 明らかに様子が変だった。小さい違和感所ではない。

「急げ! 第二第三隊を残して後は外だ!」

「指示通りならば何の問題もないぞ! 死ぬなよ!」

 慌ただしく走る傭兵達の声。

「私達は、私達はどうすれば……!?」

「非戦闘員はこっちだ、俺達も行こう!」

 逃げ惑う使用人達の声。――否応無しに聞こえてくるその声達を聞いて、不安になるなと言う方が無理だった。

「スティーリィ……何が起きてるんですか? 教えて下さい」

 セッテのその問いにスティーリィは窓から外をチラリ、と確認し、

「……甘く見過ぎてたかも。ウトソンも、何より旦那様も」

「え?」

「屋敷が囲まれてる。ハインハウルス軍。逃げ場は無い。ぶつかって勝つしかない」

「!?」

 軍の人間に囲まれている。ハインハウルス軍がどんな軍だか、セッテは重々承知している。――正義はあちらだ。つまり、

「このお屋敷……ううん、タタスキア家、何かあったんですね……!? 何か、してたんですよね……!?」

 という事が察せられた。決して良くない意味で。

「私はそういうの良くわからない。でもこういう時の為に私は雇われてる。――出る」

 冷静な目で、スティーリィは部屋を後にしようとする。その後ろ姿を見送ってしまったら全てが終わってしまいそうで、

「待って下さい!」

 セッテは急ぎスティーリィを引き留めた。

「大丈夫。セッテは私が守る。それが私の役目」

「でも、こんな状態で出て行っても、スティーリィが!」

「私強い。心配いらない。セッテは早く隠れて」

「嫌です、行くならスティーリィも一緒に!」

「セッテ」

 その名を呼び、スティーリィがセッテの手を握る。

「私を守ってくれるって言ってくれたの、嬉しかった。私は戦うだけの存在。そんな私を、そんな風に見てくれて、嬉しかった」

「それは……だって……!」

「そんなセッテの為に戦う。だから、セッテは逃げて。無事を祈ってる」

「っ!」

 そう優しく告げると、スティーリィはその手を離し、駆けて行く。

「スティーリィ! 待って!」

 急ぎ追いかけるが、もう追い付けない。

「! セッテさん、ここに居たんですか! 早く避難を!」

「トニックさん!」

 と、廊下でセッテを探していたか、トニックに遭遇する。

「スティーリィが、私の為にって……! 一体、何が起きてるんですか!? ハインハウルス軍って本当の話なんですか!?」

「っ……」

 言い淀んだ。この機に及んで、まだ言い淀んだ。――それが、答えだとセッテは察した。

 勿論細かい話はわからない。でも、今ここで逃げても何にもならない。ならば、自分がすべきなのは。

「スティーリィ!」

「!? セッテさん!」

 セッテは再び走り出した。スティーリィが向かった方向へ。――正面玄関の方へ。

「――スティーリィ! スティーリィ、駄目です!」

「セッテさん駄目だ! こっちは危ない!」

 バァン!――そして、トニックの制止も振り切り、正面玄関へと続くドアを開けるのだった。



「え……アルファスさん、フロウさん……どうして」

「よう。久々だな――「クソ餓鬼」」

 玄関ホールでの遭遇。勿論感動の再会ではない。アルファスはジッとトニックを見て、

「こう見えて約束を反故にするのは嫌いでな。俺なりの決着をつけに来た」

 そう冷静に告げる。でもその言葉と共に、ホールの空気がピリッ、と一瞬冷える。――アルファスの威圧。

「っ……何の真似、ですか……アルファスさんは、ただの武器鍛冶師じゃ」

 後に退けないトニックが、背中に汗をかきながらもアルファスにそう反論する。

「今日一日だけ軍に復帰した。――これを名乗る事を条件にな」

 アルファスは左手につけていた籠手の甲の部分を見せた。そこには独特で尚且つ鮮麗された唯一無二の紋章が描かれていて、

「剣聖。それがハインハウルス国王、王妃、二人から授かっている俺の称号だ」

「!?」

 それは、アルファスが剣聖を名乗り始めた日に、ヨゼルドとヴァネッサから授与された品であった。――剣聖。その名に、事実に、知っているフロウ以外の全員が大小あれど驚く。

「僕を……ううん、僕だけじゃない、セッテさんも騙したんですか! そんな立派な称号を持っておいて!」

「そう思いたければそう思え。俺は俺の戦いをさせて貰う」

 そう言って、アルファスが動こうとした次の瞬間。

「坊ちゃんと若奥様を下げろ! 巻き込まれるだけだ!」

 ウトソンがそう指示を出すと、数名の傭兵達がトニックとセッテの下へ行き、

「!? 離して下さい! 私は、私は……!」

「セッテさん、大丈夫です! 僕が、僕が必ず……!」

 その場に残ろうとするセッテも無理矢理連れて、奥へと消えた。――ホールにはアルファス、フロウ、スティーリィ、ウトソンの四人だけになった。

「剣聖か。ある一時から綺麗サッパリ姿を消したって噂だったが、こんな所でお目にかかれるとはなぁ。光栄だぜ」

「そうか。悪いな、拝んでも何も出ねえぞ」

 軽口を叩きつつも、それぞれの武器を持ち直す。――各々軽い心構えで突破は出来ない。それがわかる相手だった。

(にしても、剣聖か……本物なら「普通じゃ」流石に勝ち目はねえが……)

 その中でも、ウトソンは作戦を練る。負けるつもりなど毛頭ない。――まだまだ稼がせて貰わないと困るからな、この家には。

「スティーリィ! 剣聖はお前に任せる! 相性は良い相手だぞ、ぶっ放せ!」

「うん」

 直後、スティーリィの剣が、右腕が、光る。――膨大な魔力が込められていた。

「っ!」

 ズバァァン!――そのまま迷わずアルファスに切り掛かる。アルファスも剣で受けるが、二人の剣がぶつかり合ったまま衝撃でスライドし、屋敷の壁を破壊し、二人は庭に飛び出る形に。

「おーおー、ぶっ放せとは言ったが屋敷を簡単に壊すんじゃねえよ。給料から差し引かれるぞ」

 その移動を見送る形となったウトソンと――フロウ。

「…………」

 フロウはその一連の流れをただ無言で見守る形。驚く様子も無く、ただ冷静に、見ていた。

「おいおい、少し位リアクションがあってもいいんじゃねえか? 連れがぶっ飛ばされたぞ?」

「どんなシチュエーションであれ、あの人が負ける事など無いからな。どうしても、というのなら、私が貴様を倒して様子を見に行けばいいだけだろう?」

「成程。――いけ好かねえ女だな。口だけじゃない、場数も踏んでるな?」

「そうだな。あの人が自分の正体を明かしたんだ、なら私も自らの正体を明かすべきだな」

「正体?」

「死神。――戦場の死神。それが私が背負ってきた、肩書だ」

「!」

 こちらも聞き覚えのある異名だった。どんなに厳しく辛い戦場で、例え味方が全滅しても、必ず敵を殲滅させて一人帰還する一匹狼の傭兵。最近すっかり姿を消し、ついに死んだかと傭兵界隈では噂にもなった。

「おいおい、剣聖程じゃねえがお前もレアか。――しかしどういうこった? 二人して戦場を離れてた割に何でここで二人揃って復帰する?」

「安心しろ、今日貴様らを葬ったらまた引退だ」

「言うね。――引退して牙が抜けた獣の癖によ」

 ウトソンが改めてフロウを見据え、大剣を構える。

「――わかっていないな」

「何がだ?」

「私達は――私達の牙は、一生抜ける事のない牙さ。抜きたくても抜けない、な」

 対するフロウも太刀を握り、身構える。――直後、フロウとウトソンの一騎打ちが幕を開けた。



 ズバァァン!――勢いのまま庭に飛び出してきたアルファスとスティーリィ。

「っ!」「チッ!」

 ガキィン、キィン、ズバァン、バァァン!――そのまま問答無用での一騎打ちが始まる。少し離れた箇所にはタタスキア家が用意した傭兵達も居たが、そんな物は目に入らない。

 目の前に本気で集中しないと、終わる。――それが二人共通の答えだったのだ。

(剣聖……私でも肩書は聞いたことある位……本当に、強い)

(まだ若い癖にいい腕だ……それに魔力が剣士の癖にデカい……ウォーミングアップしておいて正解だわ)

 戦いつつも、相手の腕を直ぐに認め、

((これ程の相手と敵としてやり合うのは、久々だ))

 その共通の感想を、抱いた。――ガッ、と大きくぶつかり、間合いが開く。

「一応聞いておくわ。投降する気はないか?」

「無いけど。そんな温い言葉使う人なんだ」

「温くて結構。俺は目的が果たせればいいからな。楽出来るに越したことはねえ」

 だがその言葉の終わりの時に、既にスティーリィは踏み込んでおり、再びのぶつかり合いが始まる。

「私は勝つ。勝つ事で私になる。負ける私に価値は無い」

「根っからの傭兵ってわけか? どれだけ勝ってもこの国で悪に手を貸したら価値もクソもねえぞ、そういう国に仕立て上げてるんだよ上(あの二人)がな!」

「正義も悪も私には無い。勝ちか負けかしかない。今回は、守れば私の勝ち。――最後にもう一度、あの顔を見れたら勝ち」

 脳裏に浮かぶ笑顔。本当に短い間だったけど、不思議な感覚を教えてくれた人。それが自分が勝つことで守れるのなら。

「お前の覚悟はわかった。――もうつまらない説得はしねえ。死んでも恨むなよ」

「死んだら私が弱かっただけだからそれでいい」

「そうか」

 直後――アルファスの、ギアが一段階上がる。

(! 本当に、強い……!)

 互角だった戦いが傾き始める。スティーリィも防いではいるが、徐々に防戦一方になりつつなる。

(バルジ、借りるぜ)

 当然アルファスとてそれはわかっている。だから「決め」に入る。

武器破壊ウェポンブレイク

 それはバルジの技。相手の武器を特殊な技で破壊する物。――スティーリィの圧倒的魔力、そしてそれを伝う武器が彼女の防御に繋がっている。だからアルファスはバルジのその技を使って武器の無力化を図ったのだ。

 勿論スティーリィ程の実力者ならば武器破壊は難しい。でも少し、ほんの少しだけダメージが入れば。ダメージが入らなくてもいい、隙が生まれたら。その思いからその技を放つ。

 アルファスのその考えは間違っていなかった。――相手が普通の相手ならば。

「――っああああ!」

「!」

 スティーリィも危機を悟った。ここを凌がなければ終わり。その本能が、彼女のリミッターを外した。――尋常ではない魔力が一気にスティーリィの剣に集まり、爆発する様に反撃。まるで生きているかの様なその魔力に、アルファスも再び間合いを広げる。

「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」

 息も荒く、スティーリィは再び身構える。体中に、その剣に危うい程の魔力を纏わせて。――その姿に、アルファスの脳裏に過去の記憶が呼び起こされる。

「お前……「魔導戦士」の生き残りか……!?」

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