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第二百六十三話 誰よりも、君の幸せを願う13

「はぁ……」

 漏れる溜め息。いつもセッテのお陰で開店前から明るいアルファスの店だったが、今日はそのセッテが無意識に溜め息を連発していて、開店してからも何処となく微妙な空気が流れていた。

 原因は勿論、クイーンブライド・コンテストで聞いたアルファスの話。自分の知らないアルファスを知った時、自分がどうしたらいいかわからなくなってしまっていたのだ。

 アルファスへの想いが変わったわけではない。寧ろ想いは強まった。自分が惹かれる人の本当の姿を垣間見た時、もっと傍に居たいと本当に思った。

 でもやり方がわからない。ただ傍に居ればいいだけじゃない。どう傍にいればいいのか。自分はこのままでいいのか。その悩みが頭の中をぐるぐると回り続け、

「はぁ……」

 答えの代わりに溜め息となって、店の中に溢れていたのだった。

「……店長、昨日あれから結局どうしたんだ? どう考えてもその時に何かあったとしか思えないんだが」

「別に何もねえぞ。出してくれた物は食べて話をしただけだ。――好きな奴でも出来たんじゃねえか?」

「店長が今本気でそれを言ってるなら差し違える覚悟で店長の首を今狙うぞ」

「……冗談だよ。流石にわかってるっての」

 ここまで来てセッテが遊びで自分へ想いを向けているとは思わない。本気なのは十分わかっている。とすれば確かに原因があるとすれば昨日の話。

(……俺の話を聞いて、そこまで考えるのか、お前は)

 迷いと悩みの象徴であるその溜め息を見て、一方でアルファスは心の中に決意が生まれ始める。その決意は、溜め息を漏らすセッテの横顔を、不思議と愛おしくすら感じさせてくれて。

「……って、何だ、店の前が騒がしいな」

 人の気配を感じて、アルファスが外に出る。するとそこには――



 結局、クイーンブライド・コンテストはライト騎士団の仲間達でもセッテでもない、第三者が優勝した。

 ライト騎士団の仲間達はあの大暴れが減点となり、セッテも途中で姿を消した為(アルファスと二人で会っていた為)減点となり、その結果であった。

「ほいで? 勇者君的には誰が一番良かったん?」

 そして翌日。アルファスの店に稽古の為に移動するライト、護衛のレナといういつもの組み合わせ行動パターンの中、レナからそんな話題が。

「冗談抜きに決められないよ……皆綺麗だったし」

「まあ、それぞれに迫られてる時の勇者君の照れてにやける表情がある意味優勝だったと思うよ」

「え、俺そんなにデレデレしてた?」

「うん。まあデレデレして欲しくて皆あの格好してるんだから正しい反応でしょ」

 私でも着たらあんな風にデレてくれるのかな、デレてくれるんだろうな、でもそれやっちゃったらなー……とレナは一人で考えてみたり。

 ちなみにイルラナス陣営、フロウを巻き込んだ決闘も結局決着がつくこともなく(流石に全員で本気を出したら街が変形しかねないので常識の範囲内での戦いだった)、その辺りも込みでライト騎士団からの優勝者というのは居なかったり。――城に帰ってから延長戦が始まりかけたのは余談。

 と、そんな会話をしながら歩いていると見えてくるいつものアルファスの店。……の前に、

「お客さんかな」

 一人の若い男性が。タキシードに腰に剣。剣士ならアルファスの店に足を運ぶのも変ではない――

「いや変でしょ。剣はいいとして何でタキシードなのよ」

「……だよな」

 剣士ならもっと動きやすい恰好をすればいいし、タキシードを着て歩く様な人間は腰に剣を持ってアルファスの店に足を運んだりしない。

「待って勇者君、あれはもしかしてタキシードじゃないのかもしれない。全裸にタキシードの絵が描いてあるのかもしれない」

「成程、それなら確かに動き易い……動き易い変態の出来上がりじゃん!?」

「なら上半身は本物で下半身だけ絵……?」

「もう今すぐ俺達で捕縛して連行するレベルだからなそれも!」

 そんな馬鹿な会話をしている間にも、男は店の中の様子を伺ったり、深呼吸してみたり、辺りを見渡してみたり。

「……仕草が完全にこれから犯罪に手を染めますって言ってるじゃん。まあアルファスさん相手に出来るわけないけど」

「そういうオーラ的な物は感じたりするか?」

「それが困った事にしないね。剣士としても犯罪者としても三流とみた」

「まだ犯罪者って決まったわけじゃないけどな……」

 兎にも角にも何も知らないライトとレナからしてみればただ怪しいだけだったり。

「流石に声かけよう。いざって時は宜しくなレナ」

「はいよ」

 意を決して話しかける事に。横をスルーしてアルファスの店に入れる気もしなかった。

「あの」

「はいっ!? まだ心の準備が!?」

「いえ、何の心の準備か知りませんけど、このお店に御用ですか? 俺達ここの店主の方と知り合いなので、話をしてみる事は出来ますけど」

 認めて貰えるかどうかはこの際置いておく。……が、

「いえ、その、僕もお会いした事がありますから」

 そんな答えが返って来た。――アルファスさんの知り合い?

「ならここで何してるんですか? その、言い辛いんですが色々と不審な感じがして」

「そ……その……お許しを、頂きに……来たんです」

「お許しを? アルファスさんにですか? 何の」

「けっ……けけ、結婚……です」

 …………。

「アルファスさんって勇者君みたいに結構ハーレムっ気あるはずなのに誰にも手を出さないと思ったら成程、そういう路線だったんだね……理解が足りなかったよ。でも納得かなこれで」

「まあ、人の想いはそれぞれだから否定はしない……の前に相変わらず俺にハーレム化を薦めるのを止めなさい。というか本当にそういう話で――」

 ガチャッ。

「おい、お前等店の前で何してんだ? 稽古だろ、さっさと入れよ」

 と、気配を感じたか、アルファスがドアを開けて顔を出し、入店を促してくる。

「あ……アルファスさん!」

「あん? ってああ、お前この前の」

「お願いします! 僕とセッテさんを、結婚させて下さい!」

 そして犯罪者疑惑のタキシード男――トニックは、アルファスに向けて、思いっきり頭を下げながらそう懇願したのだった。



「お前、どういう事だ? この前と言ってる事が違えだろ」

 店の前でアルファスに向かってセッテへのプロポーズをしたタキシードに腰に剣をぶら下げた男、トニック。とりあえず店内に入れ、トニックの登場に驚いたセッテをセッテ抜きで話がしたいのでフロウの護衛付きで駄賃を握らせて外へ追いやる。なので、店の中にはアルファスとトニックと、

「アルファスさんすいません俺達は居ていいんですか?」

「いいよ居て。そんなに時間かからなかったらそのまま稽古つけてやるし、そうじゃなかったら客が来たら代わりに対応してくれ」

 ライトとレナとなる。

「アルファスさん、流石に情報量が多過ぎてわけわからないんだけど。教えられる範囲内でいいから私と勇者君に教えてよ。無理なら脳内で適当に補完するからさ」

「止めろお前の脳内補完とか絶対とんでもない話になるだろ。ったく、本当はお前は追い出したいんだがライトの護衛だから離れられないから仕方なく置いてるんだよ」

 アルファスは溜め息交じりに、トニックがセッテのお見合い相手であり、先日セッテに想いを伝えつつもアルファスとセッテの仲を応援する旨をセッテは勿論、アルファスにも伝え、アルファスにセッテを幸せにしてあげて欲しいと頼みに来た事を説明。

「うーわ、凄い事になってるじゃん。……あれ? でも何でそれじゃアルファスさんの店の前で裸タキシードで俺の剣を結婚して下さいなんて言ってるわけ?」

「レナ、アルファスさんが止めたんだから脳内補完止めなさい」

 何だ裸タキシードで俺の剣と結婚とか。

「……あの日、アルファスさんに言った言葉に、嘘はありませんでした。でも僕の中で、燻ぶりがあったのも事実です。だから、最後に一目、セッテさんのドレス姿を見て、区切りを付けようと思って、昨日観覧していました。……そこで、セッテさんと少しだけ、お話する機会が出来ました」

「お前、その時に何か変な事言ったのか?」

 もしかしたら溜め息もそれが原因なんじゃ、と思ってそう訊いてみる。

「いえ、何も言ってません! 応援の意思を告げました! それだけです!」

 が、違った。トニックの言葉を信じるなら、やはり原因はアルファスにあって。

「でも……そのセッテさんの姿を見て、再確認出来てしまいました。――僕は、セッテさんの事が、本当に好きだったんだと。諦めきれない想いが、消えてくれないんです」

 勿論トニックはそんな事情は知らない。必死に自分の想いを、アルファスに告げる。

「お願いします! もし、もし貴方がセッテさんを幸せにしないのであれば、僕にセッテさんを幸せにさせて下さい!」

 そしてガバッ、と物凄い勢いで頭を下げた。

「成程ねー、タキシードだったのは正装して話がしたかったからかー。何処かのボンボンだよ多分こいつ」

「いやその前に俺達この場に居ていいのかな本当に」

 一歩離れてその様子を見守るレナとライト。当然(!)落ち着いているレナに対しライトは多少の緊張。――凄い場面に出くわしてしまった。確かにアルファスさんに居ていいと言われたけど。

 一方でアルファスはそのトニックを見て、軽く溜め息。

「幸せにしたいなら勝手にすりゃいいだろ。俺はあいつの親じゃねえ。俺の許可はいらねえ」

 まったくこいつはこいつで俺を本当に何だと思ってやがる、と軽く呆れてると、

「それじゃ駄目なんです!」

 トニックは頭を下げたまま、そう続ける。

「貴方の後押しが必要なんです! 貴方の許可と、後押しがあって、初めて僕はセッテさんを幸せに出来るんです!」

 それがトニックの答えだった。アルファスに認めて貰い、アルファスの後押しの下、セッテと向き合う。それがセッテを幸せにするという事。セッテが想いを寄せるアルファスに認められて、初めてその権利が出来るという事。

「あのなあ、お前」

「どうしても、後押しをして貰えないと仰るなら」

 何かを言いかけたアルファスを遮り、トニックはそう言いながら頭を上げて、腰の剣を握り、

「僕と勝負して下さい! 僕が勝ったら、後押ししてくれると約束して下さい!」

 その剣をアルファスに向け、そう高らかに言い放つのであった。

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