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第二百六十一話 誰よりも、君の幸せを願う11

「続きまして、料理審査に入ります!」

 出場者全員の壇上アピールが終わり、コンテストは第二審査である料理へ。会場を広く使い、簡易キッチンを設置。一人一人に与えられたスペースはそう広くはないものの、逆に言えば大勢いる出場者一人一人が料理出来るスペースが出来上がる。

 出場者もドレスの上からエプロンを着けて、いざスタート。

「企画だから仕方ないけどドレスの上からエプロンして料理って流石に大変そうだな……」

「汚したりしたらどうするんだろねあれ。壇上アピール終わったんだから脱げばいいのに。裸エプロンの方が喜ぶ人多いでしょ」

「結論が極端過ぎませんかねレナさん。普通でいいと思いますよ俺は」

 大会の趣旨が変わってくるだろ。良い子の皆が見れなくなるぞ。

「勇者君の普通……女体盛り……?」

「結論が極端過ぎませんかねレナさん!? 普通でいいと思いますよ俺は!?」

 大会の趣旨が大幅に変わってくるだろ。良い子どころか大人でも駄目だ。

 そんな相変わらずな会話をしている間に、各々が調理を進めている。勿論制限時間がそう長いわけではないので、自慢の一品をそれぞれ作る形となっている。

「ハルとセッテさんは料理出来るから大丈夫として……未知数なのはネレイザとエカテリスか……」

「姫様に関しては御安心下さい。このリバールが裸エプロンでお教え致しました。姫様の前でのあのギリギリの解放感……今思い出しても興奮が……!」

「……ほら勇者君、裸エプロン喜ぶ人いるじゃん」

「する方が喜んでるじゃん!?」

 その状況下で何を教えたのか非常に心配になる。

「ネレイザさんに関しても心配いらないッスよ。付け焼刃でもいい、一品美味しい物を作れたら今回はそれでいいので、基礎とコツを教えたッス。ネレイザさん一生懸命だったんで、教えがいがあったッスよ」

「にしても……俺とレナが知る限りのネレイザの料理は……その、凄かったんだが」

「料理の「り」の字も知らなかったら誰でも最初はそうなるッスよ。ネレイザさんは努力家だし、真面目に取り組んでくれたッス。覚えちゃえばこっちのもんッスよ」

 優しく解説するドゥルペに、ライトも一安心。――そう、ネレイザは努力家だった。困難を乗り越えて技術を手に入れる。何もない所からスタートして追い付ける。それが出来る人間なのだ。料理も、スタートが遥か後方だっただけで、しっかりとした技術と知識があれば、それこそそこらの料理人など追い抜けるかもしれない。

 そう思って、ネレイザを探し、その方を見てみると、

「ファイヤー!」

 ブオオォォォォ!――魔法による火柱が上がっていた。おおよそ料理で使う火力ではない。

「……ドゥルペ? 君は一体ネレイザに何を教えた?」

「料理の……「りょ」位までは教えたつもりッス……」

「成程、それじゃあれは残りの「うり」か」

「サンダー!」

 ズガァァァン!

「――って、その「うり」が激し過ぎるウリ!?」

「勇者君気持ちはわかるけど何も語尾にしなくても」

 ネレイザはスタートが遥か後方で、ドゥルペの手解きで基礎――「りょ」を手に入れ、そこから先は独自のアレンジ――「うり」に走った。……そこらの料理人は確かに追い抜いた。色々な意味で。

「マスター、もう直ぐ出来るから待っててね! 私の想いが詰まった手料理!」

 その想いが詰まった手料理は謎の青い煙を出している。一体どんな想いが込められているのか疑問で仕方がないライト。そして疑問の前に、

「……レナ、君は俺の護衛だよな? 守ってくれるよな?」

「無茶を仰る。私に死ねと?」

「それつまり俺が死ぬって事じゃないかな!?」

 何となく命の危険を感じる羽目に。少なくとも五体満足で終わる料理には見えない。

「安心して欲しいッス団長さん。最後まで教えきれなかった自分に責任があるッス。団長さんは自分が守るッス」

「ドゥルペ、僕も手伝うよ。魔力が関わるなら君だけじゃきついかもしれない」

「なら回復魔法、解毒魔法は任せて。いざという時は皆を守るわ」

「こんな理由で旦那様が倒れてしまっては契約奴隷の名が廃る。白騎士の名に懸けて守ってみせる」

 と、チームイルラナスがライトの為に立ち上がり、守る布陣を敷いた。――気持ちは嬉しいがもう戦闘みたいになってて怖い。料理の話のはずなんだが。

「あの、取り敢えず穏便にね? ネレイザも悪意があるわけじゃないんだし」

 自分の身は可愛いがネレイザを傷付けるのも心外。なので上手く話し合いで……と思っていると、チームイルラナスはザッ、と立ち上がり、ライトの前へ。

「マスター、完成したわ! 今持っていくから……ってちょっと、何であんた達邪魔してくるの!?」

「ネレイザさん、申し訳ないッス。それを団長さんに食べさせるわけにはいかないッス。勿論粗末にするわけにはいかないから、責任持って自分が食べるッスよ、心配いらないッス」

「何でそうなるの!? とりあえずマスターの前に立ち塞がるの止めなさいよ!」

「立ち塞がらなければ旦那様を守れないだろう。それだけの事」

「ぐぬぬ……そうまで邪魔したいなら、強引に通らせて貰うわ!」

 ズバァァァン!――花嫁ネレイザ対チームイルラナス、謎の戦闘開始。……一方。

「出来ましたわ! 練習したかいがありましたわ!」

 エカテリス、料理完成。パッと見る限りではケーキの模様。こちらは特におかしな煙も匂いも色も無い。

「えっと……」

 そのまま周囲を見て、エカテリスはライトを見る。ライトも見ていたので目が合う。エカテリスは少しだけ恥ずかしそうに、でも躊躇う事無くそのケーキを持ってライトの所へ――

「姫様、お見事でございます! このリバールが全身全霊この身をさらけ出してお教えしたかいがございました!」

「きゃっ!?」

 ――行こうとした所で、リバールが登場。

「私の汗と涙の結晶をお伝えした結果出来たケーキ……! 今度は私が、姫様の汗と涙の結晶を頂く番ですね!」

「えーっと……リバール、貴女が教えてくれた事には感謝してますの。でも最初に食べて欲しいのは、その」

「パパだな! 嬉しいぞエカテリス、ついにエカテリスの手作り料理を食べれる日が来るとは……!」

 そして更にヨゼルドが登場。――エカテリスを想う力は本物の様で(!)、ホランルランを振り切って来たらしい。

「ああっもう、当然お父様でもありませんわ! これは――」

「リバール君。――ここは、共同戦線といこうか」

「その提案、お受け致します。必ずやあのケーキを手中に」

「二人して……! いいですわ、そこまでするなら私にも意地がありますわ! そこをどいて貰います!」

 ズバァァァン!――花嫁エカテリス対リバール、ヨゼルド、謎の戦闘開始。

「うーわ、まさか本当に護衛の仕事ここでする羽目になるとは。にしても、人間結婚すると強くなるって言うじゃん? こういう事なんだねー」

「絶対に違うと思うよ!?」

 実際魔法等の飛び火をレナが座りながらも掻き消しているのでライトは無事。――しかし無事なだけでは解決に繋がらない。何とかしなければ。ただこういう時に一番頼りになるハルが今回は出場者として向こうにいるので不在、さてどうするか……

「失礼致します」

「え?」

 と思った矢先、そのハルの声が聞こえたかと思うと、ライトはハルに抱き抱えられ、そのまま連れ去られた。――って、

「ちょっと待って何!? ハルどうした!?」

「料理が出来たので、ライト様に召し上がって頂きたくてこうして足を運ばせて頂きました」

「いや足を運ぶ所かそのまま俺運ばれてるけど!?」

 気功術のおかげか、ハルは軽々とライトをお姫様抱っこして疾走中。

「あの場では落ち着いて召し上がれないと思いまして。ライト様を危険な目に合わすわけにはいきません」

「――あっ! ハルさんがマスターを連れ去ってる!? ちょっどいてどいて、あんた達に構ってる場合じゃない、ハルさんにマスターを取られちゃう!」

「む、ハルさんやりますね。ですが……姫様のケーキ、一番は私ですが、その後は姫様のご自由にして頂くつもりなので、その時にライト様がいらっしゃらないのは姫様が残念がる事を考えれば困りますね」

「やってくれますわね、ハル! でもここで負けを認めては、ハインハウルス第一王女の名が廃りますわ!」

「ネレイザさん待つッスー! 団長さん追うのはいいからその料理のりょの字を置いていくッスー!」

 ズドドドドド!――各々が各々の目的で、

「え、えーっと、出場者の方は一定以上の速度での爆走や魔法等による攻撃は禁止です! 会場が壊れます、止まって下さい!」

 司会者の注意など聞く耳持たずで会場を縦横無尽に動き戦い始める(勿論命のやり取りまではしていないが)。

「全員ストップ! 落ち着けって! 話せばわかる! 後レナ俺を助けて!」

「いやー、ハルに本気出されたら速度じゃ追い付けないし別にハルは勇者君に危害咥えないからいいでしょ」

「そういう問題じゃねえええぇぇぇ」

 ハルが高速で走るのでお互いの声が遠ざかっていくライトとレナだったり。

「ライト様」

「ハル! 気持ちは嬉しいけど落ち着いて――」

「速度を上げます。しっかりと掴まっていて下さい」

 そう告げると、ハルは有無を言わさず気功術での移動速度を上げ、掴まれと言いつつ最早自分がより強固にライトを抱き締める。

「ライト様。――今日は、今日だけは、花嫁なんです、私。大切な人を独り占めしたいと思う、貴方の花嫁です」

「ハル、移動が速すぎて何言ってるのか聞こえない!」

「もうしばらくこのまま、貴方を独り占めさせて下さい。明日には、いつもの私に戻りますから」

 実際何を言ってるかライトは聞き取れないのだが、そのハルの穏やかな笑みと、抱き締められて感じる温もりが、いつまでも忘れられなくなるのであった。



「……何をやってんだあいつら」

 一方こちら、特別席に取り残されたアルファスとフロウ。アルファスはライト達の騒動を呆れ顔で見ていた。

「いいじゃないか楽しそうで。兄者達らしい」

 フロウも何処か呆れつつも、でも楽しそうにその様子を見ていた。

「そもそも俺達、何しにここへ来たんだっけか」

 そして当初の目的も忘れかけてしまうアルファスの前に、

「アルファスさーーーーん!」

 その元気な声が、降り注ぐのであった。

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