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第二百六十八話 誰よりも、君の幸せを願う18

「いやあ、セッテ君が来てから我が家が華やかになったなあ」

 タタスキア家、屋敷の一室。カモウ、ルルイの夫婦が仕事をしながらそんな会話が始まる。

「トニックは奥手だからお見合いを設けても無理かと心配だったんだが、まさか見事に射止めるとはな。息子ながら驚きだ」

「ですね。早めにお見合いの話を受けて正解でしたね」

 仕事の手が止まるわけではないが、気が付けば直ぐに喜びがこみ上げてくる。やって来たセッテの存在。夫婦の最近の会話はそれで持ち切りであった。

「娘か……お義父さんと呼んでくれるのかな、うん」

「気が早いですよ、あなた。まだ婚約しただけですし、それに聞いたでしょう? セッテさんにも色々あったみたいだから、急かしたり促したりしたら可哀想ですよ。焦る必要はないんですから、ゆっくり待ちましょう?」

「そうだな。……でもそうだな、孫は早く見たいな」

「ふふ、セッテさんに似た子だと綺麗な子になりそう」

 と、将来設計を夢見ていた時だった。――コンコン。

「失礼致します」

 タタスキア家の第一執事が速足で部屋に入って来る。

「どうした?」

「旦那様に急ぎお耳に入れておかなくてはならない報告が」

 そのまま執事は気持ち小声で夫婦に報告。

「そうか……わかった。ウトソンを呼んでくれ」

「承知致しました」

 カモウは顔色一つ変えずそう執事に指示。執事は数枚の書類を残し部屋を後にする。――少しすると入れ替わるように傭兵代表のウトソンが部屋へ。

「ウトソン、仕事を頼みたい。我が家の経営に茶々を入れる輩がいてな、潰しておいてくれ」

 そのまま執事が残した書類をカモウはウトソンに渡す。

「これはこれは。……中々にデカい話ですね」

「だから今の内にな。お前なら出来るだろう? 頼んだぞ。――ああ、セッテ君の耳には入れない様にな。折角来たばかりだというのに、心配などかけたくないからな」

「承知しましたよ」

「もう直ぐ正式に娘になるんだ。父親として格好良くあり続けないとな」

「もう、だから気が早いって言ってるでしょう?」

 あっはっは、と笑うカモウ。ふふふ、と笑うルルイ。二人からは、悪意の欠片も滲み出てこない。

(ったく……相変わらず恐ろしいぜ)

 その事実が、ウトソンの背中に冷や汗を流す。――自分達のしている事について、微塵も「どういう事か」という考えが、他とズレてしまっている事に気付いていない。やって当然、処理して当然。その感覚が、逆に恐怖を煽る。

「ああでもあなた、ここは」

「ん? そうか、トニックが管理していたのか……そうだな、トニックにもそろそろ一段階上の仕事を教えるべきだな。結婚してそう遠くない未来に家を継いで貰うんだ。立派な家主になってセッテ君と幸せな家族を作って貰わないと」

「ウトソン、戻るついでにトニックを呼んで貰えないかしら? それから今回の件、支度を始めて」

「了解です」

 ウトソンは促され、部屋を後にする。その背中からは「あいつも一家の主か、成長したな」「だからあなた、まだ気が早いですって」という楽しそうな夫婦の会話が聞こえてくるのであった。



「おはようございまーす」

「おはようございます」

 ハインハウルス商店街にあるタタスキア商会。開店二時間前、従業員が徐々に出勤して来る。

「ウリィさん、今日も店長来ないんですか?」

「あー、そうみたい」

「婚約はしたけど結婚はまだですよね? 新婚旅行行きましたじゃないんだから、それってどうなんです?」

「こらこら、居ない事をいいことに悪口言わない」

 デザイナーのウリィはそう言って文句を言った後輩を宥めるが、ウリィ自身にも思う事は多々ある。

 セッテがやって来て、クイーンブライド・コンテストの為にドレスを仕立て上げた。

 はっきり言えば、結構な自信作が出来上がった。実際に袖を通したセッテは眩しく、ハッピーエンドを予感させた。

 しかし実際の所、突然トニックとの婚約がトニックの口から報告された。セッテ本人は既にタタスキア家の実家へ引っ越し済み。

 今は店のショーウィンドウに、持ち主を無くしたセッテのドレスが記念に飾られているだけ。

(セッテちゃん……何があったの、本当に……)

 気になるに決まっている。あれほどセッテはアルファスが好きで、アルファスを堕とす為にドレスを着たのに。結果として何故か手伝った自分の上司と婚約して姿を消した。意味がわからない。

「……まあ、私があれこれ言っても仕方ない話なんだけど」

 アルファスに訊きに行く勇気は無かった。ふぅ、と息を吐き、気持ちを切り替えて仕事に取り掛かろう。そう思った時だった。――ドンドンドン。

「? 開店前に何かしら」

 荷物の搬入は裏口を使っている。そうなると業者ではない。では誰が?

「どなたですか? うちは十時開店なんですが」

 ドアを叩く音が止まらないのでドア越しに応対してみる。

「あー、ハインハウルス軍です。開けて貰えますか」

「ハインハウルス軍……?」

 近くの窓から見てみれば、確かに騎士と兵士の小隊が。証拠に紋章も見せてくる。――こうなると追い返すわけにもいかない。ドアを開ける。

「おはようございます、朝から申し訳ないっす。自分、ハインハウルス軍騎士、バルジっていいます。責任者の方はいますかね」

「責任者……すみません、店長は休みの予定で」

「あれ、ちょっと予定と違ったか。――まあいいっす。今からちょっと中、調べさせて貰いますね」

「は……? 調べるって、何を――」

 まるでこの店が犯罪を犯してるみたいじゃないか、と思った矢先。バルジが一枚の書類を広げ、ウリィに見せる。

「捜索差押許可状。令状って奴です。国王様の許可、サイン。確認して下さい。これあると拒否権はそちらには申し訳ないけどないっす。――この店、ハインハウルス国で定められている法的要素を大幅に外れた取引、闇組織との癒着、そもそも使用を禁止されている素材を極秘に入手、裏ルートで販売。まあそういう事の諸々の容疑がかかってるんで。んじゃ、始めます」

「え……ちょ、ちょっ、ええ……!?」

 正に寝耳に水。ウリィはそれなりの立場にいるが、そんな物は微塵も知らない。何かの間違いだ、誤解だと進言しようとした――その時だった。

「――っああああああ!」

 従業員の一人が、突然その叫びと共に、隠していた剣を振りかざし、バルジに切り掛かる。ヤケクソではあったが、それでも動きが素人ではない。あっと言う間に間合いを詰めると、

「戦ってどうにかしようっていう気合は買ってやるが、相手の実力も読めずに切り掛かるのはただの雑魚なんだよ!」

「がはぁ!」

 今回の作戦に同行していたライト騎士団より、ソフィ――既に狂人化バーサーク済み――にカウンターで吹き飛ばされる。

「リバール、外からも殺気だ! 外の奴らはお前に任せる! 中はアタシ達でどうにかする!」

「お任せ下さい」

 同じく同行していたリバールがスッ、と姿を消す。

「建物の封鎖、完了です! 魔道具を使ってるので、しばらくの間はボクの操作無しでは建物の外には出られません!」

 そしてサラフォンが建物を封鎖。

「ソフィ、俺は二階に行く」

「では我も」

 ドライブ、ニロフが二階へ駆け上がる。

「サラ、私は念の為先輩の援護に行くわ。私だけ店の外に出して」

 ハルがリバールの援護の為に外へ。ここまであっと言う間の出来事。そしてそのまま、各所で戦闘開始。

(何なの……何が起きてるの……? 夢……? 嘘でしょ……?)

 大半はウリィと同じく状況に混乱するだけだが、一部は確実にこういった事態に対応する為の戦闘技術を持ち合わせており、戦いを挑んでいる。それも皆、普通につい先ほどまで仕事をしていた、つい先ほどまで会話を交わした同僚達だ。この事が無ければ今日も明日も明後日も、普通に一緒に仲良く仕事をしていたであろう同僚達なのだ。その彼らが、国の命令でやって来た騎士達に刃を向けている。国に歯向かっている。

 つまり、この店が悪事を働いているというのが、本当なのだ。それを嫌という程思い知らされる光景が広がる。

「いやー、頼んだの自分っすけど、自分楽させて貰う形になっちゃったっすかね。――あ、大丈夫っすか? 何も皆さん全員を逮捕しようとかそんなんじゃないんで」

 淡々とバルジがそう説明するが、耳にまともには入ってこない。ウリィはただ茫然と、その光景を見守るしかないのであった。



「はー、結構な戦力溜め込んでたんだねえ。バルジ君私達に頼んで正解だったかも。これだけ戦闘要員を準備してるとか。まあ逆に私達来たせいでオーバーキルだけど」

 一方で店舗の外、残念ながら当然踏み込めないライト、護衛のレナ、事務官のネレイザ、立場上踏み込むと指揮権がバルジから移ってしまいそうなのでこちら側のエカテリスがバルジとライト騎士団の仲間達の様子を見守る形。

「でもこれ、相当の捕り物よ。マスターの名声は上がるけど、でもそれだけの話がこんな城下町の有名店舗でなんて……」

「まー、そこはネレイザちゃんの意見に同意だね。何処にでも近くにでも腐ってるのはいるもんだねえ」

「悔しいですわ。今までのうのうとここで悪事を働かせていただなんて……!」

 レナは呆れ顔で、ネレイザは何とも言えない表情で、エカテリスは悔しさをまったく隠せない表情を浮かべてその様子を見ていた。

「ネレイザ、このお店って、結構有名なの?」

「高級志向のお店だけど、その分仕事もしっかりしてて結構人気があったわ。私も覗いた事何度もある。普段買いはしないけど、お給金貯めていざ! っていう時にご褒美気分で買ったりとか」

「うーん、ならこうなる前に勇者君に買って貰えば良かったかなー」

「いつ俺レナに何か買ってあげる約束したっけ!?」

 いつも通り(?)何処か緊張感の無い会話をしていると。

「おう、朝っぱらから元気だなお前等」

「あ、アルファスさん。お早うございます」

 アルファスが声をかけて来た。朝食でも買いに出ていたのか、偶然通りかかったらしい。

「このお店に強制捜査が入って、責任者はバルジさんなんですけど、俺達は手伝いで」

「あー、バルジが言ってたデカい話ってこれか。まあ確かに朝っぱらからこんだけ武器振り回すような話なら――っ!?」

 瞬間、アルファスの顔が一気に険しくなり、

「え? あ、ちょ、アルファスさんどうしたんですか!? 危な……くはアルファスさんならないでしょうけど何か!?」

 ガッ、と一気に店に駆け詰め寄り、店を見る。――正確には、店のショーウインドウを。そこには、

「! ねえマスター、あのドレスってセッテさんが着てたやつ!」

「え? じゃあこの店、セッテさんのあのドレス、手掛けた店だったんだ……」

 クイーンブライド・コンテストでセッテが袖を通したウェディングドレスが飾られていた。アルファスはそのままそのドレスを数秒、見ていたが、

「クソッ!」

 バァン!――直後、そのウィンドウが壊れそうな勢いで握り拳で叩いた。

「アルファスさん……その、何が……」

「ライト。詳しい話聞かせてくれ。この店に何があった」

 今までに見た事もない様な真剣な面持ちで迫るアルファスに、ライトは動揺しつつも、口を開くのであった。

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